慢性疾患に伴う貧血(Anemia of chronic disease;ACD)の概要
- ACDは二次性貧血のひとつです。
- ヘプシジンの増加により貯蔵鉄などの利用が障害され、血清鉄が低下し、鉄が骨髄に運搬されず、赤血球産生が低下することにより貧血になります。
- 慢性疾患がある場合、Hb ≧ 9 g/dL で、末梢血に異常細胞なく、鉄欠乏性貧血でなければ慢性疾患に伴う貧血と考えられることがほとんどです。
- 小球性貧血が6割、正球性貧血が4割とされています。
- 慢性疾患とは感染症や悪性疾患、自己免疫疾患など多岐にわたります。
- 貧血自体の治療よりも、基礎疾患の診断や治療が重要です。
小球性低色素性貧血をきたす疾患との鑑別
- ACDは小球性で低色素性の貧血を呈し、血清鉄が減少することから鉄欠乏性貧血との鑑別が問題となります。
疾患 | 病態 | 血清フェリチン | 血清鉄 | TIBC |
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鉄欠乏性貧血 | 鉄欠乏により、貯蔵鉄・血清鉄が低下し、トランスフェリンが大量に産生されるため、TIBCは上昇する。 | ⬇ | ⬇ | ⬆ |
ACD | ヘプシジンの増加により、貯蔵鉄などの利用が障害され、血清鉄が低下し、鉄が骨髄に運搬されない。 | ⬆ | ⬇ | ⬇ |
無トランスフェリン血症 | トランスフェリン合成障害により、TIBCが低下する。鉄の運搬が障害されるため、血清鉄も低下し、貯蔵鉄は増加する。 | ⬆ | ⬇ | ⬇ |
鉄芽球性貧血 | ヘム合成において鉄が利用できず、鉄過剰状態となるため、トランスフェリンの産生は抑制され、TIBCは低下する。 | ⬆ | ⬆ | ⬇ |
サラセミア | 特定のグロビン鎖の合成が抑制され、ヘモグロビンの合成が障害されるため、鉄過剰状態となる。 | ⬆ | ⬆ | ⬇ |
- TIBCとはtotal iron binding capacityの略で、総鉄結合能のことです。すべてのトランスフェリンに結合しうる鉄の量を意味します。
なぜ慢性疾患があると貧血になるのか?
①炎症によりIL-6(interleukin-6)などの炎症性サイトカインの濃度が高くなると,ヘプシジンの転写が肝臓で亢進する
②ヘプシジンはフェロポーチン(鉄排出たんぱく質)と結合し,細胞内リソゾームへと誘導することにより,フェロポーチンを分解へと導く
③腸上皮細胞やマクロファージで、フェロポーチンの発現が低下する
④これらの細胞からの血液中へ鉄の排出が抑制される
⑤赤芽球産生が阻害され、貧血をきたす

その他の機序:IL-1、IL-10、TNF-α、インターフェロン-γといったサイトカインがエリスロポエチン分泌低下、マクロファージによる赤血球貪食促進や鉄貯蔵亢進などを引き起こし、複数の機序で骨髄での赤芽球産生低下を来します。
ACDを引き起こす「慢性疾患」とは何なのか
疾患分類 | 疾患 | 各疾患でのACDの頻度 |
---|---|---|
感染 | ウイルス(HIV含む)、細菌、寄生虫、真菌 | 18 – 95 % |
悪性疾患 | 造血器腫瘍、固形腫瘍 | 30 – 77 % |
自己免疫疾患 | 関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、血管炎、サルコイドーシス、炎症性腸疾患 | 8 – 71 % |
移植後の慢性拒絶反応 | – | 8 – 10 % |
慢性腎疾患+炎症 | – | 23 – 50 % |
- 感染、炎症性疾患、悪性腫瘍、腎不全が併存しなくても、肝疾患、肺疾患、心疾患、または重篤な糖尿病などによって鉄利用障害による貧血が認められることがあります。これらの疾患はACDの原因の29%を占めます。
参考文献
以下の文献を参考にさせていただき、まとめました
- 鉄代謝―最近の知見―張替 秀郎
- Weiss G, Goodnough LT. Anemia of chronic disease. N Engl J Med. 2005 Mar 10;352(10):1011-23. doi: 10.1056/NEJMra041809. PMID: 15758012.
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