救急でしばしば遭遇するショック患者。具体的なアプローチ方法についてまとめました。
ポイント
- ショックとは「末梢組織の低酸素状態」である
- 低血圧をみたら,「皮膚」「神経」「腎臓」から末梢組織の低酸素状態を示唆する所見を探す
- ショックかもしれないと思ったら,応援を呼ぶ
- ショックには必ず原因が存在する
- 「猿も聴診が好き」、「RUSH exam」で原因検索をする
- ショックはとにかくリンゲル液を全開で投与する
- sBP > 90 mmHg が維持できない場合、ノルアドレナリンを末梢から、ノルアドレナリン(ノルアドリナリン® 1 mg/1 mL) 5A+生理食塩水45 mLを2 mL/hrで開始
ショック=「低血圧」+「低酸素状態を示唆する所見」
- ショックとは「末梢組織の酸素需要の増加や酸素供給の低下により起きる、末梢組織の低酸素状態」で定義されます
- 「低血圧+頻脈=ショック」ではありません。
- しかしショックの診断に低血圧は非常に役立ちます。
- ショックとは末梢組織の低酸素状態のことですが、末梢組織の低酸素状態の原因として低血圧があります。
- すなわち、低血圧の患者を診たときに、末梢組織の低酸素状態を示唆する所見があれば、ショックと診断できる、ということになります。
- ※sBP>90 mmHgであってもショックは否定できません。 普段から高血圧症がある高齢者は特に注意が必要です。
末梢組織の低酸素状態は 「皮膚」「神経」「腎臓」「血液ガス」をみよ
- 末梢組織の低酸素状態を探すときに注目するべき臓器は①皮膚,②神経,③腎臓の3つです。
- 皮膚・神経・腎臓以外にも、交感神経の活性化により頻脈・頻呼吸が生じ、嫌気性代謝により血中乳酸値が上昇します。
- よってショックを疑っている際には,血液ガスを必ずとります。

ショックには必ず原因がある
- ショックには原因となる疾患が必ず存在します。
- そのため、原因疾患の診断・治療も並行して行わなければ、患者はショックから脱出することができない。

- ショックをきたす原因としては
- 敗血症性ショックが62%、循環血液量減少性ショックが16%、心原性ショックが16%、閉塞性ショックが2%です。

「N Engl J Med, 369:1726-1734, 2013」より引用
ショックへの対応
まず応援を呼ぶ
- ショックを疑った,あるいは診断したら,まず救急外来スタッフへの情報共有をします
- 1人での対応は極力避けます
「猿も聴診器」で必要な準備を整える

原因検索にはRUSH examを
- 上述のようにショックは
- ①循環血液量減少性ショック
- ②心原性ショック
- ③閉塞性ショック
- ④血液分布異常性ショック に分類されます
- 複数の原因によってショックをきたしている場合があるので注意が必要です。
- 重症外傷で腹腔内出血による循環血漿量減少性ショック+緊張性気胸による閉塞性ショック
- 重症感染症で敗血症による血管分布異常性ショック+敗血症性心筋症による心原性ショック
- RUSH examを駆使する
- RUSH examは Rapid Ultrasound for Shock and Hypotension examの略です。
- 超音検査により Pump(心機能),Tank(循環血漿量),Pipe(大血管)の3つを評価し、ショックが4つの分類のいずれかを判断するための手技です。

治療
まずはリンゲル液を全開で投与開始
- 生理食塩液よりリンゲル液を投与します
- どちらが良いか結論は出ていないですが、生理食塩液で有害事象の発生率が増加した(Self WH, et al, 2018)という報告もあります。
- しかし生理食塩液は、薬剤への影響が少ないメリットもあります。
- 施設の方法に従って行うことも考慮しましょう。
- アルブミン製剤はルーチンで使用するものではありません。ショック患者を対象にリンゲル液とアルブミン製剤で比較した研究ではいずれも有意性がありませんでした(Caironi P, et al, 2014)。
- 輸血製剤
- 出血性ショックであれば,輸血製剤を用います。
- 緊急時の輸血戦略については施設によってプロトコルが異なる可能がありますので、施設のプロトコルに従います。
血管収縮薬はノルアドレナリンを末梢から投与
- かつてはドパミンを使用していましたが、ドパミンは有害事象が多く(Backer DD, et al, 2010)、現在はノルアドレナリンが第一選択となります。
- 投与経路は、末梢静脈路からの投与開始が推奨されています(敗血症診療ガイドライン2020)。
- いつからノルアドレナリンを投与するかは結論が出ていないようです。
- 私は、リンゲル液(or 生理食塩液)を1,000 mL(≒ 20 mL/kg)程度を投与してもsBP > 90 mmHg が維持できない場合に、ノルアドレナリン持続静注を開始しています。
- ノルアドレナリン(ノルアドリナリン® 1 mg/1 mL) 5A+生理食塩水45 mLを2 mL/hrで開始します。
原因別の対応を
- 循環血液量減少性ショック
- 出血性ショックであれば、輸血、止血(内視鏡、IVR、手術など)を行います。
- 心原性ショック
- 急性冠症候群であれば、循環器Callし、抗血栓薬、PCI・CAGなどを行います。
- 不整脈であれば、リズムコントロール(薬物,除細動/カルディオバージョン)を行います。
- 閉塞性ショック
- 閉塞の解除(心嚢穿刺,胸腔穿刺など)を行います。
- 血液分布異常性ショック
- 敗血症であれば抗菌薬投与、ドレナージ・手術を行います。
- アナフィラキシーであればアドレナリン筋注を行います。
まとめ
- ショックとは「末梢組織の低酸素状態」のことです。
- 低血圧をみたら,「皮膚」「神経」「腎臓」から末梢組織の低酸素状態を示唆する所見を探しましょう。
- ショックかもしれないと思ったら,1人で対応しようとせず、構わず応援を呼びましょう(とても大事なことです)
- ショックには必ず原因が存在します。「循環血液量減少性ショック」、「心原性ショック」、「閉塞性ショック」、「血液分布異常性ショック」のいずれかに該当するはずです。しかし複数の原因が存在する可能性も十分にあります。
- 「猿も聴診が好き」、「RUSH exam」で原因検索をしましょう。
- ショックはとにかくリンゲル液を全開で投与します。sBP > 90 mmHg が維持できない場合、ノルアドレナリンを末梢から、ノルアドレナリン(ノルアドリナリン® 1 mg/1 mL) 5A+生理食塩水45 mLを2 mL/hrで開始します。
参考文献
以下の文献を参考にさせていただき、まとめました。
- Vincent JL & Backer DD:Circulatory shock. N Engl J Med, 369:1726-1734, 2013(PMID:24171518)
- Self WH, et al:Balanced crystalloids versus saline in noncritically ill adults. N Engl J Med, 378:819-828, 2018(PMID:29485926)
- Caironi P, et al: Albumin replacement in patients with severe sepsis or septic shock. The N Engl J Med, 370: 1412–1421, 2014 (PMID: 24635772)
- Backer DD, et al: Comparison of dopamine and norepinephrine in the treatment of shock. N Engl J Med, 362: 779–789, 2010 (PMID: 20200382)
- レジデントノート増刊 Vol.24 No.11 出版社:羊土社
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