SpO2低下時の対応【迷わず酸素投与を!】

SpO2低下をみたときの対応の記事のアイキャッチです 内科一般

酸素飽和度低下(SpO2低下)は救急や病棟で出会う恐ろしいバイタルの異常のひとつです。

この記事では、SpO2の対応や鑑別を簡潔に説明します。

ポイント

  • SpO2低下があれば、まず偽のSpO2低下を除外する
  • 上気道閉塞があれば気道確保を行い、呼吸パターンが不安定であれば用手換気を行う
  • SpO2が低下していたら迷わず酸素投与を行う
  • 病態把握のために血ガス+αをとり、緊急性の高い疾患を見逃さない

SpO2低下をみたら、まず偽のSpO2低下を除外する

  • 体動や血圧測定中、血圧低下、マニキュアが塗布されている状態では、そもそもSpO2が正確に測定できていない可能性があります。
  • また、適切な酸素投与がなされているか以下の点をチェックしましょう。
    • 酸素配管の外れ
    • 酸素がオフになっている
    • 鼻カニューレ使用時なのに口呼吸をしている
    • 酸素マスクがズレている
  • 睡眠時無呼吸症候群による一過性のSpO2低下がないかチェックします。

上気道閉塞があれば気道確保を行い、呼吸パターンが不安定であれば用手換気を行う

上気道閉塞がある場合

上気道閉塞の徴候

  • 顔面や口唇の浮腫、口腔内異物、流涎
  • 吸気性喘鳴(stridor)
  • 発声困難、含み声
  • Sniffing Position
  • 発疹(アナフィラキシーを疑う)
  • 鎖骨上窩陥凹、肋間陥凹

気道確保の方法

  • まず頭部後屈顎先挙上を行う
    • 顎先を持ち上げることで、声門を閉塞している舌を前方移動させ、気道を開通させる
    • 以下の動画が参考になります。
  • 舌根沈下が疑われる場合は経鼻エアウェイや経口エアウェイを使用します
  • 舌根沈下が疑われる状態とは、
  • 経鼻エアウェイや経口エアウェイの挿入方法は「呼吸器ドクターひつじ」先生の動画が非常にわかりやすいです(音が出るので注意)

呼吸パターンが不安定な場合はバッグバルブマスクやジャクソンリースを使用する

バッグバルブマスク(アンビューバッグ®)ジャクソンリース
概要・バルブがあるため呼気が外部に排出される   
・CO₂ナルコーシスなど二酸化炭素をすばやく体外に排出させたいときに有効。
・酸素投与もしたいときは、リザーバーマスクをつける必要がある。
・バッグを軽く握り続けることでPEEP(呼気終末陽圧)をかけることが可能である
気管支喘息やCOPD増悪などPEEPが必要な病態で有効。
・また患者の自発呼吸を直接手に感じるため、自発呼吸に合わせやすい。
ガス
供給源
不要
外気で自己膨張する=酸素がなくても換気できる
必要
酸素がないと換気できない
PEEPかからない
(ただし可能な製品もある)
かかる
高濃度 酸素リザーバーを接続すれば可能可能

SpO2が低下していたら迷わず酸素投与を行う

  • CO2ナルコーシスは人工換気などにより治療可能であるため、低酸素の改善が第一です。
    • 低酸素は不可逆的な脳障害をきたします。
    • よってSpO2が低下している際はCO2ナルコーシスが疑わしくても迷わず酸素投与を優先します。
  • 上述のように、上気道閉塞があると酸素投与しても SpO2は改善しないため、必ず気道確保を行いましょう。

酸素投与方法

  • バッグバルブマスクやジャクソンリースにも酸素をつなげることができ、用手換気と酸素投与が同時にできます。
  • 投与方法には「低流量酸素療法」と「高流量酸素療法」があります。詳細は別記事にまとめる予定です。
項目低流量酸素療法高流量酸素療法
定義   供給酸素流量が患者の吸気流量より少ない供給酸素流量が患者の吸気流量より多い
FiO₂患者の1回換気量のほうが酸素供給より多いため、患者の換気状態でFiO₂が変化する設定している酸素濃度であり、患者の呼吸に左右されずにFiO₂を設定できる。
周囲の大気は吸入しないのが原則であるため、マスクの装着不備や供給酸素量不足には注意!
デバイス鼻カニューレ
フェイスマスク
リザーバーマスク
ベンチュリーマスク
ネーザルハイフロー
NPPV
  • FiO2とは、吸入酸素濃度(fraction of inspiratory oxygen)のことです。吸入ガスに含まれる酸素の濃度を指します。
  • 通常の空気はFiO2=0.21(21%)です。FiO2=0.5は、吸入ガスの50%に酸素が含まれていることを表します。
  • 純酸素(100%酸素)では数時間で肺組織障害が生じるともいわれるため、なるべくを FiO2を0.6(60%酸素)未満に保つようにします。

SpO2 94〜98%を目安に酸素投与する

  • SpO2 90%(PaO2 60 mmHg)未満で酸素療法を検討します。
  • 一方で CO2貯留のリスクがある患者ではSpO2 88~92%を1つの目標値とします(BMJ Open Respir Res 4:e000170, 2017
  • 酸素化を改善する方法は以下の2つです
    • ①FiO2を上げる
    • ②PEEPを上げる

SpO2低下の病態把握には血ガス+αをチェックする

  • 動脈血液ガスの提出時には酸素投与条件を明記しましょう
    • 〔例:リザーバーマスク 6 L/分、room air、人工呼吸器設定など〕.
  • +αの検査
    • 緊急の血算・生化学・凝固の血液検査も行います。
      • 特に、炎症反応、D-dimer、NT-proBNP、心筋逸脱酵素は重要です
      • 発熱などを伴う場合には血液培養2セットと痰培養の提出も同時に行います。
    • 胸部単純X線写真
      • 新規の浸潤影の有無、気胸、肺うっ血の有無、胸水を確認します。
    • 12誘導心電図、心エコーで虚血性心疾患、肺血栓塞栓症、心不全の評価も行います。
    • 胸部CTを評価しつつ、肺血栓塞栓症を疑う場合には造影CT(下肢DVTも併せて)を追加します。

血ガスの解釈方法

①pHをチェック

  • pHが正常範囲であるかを確認します
  • pH 低下があると危険であり呼吸不全が原因であれば用手換気や人工呼吸を検討する.

②PaO2をチェック

  • P/F 比(P/F ratio)=PaO2/FiO2 を計算します
    • 正常は 400 以上
    • 300 以下は中等度
    • 200 以下は重度の酸素化障害があります。200以下は挿管・人工呼吸を考えます
  • 呼吸不全は動脈血液ガス PaO2 60 mmHg 以下で定義され,PaCO2 ≦45 mmHgであれば1型呼吸不全、PaCO2>45 mmHgであれば2型と定義されます。
低酸素血症をきたす疾患の鑑別です
呼吸不全の分類

③PaCO2をチェック

  • pHや意識状態に異常がなければ上昇していても問題はありません。
    • pH低下や意識レベル低下がある場合は,用手換気・NPPV 装着・気管挿管を検討します。
  • HCO3が代償されている→COPDなどによる慢性的なCO2の貯留を疑います

④A-aDO2をチェック

  • 基準値は 5~10 Torr(高齢者では高値になります)
    • A-aDO2の基準値≦年齢×0.3
  • 呼吸不全の原因がわからない際に参考にできる所見であり,肺胞低換気の鑑別に有用である.
PaCO2とA-aDO2をつかったフローチャートです
PaCO2とA-aDO2をつかったフローチャート

緊急性の高い疾患を見逃さない

  • SpO2低下をきたす疾患のなかでも、①気道閉塞(痰詰まり・喘息・COPD)、②心不全(±心筋梗塞)、③急性大動脈解離、④気胸、⑤肺血栓塞栓症は緊急性が高い。
  • 酸素飽和度低下をきたす疾患を以下にまとめました。
疾患分類主な疾患
肺・気管支疾患    痰づまり、気管支喘息、COPD、気胸、肺血栓塞栓症、肺炎、肺水腫、胸膜炎、胸水貯留、ARDS、肺癌
心臓疾患心不全(急性、慢性心不全の急性増悪)、急性大動脈解離、心タンポナーデ、肺外右→左シャント、心筋梗塞・不整脈・弁膜症(心不全の結果として肺水腫・胸水貯留を引き起こす)
神経筋疾患広範囲/脳幹梗塞、筋萎縮性側索硬化症など
その他敗血症、薬物中毒、CO₂ナルコーシス

まとめ

  • SpO2低下の原因は多岐にわたり、診断に苦慮することもあります。
  • ですが診断よりまずは気道確保し、酸素投与を行います。
  • これらを行いつつ、問診と身体所見を確認し、すぐにわかる偽のSpO2低下の原因を除外します。
  • さらに原因精査のため血ガス検査(PaO2、PaCO2、pH、A-aDO2)を行い、呼吸不全の病態を把握します。必要があれば心電図や心エコー、胸部X線撮影、CTを行いましょう。

参考文献

以下の文献を参考にさせていただき、まとめました。

  • B R O’Driscoll, et al.,  – British Thoracic Society Guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings: BMJ Open Respiratory Research 2017;4:e000170.
  • 内科レジデントの鉄則 第4版 聖路加国際病院内科チーフレジデント (編集) 出版社:医学書院
  • Harrison’s Principles of Internal Medicine, 19th Edition 福井 次矢 黒川 清 (日本語版監修)出版社:MEDSI 第49章

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