巨舌症【腫瘍や全身性疾患を見逃さない】

医師が知っておきたい歯科のこと
  • 勤務先の病院で上司(内科医)から巨舌症の患者がいるとのことで、相談を受けたのでまとめてみました。
  • 私自身、多くの症例を経験しているわけではないですが、注意点としては「腫瘍や先端巨大症、アミロイドーシス、甲状腺機能低下症などの全身性疾患は隠れていないか?」を常に考えることです。

巨舌症の診断方法

私自身、巨舌症そのものは視診触診のみで診断していました。以下の論文に診断方法が載っていたのでご紹介します。この論文にも記載されていましたが、舌腫瘍を常に念頭に置いて診察することが大事だと私も考えています。

Topouzelis N, Iliopoulos C, Kolokitha OE. Macroglossia. Int Dent J. 2011 Apr;61(2):63-9. doi: 10.1111/j.1875-595X.2011.00015.x. PMID: 21554274; PMCID: PMC9374813.より

■臨床的診断・画像的診断

  • 舌の突出テスト: 舌を口の外に突き出し、鼻の頭や顎先に届くかどうかを確認することが、巨大舌を確認するための典型的な身体診察とされています。
  • 舌そのもののサイズ感(平たく幅広いなど)に加え、舌が歯に押し付けられることで生じる歯圧痕、歯列不正、下顎の突出といった、舌の圧力による二次的な形態変化を確認します。
  • 直接的・間接的な計測: 舌を直接計測したり、適切な歯科用印象材を用いて舌の型を取り、間接的に計測することもあります。
  • MRI: 最近では舌のサイズの測定や、内部構造の評価のためにMRIが使用されるようになっています。以前の会話の通り、アミロイドーシスなどの原因を鑑別する際にも有用です。

■組織学的検査(生検)

  • 巨大舌の診断においては、腫瘍が原因である可能性を常に考慮する必要があり、その場合は組織生検が非常に重要になります。
  • 小さな病変に対しては穿刺吸引細胞診(FNA)が信頼性の高い診断手法として用いられます。
  • 腫瘍以外にもアミロイドーシスや甲状腺機能低下症が原因であるかを確定診断するためには、舌の組織を採取して特殊な染色(コンゴレッド染色やアルシアンブルー染色など)を行う病理検査が不可欠です。

■原因疾患を特定するための全身・遺伝子検査

  • ただの巨大舌(孤立性)なのか、全身性疾患や症候群が隠れているのかを見極めるために、背景に応じた検査が行われます。
  • 小児患者の場合: 見た目だけで区別することが難しいため、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS)を特定するための遺伝学的検査と腹部超音波検査を行うことが強く推奨されています(ただこのあたりは私自身も経験がないので、専門家に相談すべきです)。
  • 甲状腺機能低下症(粘液水腫)などを調べるための血液検査(甲状腺ホルモン値や自己抗体の確認)を行います。

個人的な意見ですが、やはり腫瘍性病変は決して見逃してはならないです。見た目だけで判断するのではなく、しっかりと触診することが大事です。脂肪腫のように柔らかいのか、舌癌のような硬さがあるのか、触って確かめることが肝要です。

成人の巨舌症

成人の巨舌症の主な原因

大分類原因疾患・病態メカニズム・特徴
代謝・内分泌・全身性疾患肥満舌内部への脂肪組織の過剰な蓄積により肥大します。睡眠時無呼吸症候群のリスクとなります。
アミロイドーシスアミロイドが舌の組織に沈着することで起こります。全身性疾患の初期症状として現れることがあり、滑らかで左右対称な肥大を呈します。
甲状腺機能低下症(粘液水腫など)甲状腺ホルモンの不足により、水分を蓄えやすいムコ多糖類が結合組織に過剰に蓄積し、重度な浮腫を引き起こします。
先端巨大症成長ホルモンの過剰分泌によって、舌の本来の組織が均等に過形成・肥大を起こします。
糖尿病糖代謝の異常に伴い、後天的な巨大舌の原因となることが報告されています。
腫瘍・脂肪組織の異常増殖舌対称性脂肪腫症(脂肪腫症)中高年(主に男性)に見られ、両側の舌筋内へ成熟した脂肪組織がびまん性・浸潤性に増殖します。アルコール過飲や肝障害、糖尿病、ミトコンドリアの代謝障害などとの関連が疑われています。
良性腫瘍脂肪腫、血管腫、リンパ管腫など。
悪性腫瘍悪性リンパ腫や扁平上皮癌など。成人で後天的に発生した局所的な腫瘍は悪性の可能性があるため注意が必要です。
局所的な反応・炎症・外傷アレルギー反応(血管性浮腫)薬剤や虫刺されなどに対するアレルギー反応により、急激な舌の腫脹を引き起こします。
静脈うっ血(術後合併症など)後頭蓋窩などの神経外科手術で長時間うつ伏せや顎を引いた姿勢をとった結果、静脈やリンパの流れが滞り、術後に重篤な舌の腫れを引き起こすことがあります。
感染症・炎症肺炎、重度な舌炎、結核、頭頸部感染症のほか、第3期梅毒にみられるゴム腫(感染性肉芽腫)などが原因となることがあります。
外傷・出血・放射線舌への直接的な外傷、内部出血、あるいは放射線治療の影響による組織の反応で肥大します。
神経・筋疾患多発性筋炎・神経線維腫症神経疾患や筋肉の炎症性疾患(多発性筋炎など)に伴って症状が現れることがあります。特発性の筋肥大が原因となることもあります。
薬剤性抗HIV薬治療抗HIV薬であるロピナビル・リトナビルの副作用として、舌の粘膜下に脂肪組織が蓄積し、巨大舌を引き起こしたケースが報告されています。
相対的巨大舌機能的問題・口腔容積の減少手術によって口腔内の体積が減少した後や、無歯顎、扁桃肥大などにより、舌が口腔内にうまく収まらなくなることで巨大舌として現れます

アミロイドーシスによる巨舌症

  • AL型(免疫グロブリン軽鎖型)アミロイドーシスとは 骨髄中の異常な形質細胞から産生される「単クローン性免疫グロブリン軽鎖」というタンパク質が、水に溶けない異常な「アミロイド蛋白」に変性し、全身の様々な臓器に沈着して臓器不全を引き起こす疾患です。心臓、腎臓、消化管、肝臓、神経などが主な障害を受ける臓器であり、特に心臓へのアミロイド沈着の有無が患者の予後に最も大きく影響します。
  • 私も大学病院時代、AL型アミロイドーシスによる巨舌症は何例か経験したことがあるのですが、「ぼこぼこ」というよる「左右対称でツルっ」とした印象です。アミロイドーシスという異常蛋白が沈着するので、線維腫や脂肪腫のようにボコっとなりそうなものですが・・
  • 巨舌症はAL型アミロイドーシスの特徴的な所見であり、他の型(例:ATTR型、AA型、透析関連型、遺伝性型)ではほとんど認められません。ただし、ATTR型アミロイドーシスで巨舌症を呈した症例報告があり、臨床的にはAL型以外でも発生し得ることが示されています。このような症例は極めて稀であり、巨舌症が認められた場合はまずAL型アミロイドーシスを疑うべきです。
  • もちろん巨舌症を見た瞬間「AL型アミロイドーシスだ!」とはならず、他の検査所見も併せて疑います。しかしアミロイドーシス自体、診断に難渋することも多く、まずは「巨舌症をみたらAL型アミロイドーシスを疑う」ことが大事だと私は考えています。他の検査所見も鑑みてAL型アミロイドーシスらしさがあれば、専門家と相談しつつ舌生検を勧める方が良いと思われます。
  • 以下のような所見に遭遇した際にアミロイドーシスを疑うことが、早期診断において最も重要です。
    • 腎臓: 糖尿病ではない患者における、ネフローゼ症候群レベルの大量の蛋白尿
    • 心臓: 心電図上において低電位を示す心筋症や、左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全。また、心エコー検査において、壁の肥厚や拡張能障害(初期にはLVEFの保たれた拡張障害型心機能障害)が認められる場合
    • 神経: 原因不明の神経症や、手根管症候群
    • 肝臓・消化管: 画像検査では異常な所見が認められないのにアルカリホスファターゼ(ALP)のみが上昇している肝機能障害肝腫大、あるいは持続する下痢
    • 軟部組織・関節の異常: 本疾患の決定的な兆候とされる巨大舌(巨舌症)顎下腺の腫大、関節リウマチに似た関節腫脹やこわばり(アミロイド関節症)など
    • これらの症状や検査所見が単独、あるいは複数組み合わさって現れた場合にALアミロイドーシスを疑います。

■アミロイドーシスによる巨舌症が載っていた論文をご紹介します。

  • Prokaeva, Tatiana, Brian Spencer, Maurya Kaut, et al. 「Soft Tissue, Joint, and Bone Manifestations of AL Amyloidosis: Clinical Presentation, Molecular Features, and Survival」. Arthritis & Rheumatism 56, no. 11 (2007年): 3858–68. より
Prokaeva et al. Arthritis & Rheumatism 56, 2007より引用
  • Figure 1は、AL型アミロイドーシスに伴う軟部組織の代表的な症状を視覚的に示したものです。
    • Figure 1A: アミロイドの沈着によって顎下腺が腫脹しています。本文の解説によると、この腫脹は硬く圧痛がないという特徴があります。
    • Figure 1B: ALアミロイドーシスにおいて特徴的とされる巨大舌を示しています。本文では、症状の程度は歯型がつく程度にわずかに舌が厚くなるものから、食事、嚥下、会話、さらには呼吸を妨げるほどの巨大な腫脹にまで及ぶと説明されています
    • Figure 1C: アミロイドの沈着によって引き起こされた「対称性の頚部リンパ節腫脹」を示しています。ただし、本文のデータによれば、この症状がみられたのは研究対象となった全患者のうちわずか2名(1.0%)であり、比較的まれな症状とされています
    • Figure 1D: アミロイド関節症による手の変化を示しています。近位指節間関節(指の第二関節)や中手骨の関節の周囲にある滑膜が硬く左右対称に分厚くなっており、一見すると関節リウマチに似た外観を呈しています。この症状は、骨や軟骨の破壊(びらん性の変化)は伴わないものの、疼痛、こわばり、および関節の可動域制限を伴うと記載されています

甲状腺機能低下症による巨舌症

■2つの論文をご紹介したいと思います。

  • Department of Medicine, King George’s Medical College, Lucknow, Uttar Pradesh, India, Manish Gutch, Annesh Bhattacharjee, Kumar Sukriti, Gupta ArpitとSingh Somendra Rao. 「Macroglossia: An Uncommon Manifestation of Primary Hypothyroidism Due to Hashimoto’s Thyroiditis in a Teenage Child」. Journal of the ASEAN Federation of Endocrine Societies 32, no. 1 (2017年): 47.
  • この論文は、橋本病に起因する原発性甲状腺機能低下症が長期間未診断のままであったために、巨大舌を呈した16歳の女性の症例を報告したものです。
  • 低身長や初経の遅延に加えて、過去2年間にわたって徐々に悪化する咀嚼困難を訴えて受診しました。顔面浮腫や乾燥肌、著しい巨大舌と、舌の圧迫によって引き起こされた歯列不正が認められました。血液検査の結果、著しいTSHの高値と甲状腺ホルモンの低値、および高濃度の抗TPO抗体が認められ、橋本病による重度の甲状腺機能低下症とそれに伴う著しい骨年齢の遅延と診断されました。論文内では、甲状腺機能低下症による巨大舌は、組織へのグリコサミノグリカン(ムコ多糖類)の蓄積や舌の筋肉の過剰な発達によって引き起こされると説明されています。
Kumar Sukriti et al. Journal of the ASEAN Federation of Endocrine Societies 32, no. 1 2017より引用

  • 次の論文です。
  • Melville, James C., Kelsey D. Menegotto, Timothy C. Woernley, Blake D. MaidaとIbrahim Alava. 「Unusual Case of a Massive Macroglossia Secondary to Myxedema: A Case Report and Literature Review」. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 76, no. 1 (2018年): 119–27. より
  • この論文は、粘液水腫(重篤な甲状腺機能低下症)を主な原因として巨大舌を発症した40歳女性の非常にまれな症例報告です。
  • 患者は脳卒中のため入院していましたが、その過程で舌が16×10cmにまで腫脹しました(かなり急な印象です)。当初は血管性浮腫が疑われて薬剤投与が中止されるなどの処置が行われましたが効果がなく、呼吸困難や舌の圧力による顔面の変形、嚥下障害、発声障害、および前歯の突出が認められました。
  • その後、原因を特定するために舌の生検を行ったところ、アルシアンブルー染色が陽性となり、甲状腺機能低下症による粘液水腫が巨大舌の根本原因であると診断されました。通常、甲状腺ホルモンの数値を改善することで粘液水腫性の腫脹は数週間で回復に向かいますが、本症例では甲状腺の治療を行っても巨大舌が自然に縮小しなかったため、最終的な治療として舌の縮小手術が施行されました。
  • この画像は驚愕ですね・・・。
Melville et al. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 76, no. 2018より引用

アクロメガリー(先端巨大症)による巨舌症

  • アクロメガリー患者における巨舌症は、約54~58%の頻度で認められる代表的な口腔軟部組織の変化です。巨舌症は舌全体の肥大・厚み増加を特徴とし、舌の突出や歯列の拡大、歯間離開、下顎前突などと併発することが多いです。

■Giustina, Andrea, Annamaria Colao. 「Acromegaly」. New England Journal of Medicine 393, no. 19 (2025年): 1926–39. にきれいなイラストがまとまっていました。

先端巨大症でみられる顔貌 Giustina et al. New England Journal of Medicine 393, 2025より引用

■巨舌症の写真が載っている論文も紹介します。De Stefani, Alberto, Francesca Dassie, Alexandra Wennberg, et al. 「Oral Manifestations and Maxillo-Facial Features in the Acromegalic Patient: A Literature Review」. Journal of Clinical Medicine 11, no. 4 (2022年): 1092.

De et al. Journal of Clinical Medicine 11, no.4. 2022 より引用(①〜③は当方で加えました)。

小児の巨舌症

  • 私自身、小児の巨舌症は大学病院で1例しかみたことがなく、語れるほどの経験はありません。。。。
  • 巨舌症を引き起こすを引き起こす原因疾患と頻度を調べてみました。あまり文献がなくn数も少ないですが、巨舌症を認めた小児患者の原因疾患の内訳を調べた論文がみつかりました。
  • 論文は以下です
    • Prada, Carlos E., Yuri A. Zarate,Robert J. Hopkin. 「Genetic Causes of Macroglossia: Diagnostic Approach」. Pediatrics 129, no. 2 (2012年): e431–37.
    • この研究はシンシナティ小児病院医療センターで診察された小児患者のデータを対象としています
Prada et al. Pediatrics. 2012より引用
  • この論文のTable 1は、研究の対象となった小児患者の巨大舌患者135名における、最終的な診断結果(原因疾患)の内訳を要約して説明しています。
  • 具体的には、以下のような疾患名とそれぞれの症例数が一覧になっています。
    • ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS): 57例(最多)
    • 孤立性巨大舌: 17例
    • 血管・リンパ管奇形: 12例
    • 原因不明): 12例
    • 孤立性片側肥大症: 10例
    • ライソゾーム病(ポンペ病やムコ多糖症など): 9例
    • Ras経路異常(神経線維腫症1型など): 7例
    • 甲状腺機能低下症: 4例
    • 染色体異常: 4例
    • 一過性新生児糖尿病: 2例
    • シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群: 1例

参考文献

  • Prokaeva, Tatiana, Brian Spencer, Maurya Kaut, et al. 「Soft Tissue, Joint, and Bone Manifestations of AL Amyloidosis: Clinical Presentation, Molecular Features, and Survival」. Arthritis & Rheumatism 56, no. 11 (2007年): 3858–68.
  • Prada, Carlos E., Yuri A. ZarateとRobert J. Hopkin. 「Genetic Causes of Macroglossia: Diagnostic Approach」. Pediatrics 129, no. 2 (2012年): e431–37.
  • Melville, James C., Kelsey D. Menegotto, Timothy C. Woernley, Blake D. MaidaとIbrahim Alava. 「Unusual Case of a Massive Macroglossia Secondary to Myxedema: A Case Report and Literature Review」. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 76, no. 1 (2018年): 119–27.
  • 淵田 真一,ALアミロイドーシスの病態・診断・治療,日内会誌 112:1231~1236,2023
  • Giustina, Andrea, Annamaria Colao. 「Acromegaly」. New England Journal of Medicine 393, no. 19 (2025年): 1926–39.
  • De Stefani, Alberto, Francesca Dassie, Alexandra Wennberg, et al. 「Oral Manifestations and Maxillo-Facial Features in the Acromegalic Patient: A Literature Review」. Journal of Clinical Medicine 11, no. 4 (2022年): 1092.
  • Topouzelis, Nikolaos, Christos Iliopoulos,Olga Elpis Kolokitha. 「Macroglossia」. International Dental Journal 61, no. 2 (2011年): 63–69.
  • Vogel JE, Mulliken JB, Kaban LB. Macroglossia: a review of the condition and a new classification. Plast Reconstr Surg. 1986 Dec;78(6):715-23. PMID: 2947254.


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