尿路性器感染症患者のSGLT2阻害薬の中断は適切か?
内分泌・代謝内科
2026.01.16
- 尿路感染症患者に対してSGLT2阻害薬を中止すべきかどうか、私自身悩むことが多かったです。根拠をもって継続したい、と思い文献検索すると以下の論文がヒットしました。
- 「Kittipibul, V, Cox, Z, Chesdachai, S. et al. Genitourinary Tract Infections in Patients Taking SGLT2 Inhibitors: JACC Review Topic of the Week. JACC. 2024 Apr, 83 (16) 1568–1578. https://doi.org/10.1016/j.jacc.2024.01.040」の紹介です。
- SGLT2阻害薬(SGLT2i)は、心不全や慢性腎臓病(CKD)の予後を改善する効果がありますが、副作用としての尿路性器(GU)感染症への懸念が依然として処方の障壁となっています。
- 本論文は
- 性器感染症(GMI)のリスクは上がるが尿路感染症(UTI)は上がらないこと
- 安易な休薬が心血管イベントを増やすこと を示しました。
この論文のポイント
- 性器真菌感染症(GMI)約3倍に上昇するが、尿路感染症(UTI)やフルニエ壊疽の有意なリスク上昇は認められない。
- SGLT2iによる心血管・腎保護のベネフィットは、尿路性器感染症のリスクを通常大きく上回る。
- 軽症〜中等症、または安定した重症尿路性器感染症であれば、SGLT2iを継続したまま治療を行うべきである。
- 安易な休薬は、30日以内の心血管死や心不全入院のリスクを有意に増加させる可能性がある。
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背景
- SGLT2iは心不全(特にHFpEFを含む全域)やCKDにおいて劇的な効果を示していますが、FDAによる重症UTIやフルニエ壊疽に関する安全性情報の警告(2015年、2018年)以降、感染症リスクが不適切に過大評価されてきました。
研究デザイン
- 本論文は、既存の大規模ランダム化比較試験(RCT)および大規模なレセプトデータ等を用いた観察研究(疫学調査)のエビデンスを包括的に統合したレビューです。
- EMPA-REG OUTCOME、DELIVER、EMPA-KIDNEYといった主要RCTのメタ解析結果を含んでいます。
- EMPA-REG OUTCOME(2015年)、DELIVER(2022年)、EMPA-KIDNEY(2023年)はNEJMで発表され、これらの研究はいずれも、SGLT2阻害薬の心血管および腎臓へのベネフィットを証明する重要なエビデンスとなっています。
結果
- UTI: 72のRCTのメタ解析(RR: 1.03)や大規模観察研究において、プラセボや他の糖尿病薬と比較してリスクの有意な上昇は認められませんでした。
- GMI: プラセボと比較して一貫してリスクが上昇(RR: 3.37)しており、特に女性や糖尿病患者で顕著です。
- フルニエ壊疽: 極めて稀であり、RCTの統合解析(6.9万人中SGLT2i群3例 vs 対照群6例)でも有意な関連は確認されていません。
- 中止の影響: SGLT2iの中止後30日以内に、心血管死や心不全入院のリスクが1.75倍に増加し、QOL(KCCQスコア)も低下することが示されています。
考察
- 薬理学的な尿糖排泄は、in vitroでは微生物の増殖を促す環境を作りますが、臨床的には浸透圧利尿やナトリウム排泄による「洗い流し効果」がUTIリスクを相殺している可能性が示唆されています。
- 最も強調されるべきは、管理可能な感染症を恐れて、予後改善効果のあるSGLT2阻害薬を不必要に中断することを避けるべきという点です。
実際の管理方法
- 無症候性細菌尿や尿路感染症の既往: これ自体はSGLT2iの禁忌ではなく、ルーチンのスクリーニングや予防的投与も推奨されない。
- 「原則継続」の推奨: 軽症〜中等症の尿路感染症が発生しても、通常の抗菌薬治療を行いながらSGLT2iを継続できる。
- 再開は迅速に: 重症感染症等で休薬した場合でも、感染が制御されれば速やかに(状態が安定し禁忌がなくなれば直ちに)再開を検討する。
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Limitation
- 非糖尿病患者におけるGU感染症の詳細なデータは依然として糖尿病患者に比べると限られています。
- SGLT2i服用中の感染症が、一般集団と比較して微生物学的特徴や最適な治療期間において異なる点があるのかは、現時点では不明です。
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