鉄欠乏性貧血の主な原因
- 鉄欠乏性貧血の治療において最も重要なのは、不足している鉄を補うことと同時に「なぜ鉄が不足したのか」という根本原因を突き止めて対処することです。
- 慢性的な出血(鉄の喪失) もっとも一般的かつ注意が必要な原因です。
- 成人男性・閉経後女性:消化管からの出血(胃癌、大腸癌、潰瘍、血管異形成など)が強く疑われます。これらは便潜血検査や内視鏡検査で精査する必要があります。
- 月経のある女性:過多月経による出血が主な原因です。通常の食事からの摂取量では、月経による損失を補いきれないことが多くあります。
- 鉄の吸収障害 鉄を摂取していても、体がそれを吸収できないケースです。
- 消化器疾患:セリアック病、自己免疫性胃炎、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染などは、出血がなくても鉄の吸収を阻害します。
- 手術後:胃切除や肥満外科手術(胃バイパス術など)の後では、胃酸の低下や吸収部位のバイパスにより吸収能力が著しく落ちます。
- 薬剤の影響:胃酸分泌抑制薬(PPIなど)や制酸薬の使用も吸収を妨げる要因となります。 •
- 炎症性疾患:慢性腎臓病(CKD)や炎症性腸疾患(IBD)などの炎症がある状態では、ヘプシジンが増加し、鉄の吸収をブロックしてしまいます。
- 鉄需要の増大 • 妊娠中や成長期(乳幼児・思春期)には、体の成長や胎児のために多くの鉄が必要となり、供給が追いつかなくなることがあります。

診断に必要な検査と診断基準
- 診断は、一般的な血液検査(血算)と、体内の鉄の状態を見る生化学検査を組み合わせて行います。
- 主な検査項目 • 血算(CBC):ヘモグロビン、MCV、網状赤血球数など • 鉄代謝マーカー:血清鉄(Fe)、総鉄結合能(TIBC)、フェリチン(貯蔵鉄)
- 診断基準の目安
- 貧血がある:Hb値が成人男性で13g/dL未満、成人女性で12g/dL未満(高齢者は11g/dL未満とされることもあります)。
- MCVが80fL未満。
- 貯蔵鉄が枯渇している:これが最も重要な指標です。
- 血清フェリチン値:15ng/mL未満(特異度が高い指標)。炎症が伴っている場合は45ng/mL未満
- トランスフェリン飽和度(TSAT):16%未満(血清鉄÷TIBC×100で算出。感度が高い指標)。
- 総鉄結合能(TIBC):360μg/dL以上。
- その他:MCV小でRDW高値(赤血球サイズ不同)であれば鉄欠乏性貧血の可能性が高い
- 診断時の注意点
- 慢性炎症に伴う貧血(ACD)との鑑別:炎症がある場合、フェリチンは偽性に正常~高値を示すことがあるため診断が難しくなります。ACDではTIBCが低下するのが特徴で、これで鑑別を行いますが、判断が難しい場合は「診断的治療(鉄剤を投与して反応を見る)」が行われることもあります。
適切な治療法と選択基準
- 治療は「輸血」「経口鉄剤」「経静脈(注射)鉄剤」の3つから、重症度や原因に応じて選択されます。
- なお、心不全では貧血の有無に関わらず、TSAT 20%以下,かつ血清フェリチン濃度100 ng/mL以下で鉄補充開始をする。
- 緊急時の対応:赤血球輸血
- 活動性の出血で血圧が不安定な場合や、重度の貧血により心筋虚血などの臓器障害が疑われる場合に行われます。鉄剤の効果が出るのを待てない状況で選択されます。
- 第一選択:経口鉄剤
- 合併症のない多くの患者さんにとって、安価で安全な第一選択薬です。
- 注意点:お茶やコーヒー、カルシウム剤は鉄の吸収を妨げるため、服用のタイミングをずらすことが望ましいです。ビタミンC(オレンジジュースなど)は吸収を助ける可能性があります。徐放錠や腸溶錠は吸収が悪いため推奨されません。
- 従来の「毎日内服」よりも「隔日内服(1日おき)」の方が、鉄の吸収を阻害するヘプシジンの上昇を抑えられ、吐き気などの副作用も少ないという報告が増えています。
| 投与パターン | 処方内容 | 備考 |
| 通常(維持量) | 100〜200mg/日 (例:フェロミア® 50mg 2錠 分2 朝夕食後) | 一般的な成人の維持量です。 |
| 慎重開始 | 50mg/日 から開始 (例:フェロミア® 50mg 1錠 分1 夕食後または眠前) | 副作用(悪心など)を懸念する場合の開始量。 慣れてから維持量へ増量します。 |
| 高齢者 | 50mg/日 (例:フェロミア® 50mg 1錠 分1 夕食後) | 高齢者は副作用が出やすいため、少量でも効果が期待できることから低用量を検討します。 |
- 経静脈鉄剤(点滴・注射)への切り替え:以下のようなケースでは、飲み薬ではなく点滴での治療が推奨されます。
- 副作用(強い吐き気や便秘など)で飲み薬が続けられない場合。
- 飲み薬の効果がない場合(吸収不良症候群、胃切除後、ピロリ菌感染など)。
- 炎症性腸疾患(IBD)や慢性腎臓病(CKD)があり、経口鉄の吸収がブロックされている場合。
- 出血量が多すぎて、飲み薬では追いつかない場合(遺伝性出血性毛細血管拡張症や重度の子宮出血など)。
- 手術前や妊娠後期などで、急速な改善が必要な場合。
| 点滴製剤 | 投与方法 |
| 含糖酸化鉄(フェジン®) | 40-120 mg(1-3 A)を 2 分以上かけて静注 |
| カルボキシマルトース第二鉄 (フェインジェクト® 静注 500 mg) | 1 回 500 mg 週 1 回緩徐に静注または点滴静注 |
| デルイソマルトース第二鉄 (モノヴァー®) | 1 回 20 mg/kg(最大 1000 mg)を週 1 回 または 1 回 500 mg を週 2 回緩徐に静注 |
鉄補充後の経過
- 一般に体内で鉄が欠乏すると、血清フェリチン→血清鉄→Hb→網赤血球数の順に低下します。
- よって鉄を補充すると、網赤血球数から上昇します。
| 時期 | 変化 |
| 数日 | 網赤血球増加 |
| 1週 | Hb上昇 |
| 2週 | フェリチン上昇 |
| 1ヶ月 | 網赤血球の正常化 |
| 2ヶ月 | Hb正常化 |
| 3ヶ月 | フェリチン正常化 |
治療目標
- 貧血(Hb値)が正常化しても、体内の「貯蔵鉄(フェリチン)」が十分に回復するまで治療を続ける必要があります。
- 一般的にはフェリチン値50ng/mL以上を目標としますが、心不全などがある場合はさらに高い目標値が設定されることもあります。
- 治療を行ってもHbやフェリチンが改善しない場合は、アドヒアランス(薬を飲めているか)の確認に加え、吸収不良(ピロリ菌感染やセリアック病など)や診断の見直し、継続的な出血などを再評価する必要があります
フォロー間隔
- 治療法(経口または静注)に応じて、以下のタイミングでの検査が推奨されています。
- 経口鉄剤の場合
- 開始2週間後: 初回の再評価を行います。ここでは主にHb値と網状赤血球数を確認し、薬の忍容性(副作用なく飲めているか)をチェックします。
- 長期的フォロー(フェリチン): 治療開始後 3~6ヶ月 を目処にフェリチン値をフォローします。
- Hb値が正常化しても、貯蔵鉄を完全に補充するために、少なくとも6ヶ月間(またはHb正常化後さらに長期間)治療を継続することがあります。
- 静注鉄剤(点滴・注射)の場合
- 投与後4~8週間後: 鉄剤投与から少なくとも 4週間 は、正確な鉄評価ができないため検査を行いません。通常、投与終了から4~8週間後に受診し、効果判定を行います。
参考文献
- UpToDate-成人の鉄欠乏症および鉄欠乏性貧血の治療(2026年1月21日閲覧)
- 総合内科病棟マニュアル 疾患ごとの管理



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