P/F比(PaO₂/FiO₂比)は、動脈血酸素分圧(PaO2)を吸入酸素濃度(FiO2)で割った値であり、酸素化能(ガス交換能力)の指標として臨床的に重要な意義を持っています。
P/F比は、ARDSや酸素療法を受けている患者において重要な指標です。
P/F比を計算する意義や、数値の解釈、P/F比が低下する原因などまとめました。
P/F比の主な意義
重症度の評価とARDSの診断
• ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の診断: ベルリン定義(Berlin criteria)においてARDSの診断基準として採用されており、重症度分類にも用いられます。
• 治療方針の決定: ARDSにおける人工呼吸器の設定や管理方針を決定する際の判断材料となります。
・ARDSについてはまた別の機会にまとめます。
吸入酸素濃度の影響を除外して評価するため
単なるPaO2の値だけでは、患者がどれだけの濃度の酸素を吸っているかが反映されません。
P/F比を用いることで、FiO2(酸素投与量)が異なる状況下でも酸素化能力を標準化して評価することが可能になります。
なお、下表はFIO2換算表になります。

症例比較:同じ「SpO2 98%」でも中身は別物
例えば、SpO2が98%という値をみたらどうでしょうか。「お、大丈夫じゃん」となりそうです。
この患者がリザーバーマスク10LでSpO2 98%だったらどうでしょうか。
P/F比で考えてみましょう。PaO2≒100と考え、リザーバーマスク10LはFiO2が0.8とすると、P/F=100/0.8=125となります。かなり酸素化は悪そうです。
SpO2は簡便な指標ですが、あくまで「結果として血液中にどれくらい酸素があるか」を示しているに過ぎません。「その数値を維持するために、どれだけのコスト(酸素投与)を払っているか」が抜け落ちています。
これを評価するために必須となるのが P/F比(PaO2/FiO2比) です。
SpO2が同じ98%でも、室内気(Room air)の場合と、高濃度酸素投与下では、肺の酸素化能(ガス交換能力)に雲泥の差があります。
| ケースA:健常者(室内気) | ケースB:重症患者(リザーバー10L) | |
| SpO2 | 98% (一見正常) | 98% (一見正常) |
| 吸入酸素濃度 (FiO2) | 0.21 (21%) | 約 0.8 (80%) |
| 推測されるPaO2 | 約 100 Torr | 約 100 Torr |
| P/F比 (PaO2 ÷ FiO2) | 100 ÷ 0.21 ≒ 476 | 100 ÷ 0.8 = 125 |
| 肺の状態 | 正常 (P/F > 400) | 中等症〜重症の呼吸不全 |
数値の解釈
• 正常値: 300 ~ 500 mmHg
• ガス交換障害あり: < 300 mmHg
• 中等度~重度の低酸素血症: < 200 mmHg
計算例として、FiO2が0.5(50%酸素)の状態でPaO2が60 mmHgの患者の場合、P/F ratioは120 mmHgとなり、重度の低酸素血症を示唆します。
代替指標(S/F比)
動脈血ガス分析ができずPaO2が得られない場合、SpO2を用いたS/F比(SpO2/FiO2)で代用することがあります。これはARDSの発症予測や低酸素血症のモニタリング、死亡率予測において有用とされています。
SpO2についての記事はこちら
P/F比が低下する主な原因
P/F比が低下するということは、肺のガス交換機能に障害が生じ、効率的な酸素化が行えていない(低酸素血症)ことを意味します。低酸素血症のメカニズムとして以下が挙げられており、これらがP/F ratio低下の直接的な原因となります。
中でも換気血流不均衡とシャントが臨床的に最も重要です

換気血流不均衡(V/Q Mismatch)
最も頻度の高い原因です,。
• メカニズム: 肺胞への空気の流れ(換気)と血液の流れ(血流)のバランスが崩れる状態です。血流があるにもかかわらず換気が不十分な領域(低いV/Q比)があると、十分に酸素化されない血液が動脈に混ざり、PaO₂が低下します。
• 主な原因: 肺塞栓症、閉塞性肺疾患(COPDなど)、間質性肺疾患、心拍出量低下など,。
• 特徴: 通常、酸素投与(FiO₂を上げる)によって改善しやすいですが、重度の場合はP/F比が低値にとどまります。

右-左シャント
換気血流不均衡の極端な状態(V/Q = 0)であり、P/F比を著しく低下させる要因です,。
• メカニズム: 静脈血が酸素化されることなく動脈系へ直接流入する状態です。肺胞が完全に潰れたり(無気肺)、水や膿で満たされたりすることで起こります。
• 主な原因: 無気肺、重症肺炎、肺水腫、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、心内シャントなど,。
• P/F 比との関連: シャントが存在する場合、酸素投与を行ってもPaO₂があまり上昇しないため、P/F 比は著しく低下します。資料では、P/F 比が200未満の場合、シャント率が20%を超えていると推定される旨が記載されています。
肺胞低換気
• メカニズム: 肺全体での換気量が不足し、肺胞内の二酸化炭素(CO₂)が増加することで、相対的に酸素が追い出されてPaO₂が低下します,。
• 主な原因: 神経筋疾患、胸郭の異常、薬剤(呼吸抑制)など。
拡散障害
• メカニズム: 肺胞から毛細血管へ酸素が移動(拡散)しにくくなる状態です。肺胞壁の炎症や線維化によって膜が厚くなることで生じます,。
• 主な原因: 間質性肺疾患、肺気腫など。
• 特徴: 安静時よりも、血流速度が速くなる運動時に低酸素血症(P/F低下)が顕著になるのが特徴です。
吸入酸素分圧の低下
• 高地など気圧が低い環境では、吸い込む酸素の絶対量が減るためPaO₂が低下します。
P/F比を改善するには
P/F比を改善するためには、その低下原因となっている低酸素血症のメカニズム(換気血流不均衡、シャント、低換気など)に対処する必要があります。
1. 酸素投与
• 効果が高いケース:
◦ 換気血流不均衡(V/Q mismatch): 肺炎やCOPDなどで生じる最も一般的な原因です。酸素投与を行うことで、通常はP/F比(酸素化)が良好に改善します,。
◦ 肺胞低換気: 神経筋疾患などで呼吸が弱い場合、酸素投与で低酸素血症は容易に補正されます,。
• 効果が限定的なケース:
◦ シャント: ARDSや重度の無気肺、肺水腫などで肺胞が完全に虚脱または充満している状態です。この場合、酸素濃度(FiO₂)を上げてもガス交換が行われないため、酸素投与単独ではP/F比の改善が困難なことが特徴です。
2. 人工呼吸器管理とPEEPの調整
• シャントが存在する場合(ARDSなど)、単に酸素を吸わせるだけでは不十分なため、人工呼吸器による管理戦略(虚脱した肺胞を広げるなど)が必要となります。
3. 体位の調整(Positioning)
体位変換は、肺内の換気と血流のバランス(V/Q mismatch)を変化させ、P/F比を改善させる可能性があります。
• 起座位や側臥位: 仰臥位と比較して、側臥位や起座位をとることでV/Q不均衡が改善し、酸素化が向上することがあります。
4. 原疾患の治療と全身管理
P/F比の低下はあくまで結果であり、根本的な原因を取り除く必要があります。
• 一次的な心肺障害の治療: 生命を脅かす低酸素血症に対して酸素投与を行いつつ、同時にその原因となっている疾患(肺炎、肺塞栓、心不全など)の治療を開始する必要があります。
• 輸血(赤血球輸血): 重度の貧血がある場合や、生命を脅かす低酸素血症がある場合には、酸素運搬能力を改善するために赤血球輸血が行われることがあります。
参考文献
- UpToDate Measures of oxygenation and mechanisms of hypoxemia (2026/01/28閲覧)



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