抗不整脈薬と嗅覚・味覚障害

アミオダロンと味覚障害 医師が知っておきたい歯科のこと
  • 先日、アミオダロン開始後に味覚障害(低下)を訴えた症例に遭遇しました。
  • アミオダロン休薬後、1周間程度で完全にもとに戻りました。
  • 「抗不整脈薬で味覚障害はきたすのだろうか」と疑問に思い調べました。
  • 以下の論文に出会ったので読んでみました。

1. 論文情報

タイトル(原題): Antiarrhythmic drug-induced smell and taste disturbances: A case report and literature review(メトプロロールで嗅覚脱失、アミオダロンで味覚減退を来した1例:抗不整脈薬による稀な感覚障害)

出典(Journal / Year): Medicine (Baltimore). 2018 Jul; 97(29): e11112.

2. 症例の要点

• 同一患者において、メトプロロールによる嗅覚脱失と、その後のアミオダロンによる味覚障害が連続して発生した極めて稀な症例である。

• いずれの感覚障害も、被疑薬の投与開始から2〜3週間で発症し、中止後数週間以内に完全に回復した(可逆的であった)。

• 抗不整脈薬による感覚器障害の報告は世界でも10例未満と少ないが、高齢者のQOLや服薬アドヒアランスを著しく損なう可能性があるため注意が必要である。

(Table1は『嗅覚・味覚障害を引き起こした主な 循環器用薬 の文献』です。つまり、ここには「抗不整脈薬」だけでなく、高血圧治療などで使われる降圧薬などが広く含まれています。実際にTable 1のリスト内訳を見ると、大部分が抗不整脈薬以外です)

3. 背景

• メトプロロール(β遮断薬)やアミオダロンは循環器領域で頻用される抗不整脈薬ですが、その副作用として「嗅覚・味覚障害」が生じることはほとんど知られていない。

• 過去の文献ではACE阻害薬やCa拮抗薬による報告は散見されるものの、抗不整脈薬による報告は非常に稀である。

• 本症例は、これら2剤により可逆的な感覚障害を呈した稀有な例であり、高齢者の「味がしない」「においがわからない」という訴えを単なる加齢現象と片付けず、薬剤性を疑う重要性を示唆している。

4. 症例提示

患者背景: 73歳女性。

主訴・現病歴:

    ◦ 胸部不快感と動悸を主訴に来院。

    ◦ 心電図およびホルター心電図で発作性心房細動、発作性上室性頻拍、心房・心室期外収縮を認めた。

    ◦ 治療開始前の時点では、嗅覚・味覚に異常は認められなかった。

身体所見・検査所見:

    ◦ 一般身体所見に特記すべき異常なし。

    ◦ 心エコーで軽度の大動脈弁閉鎖不全と左室拡張機能障害あり。冠動脈CTでLADに50%狭窄あり。

    ◦ 嗅覚障害発現時の鼻内視鏡検査では、鼻粘膜の色調は正常で、腺腫大や閉塞、炎症所見等は認められず、器質的異常は除外された。

5. 経過と転帰

第1段階(メトプロロールによる嗅覚障害):

    ◦ メトプロロール47.5mg/日を開始。症状改善に伴い23.75mg/日へ減量。

    ◦ 投与開始3週目に嗅覚異常(dysosmia)を自覚し、その後、完全な嗅覚脱失(anosmia)へと悪化した。

    ◦ 外傷歴や化学物質への曝露はなく、耳鼻科的精査も正常であったため、メトプロロールによる副作用と判断し中止した。

    ◦ 中止3週間後に石鹸の香りがわかるようになり、2ヶ月後にはベースラインまで回復した。

第2段階(アミオダロンによる味覚障害):

    ◦ メトプロロール中止により不整脈が悪化したため、アミオダロン400mg/日(その後200mg/へ減量)を開始。

    ◦ 投与開始約2週間後、今度は**苦味と辛味の識別ができなくなる味覚減退(hypogeusia)**が出現した。

転帰:

    ◦ アミオダロンも中止とし、不整脈に対しては高周波カテーテルアブレーション(RFA)を施行した。

    ◦ アミオダロン中止から2週間後、味覚は完全に回復した。

6. 考察(Discussion)

特異性: アミオダロンによる嗅覚障害の報告は過去にあるが(Maruyama et al., 2007)、味覚障害(Hypogeusia)の報告は非常に稀である。また、メトプロロールによる嗅覚障害も1985年のVital Durandによる報告以来、数例にとどまる。

メカニズムの仮説:

    ◦ 正確な機序は不明だが、NaチャネルやCaチャネルの阻害による神経伝導への影響、嗅覚・味覚受容体への結合障害、あるいはGタンパク共役型受容体システムへの干渉などが考えられている。

    ◦ メトプロロールは脂溶性が高く血液脳関門(BBB)を通過しやすいため、中枢神経系(CNS)へ直接作用した可能性もある。

臨床的意義: これらの障害は生命を脅かすものではないが、ガス漏れに気づけないリスクや、食欲不振による体重減少・うつ状態を引き起こすため、決して軽視できない。

7. Limitation

• 単一の症例報告であり、因果関係の確定には限界がある。

• 倫理的および臨床的な理由(不整脈治療の優先)から、原因薬剤の再投与(Re-challenge)による症状再現性の確認は行われていない。ただし、薬剤変更による症状消失(De-challenge)は確認されている。

• 嗅覚・味覚の評価は患者の主観的報告(および石鹸による簡易テスト)に基づいており、定量的な閾値検査などの詳細データは示されていない。

8. 管理人の感想

「高齢者の感覚異常=加齢」というバイアスに注意:

    ◦ 本症例のように、薬剤開始から「2〜3週間」という比較的短いタイムコースで発症する場合、薬剤性を強く疑う必要があります。特に高齢者は複数の薬剤を服用していることが多いため、問診での確認が不可欠ですね。

    ◦ 嗅覚・味覚障害は患者から「副作用」として認識されにくく、医師に報告されないまま服薬中につながる恐れがあります。循環器薬を処方する際は、食欲や味の変化について、医療者側から能動的に尋ねる姿勢が重要だと感じました。

    ◦ 口腔カンジダ症や亜鉛欠乏症なども味覚障害に至ることもあります。本論文で検査したかどうか不明ですが、これらの除外も必要と思われます。

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