関節リウマチ患者における顎関節症の有病率と疾患活動性との関連:DAS28は顎関節病変を反映しない?

医師が知っておきたい歯科のこと
  • 関節リウマチ患者で顎関節症を訴える方がしばしばみられます。
  • 関節リウマチがコントロールされている=顎関節症がよくなっているのか。気になったので調べてみました。

1. 論文情報

タイトル: Temporomandibular Disorders in Patients with Rheumatoid Arthritis

出典: J. Clin. Med. 2025, 14, 7381.

2. 本論文のポイント

• 関節リウマチ(RA)患者における顎関節症(TMD)の有病率は75%と極めて高く、特に「口腔顔面痛(Orofacial pain)」が82.5%の患者で報告された。

• CRP値の上昇は「最大開口量の減少」と負の相関を示したが、RAの疾患活動性スコア(DAS28)や罹病期間は、TMDの有無や重症度と相関しなかった。

• RAの病期や全身的な疾患活動性にかかわらず、すべてのRA患者に対して顎関節症のスクリーニングをルーチンに行うべきである。

3. 背景

• 顎関節(TMJ)はRAにおいて侵されやすい滑膜性関節の一つですが、他の関節と異なり典型的な炎症徴候を示しにくいため、過小評価されがちです。また、TMDの重症度とRAの炎症パラメータ、重症度、罹病期間との関係については、統一された見解が得られていませんでした。

目的: 本研究は、RA患者におけるTMDの有病率と特徴を評価し、それらの所見とRAの疾患活動性マーカー(DAS28, CRP, ESR, RF, 抗CCP抗体など)との相関関係を明らかにすることを目的として行われました。

4. 研究デザイン・方法

Table1
包含・除外基準の詳細を示しています
本研究の対象であるRA患者が、健康な対照群と比較して明らかに炎症レベルが高く、中等度以上の疾患活動性を有する集団であることを客観的な数値で示しています。

P (Patient):

    ◦ 2010年ACR/EULAR基準を満たすRA患者40名(女性34名、男性6名、年齢中央値53歳)。

    ◦ 除外基準:先天性頭蓋顔面欠損、顎関節の治療歴・注射歴がある者、可撤式義歯装着者など(Table 1は包含・除外基準の詳細を示しています)。

I (Intervention/Exposure):

    ◦ RAの重症度評価:ESR, CRP, リウマトイド因子(RF), 抗CCP抗体, DAS28, 罹病期間。

    ◦ TMDの評価:RDC/TMD(研究用診断基準)を用いた問診および理学的検査。

C (Comparison):

    ◦ リウマチ性疾患の既往のない健康な成人(HS)40名。

O (Outcome):

    ◦ TMDの有病率、口腔顔面痛の有無と強度、顎関節雑音、顎運動制限、およびこれらとRA疾患活動性マーカーとの相関。

研究デザイン: 横断研究(Cross-sectional study)。

5. 結果(Results)

RA患者と健康対照群におけるTMD症状の比較を示しています

TMDの有病率: RA患者群ではTMDの有病率が75%であり、健康対照群(0%)と比較して有意に高値でした。

疼痛: RA患者の82.5%が口腔顔面痛を訴えました。触診において、RA患者は健康対照群よりも有意に多くの筋肉(特に内側翼突筋、顎二腹筋前腹、側頭筋腱)に圧痛を認めました(Table 4は筋膜痛および筋肉の関与の比較を示しています)。

顎機能制限:

    ◦ 最大能動的開口量はRA群(中央値33.5mm)で健康対照群(37mm)より有意に減少していました(p=0.000)(Table 8は下顎運動の運動学的比較を示しています)。

    ◦ 具体的な機能制限として、咀嚼困難(75%)、あくび困難(70%)が多く報告されました(Figure 1はRA群における顎機能制限の分布を示しています)。

疾患活動性との相関:

    ◦ CRP値は、最大能動的開口量と有意な「負の相関」を示しました(r < 0, p = 0.042)(Figure 3はCRP値と能動的開口量の負の相関を示しています)。

    ◦ また、CRP値は水平的切歯間距離と正の相関を示しました(Figure 4はCRP値と水平的切歯間距離の正の相関を示しています)。

    ◦ 一方で、DAS28、リウマトイド因子(RF)、罹病期間は、TMDの発生数や顎関節雑音、開口制限などの臨床症状といずれも有意な相関を示しませんでした。

CRP値と能動的開口量の負の相関を示しています
CRP値と水平的切歯間距離の正の相関を示しています
筋膜痛および筋肉の関与の比較を示しています

6. 考察

RAはTMDの独立したリスク因子: RA患者におけるTMDの高い有病率は、RA自体がTMD発症の素因となることを示唆しています。

筋膜痛のメカニズム: 滑膜炎だけでなく、中枢性鋭敏化や全身性の炎症性メディエーターの影響により、広範囲な筋膜痛が生じている可能性があります。

DAS28との乖離: DAS28や罹病期間がTMDと相関しなかった理由として、近年の薬物療法の進歩による進行抑制や、DAS28が咀嚼や発語といった顎口腔系の機能を評価項目に含んでいない点が挙げられます。

CRPの有用性: CRPは急性炎症を反映し、開口障害などの機能制限と関連するため、顎関節機能温存の観点から重要なモニタリング指標となります。

7. Limitation

サンプルサイズ: 各群40名と小規模であるため、サブグループ解析には限界があります。

研究デザイン: 横断研究であるため、因果関係の証明はできません。

バイアス: 検者盲検化(ブラインディング)が行われていないため、評価バイアスの可能性があります。また、画像診断(MRI等)が含まれていないため、臨床症状と実際の関節炎や骨破壊との相関は評価できていません。

薬剤の影響: 抗炎症薬や生物学的製剤の使用が炎症マーカー(ESR, CRP)に影響を与えている可能性があります。

8. 実臨床で適応するにあたっての注意点(Clinical Applicability)

スクリーニングの徹底: DAS28が低くリウマチがコントロールされているように見える患者であっても、顎関節病変が進行している可能性があります。罹病期間や全身症状に関わらず、全RA患者にTMDスクリーニングを行うべきです。

CRP値への注目: CRPが高値の患者では、顎関節の可動域制限(開口障害)が進行するリスクが高いため、特に注意深い観察が必要です。

多職種連携: 早期の発見と管理のためには、リウマチ医と歯科医、口腔外科医との連携が不可欠です。

9. 一人質疑応答

Q1. 本研究ではMRIやCTなどの画像診断が行われていません。RDC/TMD(研究用診断基準)のみに基づき、顎関節の「関節炎」や「骨破壊」とRAの関連を論じることは、診断精度として不十分ではありませんか?

A1.確かにこれは本研究の最大の限界点の一つです。 著者らもLimitationsの項で、画像診断の欠如により「臨床所見と実際の関節炎(滑膜炎)や骨破壊との相関を確認できていない」ことを認めています。RDC/TMDは標準化された優れた臨床診断ツールですが、これだけでは痛みの原因が「活動性の炎症(滑膜炎)」によるものか、RAに伴う「二次的な筋痛」や「変形性変化」なのかを厳密に区別することは不可能です。 したがって、本研究の結果は「RA患者には顎関節・咀嚼筋の症状(TMD)が非常に多い」という事実を示すものではありますが、それが「顎関節そのもののリウマチ性病変」を直接反映しているとは限らない点に注意が必要です。著者らは、将来的な研究においてMRIを用いた評価が不可欠であると述べています。

Q2. 対象患者の80%がNSAIDs、60%がDMARDs、12.5%が生物学的製剤を使用しています。これらの薬剤は炎症マーカー(CRP/ESR)や疼痛レベルを強力に修飾しますが、その交絡因子としての影響が十分に調整されていないのではありませんか?

A2. その懸念は妥当であり、本研究の統計解析における脆弱な点と言えます。 著者らは、使用薬剤がESRやCRPのレベルを変化させ、結果に干渉した可能性があることを限界として挙げています。本来であれば、使用薬剤ごとのサブグループ解析や多変量解析での調整が望ましいですが、サンプルサイズが各群40名と小規模であるため、十分な解析が行えていません。 特に、生物学的製剤使用者はDAS28やCRPが低く抑えられている可能性が高く、これが「DAS28とTMD重症度に相関が見られなかった」という結果の一因となっている可能性があります。したがって、「DAS28はTMDを反映しない」という結論は、薬剤によるマスキング効果を含んで解釈する必要があります。

Q3. RA群と健康対照群(HS群)の間で、年齢(RAの方が高い)や性別(RAの方が女性が多い)に有意差があります。顎関節症はもともと中高年女性に好発する疾患ですが、本研究で見られたTMD有病率の差は、単にRA群の「年齢・性別」によるバイアスではありませんか?

A3. 確かにTable 2において、RA群はHS群と比較して有意に年齢が高く(p=0.002)、女性の割合も高い(p=0.001)ことが示されています。 著者らは統計解析において「年齢と性別で調整したp値(p Value Adjusted to Age and Gender)」を算出し、補正後でもTMD有病率や開口量などに有意差があったとしています(Table 3, Table 8)。 しかし、Discussionにおいて著者自身も、「女性であること」や「高齢であること」自体がTMDのリスク因子であることを認めており、サンプルサイズの小ささと相まって、これら人口統計学的な差が結果を過大評価させている可能性は完全には否定できません。この結果を一般化するには、年齢・性別を完全にマッチさせたより大規模な症例対照研究が必要です。

10. 管理人の感想

本論文で最も興味深かったのは、「DAS28(疾患活動性スコア)と顎関節症状に相関がない」という点です。臨床現場では「リウマチのコントロールが良い=顎関節も大丈夫」と考えがちですが、この結果は、全身の関節症状が落ち着いていても、顎関節だけは別個に評価する必要があることを強く示唆しています。 また、RA患者の顎関節症というと骨破壊(関節リウマチそのもの)に目が行きがちですが、本研究で「筋膜痛」の頻度が非常に高かったことは、診断において筋肉の触診をおろそかにしてはならないという重要な教訓だと感じました。CRPが開口制限と相関するという知見も、診療時の具体的チェックポイントとして有用です。

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