夜間に義歯を装着したまま眠ると肺炎リスクが2.3倍上昇する

医師が知っておきたい歯科のこと
夜間に義歯を装着したまま眠ると肺炎リスクが2.3倍上昇する
  • もと歯科医師として、入院患者さんには「義歯を外して寝るようにしてください」と指導しています。
  • 「雑菌が増え、口腔衛生上悪いから」と考えていましたが、実際エビデンスはあるのだろうか、と思い調べたところ、以下の論文を見つけました。
  • Iinuma T, Arai Y, Abe Y, Takayama M, Fukumoto M, Fukui Y, Iwase T, Takebayashi T, Hirose N, Gionhaku N, Komiyama K. Denture wearing during sleep doubles the risk of pneumonia in the very elderly. J Dent Res. 2015 Mar;94(3 Suppl):28S-36S. doi: 10.1177/0022034514552493. Epub 2014 Oct 7. PMID: 25294364; PMCID: PMC4541085.

【論文の注目ポイント】

この研究の最大の注目点は、「睡眠中の義歯装着」という日常的な習慣が、85歳以上の超高齢者において肺炎の発症リスクを約2.3倍に高めることを明らかにした点です。このリスクの高さは、脳卒中の既往や認知機能の低下、呼吸器疾患といった、一般的に肺炎の強力な予後因子とされるものに匹敵するほどの影響力を持っています。これまで介護施設などでの専門的口腔ケアの有効性は示されてきましたが、この論文は地域在住の高齢者において「夜に義歯を外す」という本人の行動変容だけで肺炎予防につながる可能性を示唆した内容となっています。

【研究デザイン】

研究の種類: 前向き観察研究(TOOTH研究:The Tokyo Oldest Old Survey on Total Health)。(注1)

対象者: 東京都在住の85歳以上の地域住民524名(平均年齢87.8歳)を無作為に抽出。

調査期間: ベースライン調査から3年間の追跡調査を実施。

評価項目: 口腔内の健康状態、衛生習慣、医学的評価(血液検査、認知機能、身体機能など)。

アウトカム: 肺炎による初めての入院、または肺炎による死亡。

(注1)「TOOTH研究」とは、慶應義塾大学が中心となって行っている「The Oldest Old Tokyo Health」または「The Oldest Old Survey on Total health」の略で、超高齢社会における健康長寿(健康寿命)の延伸を目指し、高齢者の生活習慣(運動・食事・口腔健康など)と健康状態の関係を多角的に調査する学術研究です

【結論】

3年間の追跡の結果、以下のことが明らかになりました。

1. 義歯を使用している453名のうち、40.8%(186名)が就寝中も義歯を装着していました。

2. 多変量解析において、「就寝中の義歯装着」は肺炎リスクを2.38倍(95% CI: 1.25–4.56)に高めていました(Table 2)。

3. 同時に、「嚥下困難の自覚」も肺炎リスクを2.31倍(95% CI: 1.11–4.82)高める独立した因子であることが確認されました(Table 2)。

4. 一方で、残存歯数や咬合状態(アイヒナーの分類)、義歯洗浄剤の使用の有無などは、肺炎発症との間に有意な関連は見られませんでした(Table 1より。これは予想外でした。義歯洗浄剤を使用している方は口腔衛生も保たれている印象があるので。。。)

【考察】

なぜ睡眠中の義歯装着が肺炎リスクを高めるのか、論文ではいくつかのメカニズムが考察されています。

細菌の貯蔵庫としての義歯: 就寝中に義歯を装着している人は、外している人に比べて舌苔や義歯プラーク、歯肉の炎症、Candia albicansの陽性率が有意に高いことが示されました。義歯が細菌の温床となり、睡眠中の不顕性誤嚥によってこれらの病原体が肺へ送り込まれることが原因と考えられます。

唾液の保護作用の低下: 睡眠中に義歯を装着し続けることで、本来唾液が持っている粘膜の保護作用や洗浄作用が、義歯に覆われた部位で十分に機能しなくなる可能性が指摘されています。

口腔衛生意識の指標: 就寝中も義歯をつけている人は、歯科受診頻度が低く、義歯清掃の頻度も少ない傾向にありました。つまり、「夜も義歯を外さない」という習慣そのものが、口腔衛生全体の質の低さを示すマーカーとなっている側面もあります。

【明日の臨床に役立つTIPS】

1. 「夜は義歯を外して寝る」を徹底指導: 患者さんへの生活指導として、肺炎予防のために夜間は義歯を外し、乾燥または洗浄液で適切に保管することを強く指導しましょう。

2. 嚥下機能のスクリーニング: 本研究で嚥下困難の自覚も肺炎の強力なリスク因子であったことから、問診時に「飲み込みにくさ」を確認することは非常に重要です。

3. 義歯と舌の清掃確認: 就寝中に義歯を外せない患者さん(対合歯がないための痛みや紛失への恐怖などがある場合)には、特に念入りな義歯清掃や舌苔の除去を指導する必要があります。

【この論文のLimitation】

肺炎の過小評価の可能性: 高齢者の肺炎は症状が典型的でないことが多いため、入院や死亡に至らなかった軽症例がカウントされていない可能性があります。

サンプルサイズの制限: 東京都の85歳以上に限定された比較的小規模な調査であるため、より若い高齢者や他の地域にそのまま一般化するには注意が必要です。

義歯性口内炎の評価: 義歯性口内炎の重症度(ニュートンの分類など)が詳細に評価されていないため、口腔粘膜の炎症と肺炎リスクのより直接的な因果関係については、さらなる研究が待たれます。

参考文献

  • Iinuma T, Arai Y, Abe Y, Takayama M, Fukumoto M, Fukui Y, Iwase T, Takebayashi T, Hirose N, Gionhaku N, Komiyama K. Denture wearing during sleep doubles the risk of pneumonia in the very elderly. J Dent Res. 2015 Mar;94(3 Suppl):28S-36S. doi: 10.1177/0022034514552493. Epub 2014 Oct 7. PMID: 25294364; PMCID: PMC4541085.

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