糖毒性

内分泌・代謝内科

糖毒性とは

  • 糖毒性とは、高血糖状態が持続することによって膵臓のβ細胞が障害を受け、インスリン分泌能が低下し、さらなる高血糖状態を引き起こすという「悪循環」の状態を指します。
  • この状態を解除(糖毒性解除)するためには、基本的に「膵β細胞を働かせない(休ませる)」ことが必要となります
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糖毒性の治療法

糖毒性(高血糖が膵β細胞を障害し、さらにインスリン分泌能を低下させる悪循環)を断ち切るための絶対原則は、「疲弊した膵β細胞を徹底的に休ませる」ことです。

    ゴールドスタンダード:強化インスリン療法

    • 強化インスリン療法とは、インスリンの頻回注射(MDI:Multiple Daily Injection)や持続皮下インスリン注入療法(CSII)を用いて、健常者の生理的なインスリン分泌パターン(基礎分泌+追加分泌)を模倣し、厳格な血糖コントロールを目指す治療法です。
    • 治療のゴール: 空腹時血糖 130mg/d未満を目標とします。ここまで下がれば糖毒性は解除されたと判断し、経口薬やGLP-1RAへの切り替えを検討します。

    1. インスリン製剤の組み合わせ(MDIの場合)

    基本的には1日4回の注射で、以下の2種類のインスリンを組み合わせます。

    基礎インスリン(Basal): 持効型インスリン(ランタス、トレシーバ、グラルギンBS(ランタスの後続品)など)を1日1回(眠前など)注射し、24時間の基礎分泌を補います。

    追加インスリン(Bolus): 超速効型インスリン(ノボラピッド、ヒューマログ、ルムジェブ、リスプロなど)を毎食直前(1日3回)に注射し、食後の血糖上昇を抑えます。

    2. 導入時の投与量設定(初期量)

    2型糖尿病や糖毒性解除目的での導入の場合、以下の目安が示されています。

    総インスリン量の目安: 体重あたり 0.2~0.4 単位/kg 程度で開始します。

    配分例:

        ◦ 体重60kgの人なら、総量12~24単位程度。

        ◦ 打ち分け例: 超速効型(毎食前)4-4-4単位 + 持効型(眠前)4~12単位など(持効型は0.1U/kg程度)。

        ◦ 一般的には、総投与量の40~50%を持効型(基礎)、残りを毎食前の超速効型(追加)に振り分けます。

    3. 投与量の調整方法(スライディングスケールではなく「責任インスリン」で考える)

    開始後は、血糖値を測定しながら「どのインスリンが足りていないか」を判断して調整します。これを「責任インスリン」の考え方といいます。

    血糖値が高いタイミング調整すべきインスリン
    (責任インスリン)
    調整内容
    朝食前 (空腹時)持効型 (基礎)前日の持効型を増量
    昼食前朝の超速効型朝食前の超速効型を増量
    夕食前昼の超速効型昼食前の超速効型を増量
    眠前夕の超速効型夕食前の超速効型を増量

    調整方法: 血糖値は日内変動があるため、低血糖がなければ毎日変更するのではなく、2~3日ごとの傾向を見て1~2単位ずつ調整するのが一般的です。

    参考;インスリン製剤一覧(ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブックVer.6より引用)

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    糖毒性解除に「向く」経口薬

    膵臓を鞭打たず、インスリン非依存的に血糖を下げる、あるいは抵抗性を改善する薬剤が糖毒性解除に向く薬です。インスリン製剤と組み合わせて使います。ただし、糖毒性が著しい場合は単剤でのパワー不足や、効果発現の遅さに注意が必要です。

      • SGLT2阻害薬
        • インスリン非依存的に尿糖排泄を促進するため、糖毒性解除の強力な武器になります。
        • シックデイには休薬します⇢シックデイに関する記事もご参照ください。
      • ビグアナイド薬(メトホルミン)
        • 肝糖新生の抑制により基礎分泌を補います。
      • チアゾリジン薬 / α-GI
        • 機序的には「向く」薬剤ですが、チアゾリジンは効果発現が遅く、α-GIはパワーが弱いため、補助的な位置づけになります。

      糖毒性解除に「向かない」経口薬

      疲弊した膵臓を無理やり刺激する(インスリン分泌を促進する)薬剤は、効果が乏しいだけでなく、β細胞の疲弊を助長する可能性があります。

        • SU薬 / グリニド薬
          • 糖毒性下ではβ細胞の反応性が低下しているため(K-ATPチャネルの機能不全など)、効果が出にくい上に、治療原則に反します。

        判断が分かれる薬剤

        以下の薬剤はインスリン分泌促進作用を持ちますが、血糖依存性であるため、病態によっては有用です。特にGLP-1受容体作動薬の評価は近年大きく変わっています。

          • GLP-1受容体作動薬(特に注射製剤。セマグルチド、チルゼパチドなど): 厳密にはインスリン分泌促進系ですが、強力な血糖降下作用と血糖依存性の分泌(低血糖リスクの低さ)から、近年では糖毒性解除に有用とされてきています。
          • DPP-4阻害薬
            • マイルドな作用のため、著明な高血糖(糖毒性期)には力不足なことが多いです。
          • イメグリミン: インスリン分泌促進と抵抗性改善のデュアル作用を持ちますが、糖毒性解除の「主役」というよりは、インスリンや他剤との併用で輝く薬剤です。

          参考文献

          • ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブックVer.6

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