低マグネシウム血症【見逃してませんか?】

腎臓内科
低Mg血症

  • マグネシウムは、私たちの生命活動のエネルギー源であるATPの働きに不可欠であり、数百もの酵素反応に関わる極めて重要なミネラルです。しかし、その重要性とは裏腹に、臨床の現場ではしばしば測定が見送られ、「忘れられた電解質(forgotten electrolyte)」と呼ばれることがあります。
  • マグネシウムの厄介な点は、血液検査の数値が必ずしも体内の充足度を反映しないことにあります。体内にあるマグネシウムの約半分は骨に、残りのほとんどは細胞内に存在し、血液中(細胞外液)にはわずか1%しか含まれていません。そのため、たとえ血清マグネシウム値が「正常範囲内」であっても、細胞レベルでは深刻な欠乏状態に陥っている可能性があるのです。
  • 特に、2型糖尿病患者や、利尿薬・PPIを長期服用している方、あるいはICUに入室するような重篤な状態の患者さんでは、マグネシウム欠乏が隠れていることも多いです。低マグネシウム血症はなかなか治らない低カリウム血症・低カルシウム血症の原因となっていることも少なくありません。

マグネシウム代謝

  • マグネシウムの代謝は、主に腸管(吸収)、骨(貯蔵)、腎臓(排泄・再吸収)の3つの臓器によって厳密に制御されています。
  • 体内分布
    • 成人の体内には約25gのマグネシウムが存在しますが、その分布は非常に偏っています。
    • 骨: 全身の約60%が骨に貯蔵されています(ハイドロキシアパタイトとして存在)。
    • 細胞内: 残りの大部分は筋肉や軟部組織の細胞内にあり、カリウムに次いで2番目に多い細胞内陽イオンです。
    • 血液: 血液中に存在するのは全身の1%未満に過ぎません。そのため、血液検査の数値が正常でも、組織内では欠乏している可能性があります。
  • 腸管での吸収メカニズム
    • 食事から摂取されたマグネシウム(穀物、豆類、ナッツ、緑黄色野菜など)の30〜40%が腸管で吸収されます。吸収には2つのルートがあります。
    • 受動的な輸送(小腸): ほとんどの吸収は小腸で行われ、細胞と細胞の間を通る「細胞間隙経路(paracellular transport)」によって受動的に移動します。
    • 能動的な輸送(大腸): 大腸では、TRPM6およびTRPM7という特別なチャネルを通じて、細胞内を通過する「経細胞経路」で微調整が行われます。
    • 制御因子: 腸内pH、腸内細菌叢、ホルモン(エストロゲン、インスリン、EGFなど)の影響を受けます。例えば、プロトンポンプ阻害薬(PPI)はこの腸内環境を変えて吸収を阻害します。
  • 腎臓での調節
    • 腎臓はマグネシウム恒常性に重要な役割を果たしています。糸球体で濾過されたマグネシウムの約95%以上が再吸収され、尿中への排泄量は摂取量とバランスが取れるように(約100mg/日)調整されます。
    • 近位尿細管では20%程度しか再吸収されません。
    • ヘンレ係堤太い上行脚(TAL)が再吸収の主役(約70%)です。
    • Claudin16と19というタンパク質が細胞の隙間に「孔」を作り、電位差を利用して受動的に再吸収させます。このプロセスは、カルシウム感知受容体(CaSR)や副甲状腺ホルモン(PTH)によって制御されています。
    • 遠位尿細管: 最終調整(5〜10%)を行います。
      • ここではTRPM6チャネルを使った能動的な再吸収が行われます。
    • EGF(上皮成長因子)インスリンは、このTRPM6を活性化させてマグネシウムの再吸収を促進します。したがって、抗EGFR抗体(がん治療薬)の使用や、糖尿病によるインスリン抵抗性は、このメカニズムを破綻させ、マグネシウム喪失(尿への漏出)を引き起こします。
  • 骨による緩衝作用
    • 骨に含まれるマグネシウムの一部は「交換可能なプール」として機能し、血中濃度を維持するための貯蔵庫の役割を果たします。また、マグネシウム自体も骨芽細胞や破骨細胞の活性に影響を与え、骨形成に関与しています。
  • このように、マグネシウム代謝はTRPM6/7クローディンといった特定の輸送タンパク質と、インスリンやEGFなどのホルモンによって精緻にコントロールされています。
Magnesium Disorders.Jacobs, F. (2024). New England Journal of Medicine, 391(7), 668.より引用

低マグネシウム血症の症状

  • 低マグネシウム血症とは、一般的に血清マグネシウム濃度 1.7 mg/dL未満と定義されます
  • 初期は無症状や非特異的な症状(脱力感など)が多いですが、重度(通常1.2 mg/dL以下)になると神経筋症状や致死的な不整脈が出現します。
  • 個人的な経験として、意識障害で実は低マグネシウム血症が原因だったということもありました。なので意識障害の患者には必ず血清マグネシウムを計測します。⇢意識障害についての記事はこちら
  • また低マグネシウム血症があると、呼吸筋の筋力低下をきたし、人工呼吸器離脱に影響を与えることがあります。
分類症状・所見詳細・メカニズム
神経・筋肉症状テタニー手足のしびれや硬直
筋肉の異常筋力低下、筋痙攣、振戦、筋線維束性攣縮
身体所見Chvostek徴候、Trousseau徴候
重篤な症状全身性痙攣(発作)、眼振、運動失調、めまい
精神・神経症状意識・精神状態無気力(嗜眠)、抑うつ、不安、精神錯乱、人格変化、重症例では昏睡
循環器症状不整脈期外収縮、心室頻拍(VT)、心室細動(Vf)、Torsade de Pointes
心電図変化QT延長、QU延長、QRS開大、PR延長、T波の平低化・逆転、U波の出現
その他ジギタリス中毒の増悪、血管収縮による高血圧
消化器・全身症状非特異的症状食欲不振、悪心、嘔吐、全身倦怠感
合併する電解質異常低カリウム血症腎臓でのカリウム排泄が止まらなくなるため、難治性となる(Mg欠乏によりROMKチャネルの抑制が外れるため)。
低カルシウム血症副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌低下および骨などのPTH抵抗性により生じる。これもMg補充なしでは改善しにくい。
代謝異常糖代謝インスリン抵抗性の増大(糖尿病の悪化)

低マグネシウム血症の原因

低マグネシウム血症をきたす頻度が高い原因と、それぞれのパーセンテージは以下の通りです。

ICUの患者:最も頻度が高く、60%〜65%以上に見られます。

2型糖尿病患者:10%〜30%に見られます。

慢性アルコール使用障害:アルコール依存症患者において最も一般的な電解質異常とされています。

Jacobs, F. (2024). Magnesium Disorders. New England Journal of Medicine, 391(7), 668. https://doi.org/10.1056/NEJMc2408312 を参考に一部改変

薬剤性低マグネシウム血症

低マグネシウム血症の鑑別

  • 24時間尿中排泄量または尿中マグネシウム排泄率(FEMg)を測定し、腎性(尿から出過ぎている)か、腎外性(腸から吸収できていない)かを鑑別します。輸液を行うとすぐに尿中に排泄されて数値が狂うため、来院時(輸液前)の採尿が推奨されます
    • 24時間蓄尿は必ずしも必須ではありません。
    • 24時間蓄尿が難しい場合、随時尿と血液検査の結果を用いて計算するFEMgで代用が可能です。計算式は以下の通りです。
  • UMg: 尿中マグネシウム濃度
  • SCr: 血清クレアチニン値
  • SMg: 血清マグネシウム値
  • UCr: 尿中クレアチニン値
  • ※0.7は、血清Mgの約70%が糸球体で濾過される(蛋白結合していない)ことを補正するための係数です。
低マグネシウム血症鑑別フローチャート

低マグネシウム血症の補正方法・処方例

治療における重要な注意点があります。

  • 配合変化: リンゲル液にはカルシウムが含まれているため、硫酸マグネシウムと混合すると沈殿が生じます。リンゲル液とは混合不可です。生理食塩液か5%ブドウ糖液が無難です。
  • 高マグネシウム血症の兆候を見逃さない: 血清Mg濃度が4.8 mg/dLを超えると、深部腱反射(アキレス腱反射など)の低下・消失が見られます。これは特異度が高い兆候であるため、投与中は必ずチェックが必要です。
  • 他の電解質もチェック: 大量の静脈内投与は低カリウム血症や低カルシウム血症を誘発するリスクがあるため、MgだけでなくKやCaもモニターします。
  • 腎機能障害に注意: 腎機能が低下している患者では排泄が遅れ、高マグネシウム血症になりやすいため、投与量をあらかじめ減量し、血清Mg濃度を測定しながら慎重に投与します。
重症度・血清Mg濃度状況・症状治療法・処方例留意点
軽度
(1.0~1.7 mg/dL)
無症候性原疾患の治療・食事療法:原因となる薬剤(利尿薬・下剤)の制限やアルコールの中止。
Mgを多く含む食品(海藻、魚介、穀類、豆類など)の摂取
基本的に薬物治療の必要はなく、原因除去を優先する。
合併症あり
(心疾患、てんかん、難治性低K/低Ca血症)
経口投与酸化マグネシウム 1日 0.5~1.0g(Mgとして250~500mg)を2~3回に分服。
または
硫酸マグネシウム 1日 3~5g(Mgとして294~490mg)を3回に分服。
下痢症状が強くないか確認しながら、適宜増量する。ニューキノロン系などの抗菌薬との併用は吸収低下に注意。
高度
(1.0 mg/dL未満)
緊急・重篤な症状
(痙攣、重度不整脈など)
急速静脈内投与硫酸マグネシウム補正液 1A(20mEq/20mL)または マグネゾール 1A(16.2mEq/20mL)を生理食塩液または5%ブドウ糖液 50mLに溶解し、15分程度かけて投与。血清Mgが1.0mg/dLを超えるまで3~4時間ごとに繰り返す。急速投与に伴う血圧低下や呼吸抑制に注意。
高度の欠乏
(緊急処置後 or 無症状でも高度な場合)
持続点滴静注硫酸マグネシウム補正液 2.5A(50mEq/20mL)
または
マグネゾール 3A(48.6mEq/20mL)を生理食塩液または5%ブドウ糖液 1Lに溶解し、12~24時間かけて持続点滴。
細胞内のMg欠乏補正には時間がかかるため、血清濃度が正常化してもしばらく(数日)継続することが望ましい。

参考文献

  • Magnesium Disorders.Jacobs, F. (2024). New England Journal of Medicine, 391(7), 668. https://doi.org/10.1056/NEJMc2408312
  • 志水英明:マグネシウム代謝異常.薬事 66:878—883,2024
  • Cisplatin and hypomagnesemiaLajer, H. et al.Cancer Treatment Reviews, Volume 25, Issue 1, 47-58

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