入院患者さんの不眠 どう対応する?

不眠対応の記事のキャッチアイです 内科一般

入院中の患者さんにとって、「眠れない」 という悩みは決して珍しいものではありません。病室の環境の変化、治療に伴う身体的な不快感、精神的な不安――さまざまな要因が重なり、不眠をきたします。不眠が続くとQOLの低下やせん妄のリスク増加など、患者さんの健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。

では、入院患者の不眠にはどのように対応すればよいのでしょうか?
環境調整や心理的サポート、薬物療法の適切な活用など、多角的なアプローチが求められます。本記事では、不眠の原因を整理し、現場で実践できる具体的な対応策について解説していきます。

ポイント

  • まずは「なぜ眠れないのか?」を「5P」で考え、睡眠を阻害する原因の除去が必要。
  • 睡眠障害対処 12の指針を試す。
  • 不眠時の薬剤は意識が清明な患者さんに使用するものである。不眠の原因が「せん妄」の可能性がある。夜間せん妄であれば不穏時指示を優先する。
  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用によるふらつき依存性のため、使用は極力避ける(特に高齢者)。
  • 睡眠薬の長期連用は避ける。

不眠の原因は5Pで考える

  • 不眠の原因を取り除くだけで、改善することがあるため、まずは原因詮索をしましょう。
  • その際に原因を「5P」で考えるとわかりやすいです。
  • Physical(身体的)
    • 発熱、疼痛、掻痒感、呼吸困難、動悸、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、頻尿による睡眠の分断(前立腺肥大症など)
  • Physiological(生理学的)
    • 時差ぼけ、環境の変化、交代勤務、騒音、光、不快な温度
  • Psychological(心理学的)
    • 精神生理性不眠、精神的ストレス、心配事、緊張、重篤な疾患による精神的ショック
  • Psychiatric(精神疾患的)
    • アルコール依存、不安神経症、うつ病
  • Pharmacological(薬理学的)
    • ステロイド利尿薬抗ヒスタミン薬による前立腺肥大症の増悪、カフェイン、パーキンソン病薬(ドパミン製剤など)、抗不整脈薬(βブロッカーなど)、脂質異常症(クロフィブラートなど)、SSRIなど
  • 入院患者さんの不眠の原因として、Pharmacological(薬理学的)が多いです。
    • 特に、ステロイド利尿薬抗ヒスタミン薬による前立腺肥大症の増悪 はしばしば原因となります。
    • ステロイドを始める患者では、事前に不眠の可能性を患者に説明して、頓服で使用できる睡眠薬を用意しておくとよいです。

睡眠障害対処 12の指針を有効活用する

  • 厚生労働省の研究班が提示している睡眠障害対処 12の指針は、医療従事者全員が行うことのできる、有効な非薬物療法です。
  • (個人的な話で恐縮ですが、私自身も睡眠障害があり困ってました。しかし「8.眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに」を実践したところ効果てきめんでした

睡眠障害対処の12か条

項目ポイント
1. 睡眠時間は人それぞれ。日中の眠気で困らなければOK睡眠時間にこだわらない。適切な睡眠は人により長さが違う。季節でも変わる。加齢で必要な睡眠時間は短くなる。
2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法を行う就床4時間前のカフェイン摂取、就床1時間前の喫煙は避ける。音楽や入浴、香り、筋弛緩トレーニングなどを上手に用いる。
3. 眠くなってから床につく眠ろうとする意気込みがかえって寝付き悪くする。床に入ってリラックスする。
4. 同じ時刻に毎日起床早寝早起きではなく、同じ時刻の早起きが睡眠のリズムを作る(例;毎朝6時に起きる)
5. 光の利用で良い睡眠起床後はなるべく早く太陽の光を浴びる。太陽の光は体内時計のリズムをリセットする。家にいると日光曝露が少なくなるため適度に屋外に出る。
6. 規則正しい3度の食事と運動習慣朝食を摂ることが目覚めを促進する。夜食をなるべく避ける。昼間の運動は睡眠を改善するため、規則的に行うのがよい。
7. 昼寝をするなら15時前の20〜30分昼寝は30分未満で、時間帯が遅くなりすぎないように。夕食後の居眠りに注意する。
8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減るので、寝床で過ごす時間をまずは減らす。
9. 睡眠中の激しいいびき、呼吸停止や足のぴくつき、むずむず感は要注意睡眠時無呼吸やむずむず脚症候群に注意し、専門医に紹介する。
10. 十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に相談睡眠中の眠気が交通事故などのリスクを上げることに注意する。日中の眠気が強い場合は専門医の評価が必要である。
11. 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもとアルコールは寝付きは促すが、夜間後半の睡眠が浅くなり、中途覚醒も増えて、睡眠の質を悪化させる。
12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全睡眠薬は適切に用いれば安全である。自己判断での急な減量や中止はしない。特にベンゾジアゼピン系はアルコールとの併用を避ける。
厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費「睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班」平成13年度研究報告書より引用・一部改変

不眠時の指示

基本の指示

  • 患者さんが希望するとき、スボレキサント(ベルソムラ®)1回15mg(1錠)
    • ベルソムラ®はクラリスロマイシン、アゾール系抗真菌薬(フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾールなど)と併用禁忌

若年者で転倒のリスクがほとんどない場合

  • 患者さんが希望するとき、ゾルピデム(マイスリー®)1回5mg(1錠)
    または、エスゾピクロン(ルネスタ®)1回1mg(1錠)
    • 重篤な肝機能障害がある場合マイスリー®は禁忌

内服できない場合

  • ヒドロキシジン(アタラックス®-P)1回25mg+生理食塩水50mL 30分で点滴静注
  • 使用可能であれば,ゾルピデム(マイスリー®)やブロチゾラムなどの OD 錠を唾液で溶かして内服することができる.

※最初から2剤の併用はしない。1剤で効果不十分なときには、薬剤の変更をする。

※睡眠薬は、せん妄を発症しておらず、なおかつせん妄発症リスクが低いと考えられる場合に限って用いる。

※意識障害を呈しうる患者(低Na血症など)では、意識障害が出現したときに、睡眠薬が原因なのか病態悪化によるものなのかの判断が付きづらくなるため、睡眠薬は極力使用しない。

ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

  • 高齢者ではベンゾジアゼピン系睡眠薬は極力避けます。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用があるので起床後のふらつきのリスクがあります。若年者では問題なく使用可能ですが依存のきっかけにならないように、必要時のみの短期間に留めましょう。
  • 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用が少ないため、高齢者でも使いやすいとされています。
  • 以下、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の一覧です。
この画像は睡眠薬の種類を示した表です。ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬などがあります。
医師向け薬剤比較アプリ「イシヤク」の睡眠薬一覧まとめ より引用させていただきました

まとめ

  • 入院中の不眠はQOL低下やせん妄につながるおそれがあり,できるかぎり良好な睡眠を保つことができるように努めることが望ましいです。
  • あくまで対応は非薬物療法が第一選択です。「不眠だから睡眠薬!」と薬物療法を安易に開始しないように注意しましょう。
  • まずは5Pで原因を考え、睡眠阻害因子を除去するように努めましょう。特に不眠の原因がせん妄ではないことをしっかり確認します。
  • そして厚生労働省による睡眠障害対処 12の指針は有用です。全医療従事者は知っておいて損はないと思われます。
  • 睡眠薬を使用する場合は、極力ベンゾジアゼピン系を避け、併用禁忌にも注意しましょう。長期間にわたる連用は避けましょう

参考文献

以下の文献を参考にさせていただき、まとめました。

  • 厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費「睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班」平成13年度研究報告書

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