乳酸アシドーシス

内分泌・代謝内科
  • 動脈血液ガス分析で、乳酸上昇をみたときにしっかり病態を考え、鑑別疾患をあげられるでしょうか。
  • 私自身、なんとなく「循環不全があるのかな・・・・?てんかんでも起こしたのかな・・・?」程度にしか考えていなかった(お恥ずかしい限りです)ので、改めて調べ直しました。

乳酸(Lactate)とはなんなのか

1. そもそも乳酸とは?

乳酸は、体がエネルギーを作り出す過程で生成される代謝産物です。

  • 生成の仕組み: 主に食事から摂った糖分(グルコース)や筋肉に蓄えられたグリコーゲンが分解される「解糖系」という経路で作られます。通常、細胞質でピルビン酸から変換されて生成されます。
  • 毎日の産生量: 健康な人でも、毎日体重1kgあたり約15〜20 mmol(成人でかなりの量)の乳酸が作られています。
  • L体とD体: 人間の体で通常作られ、利用されるのは「L-乳酸(L-lactate)」です。一方、「D-乳酸」はバクテリアなどが作るもので、通常の人体にはわずかしか存在しません。

2. 人体に及ぼす影響と役割

乳酸は単なる「老廃物」ではなく、重要なエネルギー源としての側面と、蓄積した場合の有害な側面の両方を持っています。

良い影響(正常な役割)

  • エネルギー源: 産生された乳酸の70〜80%は、酸化されて二酸化炭素と水になり、その過程でエネルギーとして消費されます。
  • 糖への再生(コリ回路): 残りの15〜20%は、主に肝臓(一部は腎臓)に運ばれ、再びグルコース(ブドウ糖)に作り変えられます。これを「コリ回路」と呼び、脳や筋肉のエネルギー源をリサイクルする重要な役割を担っています。

悪い影響(過剰蓄積時)

  • 乳酸アシドーシス: 乳酸が体液中に蓄積すると、通常であれば血液中の重炭酸イオンによって緩衝されます。しかし、乳酸が増えすぎるとこの緩衝機能が追いつかなくなり、代謝性アシドーシスになります。

なぜ乳酸値が上昇するのか?

乳酸値が上昇する根本的な理由は、体内で乳酸が作られる量(産生)が、処理される量(クリアランス)を上回るためです。

臨床的には、組織の酸素不足があるかどうかで大きく2つに分けられます。

Type A. 酸素の需要と供給のバランスが崩れる場合

1. 全身性の組織低灌流(ショック状態)

最も一般的で重篤な原因です。全身への血液供給が不足することで、組織が酸欠状態になります。

  • 敗血症性ショック 重症感染症により血管拡張や微小循環障害が起こります。組織の酸素不足に加え、炎症による代謝亢進やクリアランス低下も合併するため、非常に高値になることがあります,。
  • 心原性ショック 心筋梗塞や重症心不全により、心臓から十分な血液が送り出せない状態です,。
  • 循環血液量減少性ショック 大量出血や高度の脱水により、体内の血液量が不足している状態です,。
  • 心肺停止 全身の循環が停止するため、急激かつ高度な乳酸アシドーシスを来します,。

2. 酸素供給・運搬の障害

循環血液量は保たれていても、血液中の酸素が不足している、あるいは酸素を運べない状態です。

  • 重度の呼吸不全・低酸素血症 肺でのガス交換障害により、動脈血中の酸素分圧が著しく低下している状態です。
  • 一酸化炭素中毒 一酸化炭素がヘモグロビンと結合し、酸素が組織に運ばれなくなることで高度の組織低酸素を引き起こします。
  • 重度の貧血 酸素の運び手であるヘモグロビンが極端に減少することで、組織への酸素供給が不足します。

3. 酸素需要の極端な増大(相対的低酸素)

酸素供給はあっても、筋肉などの活動により消費量が供給量を圧倒的に上回る状態です。

  • てんかん大発作 全身の激しい筋収縮により、一時的に代謝率が跳ね上がり、乳酸が急増します。
  • 激しい運動 最大強度の運動時には、筋肉での嫌気性代謝が亢進し、病的なレベルまで乳酸が上昇することがあります。
  • 重篤な喘息発作 呼吸筋の激しい運動に加え、治療薬(β刺激薬)の影響も加わることがあります。

4. 局所的な虚血

全身状態は安定していても、特定の臓器への血流が遮断されている状態です。

  • 腸管虚血(腸管壊死) 腸間膜血管の閉塞などにより腸管が壊死すると、急激に乳酸値が上昇します。
  • 四肢の急性動脈閉塞 手足の血管が詰まり、筋肉が壊死する場合などに見られます。

Type B. 酸素は足りているが、代謝プロセスに異常がある場合

Type Bは、組織への酸素供給自体は保たれているものの、細胞内の代謝機能障害や、薬物・毒素の影響によって乳酸が蓄積するタイプです。

1. 薬剤による原因

薬剤がミトコンドリアの機能を阻害したり、解糖系を過剰に刺激したりすることで発生します。

  • ビグアナイド系薬剤(メトホルミン): 特に腎機能が低下している患者において、薬剤が排泄されず蓄積することで発生します。メトホルミンは肝臓での乳酸利用(糖新生)を抑制する作用などがあります。
  • HIV治療薬(NRTI: 核酸系逆転写酵素阻害薬): 抗ウイルス薬(特に古い世代のもの)がミトコンドリアのDNA合成を阻害し、ミトコンドリア毒性を生じることで乳酸アシドーシスを引き起こします。
  • β刺激薬: 喘息治療薬(アルブテロール、サルメテロール)の吸入や、カテコラミン(エピネフリン)の投与により、筋肉での解糖系が過剰に刺激され、ピルビン酸と乳酸の産生が増加します。
  • プロポフォール: 高用量・長期間の投与により「プロポフォール注入症候群(PRIS)」が発生し、ミトコンドリア障害による乳酸アシドーシス、横紋筋融解、心不全などを来すことがあります。
  • リネゾリド: 抗生物質のリネゾリドは、細菌のリボソームだけでなくヒトのミトコンドリアのタンパク合成も阻害する場合があり、乳酸蓄積の原因となります。

2. 基礎疾患・病態による原因

  • 悪性腫瘍: 白血病、リンパ腫、固形癌などで見られます。腫瘍細胞が酸素の有無に関わらず嫌気性代謝を行う(ワールブルグ効果)ことや、肝転移による乳酸クリアランスの低下が原因とされています。
  • 肝機能障害・アルコール: 慢性の重度アルコール中毒では、アルコール代謝に伴い細胞内のNADHが増加し、乳酸産生が促進されます。また、肝機能低下により乳酸の処理能力も落ちています。
  • チアミン(ビタミンB1)欠乏: チアミンはピルビン酸をエネルギーに変える酵素(ピルビン酸脱水素酵素)の補酵素です。これが不足すると(例:ビタミン補充なしの高カロリー輸液施行時など)、好気的代謝が止まり乳酸が蓄積します。
  • 糖尿病: ケトアシドーシス(DKA)に伴って発生することがあるほか、インスリン不足によるピルビン酸脱水素酵素の活性低下が関与する可能性があります。

3. 毒素・その他

  • 有毒アルコール: メタノールやエチレングリコールの中毒により、ミトコンドリア代謝が障害されて乳酸が上昇します。
  • 遺伝性ミトコンドリア病: MELAS症候群など、ミトコンドリアDNAの変異により代謝機能が先天的に低下している場合です。

これらの原因は、ショック(Type A)と合併することもあります(例:敗血症では循環不全とサイトカインによる代謝障害が混在する)

以下はNEJMからの引用です。

Kraut JA, Madias NE. Lactic acidosis. N Engl J Med. 2014 Dec 11;371(24):2309-19.より引用

乳酸アシドーシスの原因で最も多いのは?

乳酸アシドーシスの原因で最も多いのは「Type A 乳酸アシドーシス」であり、特に以下の病態がその大部分を占めるとされています。

  • 敗血症
  • ショック(心原性ショック、循環血液量減少性ショック)
  • 重度の心不全
  • 重度の外傷
  • 心肺停止

乳酸は動脈血で計測すべきか、静脈血で計測すべきか

動脈血での測定が原則です。動脈血が全身状態を反映するのに対して、静脈血は局所の状態に影響される(例えば左上肢から採血すれば左上肢の状態)ためです。

静脈血の乳酸値は動脈血よりも高値になることが知られています(下記のように、クレンチングした場合でしょうか。。。?今回そこまでは調べられませんでした)。

正確な乳酸値を知りたいときや、酸素化の評価(PaO2など)を同時に行いたいときは、動脈血採取をすべきであるとされています。

もし静脈血しか取れない場合、どう解釈したら良いか、ですが、「静脈血で異常がなければ、動脈血でも異常はないだろう」という除外診断には十分使用できる可能性があります。つまり、静脈血の乳酸値が正常範囲内であれば、危険な乳酸アシドーシスは起きていないと判断する材料になります。

静脈血の数値は動脈血より高くなる傾向があるため、その差を考慮に入れる必要がありますが、正確な換算式(補正)は存在しません(pHや重炭酸イオンのように「+0.03」などの補正で推測することは、乳酸値やPCO2に関してはできません)。したがって、静脈血で高値が出た場合は、確定診断や重症度判定のために動脈血での再検査を検討する必要があります。

静脈血において、駆血帯やクレンチング(グーパーすること)は乳酸の値に影響を与えるか

やむを得ず静脈血で乳酸値をみることもあるかと思います。

日頃、静脈血から採血する際に行う手技が、乳酸値に影響を与えているのでしょうか?Jones et al., 2008、Don et al., 1990の論文から以下の情報が得られました。

駆血帯単独では乳酸値への影響はほとんどありませんが、クレンチングを行うと乳酸値は上昇します

1. 駆血帯の影響

影響なし 駆血帯を使用するだけでは、乳酸値は有意に変化しないことが示されています。

エビデンス: 健康なボランティアを対象とした研究(Jones et al., 2008)では、駆血帯を5分間装着した状態で採血を行っても、装着しなかったグループと比較して乳酸値に有意な差は見られませんでした。

別の研究: Donら(1990)の研究でも、駆血帯を単独で使用しただけでは血清乳酸値に変化は見られませんでした。

2. クレンチングの影響

影響あり(上昇する) :採血時に血管を浮き出させるために行われるクレンチングは、乳酸値を上昇させるため避けるべきです。

エビデンス: Donら(1990)の研究によると、駆血帯をした状態で1分間繰り返し拳を握りしめる動作(クレンチング)を行うと、乳酸値は有意に上昇しました(例:0.82 mmol/L から 1.34 mmol/L へ上昇)。

注意点: 興味深いことに、この乳酸値の上昇は、駆血帯を外して拳をリラックスさせた後の「回復期」にも続き、さらに上昇(1.93 mmol/L)することが確認されています。これは筋肉運動によって局所的に産生された乳酸が、血流再開後に全身へ流れ出すためと考えられます。

静脈血で正確な乳酸値を測定するためには以下の点が推奨されます。

1. 駆血帯の使用は問題ない: 静脈血採取のために駆血帯を使用しても、測定値への悪影響はほとんどありません。

2. クレンチングは禁止: 筋肉の代謝により局所的に乳酸が産生され、偽高値となる原因になります。採血中は手をリラックスさせた状態で行う必要があります。

重炭酸ナトリウム投与は有効?

乳酸アシドーシスの治療として、各疾患・病態の治療は当然すべきと思います。では、乳酸アシドーシスに対して重炭酸ナトリウは有効なのでしょうか?

重炭酸ナトリウムの投与は議論の余地があり、ルーチンには推奨されません

現状のエビデンス: 重炭酸の投与が死亡率を改善したり、循環動態を改善したりするという明確な証拠はありません。

リスク: 重炭酸を投与するとCO2が発生し、細胞内にかえって拡散して細胞内アシドーシス(Intracellular acidification)を悪化させるリスクがあります。また、イオン化カルシウムを低下させ心収縮力を弱める可能性もあります。

考慮されるケース

Jaber et al. (Lancet 2018 PMID: 29910040.)によるBICAR-ICU試験では、一部の患者に対しては重炭酸ナトリウムの有効性が示唆されているようです。乳酸アシドーシスを含む重篤な代謝性アシドーシスに対して、ルーチンでの重炭酸ナトリウム投与は推奨されませんが、「pH 7.20以下」かつ「中等度以上の急性腎障害(AKI)」を合併している場合には、死亡率の改善と透析導入の回避を期待して投与を行うことが強く支持されます。

以下、論文の内容を簡単にご紹介します。

1. 全体的な有効性

効果なし 重篤な代謝性アシドーシス(pH 7.20以下、乳酸値上昇などを伴う)のICU患者全体を対象とした場合、重炭酸ナトリウムを投与しても、28日死亡率や臓器不全の発生率に有意な改善は見られませんでした

• これまで懸念されていた「細胞内アシドーシスの悪化」などの致命的な副作用は報告されませんでしたが、生存率を上げる効果は全体としては確認されませんでした。

2. 有効性が確認された特定のグループ(AKI合併例)

有効(死亡率低下・透析回避) 急性腎障害(AKI:AKINスコア2〜3)を合併している患者のサブグループにおいては、重炭酸ナトリウムの投与により明確な臨床的メリットが確認されました。

死亡率の低下: 28日死亡率が有意に低下しました(コントロール群63% vs 重炭酸群46%)。

透析の回避: 腎代替療法(透析)を必要とする割合が有意に減少しました。

3. 具体的な投与方法と副作用

BICAR-ICU試験で行われたプロトコルと確認された副作用は以下の通りです。

対象: pH 7.20以下の重篤なアシドーシス(乳酸値2mmol/L以上 または SOFAスコア4以上)。

目標: 動脈血pHを 7.30以上 に維持することを目標に、4.2%重炭酸ナトリウムを静脈内投与。

副作用: 重炭酸ナトリウム投与群では、代謝性アルカローシス、高ナトリウム血症、低カルシウム血症の発生頻度が高かったものの、これらによる生命を脅かす合併症は報告されませんでした。

参考文献

  • Kraut JA, Madias NE. Lactic acidosis. N Engl J Med. 2014 Dec 11;371(24):2309-19. doi: 10.1056/NEJMra1309483. PMID: 25494270.
  • Jones AE, Leonard MM, Hernandez-Nino J, Kline JA. Determination of the effect of in vitro time, temperature, and tourniquet use on whole blood venous point-of-care lactate concentrations. Acad Emerg Med. 2007 Jul;14(7):587-91. doi: 10.1197/j.aem.2007.03.1351. Epub 2007 May 18. PMID: 17513689.
  • Don BR, Sebastian A, Cheitlin M, Christiansen M, Schambelan M. Pseudohyperkalemia caused by fist clenching during phlebotomy. The New England Journal of Medicine. 1990 May;322(18):1290-1292. DOI: 10.1056/nejm199005033221806. PMID: 2325722.
  • Causes of lactic acidosis – UpToDate(2026/02/07閲覧)
  • Jaber S, Paugam C, Futier E, Lefrant JY, Lasocki S, Lescot T, Pottecher J, Demoule A, Ferrandière M, Asehnoune K, Dellamonica J, Velly L, Abback PS, de Jong A, Brunot V, Belafia F, Roquilly A, Chanques G, Muller L, Constantin JM, Bertet H, Klouche K, Molinari N, Jung B; BICAR-ICU Study Group. Sodium bicarbonate therapy for patients with severe metabolic acidaemia in the intensive care unit (BICAR-ICU): a multicentre, open-label, randomised controlled, phase 3 trial. Lancet. 2018 Jul 7;392(10141):31-40. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31080-8. Epub 2018 Jun 14. Erratum in: Lancet. 2018 Dec 8;392(10163):2440. doi: 10.1016/S0140-6736(18)33040-X. PMID: 29910040.

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