- 「ヘプシジンの影響を避けるため、鉄剤は毎日飲むより1日おき(隔日)の方が吸収効率が良い」
- 最近、このEBMが広まりつつあるようです。若年女性を対象とした研究では確かにその通りなのですが、果たして「高齢者」や「併存疾患のある患者」にもそのまま当てはまるのでしょうか?
- 気になったため調べたところ以下の論文がHitしました。
- (関連記事⇢鉄欠乏性貧血)
論文情報
• タイトル(原題): Optimal Oral Iron Therapy for Iron Deficiency Anemia Among US Veterans (米国退役軍人における鉄欠乏性貧血に対する最適な経口鉄剤療法)
• 出典: JAMA Network Open / 2024

本論文のポイント
• 鉄欠乏性貧血(IDA)の高齢・男性中心のコホートにおいて、1日複数回投与(MDD)が最も速やかなHb改善を示した。
• 近年注目されている隔日投与(ADD)は、毎日投与と比較してHb改善速度に優位差はなく、むしろ数値上は緩やかであった。
• 急速な貧血改善が必要な場合、従来の「毎日投与」や「1日複数回投与」が依然として推奨される選択肢である。
背景
• Clinical Question: 腎機能正常(NKF)および慢性腎臓病(CKD)を有する鉄欠乏性貧血患者において、最適な経口鉄剤の投与スケジュール(毎日 vs 1日複数回 vs 隔日)は何か?
• 鉄代謝調節ホルモンである「ヘプシジン」の理論に基づき、鉄剤の内服直後にヘプシジンが上昇し、続く鉄の吸収を阻害することが示されています。そのため、若年女性を対象とした小規模研究では「隔日投与」の方が吸収効率が良いと報告されてきました。
しかし、高齢者やCKD患者など、併存疾患を持つ集団において、この「隔日投与」が臨床的なアウトカム(Hb値の改善など)にどう影響するかは十分に検証されていませんでした。
研究デザイン・方法
米国退役軍人省(VA)のデータを用いた後ろ向きコホート研究です。
• P (Patient):
◦ 鉄欠乏性貧血(Hb <12 g/dL かつ TSAT <20% または フェリチン <50 ng/mL)を有する退役軍人 71,677名。
◦ 平均年齢 約68歳、男性 88.2%。
◦ 腎機能正常群(NKF)と慢性腎臓病群(CKD:eGFR 15-60)に層別化。
◦ 除外基準:透析、腎移植、静注鉄剤の使用、ESA使用、重度の貧血(Hb <7 g/dL)など。
• I (Intervention/Exposure): 処方された鉄剤の用法に基づき3群に分類。
1. 毎日投与群 (Daily): 1日1回
2. 1日複数回投与群 (MDD): 1日2回以上
3. 隔日投与群 (ADD): 1日おき
• C (Comparison): 毎日投与群 (Daily) を基準として比較。
• O (Outcome):
◦ 主要評価項目:Hb値、フェリチン、TIBC、TSATの経時的変化(線形混合効果モデルを使用)。
◦ 観察期間:処方後30日〜180日。

結果
全71,677名の解析の結果、以下の傾向が明らかになりました。



• Hb値の改善速度(NKF群)(Table2 Figure2):
◦ MDD(複数回/日)群は、毎日投与群と比較して有意に速いHb上昇を示しました(30日あたりの差:0.08 g/dL, P < .001)。
◦ ADD(隔日)群は、毎日投与群と統計的な差はありませんでしたが、傾きはフラット〜やや緩徐でした(30日あたりの差:-0.01 g/dL, P = .38)。
• 90日時点でのHb上昇量(調整後平均値 Table3)
◦ MDD群: +1.38 g/dL (95% CI, 1.36-1.40)
◦ Daily群: +1.03 g/dL (95% CI, 1.01-1.06)
◦ ADD群: +0.93 g/dL (95% CI, 0.84-1.02)
◦ MDD群が最も大きく改善し、ADD群は最も小さい改善幅でした。
• CKD群における結果:
◦ NKF群と同様の傾向(MDD > Daily > ADD)を示しましたが、改善の規模(magnitude)は全体的に小さくなりました。
考察
• 結果の解釈: 本研究は、若年女性を対象とした先行研究(隔日投与優位説)とは異なる結果を示しました。著者は、対象者が「高齢・男性・多疾患併存」である点を理由に挙げています。
• メカニズム: 高齢や慢性炎症を持つ患者では、ベースラインのヘプシジン値が既に高い可能性があり、若年健常者のような「鉄剤投与による急性のヘプシジン動態」が当てはまらない、あるいは用量依存的な効果(総投与量の多さ)が吸収効率の低下を上回った可能性があります。
• 結論: 急速な改善を望むのであれば、標準的な「1日2〜3回投与」が有効であることが示唆されました。
Limitation
• 観察研究の限界: 後ろ向き研究であるため、処方パターンにバイアス(医師の裁量)が含まれます。交絡因子の調整は行われていますが、未測定の交絡が存在する可能性があります。
• 副作用データの欠如: 消化器症状などの副作用や、実際の服薬アドヒアランス(本当に飲めていたか)に関するデータがありません。MDD群で脱落が多かった可能性などは否定できません。
• 外的妥当性: 対象の約88%が男性であり、平均年齢も高いため、閉経前女性や妊婦にこの結果をそのまま適応できるかは不明です。
実臨床で適応するにあたっての注意点
• 「隔日投与」の一律適用に注意: 最近のEBMの風潮として「鉄剤は隔日で十分(むしろ良い)」という説が広まっていますが、高齢男性や併存疾患のある患者においては、単純に「投与総量」が効いてくる可能性があります。
• 使い分け:
◦ 急いで貧血を改善したい場合(手術前、有症状など): 本論文の結果に基づき、**連日投与(または1日複数回)**を検討すべきです。
◦ 消化器症状が懸念される場合: 副作用で飲めなくなっては本末転倒です。時間はかかっても良いならば、副作用軽減を期待して隔日投与を選択するのは、患者の好み(preference)として依然妥当な選択肢です。
管理人の感想
隔日投与の推奨は、非常に生理学的で納得感のある理論でしたが、「高齢・併存疾患あり」の患者層では必ずしもHb上昇速度に直結しない可能性を示しました。
個人的には、「若年女性(月経性貧血)=隔日投与でも良いかも」「高齢者・慢性疾患=総量がモノを言うかも」というように、患者背景によって戦略を使い分ける必要性を感じさせる論文でした。
ただし、本研究の最大の弱点は「副作用でドロップアウトした人」が見えない点です。1日3回飲んで嘔気などの副作用がでるよりは、隔日で長く続ける方が結果的に良いケースも多々あります。速さを求めるなら連日、忍容性を求めるなら隔日、という基本に立ち返るのが良さそうです。



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