CO2ナルコーシス防止のための適正SpO2は?

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CO2ナルコーシスとは

CO2ナルコーシスのメカニズム

この現象の核心は、呼吸調節の主役が「CO2刺激」から「低酸素刺激」へと交代している点にあります。

中枢化学受容器の鈍化: COPDなどの疾患により長期間の呼吸努力や高CO2状態が続くと、二酸化炭素分圧の上昇に反応する中枢化学受容器の感度が低下します。

低酸素駆動(Hypoxic Drive)への依存: 中枢の反応が鈍った状態では、末梢化学受容器が感知する「低酸素状態」が呼吸を促す唯一の強い刺激となります。

酸素投与による刺激の消失: ここに高流量・高濃度の酸素を投与すると、低酸素状態が急速に改善されます。すると脳は「呼吸をする必要がない」と判断し、換気抑制が起こります。

生理学的増悪要因: 換気抑制に加え、以下の生理学的変化がCO2蓄積を加速させます。

    ◦ ホールデン効果: 酸素がヘモグロビンと結合することで、二酸化炭素が血液中に放出されPaCO2が上昇する。

    ◦ V/Q不均等の増大: 低酸素性肺血管収縮が解除され、死腔に近い部位の血流が増えることでガス交換効率が低下する。

    ◦ 吸収性無気肺: 高濃度酸素により肺胞が虚脱しやすくなる。

これらの結果、重度の高二酸化炭素血症とアシドーシスが進行し、意識障害に至ります。

高二酸化炭素血症を来しうる疾患

以下の疾患を有する患者は、酸素投与において特に注意が必要なターゲット群です。

COPD(慢性閉塞性肺疾患): 最も代表的なリスク群です。

肥満関連疾患: 病的肥満、肥満低換気症候群

胸郭・神経筋疾患: 重度の脊柱側弯症などの胸郭変形、神経筋疾患

慢性肺疾患: 気管支拡張症、嚢胞性線維症。

診断が確定していない場合でも、COPDが疑われる急性増悪時には、慎重に88–92%を目標とした滴定投与を行うべきです。

CO2ナルコーシス防止のための適正SpO2

CO2ナルコーシスのリスク患者における推奨されるSpO2の目標範囲は以下の通りです。

推奨目標範囲: SpO2 88–92%

投与開始基準: SpO2が88%未満となった場合に酸素投与を開始し、この範囲内に収まるよう流量を調整(滴定)します。

デバイスの選択: 流量調整が容易な鼻カニュラが第一選択です。簡易マスクやベンチュリーマスクは、鼻カニュラに比べて目標範囲を逸脱(過剰投与または過小投与)するリスクが高いことが示されています。

SpO2 88–92%に設定する理由

なぜ「90%前後」という一見低めの数値がベストなのでしょうか。

死亡率の有意な低下: COPD急性増悪患者に対し、高濃度酸素よりも88–92%を目標とした滴定投与を行った方が、死亡率が2倍以上減少したというランダム化比較試験の結果があります。

「低すぎ(<88%)」のリスク回避: 88%を下回ると組織障害や即座の死亡を招く深刻な低酸素血症(PaO2 < 50-60 mmHg)に陥るリスクが高まるため、ここを下限とします。

「高すぎ(>92%)」による病態の見落とし防止: 酸素を過剰に与えてSpO2を高く維持すると、肺機能が深刻に悪化(換気量が半分以下に低下)していてもSpO2が下がりにくくなります。これにより臨床的な悪化の発見が遅れるリスクが生じます

参考文献

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