難治性顎骨壊死の重症化における耐性菌の関与:細菌学的リスク因子の解析〜楠本ら2025〜

MRONJ 医師が知っておきたい歯科のこと
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  • MRONJに関して個人的に興味深い論文をみつけたのでご紹介します(MRONJのポジションペーパー2023年に関する記事も過去に記載しました)。
  • 「Kusumoto J, Muraki Y, Iwata E, Matsumura M, Furudoi S, Akashi M. Involvement of resistant bacteria in the severity of refractory osteonecrosis of the jaw. Clin Oral Investig. 2025 Sep 16;29(10):454. doi: 10.1007/s00784-025-06547-3. PMID: 40956356; PMCID: PMC12441049.」です。
  • Kusumotoらによって、アンピシリン耐性菌やグラム陰性桿菌(エンテロバクター属など)の存在が顎骨壊死の重症化に強く関与していることが示されました。
  • 以下、論文の詳細です(今回はORNではなくMRONJについてメインに取り上げます)。

1. MRONJの一般的知識

MRONJは、骨吸収抑制薬(ARA)や血管新生阻害薬などの薬剤使用歴がある患者に生じる顎骨の壊死のことです。

診断基準: 顎顔面領域において、口腔内または口腔外の瘻孔から骨が露出した状態が8週間以上持続し、かつ当該部位への放射線治療歴がないことなどが条件となります。

病態: 破骨細胞の抑制による骨リモデリングの阻害が主な原因と考えられていますが、詳細なメカニズムは完全には解明されていません。

治療: 抗菌薬による保存的治療には抵抗性を示すことが多く、しばしば外科的治療を要することがあります。

2. この論文の注目点

本研究の最大の注目点は、「細菌の種類(特に耐性菌)と顎骨壊死の重症度との関連」を分析した初めての研究であるという点です。

特定の菌の特定: 重症例(MRONJでいうとステージIII)にのみ、Enterobacter spp.(エンテロバクター属)というグラム陰性桿菌が検出されることを明らかにしました。

薬剤耐性の影響: アンピシリン(ABPC)耐性菌の存在が、重症化に強く関与していることを統計的に示しました。

3. 研究デザイン

タイプ: 後ろ向き研究(Retrospective case-control study)

対象: 2016年から2023年の間に神戸大学医学部附属病院で顎骨壊死(ORNまたはMRONJ)の手術を受けた患者77名(ORN 22名、MRONJ 55名)(Fig.1)。

患者対象

手法: 手術中に壊死骨や膿などの深部組織から検体を採取し、細菌培養および薬剤感受性試験を実施しました。重症度はAAOMS分類(MRONJ)およびLyon分類(ORN)に基づいて定義されました。

4. 結果

研究の結果、顎骨壊死における細菌学的特徴と重症化要因が以下のように判明しました。

細菌構成: 全体で311株の細菌が検出されました。最も多いのは**連鎖球菌属 (Streptococcus spp.) (37.0%)で、次いで偏性嫌気性菌 (33.8%)でした。これは一般的な歯性感染症と似ていますが、グラム陰性桿菌(GNR)の割合が高い(10.3%)ことが特徴です。

重症化と細菌:

    ◦ Enterobacter spp. は、ORNのステージIVおよびMRONJのステージIIIといった重症例からのみ検出されました(Table 2)。

    ◦ GNRが検出された症例は、診断から手術までの期間が有意に長く、抗菌薬の使用期間も長い傾向にありました。

薬剤耐性: 患者の78.4%から耐性菌が検出され、特に60.8%がABPC耐性を持っていました(Table 3)。

多変量解析による重症化リスク因子:

    ◦ ABPC耐性菌の存在: 重症化リスクを約8.74倍高めます(Table 5)。

    ◦ 悪性腫瘍に対する薬剤使用: 骨粗鬆症に比べ、重症化リスクが約13.5倍に跳ね上がります。

顎骨壊死の重症度に影響を与える要因に関する
多変量ロジスティック回帰分析

5. Limitationや論文の解釈についての注意点

著者らは、本研究の結果を解釈する上でのLimitationをいくつか挙げています。

後ろ向き研究の限界: 過去の記録に基づいているため、データの収集過程でバイアスが生じている可能性があります。

標本汚染の可能性: 口腔内常在菌による汚染のリスクを完全には排除できません。検出された菌が「真の起因菌」か否かは慎重な判断が必要です。

選択バイアスのリスク: 感受性試験は全症例で行われたわけではなく、耐性菌が疑われる症例で優先的に行われた可能性があります。

対象の偏り: 本研究は手術を受けた患者のみを対象としており、手術を必要としない軽症例に同じ結果が当てはまるかは不明です。

統計的精度: 重症化要因(Table 5)のオッズ比における95%信頼区間の幅が非常に広いため、数値の解釈には注意が必要です

参考文献

  • Kusumoto J, Muraki Y, Iwata E, Matsumura M, Furudoi S, Akashi M. Involvement of resistant bacteria in the severity of refractory osteonecrosis of the jaw. Clin Oral Investig. 2025 Sep 16;29(10):454. doi: 10.1007/s00784-025-06547-3. PMID: 40956356; PMCID: PMC12441049.

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