血液培養は単一部位採取で良い?

内科

血液培養といえば「2セット別部位から(Multi-site sampling: MSS)」が長年のゴールドスタンダードですが、今回の論文は「1回の穿刺で大量に採取する(単一部位採取:Single-site sampling: SSS)」方法について検討しています。

1. 論文情報

Vashti A, Mullan J, Nitzberg M. Single-site sampling strategy versus multisite sampling strategy in blood culture collection within the hospital setting: A systematic review. Am J Infect Control. 2025 Oct;53(10):1113-1120. doi: 10.1016/j.ajic.2025.07.010. Epub 2025 Jul 30. PMID: 40749750.

出典: American Journal of Infection Control / 2025

2. 本論文のポイント

・ 血液培養において、1回の穿刺で大量(4-6本)に採取する単一部位採取(SSS)は、従来の複数部位採取(MSS)と比較して、菌血症の検出率において非劣性である可能性が高いです。

SSSは、MSSと比較してコンタミネーション率を有意に低下させることが示されています。

・SSSは患者の苦痛、臨床医の作業時間、および医療資源を削減し、スタッフのガイドライン遵守率を向上させるメリットがあります。

3. 背景

世界的なガイドラインでは、菌血症の診断において、血液量確保と汚染菌の判別のため、複数部位からの採取(MSS)が推奨されています。しかし、実際の臨床現場ではMSSの遵守率は低く、推奨される2-3セットではなく1セットしか採取されないケースが多々あります。

また、穿刺回数が増えることは患者の苦痛や医療者の針刺し事故のリスク、そしてコンタミネーションの機会を増やすことにつながります。

そこで、「1回の穿刺で十分な血液量(4〜6本分)を採取するSSS」が、MSSの代替となり得るか、その有効性と安全性を比較検討しました。

4. 研究デザイン・方法

・ P (Patient): 病院の急性期ケア設定における18歳以上の成人患者。

・ I (Intervention/Exposure): 単一部位採取(SSS)。1回の静脈穿刺で2-3セット(4-6本)の血液培養ボトルに血液を採取する方法。

・ C (Comparison): 複数部位採取(MSS)。従来のガイドライン通り、複数の穿刺部位から血液培養を採取する方法。

・ O (Outcome): 菌血症の検出率、コンタミネーション率、採取された血液量。

研究デザインの種類と内訳: データベース検索の結果、最終的に7つの研究(参加者総数18,901人、血液培養サンプル数24,955件)が統合されましたが、ランダム化比較試験(RCT)は1件も含まれていません。

• 各研究デザインの内訳は以下の通りです:

    ◦ 前向き単施設研究(Prospective single-center studies):3件

    ◦ 前向き多施設研究(Prospective multicenter study):1件

    ◦ 介入前後比較研究(Interventional pre-post study):1件

    ◦ プロトコル変更前後の後向き臨床研究(Retrospective clinical study with before-after):1件

    ◦ 後向きサンプル分析(Retrospective sample analysis):1件

Fig. 1: システマティックレビューのプロセスを示した概略図

Fig. 2: データベース検索に使用された主要な検索語句と条件

Fig. 3: 論文のスクリーニングと選択過程を示したPRISMAフローチャート

5. 結果

検索の結果、7つの研究(合計18,901人の参加者、24,955の血液培養サンプル)が解析対象となりました。

菌血症の検出率: 7件中5件の研究において、SSSによる血液量の増加が病原体検出率を向上させることが強調されました。例えば、Dargèreらの研究では、SSSは97.4%の患者で病原体を検出したのに対し、MSSでは95.5%でした。Yuらの非劣性試験では、SSS(29.1%)はMSS(29.5%)に対し非劣性であることが示されました。

コンタミネーション率: SSSはMSSと比較してコンタミネーション率が低い傾向にありました。Norlenらの研究では、SSS群で3.6%、MSS群で5.6%でした。Mahieuらの研究では、SSS導入によりコンタミネーションが73.4%減少しました。これは穿刺回数が減ることに起因すると考えられます。

血液量と遵守率: Ekwall-Larsonらの研究では、MSSからSSSへのプロトコル変更により、陽性率が17.76%から19.56%へ増加しました。これはMSSでは1セットしか採取されない例が多かったのに対し、SSSでは適切な血液量が確保されやすかったためです。

Table 1.含まれた7つの研究のタイトル、デザイン、対象人数、血液量、結果の概要一覧

6. 考察

  • 著者は、SSSがMSSと比較して菌血症検出において「少なくとも同等、あるいは優れている」と結論付けています。その主な理由は「総血液採取量の確保」にあります。病原体検出において最も重要な変数は培養される血液の総量であり、SSSは1回の穿刺で40-60mLを採取することでこれを達成しやすくします。
  • また、コンタミネーションに関しては、穿刺そのものが汚染のリスクであるため、穿刺回数を減らすSSSが有利に働きます。特に最初のボトルに汚染が集中するため、穿刺回数が増えるMSSでは汚染リスクが累積します。

7. Limitation

  • 本システマティックレビューにはいくつかのLimitationがあります。
  • 含まれた研究数が7件と少なく、ランダム化比較試験が含まれていません。
  • 研究デザインの不均一性が大きく、メタアナリシスは実施できませんでした。
  • 多くの研究が単一施設での実施であり、外的妥当性に課題が残ります。
  • 感染性心内膜炎や間欠的な菌血症など、特定の病態に対するSSSの有効性は具体的に評価されていません。

8. 実臨床で適応するにあたっての注意点(私見です)

  • 最も重要なのは「血液量」です。
  • SSSを行う場合は、必ず40mL以上(4本以上)の血液を確保する必要があります。単に1回穿刺で2本だけ採取するという意味ではないことに注意が必要です。 敗血症など迅速な対応が必要な患者において、SSSは時間短縮と患者負担軽減の観点から有用な選択肢となり得ます。
  • ただし、現行の多くのガイドラインは依然としてMSSを推奨しています。感染性心内膜炎が疑われる場合など、時間的・空間的に培養を分けることが診断に寄与する可能性があるケースでは、さらなるエビデンスが出るまでは慎重に判断すべきかもしれません。
  • 救急外来や血管確保が困難な高齢者において、別部位から計2回穿刺を行うことはハードルが高く、結果として1セットのみの提出に終わる(不十分な検査となる)ケースは散見されます。
  • 「確実に40mL採取できるなら1回穿刺でも良い」というデータが、今後のエビデンスになれば現場としては嬉しいです。

9. 自問自答

この論文の内容を批判的に吟味するため、以下の3つの質問と回答を作成しました。

Q1. この研究結果をもって、感染性心内膜炎の疑いがある患者でも1回穿刺(SSS)で済ませて良いと言えるか?

A1. 言えません。本レビューではIEや間欠的菌血症に特化した評価は行われていません。IEの診断においては、持続的な菌血症を証明するために時間や部位を変えて採取することが診断的価値を持つ場合があります。著者は、さらなるエビデンスが得られるまでは、IE疑いに対してはMSSが好ましい方法であり続ける可能性があると述べています。


Q2. なぜボトル数を増やす(4-6本)SSSの方が、通常のMSSよりもコンタミネーションが減るのですか?本数が増えれば汚染リスクも増えませんか?

A2. コンタミネーションの主な原因は「皮膚の常在菌」の混入であり、これは穿刺の瞬間に最もリスクが高まります。研究によると、穿刺直後に最初に充填されるボトルに汚染菌が混入する率が最も高いことが分かっています。MSSでは穿刺を2回行うため、この「最初のボトル」のリスクを2回踏むことになります。一方SSSでは穿刺が1回で済むため、2本目以降のボトルへの汚染リスクは劇的に低下します。


Q3. エビデンスレベルとして、明日の診療からガイドラインを無視してSSSに切り替えるほど強力ですか?

A3. 現時点ではそこまで強力とは言えません。含まれている研究は観察研究や前後比較研究が主であり、バイアスのリスクが排除できないためです。RCTが存在しないことが最大の弱点です。しかし、SSSがMSSに対して「非劣性」である可能性は高く、コンタミネーション減少や患者負担軽減のメリットは明白です。施設ごとのプロトコル変更の検討材料としては十分ですが、個人の判断で推奨を完全に無視するべきではありません。

参考文献

  • Vashti A, Mullan J, Nitzberg M. Single-site sampling strategy versus multisite sampling strategy in blood culture collection within the hospital setting: A systematic review. Am J Infect Control. 2025 Oct;53(10):1113-1120. doi: 10.1016/j.ajic.2025.07.010. Epub 2025 Jul 30. PMID: 40749750.

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