救急外来や高齢者の多い病院ではよく出くわすのではないでしょうか?私自身、歯科口腔外科医として総合病院で勤務していた際、歯のトラブル以外に「顎関節脱臼」でしばしばcallされました。
よく医師や初期研修医の先生方に「整復のコツってなんですか」と聞かれましたが、感覚的なものも大きく言語化が難しくうまくお伝えすることができていませんでした。
せっかくこのブログで、「医師に伝えたい歯科のこと」を発信しているので、思い切ってまとめてみました(これまでの経験を書いているのでエビデンスは乏しいかもしれません)。
顎関節脱臼とは
通常、口を開けるとき下顎頭は前方に移動しますが、顎関節脱臼では、この下顎頭が「関節結節」という骨の隆起を乗り越えてさらに前方へ移動し、ロックされてしまった状態です。
多くの場合、口を極端に大きく開ける動作がきっかけとなります。
• あくび、食事、笑う、歌う、嘔吐(以前、激しい咳⇢おえっとなる⇢顎関節脱臼という患者さんがおられました)、歯科治療などが多いです。その他に、気管挿管後に脱臼したまま戻らなくなった方もおられました。ただ、こういったケースでは筋弛緩や鎮静薬が入っていることが多いので、整復は容易です。
顎関節脱臼の整復のコツ
まずは安心させる
まずは患者さんを安心させることがとても大事です。「なんだ、そんなこと」と思われるかもしれませんが、結構大事です。初めて顎が外れたとき、患者さんの心理としては「このまま戻らないんじゃないか。息も苦しい気がするし、ご飯がたべられない!どうしよう!」とかなり焦ります。中には過換気になってこられた方もいました。過緊張になっていると指示も通らないですし、顔面の力が入り、余計整復しづらくなります。
私は以下のようにまず説明しています。
「大変でしたね。顎が外れておりますが、必ず元に戻ります。息も問題なくできますし、命に関わるものではありません。」
と端的に伝えるようにしています。
準備
これも大事です。整復になれていないうちは、座位にしましょう。可能であれば回転しない椅子に座らせてください。回転するとうまく力が伝わらないことがあるためです。もし、姿勢が安定しない場合は、スタッフに患者の頭を後ろから支えてもらいましょう。
術者の親指に巻くガーゼを準備しましょう。患者の下顎大臼歯(下の奥歯)に、術者の親指を置くので噛まれる可能性があります。必ず巻いてください。下の奥歯に歯がない場合、歯肉に親指を置くことになりますが、滑り防止にもなります。もちろん滅菌ガーゼでなくて良いです。
流涎がひどい場合、吸引してあげると良いです。たまに自身の唾液でむせる方もいます。
いざ整復
ポジション
- 患者の後ろから整復する方法もありますが、前に立つ方法(ヒポクラテス法)がおすすめです。患者の表情や口腔内が見えやすく、顎が入った瞬間がわかりやすいからです。
- 術者の親指以外の指で、患者の顎を包み込むように把持することが超大事です。

力のかけ方と指示の仕方「強制アイーン」
「ゆっくり、私の指を噛んでみてください」
これがポイントです。「楽にしていてください」ではなく、あえて噛ませてください。
そして同時に、患者の下奥歯を下側に押し、把持している顎を上に持ち上げてみてください。「アイーン」を無理やりさせるイメージです。下のイメージがわかりやすいです。
強い力は不要です。方向が正しければ力はいりません。むしろ無理やりやるとかなり痛いです。どうしても入らない場合は、ミダゾラムを使用しても良いです。しかし呼吸抑制に注意が必要です。

顎が入ると「カコッ」とか「クッ」という感覚があります(だいぶ抽象的ですみません)。
整復できたら、かみ合わせがづれた感じがないか、顎関節部(耳孔の前)に強い圧痛や自発痛がないか確認します。
患者指導
日常生活での主な注意点
• 口を大きく開けない
これにつきます。整復後 3週間 は、口を極端に大きく開ける動作(あくび、笑う、歌うなど)を避けるよう指導してます。あくびをする際は、下顎を手で支えて大きく開きすぎないように言います。
食事は1週間程度は柔らかめの物を小分けにして食べてもらうようにしてます。顎関節の痛みが強い場合は、カロナールを処方しますが、そこまで痛む方は経験したことがないです。
顎包帯の巻き方
過去に脱臼を繰り返している場合(特に認知機能低下があり意思疎通が難しい患者)、整復直後に包帯を使用することもあります。
習慣性顎関節脱臼は口腔外科の受診を勧めていただきたいですが、どうしてもすぐに受診が難しい場合には試してみても良いと思います。
ソフラ®あごバンデージII
院内で採用されている場合や院内のコンビニで販売されている場合はこれを使うのが良いです。褥瘡も出来づら印象です。装着期間は悩ましいです。歯科口腔外科受診までのつなぎと考えて良いと思います。あまり長時間つけすぎると皮膚トラブルの元になるので、適宜外しましょう。

弾性包帯で巻く
弾性包帯などを用いて、頭のてっぺん(頭頂部)下顎をぐるりと包み込むように固定します。以下の2つの力を意識すると良いです。
1. 閉じる力: 顎の下から頭のてっぺんへ(口を閉じさせる方向)。
2. 後ろへ引く力: オトガイ部から後頭部へ(顎が前に外れるのを防ぐ方向)。
これらを交互に走行させて、顎が「開く」「前に出る」のを防ぎます。下のようなイメージです。

ソフラ®あごバンデージIIとは違い、皮膚トラブルが多い印象です。また間違っても首が締まらないようにしましょう。


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