肺炎のCTRX、なんとなく「2g」にしていませんか? 1g vs 2gの効果とリスクを再考する

内科
肺炎のCTRX、なんとなく「2g」にしていませんか?

セフトリアキソン(CTRX)の投与量について、1日1gか2gかで迷った経験はありませんか? 今回は、日本のDPCデータを用いた大規模な研究から、肺炎に対するCTRXの最適投与量に関する最新のエビデンスをご紹介します。

1. 論文情報

タイトル

Outcomes of ceftriaxone 2 g versus 1 g daily in hospitalized patients with pneumonia: a nationwide retrospective cohort study

出典

J Antimicrob Chemother 2025; 80: 2194–2202

2. 本論文のポイント

• 日本のDPCデータベースを用いた大規模研究において、肺炎入院患者全体ではセフトリアキソン(CTRX)2g/日群と1g/日群で30日院内死亡率に有意差は認められませんでした。

• しかし、人工呼吸器管理を要する重症肺炎患者のサブグループ解析では、2g/日群の方が死亡率が有意に低い(リスク差 -3.2%)という結果でした。

• 有害事象については、2g/日群で全体的な有害事象およびクロストリジオイディス・ディフィシル感染症(CDI)の発生率がわずかに高い結果となりました。⇢CDIのについての記事はこちら

3. 背景

• 市中肺炎の入院治療において、セフトリアキソン(CTRX)は頻用される抗菌薬の一つです。国際的なガイドライン(ATS/IDSAなど)では1日1gから2gの投与が推奨されていますが、最適な用量設定についての明確なコンセンサスはありませんでした。

• 過去の研究では、1gと2gで有効性は同等とする報告がある一方で、重症例では高用量が推奨されるという意見もあり、知見が一定していませんでした。

• また、用量の違いが胆道系合併症やCDIなどの有害事象に与える影響については、これまで十分に検討されていませんでした。

・本研究は日本の大規模データを用いてこれらの課題を検証したものです。

4. 研究デザイン・方法

日本のDPCデータベースから約47万人の肺炎患者を抽出し、除外基準(多剤併用や早期死亡など)を適用して1g群と2g群に分類した研究フローチャー
セフトリアキソン1g群と2g群における、傾向スコア重み付け調整前後の患者背景(年齢、重症度、併存症など)のバランス比較表

P (Patient): 2010年7月から2022年3月の間に日本のDPCデータベースに登録された、肺炎(誤嚥性肺炎を含む)で入院し、入院2日以内にCTRXを投与された15歳以上の患者(Figure 1)。

    ◦ 重要な除外基準:マクロライド・テトラサイクリン以外の抗菌薬併用、抗真菌薬・抗ウイルス薬の使用、入院2日以内の死亡・退院、膿胸・肺化膿症、胸腔ドレナージ施行例など。

I (Intervention/Exposure): CTRX 2g/日を投与された群(入院2日以内)。

C (Comparison): CTRX 1g/日を投与された群(入院2日以内)。

O (Outcome):

    ◦ 主要評価項目:30日院内死亡率

    ◦ 副次評価項目:全有害事象(胆道系感染症、CDI、アレルギー反応の複合)、および各有害事象の発生率。

研究デザイン: レトロスペクティブ・コホート研究(傾向スコアを用いたOverlap Weighting法による解析)。

5. 結果

• 解析対象となった471,694人のうち、63.3%が2g/日群、36.7%が1g/日群でした(Figure 1)。

主要評価項目(30日院内死亡率):

    ◦ 傾向スコア調整後、両群間に有意差は認められませんでした(Table 2)。

    ◦ 2g群 4.5% vs 1g群 4.6%(リスク差 [RD] -0.1%、95%信頼区間 [CI] -0.3% to 0.1%、P = 0.219)。

サブグループ解析(人工呼吸器管理患者):

    ◦ 人工呼吸器管理を要した患者においては、2g群で死亡率が有意に低下しました(Figure 2)。

    ◦ 2g群 17.2% vs 1g群 20.4%(RD -3.2%、95%CI -5.6% to -0.9%、P = 0.006)。

    ◦ これを基に計算すると、治療必要数(NNT)は約31となります。

副次評価項目(有害事象):

    ◦ 全有害事象は2g群で有意に多い結果でした(Table 2)。

        ▪ 2g群 1.9% vs 1g群 1.8%(RD 0.1%、P = 0.007)。

    ◦ 特にCDIにおいて有意差が見られました(Table 2)。

        ▪ 2g群 1.2% vs 1g群 1.1%(RD 0.1%、P = 0.014)。

    ◦ 寝たきりの患者(Barthel Index 0)では、2g群でCDI発生率がより高い傾向(RD 0.4%)が示されました(本文およびFigure 2のinteraction P値参照)。

6. 考察

• 全体として死亡率に差がなかったことから、通常の肺炎治療においては1g/日を超える用量は必ずしも必要ないと考えられます。健康成人におけるPKデータでも、1g投与で主要な呼吸器病原菌(肺炎球菌など)に対して十分な濃度が得られるとされています。

• 一方、人工呼吸器管理を要する重症患者で2g/日が有効であった理由は、重症患者における薬物動態の変化(クリアランスの亢進や分布容積の増加)により、1gでは十分な血中濃度が得られない可能性があるためと推察されます。

• 安全性に関しては、わずか1gの増量であってもCDIのリスクを高める可能性が示唆されました。特に医療関連感染のリスクが高い寝たきり患者などでは、ベースラインのリスクに加え、用量の影響が出やすいと考えられます。

7. Limitation

• レトロスペクティブなデータベース研究であり、詳細な臨床情報(バイタルサイン、検査データ、画像所見、微生物学的データ)が欠如しており、原因菌や薬剤感受性は不明です。

• 傾向スコアで調整していますが、医師が重症度に応じて用量を選択したことによる「適応による交絡」が残存している可能性があります。

• CDIの定義において、日本ではトキシン検査が広く行われていないケースがあるため、抗菌薬処方歴などで代用しており、診断バイアスの可能性があります。

2g投与が「1回2g」か「1回1gを1日2回」かの区別がつきません。

• 日本のデータであるため、肺炎球菌のペニシリン耐性率が高い国や、体格が大きく異なる集団への外的妥当性には限界がある可能性があります。

8. 実臨床で適応するにあたっての注意点

• 日本の医療環境において、軽症から中等症の肺炎に対してはCTRX 1g/日の投与で十分である可能性が高く、漫然とした2g投与はCDIリスクを高めるため避けるべきであると示唆されます。特に寝たきりの高齢者などでは注意が必要です。

• 一方で、人工呼吸器管理を要するような重症肺炎(敗血症性ショックなどを含む)に対しては、2g/日(あるいはそれに見合う十分量)の投与を積極的に検討すべきです。

• 患者の重症度(人工呼吸器の有無など)とリスク(CDIリスクなど)を天秤にかけ、画一的な投与量ではなく、病態に応じた用量選択を行うことが推奨されます。

9. 管理人の感想

「肺炎にはとりあえずロセフィン(CTRX)2g」という慣習は救急外来や病棟でよく見かけますが、本研究はその慣習を見直すための強力なエビデンスになります。 全体で見れば死亡率に差がなく、むしろCDIがわずかに増える(RD 0.1%)という結果は、抗菌薬適正使用の観点から重要と感じます。

「たかが1g」の差ですが、数万件規模の母数で考えると無視できない有害事象数になります。 一方で、人工呼吸器装着患者における「NNT 31」という数字はインパクトがあります。重症患者におけるPK/PDを意識し、「攻める時はしっかり2g、守る時は1g」というメリハリのある使い分けが、患者さんの予後改善と副作用低減の両立に繋がると感じました。

Q&A

Q1. 入院肺炎患者全体において、セフトリアキソン(CTRX)2g/日投与は1g/日投与と比較して、生存率を改善しますか?

A1. 全体的な生存率に有意差はありませんでした。 日本のDPCデータベースを用いた471,694人の患者を対象とした解析(傾向スコアを用いたOverlap Weighting法)において、30日院内死亡率は2g/日群で4.5%、1g/日群で4.6%であり、統計学的な有意差は認められませんでした(リスク差 -0.1%、P = 0.219)。したがって、通常の肺炎治療において1g/日を超える用量は必ずしも必要ない可能性が示唆されています。

Q2. では、CTRX 2g/日の投与が推奨されるのはどのような患者ですか?

A2. 人工呼吸器管理を要する重症肺炎患者です。 サブグループ解析の結果、人工呼吸器を装着した患者においては、2g/日群の方が30日院内死亡率が有意に低いという結果が得られました(17.2% vs 20.4%、リスク差 -3.2%、P = 0.006)。 重症患者では、正常な腎機能であっても薬物のクリアランスが亢進していたり、分布容積が増加していたりするため、1g/日では十分な血中濃度が得られない可能性があり、2g/日の投与が臨床的な利益をもたらすと考えられます。

Q3. CTRXの用量を2g/日に増やすことで懸念される有害事象はありますか?

A3. 特にクロストリジオイディス・ディフィシル感染症(CDI)のリスクがわずかに上昇します。 全有害事象(胆道系感染症、CDI、アレルギー反応の複合)の発生率は、2g/日群で1.9%、1g/日群で1.8%とわずかながら有意に高い結果でした(リスク差 0.1%、P = 0.007)。特にCDIに関しては、2g/日群で有意な増加(1.2% vs 1.1%、P = 0.014)が認められました。

Q4. 寝たきりの患者(Barthel Index 0)に対して2g/日を投与する場合、特に注意すべき点はありますか?

A4. CDIのリスクがより高まる可能性があります。 寝たきりの患者(Barthel Index 0)のサブグループ解析では、2g/日群においてCDIの発生率が有意に高い傾向(リスク差 0.4%、P = 0.006)が示されました。身体的依存度が高く、医療関連感染のリスクが高い患者では、ベースラインのCDIリスクが高いため、わずか1gの用量の違いでも発症率に影響を与える可能性があります。

Q5. この研究結果を解釈する上で、どのような限界点(Limitation)に注意すべきですか?

A5. 日本の疫学データに基づいている点や、原因菌が不明である点です。 本研究は日本のデータを用いており、日本では肺炎球菌のペニシリン耐性率が比較的低く(<5%)、欧米に比べて患者の体格が小さい傾向があります。そのため、耐性菌が多い地域や、平均体格が大きい集団に対する外的妥当性は限定的かもしれません。また、レトロスペクティブ研究であるため、具体的な原因微生物やその薬剤感受性データは得られていません

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