気管挿管

呼吸器
準備や薬剤、確認方法
  • 当たり前ではありますが、気管挿管は「確実に気管に入っており、換気ができていること」を確認して初めて、その手技は完了します。
  • 準備から挿管時の薬剤投与、気管挿管が成功したかどうか、どうやって確認するか、まとめました。
  • (当方、小児での挿管経験がほとんどなく、本記事では成人での気管挿管について記載します)

必要物品

  • 挿管チューブ(男性8.0mm 女性7.5mm 前歯から23cm(男) 21cm(女))+スタイレット
  • 喉頭鏡(あればMcGRATH™(録画できるのであれば録画しておきましょう。振り返りに便利です))
  • キシロカインゼリー
  • カフ用シリンジ
    • カフは6mLくらいいれて自然にシリンジが釣り合うところでOK
  • バイトブロック(無歯顎であれば不要)
  • 固定テープ(トーマスチューブホルダーでも可能)
  • 聴診器
  • 吸引(ヤンカーサクションチューブ):吸引がつながって、きちんと吸えることを確認しておきます
  • ガーゼ(分泌物で手が滑りますし、テープ固定のとき粘着しやすくすため、拭く用です)
  • バッグバルブマスク、人工呼吸器、パラパックなど(作動するか事前にチェックしましょう)
  • ETCO2モニター(しっかり作動するか確認する。空気校正も忘れずに)

※挿管介助につくスタッフとの事前の打ち合わせや、ベッドの高さ、物品を取りやすい位置におく、挿管に失敗したときの具体的な対応法や交代してもらう医師、なども確認しておきましょう。地味に大切です。

挿管時の薬剤投与

心停止以外の状況では通常必要です。

挿管時の薬剤投与

鎮痛薬

挿管刺激による交感神経反射(血圧上昇など)を抑えるために使用します。

フェンタニル

    ◦ 製剤: 0.1mg / 2mL (1アンプル)

    ◦ 準備: 希釈せずそのまま使用します。

    ◦ 投与量: 1/2 〜 1アンプル(1〜2mL)。

    ◦ 特徴: 作用発現まで1〜2分、持続30〜60分。

• または ブプレノルフィン(レペタン®): 0.2mg/1mLを1/2〜1A使用。

鎮静薬

血圧の状態によって使い分けます。

血圧低下時:ミダゾラム

    ◦ 製剤: 10mg / 2mL (1アンプル)

    ◦ 準備: 1Aを生理食塩水8mLで希釈し、合計10mL(1mg/mL)として使用することが多いです。

    ◦ 投与量: 希釈液で5〜10mL

        ▪ : 高齢者等には少量(2〜4mL)から投与し、効果を見て適宜追加します。

    ◦ 特徴: 作用発現まで1〜3分、持続15〜30分。

血圧正常〜高値時:プロポフォール(ディプリバン®)

    ◦ 製剤: 10mg / 1mL (ディプリバン®など)

    ◦ 準備: 希釈せずそのまま使用します。

    ◦ 投与量: 5 〜 10 mL(50〜100mg)。あるいは1〜2mg/kgを目安に適宜調整。

    ◦ 特徴: 作用発現が早く(20秒〜1分)、効果が切れるのも早いです(5〜15分)。

筋弛緩薬

声帯を開き、挿管を容易にするために必須です。

ロクロニウム(エスラックス®)

    ◦ 製剤: 50mg / 5mL

    ◦ 準備: 希釈せずそのまま使用します。

    ◦ 投与量: 0.6 〜 1 mg/kg(または1〜1.2mg/kg)。

        ▪ 体重50kgなら30〜50mg(3〜5mL)。拮抗薬(スガマデクス)が存在するため使いやすい薬

    ◦ 特徴: 投与後1分くらいで効き始め、30〜40分(または45〜60分)持続します。

投与時の重要な注意点(循環管理)

薬剤を投与した直後は、血圧が下がりやすいです。

低血圧への対応:

    ◦ 導入薬投与後や人工呼吸器装着後は循環動態が不安定になりやすいため、病態に応じて輸液負荷や昇圧剤の投与を行います。

    ◦ 短期間の低血圧が予想される場合は、少量の昇圧剤で対応することが推奨されています。

気管挿管が正しく行われたか確認する方法

カプノグラム

成人の気管挿管において、最も推奨され、信頼性が高い確認方法は、呼気中の二酸化炭素(CO2)をカプノグラムを用いて検出することです。カプノグラムによる気管内留置の感度と特異度は、ほぼ100%に近いと一貫して示されています。聴診や視覚的確認のみに頼るのではなく、CO2検出(特に波形表示があるもの)を使用することが強く推奨されています(Grade 1B)。

カプノグラムが以下の3つの基準を満たせば、適切に気管内に留置されていると言えます。

1. 波形の形状: 呼気時に上昇し、吸気時に下降する適切な波形(4相からなる)が描出されること,。

2. 持続性: 波形の振幅が一貫しているか、または増加しており、それが7回以上の呼吸にわたって維持されること。

    ◦ 食道挿管でも、胃内のガスにより最初の数回はCO2が検出されることがあるため、7回以上の確認が重要です。

3. 数値: ピーク時のCO2分圧(EtCO2)がベースラインから7.5 mmHgを超えていること。

そもそもカプノグラムとはなにか?

→カプノメータ(二酸化炭素濃度を測定する機械)によって計測された呼吸に伴うCO2濃度を、波形で表したもので、呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2)の評価や、気管チューブの挿管位置確認、蘇生時の心拍再開の指標として重要です。

なお、EtCO2の値はPaCO2と近似しますが、通常2~5mmHg程度低いとされています。

カプノグラム

補助的な確認方法(CO2検出が困難な場合など)

CO2検出が利用できない、あるいは結果がはっきりしない場合(心停止で血流がない場合など)には、以下の方法が補助的に用いられます。

まずはCO2モニターが適切に機能しているかcheck:自身の呼気を吹きかけてみて、グラフが上昇すれば、検出できていると考えます(過去に、「CO2が検出されない!食道挿管だ!と慌て抜管しましたが、実はCO2モニターがうまく接続できていなかった苦い経験があります・・)。

エコー: 前頸部にプローブを当てて確認する方法。気管内にチューブがある場合は1つの構造物に見えますが、食道挿管の場合は気管の横に「2つ目の気管(食道内のチューブ)」が見えるサイン(double tract sign)などで判断します。また、両側のlung slidingの確認も有用です。

気管支ファイバー: チューブ内を通して気管軟骨やカリーナ(気管分岐部)を直接視認する方法。経験豊富な術者が行えば、単独で気管内留置を確認できる唯一の補助的手段とされています。ただ物品準備に時間がかかるのでエコーが早いと思われます。

信頼性が低いため単独で判断してはいけない方法

以下の方法は、偽陽性(食道挿管なのに気管に入っていると誤認する)のリスクがあるため、単独での確認方法として使用すべきではありません

• ❌️胸部の聴診: 食道挿管でも呼吸音が聴取されるように感じることがあります。

• ❌️チューブ内の曇り: 信頼できません。

• ❌️胸郭の挙上: 胃への送気でも胸が動いて見えることがあります。

❌️SpO2: 誤挿管されてもしばらくは酸素飽和度が保たれることがあり、発見が遅れます。

• ❌️胸部X線写真: チューブの深さ(片肺挿管の除外)の確認には有用ですが、食道挿管か気管挿管かの判別には使用すべきではありません。正面像では気管と食道が重なって見えるためです。

食道挿管してしまった時のエコー所見

食道挿管の場合は気管の横に「2つ目の気管(食道内のチューブ)」が見えるサイン(double tract sign)が認められます。以下、UpToDateの画像を引用させていただきました。

UpToDate Confirmation of correct endotracheal tube placement in adultsより引用

Double Tract signの具体的な検出方法

Double Tract Signを確認するための、具体的なプローブの当て方とコツを解説します。

基本的にはリニアプローブを使用し、頸部を横断像で走査します。

1. 基本的な当て方

  • プローブの種類: リニアプローブ(高周波)が推奨されます。表在臓器が見やすいためです。
  • 位置: 胸骨切痕(Suprasternal Notch)の直上
  • 向き: 水平(横断像)。通常、画面の左側が患者の右側になるようにマーカーを合わせます。

2. 手順と描出のコツ

  1. まずは気管(Trachea)を同定する
    • 首の真ん中にプローブを当てると、空気を含んだ半円形の構造物(気管)が見えます。気管内腔は空気のため、超音波を通さず、その後方は真っ暗(音響陰影)になります。
    • 正常な気管挿管であれば、この中にチューブの反応(Aの画像のような高エコーのアーチ)が見えることがあります。
  2. 食道(Esophagus)を探す
    • 気管が見えたら、プローブをやや患者の左側へずらす、または傾けます。
    • 解剖学的に、食道は気管の左背側に位置していることが多いためです。
    • 通常時、食道は潰れて小さく見えます(または腸管のような層構造が見えます)。
  3. Double Tract Signの判定
    • もし食道挿管されている場合、本来潰れているはずの食道の中にチューブが入り込み、丸く拡張して見えます。
    • その結果、「真ん中の気管」と「横に拡張した食道(偽の気管)」の2つの丸い影が並んで見える状態になります。これがDouble Tract Signです。

3. その他コツ

  • もう少し頭側(輪状軟骨レベル)でも見えますが、石灰化が進んでいる高齢者などでは、超音波が通らず見えにくいことがあります。その場合は胸骨切痕レベルまで下げると見やすくなります。
  • 挿管チューブを動かす(揺らす)と、食道内の構造物が連動して動くのが見えます。

人工呼吸器の設定

無事気管挿管が確認できたら、以下の設定で人工呼吸器につなげます(あくまで極論で、個別に設定する必要があります)

❶ モードの設定 ➡ 強制換気 A/C (Savina® では圧での A/C は「BiPAP」,量での A/C は「IPPV」)

❷ 酸素濃度 (FIO2) ➡ 50%(状態により適宜 設定し直します)

❸ 1 回換気量 (VT) ➡ 6 mL/kg (理想体重(IBW)   

体重は理想体重 (IBW) を使用します。   

男性:50+0.9×〔身長(cm) -152〕kg    女性:45.5+0.9×〔身長(cm) -152〕kg   

〔圧管理では 1 回吸気圧 (Pinsp) をこの VT が得られる 10〜15 cmH2O 程度で設定.プラトー圧≧30 cmH2O にならないように管理〕

❹ 吸気時間 (Tinsp) ➡ 1.0〜1.5 秒,呼吸回数 (f) ➡ 8〜12 回/分   〔「分時換気量= 1 回換気量 (VT) ×呼吸回数 (f)」で 6〜8 L/分を目指す〕

❺ 呼気終末陽圧 (PEEP) ➡ 3〜5 cm H2O   (閉塞性肺障害の呼吸器管理においては PEEP は低めでOKです)

Q&A

Q. 心停止患者でCO2波形が出ない、または低い場合はどう判断しますか?

A. 波形が出ない(フラットライン)場合は、食道挿管とみなして抜管します。

低値の場合: 質の高い胸骨圧迫を行っていれば通常15mmHg以上になりますが、遷延した心停止などでは7.5mmHg未満になることもあります。しかし、気管に入っていれば「波形そのもの」は視認できるはずです。

例外: 極めて稀ですが、長時間の心停止で広範な細胞死が起きている場合のみ、気管に入っていても波形が完全に出ないことがあります。


Q. 波形モニターがない場合、どうすればいいですか?

A. 以下の優先順位で代替手段を使用します。

1. デジタルカプノメータ(数値のみの測定器)

2. 比色計(Colorimetric CO2 detector): 心停止時は色が変わりにくいため信頼性が落ちます。

3. 補助的テクニック(Supportive techniques):

    ◦ 気管支ファイバー: 気管軟骨やカリーナを直接見る(単独で確定診断可能)。

    ◦ エコー(超音波): Double Tract signの有無や、Lung slidingを確認する。


Q. 喉頭展開でチューブが声帯を通るのを「確実に見た」のに波形が出ません。どうしますか?

A. 機器の不具合(接続外れ、カフ漏れなど)を即座にチェックします。 それでも波形が出ない場合、抜管が危険(再挿管困難など)と判断されるなら、直ちに気管支ファイバーなどの補助的テクニックを使って物理的に確認します。確認できなければ抜管します。「様子を見る」ことは許されません

参考文献

  • UpToDate Confirmation of correct endotracheal tube placement in adults(2026/01/31閲覧)
  • 京都ERポケットブック 第2版洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER(編)

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