腹痛をみたら常に虫垂炎を考えよう

appendicitis 内科一般
  • 以前の記事「腹痛患者で行うべき4つのルーチン」にも書いたように、腹痛をきたす疾患は多岐にわたります
  • その中でも、頻度が高い割に診断が難しい疾患として、虫垂炎があります
  • そのため、腹痛患者をみたら常に虫垂炎を鑑別に上げる必要があります

ポイント

  • 虫垂炎はすべての年齢で発症しうるので、腹痛患者では常に鑑別にあげる
  • 急性虫垂炎の症状の出現順序は「PATFL
  • 診断にはRovsing徴候やpsoas徴候も有用
  • 腹部エコーは強力な武器!押しても潰れない6mm以上の構造物で盲端を確認でき、圧痛がポイントで示せれば虫垂炎の可能性が高い
  • 女性、基礎疾患がある人、腹痛+便秘がある人は見逃されやすい

虫垂炎の疫学

  • 10〜20歳台に発症しやすいですが、すべての年齢層で発症しえます
  • 生涯罹患率は男性で8.6%、女性で6.7%です(Am Fam Physician. 2016 Jan 15;93(2):142–3. PMID:26926413)
  • 正診率は画像検査が発達してもあまり改善していないといわれています(JAMA. 2001 Oct 10;286(14):1748–53. PMID:11594900)

虫垂炎の症状・所見

  • 腹痛に先行する嘔吐があれば虫垂炎は否定的です(次項で詳述します)
  • 心窩部から右下腹部への痛みの移動以前にない痛みは虫垂炎の可能性を高くします
  • 腹膜刺激徴候の確認には踵落とし試験が有用です
    • 踵落とし試験は立位の状態から背伸びをするように両足の踵を上げ、そのままストンと勢いよく踵をつけると、局所に痛みが走る現象です
    • 咳嗽試験(cough test)と同様に局所の腹膜刺激を起こす試験です
  • Rovsing徴候psoas徴候も虫垂炎の診断に有用とされています
    • Rovsing徴候は、仰臥位で下行結腸を下方より上方に押し上げるように圧迫すると、右下腹部(回盲部)痛が増強する現象です
    • psoas徴候(腰筋徴候)は、左側臥位で右下肢を伸展させたまま股関節を過伸展させた時、右下腹部に痛みが誘発される徴候で、虫垂炎が後腹膜の腸腰筋に波及した場合、感度は低いですが特異度は高いとされています
  • 38℃以上の発熱は通常24時間以降に出ます

症状の順番はPATFL

  • 急性虫垂炎の症状の出現順序は重要です
  • 「PATFL」の順で出現します
    • 心窩部や臍周囲の痛み(Pain)→嘔気・嘔吐、食欲不振(Anorexia)→右下腹部痛(Tenderness)→発熱(Fever)→白血球増加(Leukocyte)
    • よって腹痛→嘔吐の経過では常に虫垂炎を鑑別に入れることが重要です
Order of appearance of symptoms caused by appendicitis
  • 一方、急性胃腸炎は上から順、すなわち嘔気・嘔吐→腹痛→下痢の順番です
  • 腹痛を認め,その後嘔吐を繰り返している場合には、まずは胃腸炎以外を考えるべきです。
    • 代表的な疾患としては上述のように虫垂炎、その他に腸閉塞や胆石・胆嚢炎、尿管結石を考えます

虫垂炎を疑ったらMANTRELS Alvarado scoreで評価

  • 「虫垂炎かな?」と思ったら MANTRELS Alvarado scoreを評価します
  • 7点以上で虫垂炎の可能性が高いとされています。逆に4点以下では可能性が低いとされています。
Alvarado score

虫垂炎には腹部エコーを

  • 腹部エコーは陽性尤度比+9.24、陰性尤度比-0.17で有用です(Ann Emerg Med 70;797-798,2017)
  • 押しても潰れない6mm以上の構造物で盲端を確認でき、圧痛がポイントで示せれば虫垂炎の可能性が高いです

虫垂炎のエコー 例1

虫垂炎のエコーその1

虫垂炎のエコー 例2

虫垂炎のエコーその2

虫垂炎のピットフォール

  • 虫垂炎は女性、基礎疾患がある人、腹痛+便秘がある人は見逃されやすいです(Mahajan P, et al.  JAMA Netw Open. 2020;3(3):e200612. )
  • その日に問題なくても、こういった患者さんには特に「今問題なくても右下腹部痛が出始めたらすぐに受診するように」と伝えておくと良いと思われます。
  • 小児の虫垂炎は診断が難しいです
    • 小児の腹痛は急性虫垂炎から考えましょう
    • 食欲がある、左下腹部痛があるなど非典型的な経過をとることがあるためです
    • 疑ったらまず腹部エコーをします(これは小児に限った話ではありませんが)

参考文献

以下の文献を参考にさせていただき、まとめました。

  • 救急外来 ただいま診断中!第2版 坂本 壮 著
  • ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版 酒見 英太 (監修)
  • ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版 金城 光代 (他編集)
  • レジデントのための腹部エコーの鉄則 [Web動画付] 亀田 徹 (編集)
  • 研修医当直御法度 第7版 ピットフォールとエッセンシャルズ 寺澤 秀一 林 寛之 (著)
  • Alvarado A. A practical score for the early diagnosis of acute appendicitis. Ann Emerg Med. 1986; 15: 557-64.
  • Mahajan P, Basu T, Pai C, et al. Factors Associated With Potentially Missed Diagnosis of Appendicitis in the Emergency Department. JAMA Netw Open. 2020;3(3):e200612. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.0612

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