意識障害に対するアプローチを徹底解説! 研修医が知るべき救急外来の対応

consciousness disorder 内科一般

意識障害は適切に対応しなければ生命の危機に直結するケースも少なくありません。

意識障害の原因は多岐にわたり、脳血管障害、感染症、代謝異常、中毒、外傷など、あらゆる疾患のサインとして現れることがあるため、初期評価と迅速な診断が求められます。しかし、「意識障害の患者を前にしたときに何から手をつけるべきか?」と戸惑うことも多いです(少なくとも私はそうでした)。

本記事では、救急外来における意識障害の初期対応の流れ、実践的なアプローチ鑑別診断のポイントを解説します。救急医療の現場で即役立つ知識を整理し、シンプルかつ実践的な形でお届けします。

ポイント

  • ABCの安定を最優先に考える(瞳孔所見も併せてとり、気管挿管を優先すべきかの判断も!)
  • 低血糖をまず否定する
  • 意識障害を正確に評価する
  • バイタルサイン、身体所見、病歴をおろそかにしない
  • 脳卒中を疑ったら速やかに頭部CTへ
  • ⑥敗血症を疑ったらfever work up
  • ⑦その他の原因検索は「AIUEOTIPS」や「3✕5記憶法」で網羅的に!

①まずはABCの安定を!

  • 意識障害ときたら「AIUEO TIPS」が思い浮かぶかもしれませんが、まずはABC(Airway,Breathing.Circulation)の安定が大事です
  • 確実に気道確保し、循環動態を安定させながら原因検索を進めていきます
  • 気管挿管の適応があるかを考える上で、瞳孔不同対光反射の有無舌根沈下の有無は重要です。搬送後ただちにcheckしましょう

気管挿管の適応

  • 忘れがちですが意識障害やショック患者も挿管の適応があります
  • 意識状態の程度にもよりますが、呼吸抑制や誤嚥など、AirwayやBreathingに問題が生じる可能性がある場合には、確実な気道確保目的に挿管の適応となります
  • バイタルサインが安定している場合でも、意識障害を認める場合には挿管が必要となる場合があることを肝に銘じておきます
①意識障害により気道が確保できない(GCS<8)
②ショックバイタルを呈している
③高二酸化炭素血症を伴う呼吸不全
④低酸素性呼吸不全
⑤呼吸仕事量を維持できない
気管挿管の適応
  • JATECTMの「切迫するD」も参考になります
【切迫するD】
GCSの合計 ≦ 8 の意識レベル
経過中にGCSの合計が2以上低下
脳ヘルニア徴候を伴う意識障害(瞳孔不同、片麻痺、Cushing徴候)

②低血糖をまず否定する

  • ABCが安定していることを確認したら、まず血ガス低血糖発作を除外します
  • 低血糖の症状は多彩で「脳卒中ミミック」とも呼ばれています(「脳卒中ミミックに騙されるな」にも書きましたのでご覧いただけますと幸いです)。
  • 低血糖を否定することなく脳卒中の診断目的に頭部CTを施行してはいけません!
  • 低血糖状態が長くなると,脳に不可逆的ダメージを与えるため、すみやかに発見・治療すべきです。また低血糖発作を放置して、MRI撮像中に痙攣させるようなことがあってはならなりません
  • 低血糖単独でショックを起こすことはありません。低血糖単独による意識障害では意識以外のバイタルサインは安定していることが多いです。低血圧などショックを示唆する所見を認めた場合には、敗血症にともなう低血糖など、他の疾患に合併した低血糖を考える必要があります

低血糖発作は糖尿病によるもの?それとも他の原因によるもの?

糖尿病治療中の低血糖発作

  • 糖尿病の治療中か否かが大事です
  • 治療中であれば、「薬の変更がなかったか」、「食事摂取量が低下していなかったか」を聴取します

糖尿病以外の低血糖発作

  • 糖尿病治療中でない場合、以下の鑑別を考える必要があります
糖尿病以外の低血糖発作の原因
アルコール
感染症(敗血症)
肝硬変、腎不全
内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎不全、下垂体機能不全、インスリノーマ)
ダンピング症候群
絶食、低栄養
薬剤(抗不整脈薬,ニューキノロン系抗菌薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),非定形抗精神病薬,ST合剤),リトドリン塩酸塩,セレギリン塩酸塩等
  • 糖尿病治療中でない場合、ブドウ糖投与前に血液検体を取りおいて保存しておけば、後でインスリン・C ペプチド・ACTH・コルチゾールなどを提出することができます

低血糖発作の治療

  • ビタミンB1が欠乏している低血糖発作の患者さんに対して、ビタミンB1を投与せずにブドウ糖だけを投与すれば医原性のWernicke脳症を引き起こす可能性があります
  • 痩せている患者さんやアルコール乱用が疑われる患者さんに対しては、ブドウ糖投与の前または同時にビタミンB1を投与するようにします
    • ビタミンB1を投与するか判断に迷う場合、副作用はさほど気にする必要ないので、投与してしまいましょう

ビタミンB1の投与方法

  • ビタメジン® 1バイアル(1バイアル中にチアミン塩化物塩酸塩 100mg含有)
  • メタボリンG® 100mg(1Aあたり 20mg/2mL)

*メタボリン®は5A必要なのに対し、ビタメジンは1バイアルで良いのでビタメジンのほうが使いやすいです

  • なおビタミン B1投与後にビタミンB1を血液検査で測定しても意味がありません
    • 血液検査でビタミンB1欠乏を証明したいならば,ビタミンB1投与前に血液検査する必要があります
    • ビタミンB1は特殊な検査であり,特殊なスピッツが必要になることがあります
    • いつものスピッツで検体保存しても計測できない可能性があるため、事前に検査部門に確認しておくことが望ましいです

低血糖の確定診断は、血糖の低値だけで判断してはいけない

  • 低血糖の確定診断はWhippleの3徴をすべて満たす必要があります

Whippleの3徴

  • ①低血糖と矛盾しない症状
  • ②適切な方法で測定された血漿グルコース値の低値
  • ③血漿グルコース濃度が上昇した際の症状の改善
  • ブドウ糖投与後に改善が認められない場合や、普段と同程度にまで戻らない場合は、その他の意識障害をきたす原因を考える必要があります

③意識障害を正確に評価する

  • 意識障害の原因によっては、他科へコンサルトする場合も生じるため、正確に評価できる必要があります。

JCS(Japan Coma Scale)

  • JCSにおけるピットフォールその②「JCS-2とJCS-3」
    • 日付や周囲の人が誰かなど、変化する状況がわからない場合がJCS-2です
    • 不変的な記憶が障害されている場合にはJCS-3です
      • 例)自宅の電話番号がわからない場合にはJCS-3
JCS

GCS(Glasgow Coma Scale)

  • GCSにおけるピットフォールその①:「E3とE4」
    • 国家試験的には呼びかけで開眼した場合はE3、と習います。しかし、これだけでは単に寝ている人はすべてE3になってしまいます
    • 自発的に15〜20秒以上 開眼できる場合にはE4と判断します。呼びかけて開眼した後の様子が大事です
  • GCSにおけるピットフォールその②:「Vの評価」
    • Vの見当識は、「時・人・場所」で評価します。自分の名前や生年月日は用いません
    • V4の錯乱状態とは、質問に対して合目的な解答をしていない状態です
      • 例)「ここはどこですか(場所の質問)」に対し、「今日は3月3日(時の返答)」と答えてしまう→これはV4と評価します
    • V3を「単語のみ」と記している書物がありますが、誤りです
      • 例)「ここはどこですか(場所の質問)」に対し、「病院」と答える。この場合、V5の評価が妥当です
  • GCSにおけるピットフォールその③:「Mの評価」
    • Mは最良評価で行います。 そのため、片麻痺があることや動きが緩慢であることは評価に影響しません
      • 右片麻痺があっても左で離握手できれば、M6となります
      • M6の評価では、必ず相反する2つの動作を連続で行わせます
      • 例)離握手、開眼と開眼、左右への追視 など。
    • M3は除皮質硬直、M2は除脳硬直です
GCS

④バイタルサイン、身体所見、病歴をおろそかにしない

血圧や瞳孔から頭蓋内病変を予測する

  • 突然発症、収縮期血圧高値、瞳孔所見の異常(対光反射の消失、瞳孔不同)を認める場合は頭蓋内病変の可能性が高くなります
  • 血圧が高くない脳卒中様症状を呈する患者を診た場合には「頭が原因ではないかも?!」と思うことが重要です。
  • 瞳孔所見の異常はさまざまな疾患を示唆します。特に脳幹障害は速やかに気管挿管が必要ですので、瞳孔所見は非常に重要です。
    • 極端な縮瞳の場合、脳幹出血/梗塞、麻薬(モルヒネ、アヘン)、有機リン系中毒 を想起します
    • 人形の眼現象が陰性であれば、脳幹障害が疑われます
      • 人形の現象とは頭位を変化させると眼球が反対側に動き、視線を一定に保持しようとする反射です。これが正常の状態で、陽性とします。
      • 求心路は前庭神経(VIII)、遠心路は動眼神経(III)・滑車神経(IV)・外転神経(VI)です
      • 反射中枢は橋の下部にあるため、これより上の病変では障害されませんが、橋下部の病変ではこの反射が消失し、頭を回すと眼球も同方向に動きます
      • 【注意】人形の眼現象を確認する前に頸椎損傷の可能性を考えなければなりません。意識障害患者では、受傷状況がわからない場合には常に頸椎損傷を意識しておかなければなりません。項部正中の圧痛をみるようにしましょう。
人形の眼現象

身体所見は左右差がないかをcheck

  • 脳梗塞や脳出血は、四肢の麻痺や感覚障害が左右差をもって生じることがほとんどです。
  • 逆に身体所見上明らかな左右差を認めない場合には
    • ①くも膜下出血、②低血糖、③急性薬物中毒が挙げられます。
    • ①くも膜下出血ですが、脳梗塞や脳出血など、他の脳卒中では左右差が出ることが多いのに対して、くも膜下出血はわずかな左右差である場合や、左右差を認めない場合があります
      • 左右差がなかった場合には、くも膜下出血を疑いましょう。もちろん発症様式や頭痛などを聴取する必要があります
    • ②低血糖発作は脳卒中ミミックです。だまされないためにも左右差の確認は大事です
    • その他、左右差を認めない疾患として、髄膜炎や両側の慢性硬膜下血腫なども考えられます

皮膚所見もcheck

  • 冷や汗
    • 低血糖や心筋梗塞、ショックなどを示唆します
  • リベド
    • ショックを示唆します

病歴 〜AMPLE聴取を忘れない〜

  • 意識障害に限った話ではありませんが、AMPLE聴取は必ず行いましょう

AMPLE

  • Allergy/ADL:アレルギー/ADL
  • Medication:内服薬
  • Past History/Pregnancy:既往歴/妊娠
  • Last Meal:最後の食事
  • Event/Environment:出来事/環境

⑤脳卒中を疑ったら速やかに頭部CTへ

  • 当然ながら、脳梗塞と脳出血の治療方針は大きくことなります
  • 脳梗塞と脳出血を病歴や身体所見だけでは鑑別できません。大まかな所見をとったら頭部CTを急ぎます
  • 各施設で普段行われている脳卒中診療の流れを事前に把握しておきましょう
  • CT撮影前にくも膜下出血を疑っていないと、刺激を与えすぎてしまいがちなので注意が必要です

⑥敗血症を疑ったらfever work up

  • 敗血症を疑ったら、focus検索と培養 を怠ってはいけません
  • 尿路感染症や肺炎はあくまで除外診断です
  • 髄膜炎を疑ったら腰椎穿刺を躊躇なく行いましょう
    • 細菌性髄膜炎に認められる所見として、意識障害(71%)、激しい頭痛(84%)、38℃以上の発熱(74%)、項部硬直(74%)の4つの症状があげられます
    • 4つの症状のうち、2つを満たしていたという報告もあります(N Engl J Med, 351: 1849–1859, 2004)
  • 発熱への対応は別記事もご参照いただければ幸いです。

⑦その他の原因検索は「AIUEOTIPS」や「3✕5記憶法」で

  • AIUEOTIPSは網羅的で便利ですが、時間軸も考慮した「3✕5記憶法」のほうが個人的には好みです
  • 他の鑑別の進め方として、「興奮系意識障害」と「朦朧系意識障害」に分けると鑑別を進めやすいようです(レジデントノート増刊 Vol.24 No.11 出版社:羊土社)
    • 興奮系意識障害は低酸素血症・循環不全・低血糖などの内因性カテコラミンが放出される状態でみられます
    • 朦朧系意識障害(傾眠・朦朧状態)は高二酸化炭素血症・高アンモニア血症・尿毒症など代謝産物が蓄積した状態です

【3✕5記憶法】

3✕5記憶法鑑別疾患補足
① まずはじめに① 低血糖
②低酸素(CO₂ナルコーシスやCO中毒も考慮)
③ビタミンB₁欠乏(Wernicke脳症)
上述のように、まずは低血糖の除外が大切
② バイタルサインの異常① 低血圧(心原性ショックなど) ② 高血圧脳症 ③ 低体温心血管系疾患による低血圧を見落とさないように特に注意が必要。 高血圧脳症は、頭蓋内疾患を考える。 偶発性低体温は敗血症、甲状腺機能低下症、副腎不全、薬物中毒を除外した上で意識障害の原因を考える。
③ 血液検査① 電解質異常(低Na血症、高Na血症、高Ca血症が多い)
② 尿毒症
③ 肝性昏睡
肝性脳症の診断にはNH₃、尿毒症ではBUNやCr、貧血による影響も考慮。
④ 頭蓋内疾患① 頭蓋内病変(脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍など)
② 髄膜炎
③ てんかん
画像、髄液、脳波の3つの検査が確定診断の柱となる。
⑤ 最後に① 薬剤(アルコールを含む)
② 内分泌代謝系の病態異常(甲状腺機能異常、橋本脳症、副腎不全、ポルフィリン症、糖尿病性血小板減少性紫斑病)
③ 精神科疾患

【AIUEOTIPS】

AIUEOTIPS

参考文献

以下の文献を参考にさせていただき、まとめました。

  • レジデントノート増刊 Vol.24 No.11 出版社:羊土社
  • 救急外来 ただいま診断中!第2版 坂本 壮 著
  • 薬剤性低血糖症状 医薬情報委員会プレアボイド報告評価小委員会 担当委員 阿部 和史(東京都立神経病院)https://www.jshp.or.jp/information/preavoid/47-3.pdf (2025年3月3日閲覧)
  • Beek Dvd, et al : Clinical features and prognostic factors in adults with bacterial meningitis. N Engl J Med, 351: 1849–1859, 2004 (PMID: 15509818

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