【歯科編が登場】厚生労働省 抗微生物薬適正使用の手引き 第四版

感染症
  • 2026年1月16日に厚生労働省より抗微生物薬適正使用の手引き 第四版が登場しました。
  • なんと、これまでになかった【歯科編】が登場しました。
  • 抗微生物薬適正使用の手引き 第四版【歯科編】」の内容をまとめ、そしてQ&A形式で、歯科における抗菌薬使用方法についても記載しました。
厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」より引用

資料の要点(3つの柱)

この手引きの最大の目的は、世界的な問題となっている薬剤耐性(AMR)対策を歯科領域でも推進することです。

1. 「第3世代セフェム系」から「ペニシリン系」への転換

• これまで日本の歯科で多用されてきた第3世代セフェム系(フロモックス、メイアクト等)は、生物学的利用能(吸収率)が低く、耐性菌を増やしやすいため推奨されなくなりました。

• 代わりに、吸収率が高く、耐性菌リスクの低いアモキシシリン(ペニシリン系)を第一選択薬とすることが強く推奨されています。

2. 予防投与は「術前単回」が基本

• 抜歯などの手術における感染予防は、「術前1時間の単回投与」が最も効果的とされています。

• 術後のダラダラとした投与(例:3日分処方)は、医学的な根拠に乏しく、原則不要とされました(侵襲が大きい場合を除く)。

3. 局所処置の優先

• 歯性感染症の治療は、まずドレナージや原因歯の抜歯などの処置が最優先です。抗菌薬はあくまで補助的なものという位置づけが強調されています。

「これまでの慣習」と「今回発表された手引き」との比較

現場で大きく変わるポイントを対比表にしました。

項目これまでの慣習的な方法今回発表された手引き
第一選択薬第3世代セフェム系(セフカペン、セフジトレンなど)は「広い菌に効くから安心」として約8割を占めていたペニシリン系(アモキシシリン)※WHOの分類でも推奨される「Access薬」※吸収率が良く、効果が確実
予防投与のタイミング術後投与(抜歯が終わってから飲み始める)術前投与処置の1時間前に飲む)※血中濃度が高い状態で治療するため
投与期間術後3日間程度(「念のため出しておきます」)単回投与(1回のみ)※術後投与は侵襲が大きい場合のみ48時間以内まで
単純な抜歯抗菌薬を処方することが多い原則不要(全身リスクがなく骨を削らない場合)
インプラント術前・術後に投与術前単回のみ(清潔な通常の手術であれば術後は不要)

なぜ変更が必要なのか?(背景)

1. 吸収率(バイオアベイラビリティ)の問題

    ◦ これまでよく使われていた第3世代セフェム系は、14〜25%程度しか体に吸収されません。

    ◦ 一方、推奨されるアモキシシリンは74〜92%吸収され、治療効果が高いことがわかっています。

2. 薬剤耐性菌(AMR)の脅威

    ◦ 第3世代セフェム系のような「広域抗菌薬(Watch薬)」を乱用すると、将来的に薬が効かない耐性菌が増え、がん治療や手術ができなくなる恐れがあります。そのため、国を挙げて使用量を削減する目標(2020年比で40%削減)が立てられています。

結論として この資料は、「とりあえず第3世代セフェムを術後に3日分」という従来の歯科の慣習(ルーチン)を改め、「アモキシシリンを術前に1回」という科学的根拠に基づいた投与法へシフトすることを求めています。

Q&A

私自身、歯科口腔外科をメインに診療していましたが、よく開業医の先生から質問を受けることが多かった内容を、今回の資料を元にQ&A形式にまとめました。

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Q1. ずっと「メイアクト」や「フロモックス」を使ってきましたが、なぜ「サワシリン(アモキシシリン)」に変えるべきなのですか?

A. 薬の「吸収率」が圧倒的に違うからです。

これまで歯科で多用されてきた第3世代セフェム系(セフジトレン、セフカペンなど)は、実は内服しても14〜25%程度しか体内に吸収されません(バイオアベイラビリティが低い)。 一方で、ペニシリン系のアモキシシリンは74〜92%と高い吸収率を誇り、十分な血中濃度・組織内濃度を確保できます。 また、第3世代セフェム系は広域スペクトル(広い菌に効く)であるため、薬剤耐性菌を増やすリスクが高く、WHOや国の方針としても使用量を減らす目標が掲げられています。

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Q2. 抜歯後の感染予防、本当に「術後投与」しなくていいのですか?

A. 基本は「術前1時間前の単回投与」のみで、術後は原則不要です。

感染予防(SSI予防)の目的は、手術中の細菌汚染をコントロールすることです。そのためには、執刀時に血中濃度がピークに達している必要があります。 手引きでは、下顎埋伏智歯抜歯などの侵襲がある処置において、「術前1時間前にアモキシシリン250mgまたは500mgを単回投与」が第一優先とされています。 術後の追加投与は、骨削除などの侵襲が大きい場合や、術中の汚染が強かった場合に限り、術後48時間以内まで考慮されますが、ルーチンでの術後投与(3日間処方など)は推奨されていません。

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Q3. 普通の抜歯(残根抜歯など)でも抗菌薬は出さなくていいのですか?

A. 全身リスクのない、骨削除を伴わない単純な抜歯であれば「推奨されません」。

全身疾患や局所感染がなく、骨を削らない単純な抜歯の場合、抗菌薬の予防投与によるメリットは示されておらず、「投与は推奨されない(不要)」と明記されています。

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Q4. インプラント埋入術の時はどうすればいいですか?

A. 清潔な通常の手術であれば「術前単回投与」のみでOKです。

健康な患者さんに対して、清潔な操作でインプラント埋入を行う場合、術後の抗菌薬投与が早期脱落や感染予防に寄与するというエビデンスはありません。 術前1時間前にアモキシシリン(250mg〜1g)を単回投与することが推奨されています。ただし、骨造成(GBR)などを伴う場合は、感染リスクが高まるため術前投与が強く推奨され、状況に応じて追加の検討が必要です。

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Q5. ペニシリンアレルギーの患者さんには何を処方すればいいですか?

A. クリンダマイシンやアジスロマイシンなどが推奨されます。

まず重要なのは、患者さんの申告が「真のアレルギー(アナフィラキシーや皮疹など)」か、「副作用(下痢や吐き気)」かを見極めることです。単なる下痢であればアモキシシリンが使える可能性もありますが、判断が難しい場合は代替薬を選択します。

【代替薬の例(予防投与・治療投与)】

第一選択の代替: クリンダマイシン(ダラシンなど)

その他の選択肢: アジスロマイシン(ジスロマック)、クラリスロマイシン(クラリス)

    ◦ ※第3世代セフェム系は代替薬としても推奨されていません。

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Q6. 腫れて痛がっている患者さん(歯性感染症)、とりあえず抗菌薬を出して様子を見てもいいですか?

A. まずは「局所処置」が最優先です。

歯性感染症治療の基本は、感染源の除去です。膿瘍切開や抜歯、根管治療などの局所処置が可能であれば、抗菌薬の投与自体が不要な場合もあります(例:根尖性歯周炎やドライソケットなど)。 発熱やリンパ節の腫れなど、全身症状がある場合に抗菌薬を「補助的に」使用します。その際も第一選択はアモキシシリンです。

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Q7. 腎機能が悪い患者さんへの投与量は?

A. 予防投与(単回)なら調整不要ですが、治療投与(複数回)なら調整が必要です。

予防投与の場合: 術前1回の「単回投与」であれば、血中濃度を確保するため、腎機能低下患者であっても減量は不要です。

治療投与の場合: 反復投与になるため、Ccr値(クレアチニンクリアランス)に応じた投与間隔や用量の調整が必要です(例:アモキシシリンは透析患者なら1日1回など)。

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Q8.健康な成人の下顎埋伏智歯抜歯には抗菌薬投与は必要か

A.健康な成人であっても下顎埋伏智歯(親知らず)の抜歯においては、抗菌薬の予防投与が「必要(推奨される)」とされています。

ただし、その投与方法は従来のような「抜歯後の数日間投与」ではなく、「抜歯1時間前の単回投与」が第一優先とされています。

なぜ投与が必要なのか、解説します。

SSI(手術部位感染)のリスク低減: 下顎埋伏智歯の抜歯は、通常の抜歯とは異なり、術後に手術部位感染(SSI)が多く見られる処置です。

エビデンス: 口腔外科医による健常人の下顎埋伏智歯抜歯において、抗菌薬の予防投与を行うことで、プラセボ(偽薬)と比較してSSIのリスクを約66%低減させるという報告があります。

現在の手引きでは、以下のプロトコルが推奨されています。

薬剤: アモキシシリン(ペニシリン系)

タイミング: 抜歯の1時間前

投与回数: 単回投与(1回のみ)

用量: 250mg または 500mg

    ◦ ※250mg単回では十分な血中濃度が得られない可能性があるため、500mgを投与する傾向にあることも指摘されています。

埋伏智歯抜歯後の追加投与(術後投与)は必要か?については、原則として、術前単回投与のみで対応します。 ただし、以下の条件に当てはまる場合に限り、術後の追加投与が考慮されます。

条件: 骨削除などの手術侵襲が大きい場合や、術中に高度な汚染を認めた場合。

期間: 追加する場合でも、術後48時間以内までとされています


※本記事は『抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 歯科編』に基づき作成しています。個々の症例における判断は、患者さんの全身状態や既往歴を考慮して行ってください。

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