腹痛患者で行うべき4つのルーチン

腹痛患者に行う4つのルーチン 内科一般

一般病棟や救急外来など腹痛を訴える患者さんを診察する機会は多くあります。腹痛の原因は多岐にわたり、診断に難渋することもしばしば経験します。

この記事では、腹痛疾患に対するアプローチ法を簡潔にお伝えします。

ポイント

  • ルーチンでとるべき4つの所見(「病歴」、「バイタルサイン」、「腹部所見」、「血ガス・エコー・心電図」)をおさえましょう
  • 病歴は、OPQRSTでもれなくとりましょう。
  • バイタルサインでは、軽度の意識障害を見逃さない!意識障害を伴う腹痛は危険と考える。
  • 腹部所見をとる際、ズボンをおろし、手術痕やヘルニアの有無を確認する。板状硬をみたら上部消化管穿孔を考える
  • 血ガスでは
    • 代謝性アシドーシス、血糖値、電解質異常(特に高カリウム血症)をみよう
  • 腹部エコーは超強力な武器です。積極的に行います
  • 心窩部痛は急性冠症候群を疑い、心電図をとりましょう

腹痛の原因

  • 代表的な疾患を部位ごとにまとめました。
部位ごとの腹痛の原因疾患
  • 腹部臓器以外にも腹痛をきたす疾患があります(正直、多すぎて覚えておりません・・・)
    • 心血管系
      • 心外膜炎、心不全、急性心筋炎、感染性心内膜炎、肺塞栓症
    • 呼吸器系
      • 肺炎、気胸、胸膜炎、膿胸
    • 代謝内分泌系
      • ケトアシドーシス、急性副腎不全、尿毒症、甲状腺クリーゼ、ポルフィリア、高カルシウム血症
    • 血液系
      • 鎌状赤血球症、溶血性貧血、アレルギー性紫斑病、急性白血病
    • 毒物
      • 薬物中毒、鉛中毒、蛇咬傷

腹痛患者に対しルーチンでとるべき4つの所見

①病歴(OPQRST)

②バイタルサイン

③腹部所見

④「血ガス、エコー、心電図」

以上4つは、ルーチンでおさえましょう

①病歴はOPQRSTでもれなくとる

  • O:【痛みのOnset】
    • 突然発症であれば以下の3つを考えます
      • 詰まった→心筋梗塞、腸間膜動脈閉塞症、尿管結石、胆石など
      • 破れた→腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、消化管穿孔など
      • ねじれた→S状結腸捻転、卵巣茎捻転、精巣捻転など
  • P:【痛みの部位(Position)】/ 【寛解・増悪因子(Palliative/Provocative】
    • 痛みが移動する場合、急性大動脈解離虫垂炎尿管結石を考えます
      • 急性大動脈解離の痛みの移動は不特定
      • 虫垂炎は心窩部→右下腹部へ移動
      • 尿管結石は下へ移動することも。
    • 寛解・増悪因子
      • 蹲踞位で和らぐ→急性膵炎
      • 楽になる姿勢がない→尿管結石(ストレッチャーの上で体位をコロコロと変える印象)
      • 食事やアルコールで増悪する→消化管疾患
        • 胃潰瘍は食後、十二指腸潰瘍では食前に痛みを打ってることが多いです
        • 胆石発作や膵炎は食事やアルコールが契機となります
        • その他、食事によって痛みが増強し、嘔吐による痛みが軽減すれば腸閉塞を疑います
  • Q:【痛みの性質(Quality)
    • 裂けるような痛み→急性大動脈解離
  • R:【痛みの放散(Radiation)
    • 顎~上肢への放散痛は急性冠症候群を示唆しますが、背部痛があれば大動脈解離や胆石発作を考えます。
    • 胆石発作における背部への放散痛は、感度51%(44-59)、特異度93%(88-96)陽性尤度比6.9(4.1-11.4)、陰性尤度比 0.5(0.5-0.6)です(Ir J Med Sci. 2009 Dec;178(4):397-400. PMID:19685000〕)。
      • 胆道系疾患の放散痛は肩甲骨レベルまでであり、肩(鎖骨よりも頭側)への放散痛があれば横隔膜レベルの炎症を考えるべきです。
  • S:【痛みの随伴症状(Associated Symptom)
    • 意識障害
      • ショック or 重症敗血症を考えます
        • ショック→出血性ショック(大動脈瘤破裂、大動脈解離などによる腹腔内出血)や敗血症ショック
        • 重症敗血症→腸管壊死(絞扼性腸閉塞など)、消化管穿孔、腹膜炎、急性胆管炎など
    • 嘔気・嘔吐、下痢
      • 急性胃腸炎は上から下へ症状が現れます
        • 嘔気・嘔吐→腹痛→下痢であれば急性胃腸炎を考えます
      • 腹痛→嘔吐の順であれば急性胃腸炎以外を考える
        • 特に、虫垂炎、腸閉塞、胆石・胆嚢炎、尿管結石を考えます
    • 麻痺などの神経学的な異常所見
      • 急性大動脈解離を考える
    • 発熱
      • 発熱で緊急性の判断はできませんが、敗血症を示唆しているかが重要です
    • インスリン欠乏症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)
      • まれではありますが、糖尿病ケトアシドーシス(DKA)による腹痛が考えられます。
    • 無月経や性器出血
      • 婦人科疾患を考えます
      • 異所性妊娠は常に意識します
  • T【痛みの時間(Time)】
    • 腸閉塞など、腸管の痛みは波があり、痛みがほぼゼロになる時間もある
      • 小腸閉塞→数分〜10分未満ごとに痛くなる
      • 大腸閉塞→10分以上
    • 尿管結石や胆石の場合にはゼロには通常なりません

②バイタルサイン

  • 【意識障害】
    • 上述しましたが、ショックもしくは重症敗血症が考えられます
      • ショック→出血性ショック(大動脈瘤破裂、大動脈解離などによる腹腔内出血)や敗血症ショック
      • 重症敗血症→腸管壊死(絞扼性腸閉塞など)、消化管穿孔、腹膜炎、急性胆管炎など
    • わずかな意識障害でも要注意です。
  • 【呼吸数】
    • 呼吸数の上昇は、代謝性アシドーシスの代償を考えましょう
    • 「痛いから過呼吸になっているんだ」と安易に捉えないように気をつけます
  • 【ショック】
    • ショックとは「末梢組織の酸素需要の増加や酸素供給の低下により起きる、末梢組織の低酸素状態」で定義されます(詳しくは 「ショックにはどう動く?」をご覧いただけますと幸いです)。
    • 低血圧をみたら,「皮膚」「神経」「腎臓」から末梢組織の低酸素状態を示唆する所見を探しましょう
    • 出血性ショック(大動脈瘤破裂、大動脈解離などによる腹腔内出血)や敗血症ショックを考えます

腹痛患者に鎮痛は行うべか?

  • 現在は腹痛の原因にかかわらず、診断前の早期の鎮痛剤使用が推奨されています。
  • 急性腹症診療ガイドラインでは痛みの強さによらず、第一選択としてアセトアミノフェン1,000mg の経静脈的投与が推奨されています。
  • 「外科医に触ってもらってから使うべき」という意見もありますが、痛みによって仰向けにもなれず、適切な検査を行うことができない場合もあります。
  • よって早期の鎮痛は重要と考えられます。

③腹部所見

  • 【手術痕】
    • 腸閉塞を疑う上で手術痕は見逃さないようにしましょう
    • 手術歴も併せて聴取し、必ず直接確認します
    • 手術歴がないからといって、安易に麻痺性イレウスと考えてはいけません。必ず、ズボンをおろし鼠径部も確認し、閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアも確認します。
  • 【板状硬】
    • 板状硬が出現するのは、ほとんどが上部消化管穿孔に限られます
    • 同じ消化管穿孔でも上部と下部で、硬さがまったく異なります
      • 上部は「押す余裕もなく硬い」
      • 下部は「押したら硬い」
    • しかし、「硬」を判断することは難しいです。そのため普段から正常(軟)を経験をしておくことが大切だと私は考えてます
  • 【反跳痛】
    • 反跳痛は壁側腹膜の刺激症状を示唆するため、憩室炎や胆嚢炎でも認めることがあります
    • よって腹膜炎か否かは反跳痛を認める範囲も含め判断する必要があります
      • 腹部全体に反跳痛がある場合には汎発性腹膜炎が考えられます
    • 腹部が固く、かつ反跳痛がある→消化管穿孔を疑う
    • 腹部が固くないのに反跳痛がある→婦人科疾患や腹部大動脈瘤破裂などの血管系を考えます
    • 反跳痛は解釈に注意が必要です。腹膜炎に対する感度・特異度は高くありません。

④「血ガス・エコー・心電図」で原因にせまる

  • 【血ガス】
    • 代謝性アシドーシス
      • 乳酸アシドーシスは循環不全を示唆します
        • 乳酸値が高い場合には大動脈瘤破裂による腹腔内出血や、絞扼性腸閉塞、腹膜炎、急性閉塞性腎盂腎炎に代表される重症敗血症の合併による循環不全を考えます
      • その他、アルコール性ケトアシドーシス(AKA)や糖尿病ケトアシドーシス(DKA)も血ガスで判断できます
    • 血糖値
      • 高血糖+腹痛→DKA
      • 低血糖+腹痛→重症敗血症など
    • 電解質異常
      • 高カリウム血症で腹部症状を呈することもあります
      • 腎機能障害のある患者さんでは積極的に疑うようにします(心電図と併せて評価します)
  • 【エコー】
    • 腹部エコーで得られる情報は多岐にわたります。
    • バイタルサインが安定していない状況やCT撮影が困難な場合に威力を発揮します。
腹部エコーでみるべき所見
  • 【心電図】
    • 心窩部痛であれば急性冠症候群の可能性を考え、心電図をとります
    • 透析患者など、腎機能障害がある患者さんでは、高カリウム血症の症状として腹痛や心窩部痛を訴える場合があります。こういった場合にも心電図は有用です

まとめ

  • ルーチンで「病歴」、「バイタルサイン」、「腹部所見」、「血ガス・エコー・心電図」 は忘れないように
  • 病歴は、OPQRSTの形式でもれなくとる
  • バイタルサインでは、軽度の意識障害呼吸回数が重要
  • 腹部所見をとる際、ズボンをおろし、手術痕やヘルニアの有無を確認する。板状硬をみたら上部消化管穿孔を考える
  • 血ガスでは
    • 代謝性アシドーシス、血糖値、電解質異常(特に高カリウム血症)をcheck
  • 腹部エコーは超強力な武器
  • 心窩部痛は急性冠症候群を疑い、心電図をとる

参考文献

以下の文献を参考にさせていただき、まとめました。

  • Gilani SN, Bass G, Leader F, Walsh TN. Collins’ sign: validation of a clinical sign in cholelithiasis. Ir J Med Sci. 2009 Dec;178(4):397-400. doi: 10.1007/s11845-009-0404-7. PMID: 19685000.
  • 身体所見のメカニズム A to Zハンドブック 原書2版 Mark Dennis (著), William Bowen (著), Lucy Cho (著), 内藤 俊夫 (監修, 翻訳), 志水 太郎 (翻訳)
  • 救急外来 ただいま診断中!第2版 坂本 壮 著
  • ブラッシュアップ急性腹症 第2版 窪田 忠夫 (著)

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