最近、救急外来や内科で頚原性頭痛を疑わせる患者を経験したのでまとめました。
1. 頸原性頭痛(CEH)の概念と疫学
頸原性頭痛(Cervicogenic Headache:CEH)は、1983年にノルウェーの脳神経内科医であるSjaastadらによって提唱された疾患概念です。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)においては、「頸部疾患による頭痛」のサブフォーム(11.2.1)として分類されています。本疾患は、頸椎を構成する骨組織、椎間板、あるいは関節や筋肉などの軟部組織の病変に起因して発生する二次性頭痛であり、頸部痛を伴う点が特徴です。
日常診療においては、単なる頸部痛や緊張型頭痛として処理されやすく、適切に診断されていない症例が多数存在します。しかしながら、統計的には慢性頭痛全体の15%から20%を占めると報告されており、日常の診療現場で頻繁に遭遇する疾患です。
一般人口における有病率は0.17%から4.1%と算出されており、平均罹病期間は8年におよびます。このように長期間にわたって症状が固定化し、慢性化しやすい傾向を示します。さらに、CEH患者の50%で薬剤使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を併発し、42%で片頭痛を重複して発症していることが判明しています。
本邦において、手術を必要とした頸椎疾患患者70例を対象に行われた前方視的調査では、ICHD-3の診断基準を満たすCEHの併発率は21.4%(15/70例、総説文献上の表記では21.7%)であったと報告されています。欧米の手術症例における合併率の報告(86〜88%)と比較すると数値自体は低いものの、手術を要する頸椎疾患患者の約5人に1人が頭痛を併発している計算になります。欧米人と比較して日本人は脊髄髄腔面積が狭い解剖学的特徴を有しており、頸椎変形性疾患を発症しやすい傾向があります。超高齢社会を迎えた現在の日本において、頸椎疾患の増加に伴いCEHの潜在的患者数も増加していくことが予想されます。
2. 臨床症状の特徴と主要な頭痛との鑑別診断
CEHの頭痛は、中等度から重度の強さであり、性状は非拍動性かつ持続的で重苦しい痛みとして表現されます。最大の臨床的特徴は「Side-locked(片側固定性)」である点です。頭痛の発生部位が左右どちらか一方に固定され、反対側へ症状がシフトしない性質を持ちます。痛みは後頭部や頸部から発症し、前頭部や眼窩周囲(三叉神経第1枝領域)へと放散します。患側の頸肩腕痛を伴うことも多く経験されます。
症状悪化のトリガーとなるのは、頸部の運動、不自然な頭部姿勢の維持、あるいは後頭下部や上位頸椎に対する指圧刺激です。
日常診療で遭遇する主要な一次性頭痛との鑑別点を整理して記載します。
- 性別:片頭痛では女性が極めて多いのに対し、CEHは女性にやや多い傾向が見られますが研究報告によってばらつきが存在します。緊張型頭痛は女性にやや多い傾向を示します。
- 痛みの強さ:片頭痛は重度、緊張型頭痛は軽度から中等度であるのに対し、CEHは中等度から重度の強さを示します。
- 痛みの性状:片頭痛は拍動性の痛みを示し、緊張型頭痛は鈍痛や締め付け感を呈しますが、CEHは非拍動性の重苦しい痛みを特徴とします。
- 偏側性:片頭痛は左右が入れ替わる偏側性を示し、緊張型頭痛は両側性ですが、CEHは片側固定性(Side-locked)を示します。
- 痛みの放散:CEHは後頭部から前頭部や眼窩部へ放散する特徴的なパターンを示します。
- 私個人が経験した患者さんでは、「右眼のまわりが痛い」「左の顔が痛い」といった症状でした。
- トリガー:CEHは頸部の運動、不自然な姿勢、局所への物理的圧迫によって明らかな誘発が見られます。
- 血清CGRP:片頭痛では発作時に上昇しますが、CEHでは上昇を認めません。
片頭痛との鑑別において重要な知見として、CEH患者の血清中ではカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の上昇が認められないという報告が存在します。この事実は、CEHにおいては片頭痛のような三叉神経血管系の直接的な活性化を伴っていない可能性を示唆しています。
さらに、後頭神経痛との鑑別も必要となります。後頭神経痛は刺すような鋭い激痛が数秒から数分間持続する発作性の痛みであり、頭皮の発赤や異常感覚を伴う点で、持続的な重苦しさを主訴とするCEHとは明確に異なります。
3. 病態生理と発症メカニズム
「なぜ首の病変によって、顔や目の奥に痛みが生じるのか」というメカニズムについて解説します。

■三叉神経頸髄複合体(TCC)における収束理論
上位頸神経(C1〜C3)の感覚求心性線維は、髄腔内へ進入した後に三叉神経脊髄路核尾側亜核へと至ります。この部位は三叉神経からの一次求心線維も入力する場所であり、両者が一体となって三叉神経頸髄複合体(Trigeminocervical Complex:TCC)を形成しています。
上位頸椎の関節、椎間板、靭帯、あるいは筋肉から生じた侵害刺激がTCCへ入力されると、中枢神経系はそれを三叉神経第1枝(V1)領域からの刺激として誤認します。この解剖学的収束現象によって、首の異常が前頭部や眼窩周囲の痛みとして知覚されます。
■中下位頸椎(C4〜C8)病変に起因する病態メカニズム
従来、CEHの原因はC1〜C3の上位頸椎病変に限られると考えられていました。しかし、手術を施行したCEH患者の全例でC4以下の病変が認められるなど、中下位頸椎病変に起因する事例が多数報告されています。この病態を説明する説として、以下の2つの仮説が提示されています。
- Spinocervicothalamic tract説 通常、中下位頸神経根からの温痛覚刺激は脊髄後角で交叉し、対側の脊髄視床路を上行します。これに対し、侵害入力の一部が交叉を行わずに同側のSpinocervicothalamic tract(脊髄頸髄視床路)を上行し、上位頸髄の外側頸髄核などを経由してTCCと解剖学的な連絡を持つという病態仮説が提唱されています。ヒトにおける外側頸髄核の発達には個人差があり、これは病態仮説の段階ですが、C4以下の低位頸椎病変で頭痛が生じるメカニズムとして考察されています。
- 代償的過動説 中下位頸椎の変形や可動域制限が存在すると、頭部可動域を保つために上位頸椎が代償的に過剰な運動を起こします。この持続的な機械的刺激がTCCを過剰刺激し、頭痛を惹起するという理論です。
4. 診察手技と画像検査
診断を進めるにあたり、画像検査の評価には注意を払う必要があります。
画像検査(MRI/CT)の限界と注意点
頸部MRIで検出される軽微な椎間板隆起や変性所見は、それ単独ではCEHの確定診断にはつながりません。研究報告によると、CEH患者群の45%に椎間板隆起を認めた一方で、無症状の健常者群においても同率の45%に同様の画像異常が確認されています。さらに、17歳の若年者を対象とした調査では、67%に下位頸椎を中心とした椎間板変性が認められましたが、頭痛の発症とは関連を示しませんでした。
画像上の変化のみで判断せず、症状や物理診察所見と照合して慎重に評価を行う必要があります。
診察手技
診断精度を高めるために、以下の身体所見を確認します。
- Cervical Flexion Rotation Test(CFRT)
- 患者の頸椎を最大屈曲位に保ち、その状態のまま頭部を左右へ回旋させます。正常な回旋角度は約44度ですが、10度以上の回旋制限または痛みの誘発が認められた場合に陽性と判定します。感度・特異度ともに80〜90%前後と高い診断能力が報告されています。ただし、CFRTは主にC1/C2レベルの上位頸椎可動性を評価する検査です。そのため、C4以下の低位頸椎病変に起因するCEHではCFRTが陰性となる可能性があり、テストが陰性であってもCEHを直ちに否定することはできません。
- 陽性・陰性だけで診断を動かすというより、いつもの頭痛が再現されるかを併せて確認し、C1/2への徒手療法が効きそうかを見積もる材料として使うのが実際的です。
- 以下URLに手技の動画があります。
- 頸部直線牽引テスト
- 患者さんの頭部を軸方向にまっすぐ持ち上げ、頭痛が軽快するかを見ます。
- 手を離して痛みが戻れば、頸部の関与を示唆する所見の1つになります。
- 触診と圧痛点チェック
- 後頭下部、上位頸椎の周囲、および乳様突起周囲を丁寧に指圧します。
- 局所の圧痛と、左右非対称な筋緊張の有無を確認します。
5. 集学的治療アプローチと神経ブロック
CEHは単一の薬物療法に対して抵抗性を示す傾向があります。アセトアミノフェン、NSAIDs、トリプタン製剤の効果は限定的であり、オピオイドの投与は中毒や依存のリスクが高いため避ける必要があります。プレガバリンなどの神経障害性疼痛治療薬が頭痛日数を減少させたという報告があり、処方の選択肢となります。
薬物療法のみに頼らず、神経ブロックを組み合わせた集学的アプローチが推奨されます。
大後頭神経・小後頭神経ブロック
後頭部から頭頂部にかけての圧痛や放散痛に対して有効です。
- ランドマークの確認:乳様突起と外後頭隆起を結ぶ仮想線上で、走行する神経の圧痛点を指圧で探します。
- 穿刺手順:27G針で0.1〜0.2mLの皮内麻酔(膨疹をつくるイメージ)を行った後、23G針などを用いて該当部位へアプローチし、アナペインを5mL注入します。
- 注意点:針を曲げて使用する場合、曲げる作業は1回のみにとどめます。何度も折り曲げ直すと金属疲労により針が折損する危険が生じます。また、屈曲させた針には事故防止のためリキャップを行わないよう徹底します。圧痛点を正確に触知することが成功の鍵となります。
自験例
どのような診察手技や画像検査よりも、患者の日常生活や作業姿勢を深く追及する問診こそがCEH診断の決定的な鍵となります。私が経験した症例を提示します。
症例1:40代男性、漁師
主訴は4か月間持続する右眼周囲の痛みでした。眼科、脳外科、脳神経内科を順を受診し、血液検査、抗体検査(ANCA等)、脳CTおよびMRI検査を実施したものの、一切の異常が認められませんでした。問診では電気が走るような痛みとジワーっとした痛みが混在し、仕事中に増悪する傾向が示されました。群発頭痛で観察される夜間覚醒や自律神経症状(結膜充血や鼻汁)は認められませんでした。
診断の決定的な突破口となったのは、詳細な作業内容の聞き取りでした。患者に日々の動きを細かく確認したところ、「漁に出ない不漁期の数か月間、下を向いたまま網を伸ばして修復する作業を毎日長期間続けていた」という事実が判明しました。
首を下に向けて固定する持続的な作業姿勢が上位および中下位頸椎に過度な負担をかけ、TCCを介して右眼周囲に痛みを引き起こしていたと診断されました。
症例2:72歳女性
2日前からの右頭頂部痛で受診しました。「自分は何もしていない」と本人は語っていましたが、生活状況を丁寧に掘り下げた結果、3日前に手伝いなしで1人でいもの苗250個を畑に植え付けていたことが判明しました。中腰で首を持ち上げる姿勢の持続が原因でした。
症例3:中年男性、管理職
8月から始まった目の奥の痛みで受診しました。CTやMRIは正常でした。詳細に生活変化を聞き取ると、学生時代に乗っていたロードバイクを8月から再開していたことがわかりました。強い前傾姿勢とヘルメットの重みが頸部に持続的緊張を強いていたことが痛みの起因でした。
症例4:18歳女性
5日前からの頭痛で受診し、受診直前2日間で激痛へと悪化しました。3月の受験勉強終了直後のタイミングであり、スマホを長時間見込む姿勢が重なっていました。大後頭神経の圧痛を認め、ブロック注射と牽引療法により改善しました。
患者さんは自らの「普段の動作」を特別なこととして認識しておらず、問診で「何も不自然なことはしていない」と回答することが多々あります。
医師側が患者の職業、趣味、生活スタイルに深い関心を持って耳を傾ける姿勢が求められます。
「どのような姿勢で、どのような作業を、何時間行っていたのか」を、頭の中で映像として明確に再現できるレベルまで詳細に聴き取る臨床技術が、CEHの正確な診断へと導くと私は考えてます。
参考文献
- 「頸原性頭痛の臨床」下畑敬子,下畑享良, BRAIN and NERVE 72 巻 3 号 2020 年 3 月


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