JRC蘇生ガイドライン2025:第2章 成人の二次救命処置(ALS)改訂点・踏襲事項まとめ

救急

成人の二次救命処置(ALS)におけるJRC蘇生ガイドライン2025の改訂次項や踏襲次項等を、前版であるJRC蘇生ガイドライン2020と照らし合わせつつ、個人的に気になったものをまとめました。


Ⅰ. 今回の改訂で新たに導入、または大幅に変更された事項(新設・改訂)

1. 薬物投与経路の優先順位(静脈路を優先、骨髄路は代替へ)

  • CQ: 骨髄路での血管確保は静脈路より転帰を改善するか?
  • 2025年推奨: 成人の心停止における初回の薬物の投与経路として、静脈路を第一選択とすることを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 2C)。
  • 2020年版との違いと背景: 2020年版の段階では、静脈路が速やかに確保できない場合に骨髄路(IO)が早期に推奨される風潮がありました。しかし、最新のランダム化比較試験(PARAMEDIC-3試験など)において、骨髄路群は静脈路群に比べて自己心拍再開(ROSC)率や生存率が劣る、または同等以下であることが示されました。これを受け、2025年版では「静脈路が2回の試行以内に確保できない、または迅速に確保できない場合」に代替ルートとして骨髄路を考慮するという位置づけにトーンダウンし、静脈路を明確に第一選択と位置づけました。

2. 難治性VF/無脈性VTに対する新たな除細動戦略(DSEDおよびベクトルチェンジ)

  • CQ: 心停止中の二重連続電気ショック(DSED)は難治性ショック適応リズムの転帰を改善するか?
  • 2025年推奨: 3回以上の電気ショック後も心室細動(VF)または無脈性心室頻拍(pVT)が持続する成人の心停止患者に対して、DSED(弱い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 2C)またはベクトルチェンジ(VC)による電気ショック(弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)の実施を考慮することを提案する。
  • 2020年版との違いと背景: 2020年版には記載がなかった新規の推奨項目です。これまでは標準的な配置での除細動を繰り返すのみでしたが、3回以上の初期ショックに反応しない難治性VF/pVTに対し、2台の除細動器を用いてほぼ同時にショックを行うDSEDや、電極パッドを前胸部・背部に貼り直して電気ショックの経路(ベクトル)を変えるVC電気ショックが考慮可能となりました。

3. 自己心拍再開(ROSC)後の体温管理療法(目標温度を37.5度以下に維持する発熱予防へ)

  • CQ: ROSC後の体温管理は転帰を改善するか?
  • 2025年推奨:
    • 心停止から自己心拍再開後も昏睡状態が続く成人患者に対しては、37.5度以下を目標に、能動的・積極的に発熱を予防することを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 2C)。
    • 自己心拍再開直後に、冷たい生理食塩水などの大量かつ急速な輸液を静注して冷却を図る、院外での冷却のルーチン使用は行わないことを強く推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性:中等度、Grade 1B)。
    • 体温管理を行う場合には、表面冷却または血管内冷却技術を使用することを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 2C)。
  • 2020年版との違いと背景: 2020年版では、32度から36度を目標温度とする低体温療法がルーチンとして広く支持されていました。しかし、大規模臨床試験(TTM2試験など)において、33度の低体温管理と、厳格な発熱予防を伴う正常体温管理(37.5度以下維持)の間で生存率や神経学的予後に差がなく、低体温群で肺炎などの合併症が有意に多かったことが報告されました。これを受け、一律の33度低体温療法の強要は弱まり、37.5度以下を維持する「能動的発熱予防」が第一の目標として新たに合意されました。また、院外での冷滅生理食塩水の急速大量静注については、肺水腫や再心停止などの有害事象が確認されたため、強い非推奨(Grade 1B)へと変更されました。

4. バソプレシンと副腎皮質ステロイドの併用療法の非推奨

  • CQ: CPR中のバソプレシンとステロイドの併用は転帰を改善するか?
  • 2025年推奨:
    • 成人の院内心停止に対して、蘇生中の通常治療に加えてバソプレシンと副腎皮質ステロイド薬の併用をしないことを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:低〜中等度、Grade 2B, 2C)。
    • 成人の院外心停止に対して、蘇生中の通常治療に加えてバソプレシンと副腎皮質ステロイド薬の併用をしないことを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い〜低い、Grade 2C, 2D)。
  • 2020年版との違いと背景: 以前は良好な結果を示した一部の臨床試験を根拠に、併用を考慮する議論がありましたが、その後の系統的レビューにおいて一貫した予後改善エビデンスが確認されなかったため、今回の2025年版において「併用は行わない」という制限の提案が新たに明記されました。

5. カルシウムのルーチン投与制限の厳格化

  • CQ: CPR中のカルシウム使用は転帰を改善するか?
  • 2025年推奨:
    • 成人の院外心停止患者に対して、カルシウムをルーチンに投与しないことを推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性:中等度、Grade 1B)。
    • 成人の院内心停止患者に対して、カルシウムをルーチンに投与しないことを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 2C)。
  • 2020年版との違いと背景: 従来からカルシウムのルーチン投与は推奨されていませんでしたが、2025年版では院外心停止において「強い非推奨(Grade 1B)」、院内心停止において「弱い非推奨(Grade 2C)」と、明確に厳格な投与制限が推奨グレードとして新設・区分されました。

6. 超音波(POCUS)による心停止中の原因診断

  • CQ: 心停止の原因診断のために、CPR中のPOCUS(エコー検査)は転帰を改善するか?
  • 2025年推奨:
    • 心停止の可逆的原因を診断するために、心肺蘇生(CPR)中にPOCUSをルーチンには行わないことを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)。
    • 経験豊富なスタッフがCPRを中断することなく実施できる場合は、特定の可逆的原因が疑われる臨床的状況において、診断方法の追加としてPOCUSを実施することを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)。
  • 2020年版との違いと背景: エコー検査中の画像描出のために胸骨圧迫が不適切に中断されるリスクが厳しく指摘されるようになり、2025年版において、ルーチン使用を避けるという明確な制限的推奨(Grade 2D)が新設されました。

7. ROSC後の血中酸素・二酸化炭素の管理基準の適正化

  • CQ: ROSC後の酸素分圧、二酸化炭素分圧の目標値を設定した治療は転帰を改善するか?
  • 2025年推奨:
    • 成人心停止においてROSC後、SpO2(経皮的酸素飽和度)を確実に測定できるまでは、100%吸入酸素の使用を推奨する(院外:強い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 1D / 院内:強い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 1C)。
    • ROSC後、低酸素血症(SpO2が90%未満など)を避けることを推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 1D)。
    • 動脈血酸素分圧(PaO2)を測定してからは、高酸素血症を回避することを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 2C)。
    • 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の目標値は35〜45 mmHgとすることを提案する(弱い推奨、エビデンスの確実性:中程度、Grade 2B)。
  • 2020年版との違いと背景: 2025年版の新規系統的レビューに基づき、高酸素による有害事象(活性酸素発生や脳血流低下)と低酸素血症による障害の双方を防ぐため、ROSC直後から段階的に酸素濃度を調整する管理アルゴリズムが細分化・新設されました。

8. 特殊な状況:腹臥位患者に対するCPR

  • CQ: 腹臥位のままのCPRは、仰臥位に戻して行うCPRより転帰を改善するか?
  • 2025年推奨: 確実な気道確保がまだ行われていない状態で腹臥位にある時に心停止が発生した場合、できるだけ早く患者を仰臥位にしてCPRを開始することを推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 1D)。
  • 2020年版との違いと背景: 重症呼吸不全に対する腹臥位療法が増加した臨床現場の要求に応え、2025年版にて気道確保未完了例における仰臥位復帰を強く推奨する具体的な基準が新設されました。

Ⅱ. JRC蘇生ガイドライン2020の推奨方針が引き継がれた事項(踏襲)

1. 高度気道管理における戦略(BVM換気 vs SGA vs 気管挿管)

  • 2025年推奨:
    • 高度な気道確保器具が使用されていない成人のCPRにおいては、換気比として30:2を提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)。
    • 院外心停止において気管挿管の成功率が低ければSGA(声門上気道)デバイスの使用を、成功率が高ければSGAまたは気管挿管の使用を提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:低い〜非常に低い、Grade 2C, 2D)。
    • 院内心停止においては、高度な気道確保戦略にSGAデバイスの使用もしくは気管挿管を提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)。
  • 2020年版との連続性: 2020年版に示された高度気道管理の基準とタイミング方針がそのまま踏襲されています。

2. 血管収縮薬(アドレナリン)の投与プロトコル

  • 2025年推奨:
    • 非ショック適応リズム(PEA/心静止)では、CPR中にできるだけ早くアドレナリンを投与することを推奨する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、強い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 1D)。
    • ショック適応リズム(VF/無脈性VT)で電気ショックが不成功な場合には、できるだけ早くアドレナリンを投与することを提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)。
    • アドレナリンの代わりにバソプレシンを投与しないことを提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)。
  • 2020年版との連続性: アドレナリンの投与タイミング、および代替薬としてのバソプレシンの否定は、2020年版を完全に踏襲しています。

3. 抗不整脈薬(アミオダロンおよびリドカイン)

  • 2025年推奨:
    • ショック抵抗性のVF/無脈性VTを呈する成人に対して、アミオダロンまたはリドカインの使用を推奨する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 2C)。
    • ショック抵抗性のVF/無脈性VTを呈する成人に、マグネシウムをルーチンに使用しないことを提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)。
  • 2020年版との連続性: 2020年版の抗不整脈薬選択およびマグネシウム非推奨の原則が引き継がれています。

4. 炭酸水素ナトリウムなどの緩衝液投与の基準(ルーチン投与の回避)

  • 2025年推奨: 効果がある特別な状況(高カリウム血症など)を除き、炭酸水素ナトリウムなどの緩衝液を院外・院内心停止患者にルーチンに投与しないことを提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:低い〜非常に低い、Grade 2C, 2D)。
  • 2020年版との連続性: 2020年版で示されていたルーチン投与を避ける原則が踏襲されています。

5. 体外循環式心肺蘇生(ECPR)の導入基準

  • 2025年推奨: 従来のCPRでROSCしない、一定の基準を満たした成人の院外・院内心停止に対し、実施可能な施設においてはECPRの導入を考慮することを提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:低い〜非常に低い、Grade 2C, 2D)。
  • 2020年版との連続性: 2020年版における、一定条件を満たす症例への考慮という控えめな位置づけ(弱い推奨)を完全に踏襲しています。

6. ROSC後の管理における、血糖、抗菌薬、ステロイド方針

  • 2025年推奨:
    • 血糖管理: 標準的な血糖管理プロトコルを変更しないことを提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:中程度、Grade 2B)。
    • 予防的抗菌薬: 予防的抗菌薬投与を行わないことを提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:低い、Grade 2C)。
    • ステロイド: 自己心拍再開後の副腎皮質ステロイド投与の効果について、それを推奨あるいは否定するエビデンスは不十分であり、JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲する。
  • 2020年版との連続性: いずれも2020年版の管理指針をそのまま受け継いでいます。

7. 特殊な状況:肺血栓塞栓症による心停止

  • 2025年推奨: 心停止の原因が肺血栓塞栓症であることが確認された、または強く疑われる心停止患者に対して、外科的血栓除去術、機械的血栓除去術、または血栓溶解薬の投与、あるいはECPRの導入を考慮することを提案する(JRC蘇生ガイドライン2020を踏襲、弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低い、Grade 2D)。
  • 2020年版との連続性: 2020年版の方針を踏襲しています。

Ⅲ.まとめ

  • 血管確保ルートは、骨髄路に逃げず静脈路を最優先する(Grade 2C)。
  • 3ショック抵抗性VF/pVTには、DSED(Grade 2C)やベクトルチェンジ(Grade 2D)の検討が公式選択肢に加わった。
  • ROSC後の体温管理(TTM)は、33度冷却のルーチン化から「37.5度以下を目標に、積極的に発熱を予防する」(Grade 2C)へと移行した。
  • 高度気道管理(BVM/SGA/気管挿管、Grade 2C, 2D)やアドレナリン投与(非ショックは早期のGrade 1D、ショック適応は3回後Grade 2D)は、2020年版の方針が揺るぎなく踏襲された。

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