IDSA(米国感染症学会)とESCMID(欧州臨床微生物学感染症学会)が共同で策定した、2026年版の黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)に関する新しい臨床診療ガイドラインが発表されました。
従来の「複雑性・非複雑性」という分類に代わり、患者のリスク層別化に基づいた個別化された診断と治療の枠組みを提案しています。成人と小児の両方を対象とし、持続的な血液培養、心エコー検査、全身画像診断などの詳細な評価手順を定義しています。特に、深部感染巣や転移性病巣の見落としを防ぎつつ、不要な抗生剤投与を避けるための14日間の標準治療期間など、根拠に基づく7つの合意声明が示されています。
これまでのSAB管理の従来のアプローチと、今回の2026年版ガイドラインとの最大の違いについては、以下の重要な変更点が挙げられています。
「複雑性(complicated)」「非複雑性(uncomplicated)」という分類の廃止
2026年版のガイドラインで導入された「リスク層別化と診断・治療のフレームワーク」は、従来の「複雑性(complicated)/非複雑性(uncomplicated)」という主観的で不正確な分類による弊害(潜在的な病巣の見逃しによる過少治療や、不必要な長期抗菌薬投与による過剰治療)を克服するために設計されました。
この新しい枠組みは、SABが非常に複雑で、時間とともに状態が変化する動的な疾患であるという前提に基づき、以下の4つのステップで個別化された管理を行います。

以下の「4つのステップ」を表すであり、その最大の目的は、潜在的な感染巣の見逃しリスクを最小限に抑えつつ、深部感染巣や転移性感染巣が確認されない患者への不必要な抗生物質の長期投与(過剰治療)を避けることです。
ステップ1:全患者に対する標準的な「初期評価」
すべてのSAB患者に対して、まずは網羅的な初期評価が行われます。
- 詳細な病歴聴取と身体診察:深部感染巣や転移性感染巣の兆候、およびリスクファクターの有無を評価します。
- 初期の診断検査:最初の血液培養陽性から48時間後のフォローアップ血液培養(FUBC)と、経胸壁心エコー検査(TTE)を実施します。
- 初期対応:中心静脈カテーテルが留置されている場合は、血行性合併症や再発のリスクを下げるために迅速に抜去することが推奨されます。また、診断評価と管理を導くために感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨されています。
ステップ2:「低リスク」または「リスク増加」への層別化
初期評価の結果をもとに、深部感染巣や転移性感染巣、または再発の「リスクファクター」の有無によって患者を2つのグループに分けます。
- 低リスク(Low-risk SAB):臨床評価および初期診断評価(FUBCやTTE)において深部・転移性感染巣の兆候が一切なく、リスクファクター(市中発症、48時間以降の血液培養陽性、心内デバイスの存在など)を1つも持たない患者です。
- リスク増加(Increased-risk SAB):リスクファクターを少なくとも1つ以上持つ患者です。
💡 ここが重要:リスクの「動的」な評価
この枠組みの最大の特徴は、「リスクは連続的であり、治療の過程で変化する」と定義している点です。初期段階で「低リスク」と判断された患者であっても、その後の経過で「リスク増加」に再分類されることがあります。そのため、継続的な臨床評価と身体診察の繰り返しが不可欠とされています。
Increased-risk SABとは?
「リスク増加(Increased-risk SAB)」の判断基準となるリスクファクターは、深部感染巣、転移性感染巣、または感染の再発と関連する要因として、以下の2つのカテゴリーに分けて定義されています。
これらのリスクファクターを少なくとも1つ持っている場合、その患者は「リスク増加(Increased-risk SAB)」に分類されます。
1. 主要なリスクファクター
悪化や再発と一貫して関連することが示されている、特に重要な3つの要因です。
- 市中発症のSAB(Community-onset SAB): 入院前または入院から48時間以内に発症した菌血症。
- 48時間以降の血液培養陽性: 最初の血液培養が陽性となってから48時間以上経過した後に採取された血液培養でも、引き続き陽性となる場合(持続する菌血症)。
- 心臓内デバイスの存在: 人工心臓弁、永久ペースメーカー、植え込み型除細動器、左室補助人工心臓などが体内にある場合。
2. その他の重要なリスクファクター
上記の主要な3つに加えて、以下のいずれかがある場合も「リスク増加」とみなされます。
- 心臓弁の素因: 過去の心内膜炎の既往、人工弁、過去の弁修復術、先天性心疾患など、心臓の弁に感染しやすい状態がある場合。
- 静脈内薬物使用(Injection drug use)。
- 血管内グラフト: 血管壁にある合成バイパスグラフトなどの存在。
- 過去90日以内のSAB発症(再発の疑い)。
- 深部または転移性感染巣の兆候や症状: 身体診察などで、心内膜炎や骨髄炎などを疑わせる症状がある場合。
- 塞栓イベント: 感染した血栓などが血流に乗って他の部位に飛び、梗塞や新たな感染を引き起こしている場合(例:肺塞栓、脳塞栓など)。
- 複数の非隣接感染巣: 離れた複数の場所に感染の病巣が見つかった場合。
- 感染巣が不明: 適切な初期評価を行っても、菌血症の原因となった感染源が特定できない場合。
SABの患者が、これら2つのカテゴリーに含まれる項目のうち「合計で1つ以上」でも当てはまる要素を持っていれば、「リスク増加(Increased-risk SAB)」として分類され、より詳細な検査や評価が推奨されることになります
ステップ3:リスクに応じた「個別化された診断評価(追加検査)」
層別化されたリスクに応じて、追加の診断アプローチを行います。
- 低リスク患者の評価:このグループに分類された成人患者は、基本的にはFUBCとTTEによる初期評価以上の追加検査を必要としません。
- リスク増加患者の評価:患者ごとの特徴や症状に応じたオーダーメイドの追加検査が必要です。複数のリスクファクターがあったり、持続的に血液培養が陽性となる患者は、より徹底した検査が求められます。
- 経食道心エコー(TEE)の活用:TTEが陰性であっても、心内膜炎のリスク因子がある場合はTEEを検討します。
- 全身画像診断の活用:適切な初期評価を行っても感染巣が特定できない場合、[18F]FDG-PET/CTなどの全身画像診断や、疑わしい部位への特異的なCT・MRI等の画像診断を組み合わせて潜在的な病巣を探し出します。
ステップ4:最終診断の確定と治療期間の決定
個別化された徹底的な診断評価を経た後、最終的に「深部感染巣/転移性感染巣が【ある】SAB」か「【ない】SAB」かに分類し、治療方針を決定します。
- 感染巣が【ない】と診断された場合(治療期間:14日間): 低リスク患者であっても、リスク増加患者(徹底的な追加検査で結局病巣が見つからなかった場合)であっても、抗生物質による治療期間は一律「14日間」が推奨されます。このアプローチにより、不必要に長期間の抗生物質を投与するリスク(過剰治療)を回避できます。
- 例外(14日間超の治療):リスク増加患者において、長引く菌血症があり、かつ診断評価が不十分であったり質が限られている場合など、深部感染の懸念が完全に払拭できない状況では、14日を超える治療コースを検討すべきとされています。
- ソースコントロールの徹底:感染巣(深部・転移性)が確認された場合は、感染源の除去やドレナージ(ソースコントロール)を迅速に行うことが、死亡率の改善や菌血症の早期クリアランスに不可欠です。
※なお、上記は主に「成人患者」を対象としたフレームワークです。小児においては、深部感染巣リスクが低い集団を明確に定義する十分なデータがないため、全例で深部感染巣がないか慎重に評価することが推奨されています。
小児のSAB
. ■小児特有のリスクと感染巣の傾向
- 低リスク群の定義は困難: 成人のように「低リスク」と明確に分類できる基準は、小児においてはデータが不十分であるため確立されていません。そのため、すべてのSABの小児患者において、深部感染巣がないか慎重に評価することが推奨されています。
- 筋骨格系の感染が多い: 市中発症の小児SABでは、臨床的または診断的に感染巣が特定できることが一般的であり、その最も一般的な原因は筋骨格系の感染(骨髄炎など)です。
- 新生児・未熟児における特別な注意: 新生児のSABは、年長児と比較して感染巣が特定されにくい一方で、心内膜炎の発症率が高いという特徴があります。この心内膜炎リスクの高さは、併存疾患や侵襲的な処置(カテーテルなど)が必要となる環境に起因していると考えられており、年長児とは区別して特別な注意を払う必要があります。
■個別化された診断アプローチ(血液培養・画像・エコー)
小児患者においては、検査による負担やリスク(採血量、鎮静、被曝など)を最小限に抑えつつ、適切な診断を行うことが重視されています。
- フォローアップ血液培養(FUBC): 成人と同様に、最初の陽性から48時間後に採取し、その後は陰性になるまで24〜48時間ごとに繰り返すことが推奨されます。ただし、小児では患者の年齢や体重に応じた適切な採血量とボトル数に配慮することが重要であり、多くの若年小児では、適切に満たされた血液培養ボトル1本で十分な感度が得られるとされています。
- 心エコー検査(TTEとTEE):
- 経胸壁心エコーは、構造的心疾患がある場合、菌血症が長引いている場合、心内膜炎を疑う症状がある場合にルーチンで実施すべきですが、これらの要因がなく疑いが低い場合は省略可能です。
- 経食道心エコー(TEE)は、若年の小児においてはTTEを上回る診断的有用性が限られていること、また麻酔などのリスクを伴うことから、基本的には実施しないことが推奨されます。TTEが陰性または判定不能であり、かつ心内膜炎の疑いが非常に強い場合にのみ、小児循環器科医と相談のうえ検討します。
- 全身画像診断(PET/CTなど): 小児で臨床的に予期せぬ感染巣が見つかることは比較的稀です。そのため、全身画像診断は、適切な標的評価を行っても感染巣が特定できずSABが持続しているような慎重に選択された状況でのみ検討すべきとされています。とくに新生児や非常に幼い乳児は病気が広く播種する可能性があるため、リソースと臨床状態が許せば、全身画像診断の検討が正当化される場合があります。
■抗生物質の治療期間
- 基本は14日間: 適切な評価後に深部感染巣や転移性感染巣の証拠がない、その他は健康な小児患者に対しては、成人と同様に「14日間」の抗生物質投与が推奨されます。
- 14日間を超える治療の検討: 先天性心疾患や血栓がある、または最初の陽性から48時間以降も血液培養が陽性となるなど、血管内感染のリスクがありながらも診断評価が不完全であったり質が限られている小児患者の場合には、14日間より長い治療期間を検討する必要があります。
総じて、小児のSABは成人向けの「リスクファクターに基づく機械的な分類」よりも、年齢(特に新生児かどうか)、身体診察に基づく症状、および先天性心疾患の有無などをベースにした、より個別で慎重なアプローチが求められます。
参考文献
- 2026 Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America and European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases on Staphylococcus aureus Bacteremia: Risk Stratification, Diagnostic Evaluation, and Management of Adults and Children


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