- 先日、典型的なClostridioides difficile(CD)感染症を経験し、「そもそも下痢を伴わないCD感染症ってあるのだろうか・・・・・」と文献を調べていると腸管外CD感染症について記載されている論文がありました。
- 聞いたことはあったなぁという程度(お恥ずかしながら)でしたので、改めて調べてみました。
- 「Mpakogiannis, K.; Fousekis, F.S.; Elemes, S.; Mantellos, E.; Christaki, E.; Katsanos, K.H. Extraintestinal Manifestations of Clostridioides difficile Infections: An Overview. Antibiotics 2025, 14, 670. https://doi.org/10.3390/antibiotics14070670」 を参考にまとめました。
1. 疫学と発生機序
Clostridioides difficile(CD)は主に偽膜性大腸炎などの腸管疾患を引き起こしますが、稀に腸管以外の部位に影響を及ぼすことがあります。
- 頻度: 腸管外症状は、報告されている全CD感染症の1%未満と非常に稀です。
- 発生機序: 複数の機序が考えられているようです(Table3)。
- まず炎症や手術による腸管バリアの破壊で菌が血流に移行し、血行性播種によって脳や骨などの遠隔部位へ広がります。
- また、外傷や手術部位への胞子の直接接種も主要な経路となります。
- さらに、放出された毒素による損傷が全身の炎症を誘発するほか、抗原に対する免疫介在性の反応によって反応性関節炎などが引き起こされると説明されています。
- リスク因子: 65歳以上の高齢者、広域抗菌薬の使用、入院歴、PPIの使用といった一般的なCDIのリスクに加え、癌、糖尿病、心疾患、肝・腎疾患、免疫不全などの基礎疾患を持つ患者に多く見られます(Table 1)。


2. 臨床的特徴:下痢を伴わないCDIへの注意
典型的なCDIは激しい水様下痢を伴いますが、腸管外CD感染症においては「下痢を伴わないケース」が複数報告されており、診断のピットフォールとなります。これらは患者が無症候性保菌者であり、何らかの理由で血流感染を起こした可能性を示唆しています。
【下痢を伴わずに発症した症例報告例】
- CNS感染: 脳膿瘍において、下痢の既往がない患者から菌が分離された例。
- 骨・関節感染: 慢性脊椎骨髄炎において、消化器症状が全くない状態で発症した例。
- 心血管感染: 市中感染として、最近の手術・入院・抗菌薬使用・下痢のいずれもない状態で感染性動脈瘤が発生した例。
- 特殊な例: 妊婦において、下痢を伴わない提示(non-diarrheal presentation)でSIADHを合併した例。
3. 主な症状の分類
腸管外症状は、大きく「感染性」と「非感染性」に分けられます(Table 2)。

① 感染性症状(直接的な菌の播種)
- 腹部・骨盤腔内感染: 脾膿瘍、肝膿瘍、膵膿瘍、腹膜炎など。腸管外症状の中で最も頻度が高いタイプです。
- 菌血症・敗血症: 死亡率は20〜40%と高く、多くの場合、他の腸内細菌も同時に検出されます。
- 骨・関節感染: 人工関節置換術後の感染や、鎌状赤血球症患者における化膿性関節炎(血行性)など。
- 胸部感染: 膿胸や胸水。外科手術や外傷などの医原性要因に関連することが多いです。
② 非感染性症状(免疫学的機序など)
- 反応性関節炎(ライター症候群): 最も一般的な非感染性症状です。下痢の発症から約10日後に、手首、足首、膝などの関節に痛みや腫れが現れます。
- その他: 極めて稀ですが、タコツボ症候群の報告もあるようです。
4. 治療
- 抗菌薬治療: メトロニダゾールおよびバンコマイシン(静脈内投与)が基本です。心血管感染や骨髄炎などの深部感染では、6週間以上の長期投与が必要になる場合があります。
- 外科的処置: 膿瘍(脳、肝、脾など)や関節感染、人工物感染では、抗菌薬に加えてドレナージや壊死組織の除去、人工物の撤去が不可欠です。血管感染では血管外科的介入が必要です。
- 反応性関節炎への対応: 通常はNSAIDsや鎮痛剤で改善し、約90%で経過良好です。活動性の腸炎がない限り、関節炎自体への抗菌薬追加のメリットは少ないとされています。
参考文献
- Mpakogiannis, K.; Fousekis, F.S.; Elemes, S.; Mantellos, E.; Christaki, E.; Katsanos, K.H. Extraintestinal Manifestations of Clostridioides difficile Infections: An Overview. Antibiotics 2025, 14, 670. https://doi.org/10.3390/antibiotics14070670


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