PPN(特にビーフリード)の使いどころ・使い方

内科
末梢静脈栄養法はいつ行うか
  • 栄養の基本は「経口」で「腸を使う」です。これはゆるぎないです。 
  • しかし意識がなかったり、嚥下機能が廃絶していたり、腸を利用できない患者さんもおられます。そういった際に必要になってくるのが輸液です。
  • そのなかでも中途半端で扱いにこまるPPN(Peripheral Parenteral Nutrition)。どういった状況でPPNを行うのか、明確な答えを持たないまま診療していることも多いのではないでしょうか。少なくとも私はそうです。この記事を書いていてもやはり明確な答えはでてません(じゃあ記事にするな!と突っ込まれそうですが・・・)。
  • 現時点で調べてわかったこと、自身の解釈も交えて記載したいと思います。
  • TPNについてはまたいずれ別の記事にしたいと思います。
総合内科病棟マニュアル 病棟業務の基礎 筒泉 貴彦(編集) 山田 悠史(編集) 小坂 鎮太郎(編集) より引用

輸液において考えるべき成分

PPNの話に入る前に、まずは輸液の基礎からです。

輸液において考えるべき成分は、大きく分けて①水分、②電解質、③栄養の3つの目的に基づいて構成されます。

具体的には、数日間の絶食や水分補給を目的とする輸液と、本格的な栄養補給を目的とする「栄養輸液(PPN・TPN)」のどちらを行うかによって考慮すべき成分が変わります。

■体液の恒常性を維持するための輸液では、以下の成分を中心に配分を考えます。

  • 水分:1日に必要な目安は約30 mL/kg
  • ナトリウム(Na):1日に最低限必要な目安は約2 mEq/kg
  • カリウム(K):1日に最低限必要な目安は約1 mEq/kg
  • ブドウ糖(糖質):脳のエネルギー源を確保し、体内のタンパク質の異化(分解)を防ぐため、1日100 g程度を含める必要があります。

■栄養輸液で追加考慮すべき成分(アミノ酸・脂肪・微量栄養素)

絶食が長期間に及ぶ場合や、十分な栄養補給が必要な場合(末梢静脈栄養:PPN、中心静脈栄養:TPN)は、糖質と電解質に加えて以下の成分をバランスよく配合する必要があります。

  • アミノ酸:筋肉の減少(不可避窒素損失)を防ぎ、生体のタンパク質を合成するための材料として必須です。通常は1.0 g/kg/日程度を基本とします。
  • 脂肪(脂肪乳剤):糖質だけに偏らない高効率なエネルギー源(9 kcal/g)として重要であり、必須脂肪酸欠乏症の予防や脂肪肝の防止のためにも併用が推奨されます。
  • ビタミン:絶食が続く場合は特にビタミンB1の補給が重要で、不足するとウェルニッケ脳症や乳酸アシドーシスを引き起こす危険があります。TPNでは総合ビタミン剤が必須です。
  • 微量元素:鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などです。特に亜鉛などは欠乏しやすいため、長期のTPN管理などでは必ず補給を考慮します。

これらを患者の病態や必要エネルギー量、投与ルート(末梢静脈か中心静脈か)に合わせて組み合わせることが基本となります。

必要なエネルギー・栄養

必要なエネルギー

総カロリーをどう決めるかに関して明確なコンセンサスはありませんが、主に以下の方法で算出されます。

  • 簡易式「体重 × 30 kcal/日」が1つの目安とされます。
  • 1日エネルギー消費量(TEE)の算出を算出
    • TEE = BEE × 活動係数(AF) × ストレス係数(SF)
      • HOKUTO様の計算ツールを使用しています。
      • 年齢・身長・体重から基礎エネルギー消費量(BEE)を計算し、そこに患者の状態に応じた「活動係数(ベッド上安静なら1.2など)」や「ストレス係数(重症感染症なら1.5など)」を掛け合わせて算出します。
  • 目標設定の注意点:これらの計算式は根拠に乏しい部分もあり、実際に計算すると過多になることが少なくありません。そのため、計算値にとらわれすぎず、実際の食事摂取量や患者の状態をモニタリングしながら調整を行うことが重要です。

※Refeeding症候群への配慮 長期の絶食患者など低栄養状態の患者に急激に栄養を投与すると、電解質(リン、マグネシウム、カリウム、ビタミンB1など)が一気に消費されて枯渇し、心不全や呼吸不全などを引き起こす「Refeeding症候群」のリスクがあります。そのため、このような患者では10 kcal/kg/日から投与を開始し、少しずつ栄養を増やしていくことが推奨されています。

三大栄養素のバランス

三大栄養素(タンパク質4kcal/g、糖質4kcal/g、脂質9kcal/g)は、それぞれ以下の基準でバランスよく摂取する必要があります。

  • タンパク質(アミノ酸):筋肉を維持するために極めて重要であり、「体重1kgあたり1g」が目安とされています。
  • 糖質(ブドウ糖):体重あたりの換算ではなく、まずは「1日100g」を摂取すべきとされています。これは、飢餓状態で100gのブドウ糖を投与した方が筋肉を維持できたという研究に由来します。
  • 脂質「総カロリーの20〜30%程度」の摂取が推奨されます。点滴のみの栄養が長期間にわたる場合は、脂質が欠乏して乾皮症などの皮膚トラブルを招くため、脂肪乳剤(イントラリポスなど)を適宜追加する必要があります。

タンパク質を効率よく使うための指標:NPC/N比

  • タンパク質を体内で効率よく働かせるためには、タンパク質ばかりを摂取するのではなく、糖質や脂質といった「非タンパクカロリー(NPC)」をバランス良く摂取する必要があります。
  • この理想的な比率を示すのがNPC/N比であり、静脈栄養では「150〜200」、経腸栄養では「120〜150」を目標に設定します。
  • HOKUTO様の計算ツールを使用しています。

PPN

そもそもPPNとは

PPNとは、末梢静脈栄養法のことです。末梢静脈から、栄養素を含んだ輸液を投与する方法を指します。

■どのような時に行うか

  • 主に、静脈からの栄養補給が「短期間」で済むと予想される場合に選択されます。
  • 一時的な絶食が必要で、近いうちに食事が再開できそうな患者が対象となります。
  • PPNは2週間以内を目安とします(可能であればもっと短く)。

■投与できる成分と「浸透圧」の制限

  • アミノ酸を含んだ糖電解質液を基本とします。
  • ただし、末梢の細い血管を痛めて血栓性静脈炎を起こすのを防ぐため、血液の浸透圧の約3倍(浸透圧比3以下)、pHは中性に近く、滴定酸度ができるだけ小さい製剤しか投与できないという厳しい制限があります。

■PPNの限界と対策

  • カロリー不足
    • 浸透圧の制限があるため、PPN製剤はエネルギー密度が低くなっています。
    • 1日に必要なカロリーをPPNだけでまかなおうとすると、水分量が過剰になってしまうため注意が必要です。
  • 脂肪乳剤との併用が必要
    • このカロリー不足を補うため、エネルギー密度が高い「脂肪乳剤」を併用することが推奨されています。
    • 脂肪乳剤は浸透圧に関与しないため、PPN製剤と同時に投与することで浸透圧を下げ、静脈炎を予防する効果もあります。また、アミノ酸を効率よく筋肉合成に使うためのNPC/N比を適正に保つうえでも有用です。
  • ビタミン類の補充
    • アミノ酸加糖電解質液の基本製剤にはビタミンが含まれていないため、必要に応じてビタミン剤を追加投与する必要があります(※代表的なPPN製剤である「ビーフリード」などにはあらかじめ少量のビタミンB1が配合されていますが、不足に注意が必要です)。

長期間の栄養投与が必要になったり、高カロリーの輸液が必要になったりした場合には、PPNではなく太い血管から投与するTPN(中心静脈栄養)へ切り替える必要があります。

ビーフリードあれこれ

ビーフリードの組成【カロリーはたったの210kcal/500mL】

  • PPN製剤の中でよく使われているのは「ビーフリード」ではないでしょうか。
  • ビーフリードの組成は以下のとおりです(薬剤師P(やくP)様の素晴らしいまとめを引用させていただきました)。
  • ビーフリードは「維持液(3号液)に栄養(アミノ酸など)が入っているイメージ」です。
  • 基本となる水分補給の役割や、メインの電解質(ナトリウム、カリウム、クロール)、およびブドウ糖(糖質)の濃度(約7.5%)は、ソルデム3AGとビーフリードでほぼ同じです。
  • ビーフリードにあって、ソルデム3AGにない成分
    • ビーフリードは、ソルデム3AGに以下の成分を足し算した組成になっています。
    • アミノ酸(30g/L):長期間ベッドで過ごす絶食患者の筋肉の分解(不可避窒素損失)を防ぐための重要な栄養素です。
    • ビタミンB1:絶食時に枯渇しやすいビタミンで、ウェルニッケ脳症などを予防します。
    • 追加の電解質・微量元素:ソルデム3AGには含まれていないカルシウム、マグネシウム、リン、亜鉛が追加されています。
「薬剤師P(やくP)~ブログ始めました~」様のXの投稿より引用させていただきました。

  • つまり、ビーフリードは水分と基本の電解質を補うソルデム3AG(維持液)に、アミノ酸という栄養と、各種ビタミン・微量元素を追加した「3号液の強化版」と言えます。
  • ただし、栄養が入っているといってもカロリー自体は1本(500mL)あたり210kcalと決して多くはないため、長期間の栄養管理には適していない点には注意が必要です。個人的には以下の写真が印象的です。これで長期的に栄養が賄えるとは思えませんよね。。。
「やぎざいし」様のX投稿より引用させていただきました

ビーフリード使用にあたっての注意点

■感染リスク
  • ビーフリードはアミノ酸や糖質、リン、亜鉛などを含み、pHも中性に近いため、万が一汚染された場合、セラチア菌やセレウス菌(Bacillus cereus)といった細菌が非常に速いスピードで増殖します。
  • セレウス菌血症のリスクと時間制限:アミノ酸輸液の長時間のダラダラとした投与は、致死的なセレウス菌血症(カテーテル関連血流感染症)を引き起こす重大なリスクファクターです。
  • そのため、1袋(500mL)の投与時間は原則として「6〜8時間以内」とするよう推奨されております。私も6時間以内に投与するよう気をつけています。
■圧倒的なカロリー不足
  • 単独では栄養失調に陥る
    • 上述のようにビーフリード1本(500mL)には210kcalのエネルギーと15gのアミノ酸しか含まれていません
    • 末梢静脈から投与できる限界量である1日3本(1,500mL)を投与しても、合計で630kcalにしかなりません
  • 絶食患者に対して、ビーフリード単独での栄養管理を漫然と1週間以上続けることは明らかなカロリー不足を招くため、使用は3〜5日間程度の短期間に留めるか、後述の脂肪乳剤の併用、あるいは中心静脈栄養(TPN)への切り替えを検討する必要があります。
■なぜ脂肪乳剤と併用するのか

ビーフリードにイントラリポス(脂肪乳剤)を追加する理由は、決してカロリーの不足を補うだけではありません

大きく分けて、以下の3つの重要な理由があります。

1. アミノ酸を「筋肉の維持」に効率よく使わせるため(NPC/N比の改善)

タンパク質(アミノ酸)が筋肉などの合成にしっかり使われるためには、糖質や脂質といった「非タンパクカロリー(NPC)」を同時にバランスよく投与する必要があります。このバランスを示すのが「NPC/N比」という指標で、静脈栄養では150〜200程度が理想とされています。 しかし、ビーフリード単独ではこのNPC/N比が「64」とかなり低い状態です。このままでは、せっかく投与したアミノ酸が筋肉の維持に使われず、単なるエネルギー源として消費されてしまいます。ここにエネルギー効率の高いイントラリポスを追加することでNPC/N比が改善し、アミノ酸を本来の目的で有効活用できるようになります。

2. 必須脂肪酸欠乏症の予防

人間の体内では合成できないため、外から摂取しなければならない「必須脂肪酸(リノール酸やα-リノレン酸など)」が存在します。ビーフリードをはじめとする一般的なアミノ酸輸液には、脂質が全く含まれていません。 絶食状態で脂質を投与しない期間が長引くと、約4週間で必須脂肪酸欠乏症が発症し、皮膚の乾燥や脱毛、免疫低下、血小板減少などの症状を引き起こします。これを予防するためには、脂肪乳剤の投与が必須となります。

3. 脂肪肝の予防

栄養を点滴で補う際、糖質(ブドウ糖)だけに偏った栄養投与を行うと、処理しきれなかった余剰の糖質が肝臓で脂肪に変換され、「脂肪肝」を引き起こす原因となります。 人間の体は脳が糖質を、筋肉や心筋が脂質を主な燃料とするなど、臓器によって必要なエネルギー源が異なります。そのため、糖質だけに偏らずイントラリポスを併用してバランスよく脂質を供給することは、肝臓への負担を減らし、脂肪肝を予防・改善する上で極めて重要です。

脂肪乳剤の投与方法や速度
  • 混合の禁忌とフィルターの注意
    • 脂肪乳剤をビーフリードと同じバッグに直接混合すると、脂肪粒子が粗大化・凝集し、肺塞栓などの重大な合併症を引き起こすため絶対に禁忌です。
    • また、脂肪乳剤の粒子(0.2〜0.3μm)は感染予防に用いる0.22μmのインラインフィルターを通過して目詰まりを起こすため、必ず「フィルターよりも患者側の側管(下流)」から接続して投与しなければなりません。
  • 脂肪乳剤の投与速度
    • MAXで0.1g/kg/hrまでです。以下の表を参考に指示を出します。
イントラリポスの投与速度 換算表
  • ビーフリードを投与しながらイントラリポスを側管から流してよいか?
    • 問題ないです。点滴ラインの途中で2つの液が合流するため「混ざってしまうのでは?」と不安になるかもしれませんが、以下の理由から安全とされています。
    • しかし「バッグ内混合」は禁忌
      • 同じ点滴バッグの中にビーフリードと脂肪乳剤を注入して混ぜ合わせることは、長時間混ざった状態が続くことで脂肪粒子が粗大化・凝集し、肺塞栓などの致命的な合併症を引き起こす危険があるため絶対に禁忌です。
    • 同時投与のメリット
      • ビーフリード単独では浸透圧比が「3」と末梢静脈の限界値であり、血管痛や静脈炎を起こしやすいという弱点があります。
      • しかし、ここに浸透圧に関与しない脂肪乳剤を側管から同時に合流させることで、血管へ入る際の全体の浸透圧を下げることができ、血栓性静脈炎の予防に非常に有用であるとガイドラインでも推奨されています。
    • 投与後の生食フラッシュは「絶対に必要」
      • イントラリポスの投与が終了した後は、必ず生理食塩水(20mL程度)で十分にフラッシュを行ってください。脂肪は細菌など微生物が繁殖するための絶好の温床となります。
      • ルートや接続部に脂肪乳剤が残存したまま放置すると、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)などの重大な感染リスクが高まるため、速やかにルート内を洗い流す必要があります。なお、この際ヘパリンは使用せず、必ず生理食塩水を用います。
■浸透圧による静脈炎と血管痛
  • 上述のようにビーフリードの浸透圧比は「3」であり、これは末梢静脈から投与できる浸透圧の限界値です。
  • 血管への刺激が非常に強く、静脈炎や血管痛を引き起こしやすいという欠点があります。血管外に漏出した際の皮膚障害(壊死など)を懸念して使用を避ける医師もおり、静脈炎を防ぐためにも末梢静脈カテーテル(留置針)は96時間以内に入れ替えることが推奨されます。
■配合変化と、特定の病態における「禁忌」
  • セフトリアキソンとの同時投与禁忌
    • ビーフリードにはカルシウムが含まれています。
    • 抗菌薬の「セフトリアキソン(ロセフィンなど)」と同一経路で同時投与すると、難溶性の結晶(セフトリアキソンカルシウム塩)が析出し、肺や腎臓に詰まって死亡に至る危険があるため併用禁忌です。
  • 肝性脳症の悪化
    • アミノ酸のバランスを変えてしまうため、肝性脳症の患者には症状を悪化させる懸念から投与禁忌です。
  • 腎不全患者
    • ビーフリードはNPC/N比が低く、タンパク質合成に通常以上のエネルギーを要する腎不全患者にとっては窒素負荷(BUNの上昇など)となりやすいため、カリウム含有の問題も含め使用は避けるべきとの指摘があります。
■ビタミンB1の過信とリフィーディング症候群
  • ビタミンB1は十分ではない:ビーフリードにはウェルニッケ脳症などを予防するためのビタミンB1が配合されていますが、1000mLあたり1.92mg(500mLあたり約0.75〜0.96mg)しか含まれていません。低栄養患者に推奨されるビタミンB1投与量は「1日3mg以上」であるため、ビーフリードを投与していても必要量に達せず不足する可能性があります。
  • リフィーディング症候群の警戒:長期の絶食患者に対して急に栄養投与を開始すると、リン、カリウム、マグネシウムなどの電解質が一気に枯渇して心不全などを招く「リフィーディング症候群」のリスクがあります。投与前および投与中は定期的に血液検査を行い、的確なモニタリングをすることが必須です。

参考文献

  • 総合内科病棟マニュアル 病棟業務の基礎 筒泉 貴彦(編集) 山田 悠史(編集) 小坂 鎮太郎(編集)
  • 日本静脈経腸栄養学会「静脈経腸栄養ガイドライン-第3版- Quick Reference」
  • 国家試験後の臨床〈レジデントが学ぶべき100のこと 渡部 晃平(著) 日本医事新報社
  • 中心静脈栄養法と末梢静脈栄養法 井上善文 診断と治療 vol.109-no.3 2021 (81)
  • 栄養輸液も理解しないと適切な栄養管理はできない!井上 善文臨床栄養Vol.145 No.5 2024.10
  • 栄養輸液 アミノ酸製剤・脂肪製剤の使い分け 伊地知秀明内科 120(1):115~120, 2017
  • 静脈栄養剤の種類と選択:微量栄養素にも注目すべき 井上善文 臨床栄養Vol.142 No.4 2023.4
  • 脂肪乳剤の投与速度 投与量 投与経路 井上善文 臨床栄養Vol.143 No.7 2023.12
  • 特集 栄養療法のコツとピットフォール-実践力アップに活かす最新情報 (Part 2)静脈経腸栄養のコツとピットフォール 末梢静脈栄養(PPN)の有用性と課題 大村 健二 , 小林 このみ 臨床栄養 141巻4号 (2022年9月発行)

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