アルコール性ケトアシドーシス

内分泌・代謝内科
酒飲みの腹痛 AKAかも
  • アルコール性ケトアシドーシス(AKA)は、慢性的なアルコール多飲を背景とし、栄養不良(飢餓)と脱水が複雑に重なることで発症します。
  • 血液ガス検査では著明なアシドーシスや頻呼吸を呈するものの、比較的重症感に乏しく意識が清明であることが多いのが特徴です。
  • 増加するケトン体の主成分(β-ヒドロキシ酪酸)は一般的な尿検査では検出されないため、「尿ケトン体が陰性」でもAKAを除外してはいけません
  • 鑑別が重要な糖尿病ケトアシドーシス(DKA)とは異なり、血糖値は正常〜低値であることが多く、しばしば乳酸アシドーシスを合併します。
  • インスリンは使用せず、糖入りの細胞外輸液とビタミンB1製剤の投与が治療の基本であり、適切に対応すれば数時間で急速に回復に向かいます。
  • 高血糖緊急症についての記事はこちらからご覧ください

疫学と概要

アルコール性ケトアシドーシス(AKA)は、慢性的なアルコール多飲歴のある患者が、発症の数日前から飲酒量が増加し、嘔吐や腹痛といった消化器症状をきっかけに食事摂取不良や脱水状態に陥ることで発症します。 かつてはあまり知られていないまれな疾患と考えられていましたが、大酒家は容易にケトーシスに傾きやすく、決してまれな疾患ではありません。

ある救急搬送の観察研究では、アルコール関連疾患の43%でケトン体濃度の増加が認められたり(横山雅子, et al. 日救急医会誌 2002; 13: 711-7.)、単一の施設で9ヶ月間に74例ものAKAが報告されたりしています(Wrenn KD, et al. Am J Med 1991; 91: 119-28.)。また、アルコール依存患者の突然死の原因としても注目されています。

症状と身体所見

AKAの患者は、著明なアシドーシスを呈している割には、比較的重症感に乏しいのが特徴です。純粋なAKAでは意識障害はなく、意外に元気そうに見えることが多くあります(ただし低血糖を合併すると意識障害を呈します)。

  • 主な症状: 数日間持続する嘔気、嘔吐、腹痛などの消化器症状が最も多くみられます。他にも、筋肉痛、めまい、呼吸困難など多彩な症状を呈します。
  • 身体所見: 脱水やアシドーシスに伴う頻脈頻呼吸がみられます。頻呼吸は代謝性アシドーシスを見抜く重要なサインです。また、多くの症例で肝腫大や腹部の圧痛を認めますが、反跳痛や筋性防御といった腹膜刺激症状には乏しいのが特徴です。

AKAとDKAの比較(検査値と病態)

AKAとDKAは、どちらもアニオンギャップ開大型の代謝性アシドーシスをきたしますが、病態や検査値に明確な違いがあります。

比較項目アルコール性ケトアシドーシス (AKA)糖尿病ケトアシドーシス (DKA)
主な原因慢性アルコール摂取、栄養不良、脱水インスリン作用の不足
血糖値正常〜低値(低血糖の合併も約12%)著明な高値(例: 500mg/dL以上)
ケトン体の主成 β-ヒドロキシ酪酸が著明に優位
(BOHB/アセト酢酸比は約7) 
β-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸
(BOHB/アセト酢酸比は約3)
尿ケトン体
(定性)
陰性〜弱陽性のことが多い(陽性率は約56%)ほぼ陽性(感度が非常に高い)
乳酸値高い(乳酸アシドーシスを合併しやすい比較的低い
治療の基本糖入り細胞外輸液、ビタミンB1、電解質生理食塩水、インスリン投与

ピットフォール

AKAの診療においては、いくつかの重大なピットフォールが存在します。

① 尿ケトン体が陰性でもAKAは否定できない

一般的な尿ケトン体定性検査(試験紙法)は「アセト酢酸」しか検出できません。AKAでは、アルコール代謝によりNADH/NAD+比が上昇し、アセト酢酸のほとんどが「β-ヒドロキシ酪酸」に変換されてしまうため、尿検査ではケトン体が引っかからない(偽陰性になる)ことが多々あります。尿ケトン体が陰性でもAKAを除外してはいけません

■POCT(Point of Care Testing)

ベッドサイド、診察室、救急現場などで、その場で迅速に結果を得ることができる検査のことです。

通常、採血をして検査室や外部の機関で分析(例えば血中総ケトンなど)を行うと、結果が出るまでに数日から1週間程度の時間がかかってしまいますが、POCTの機器を用いることで、いちいち検査室に回す時間の余裕がない状況でもすぐにデータを把握できます。

場所を選ばない:血液ガス分析装置のような大がかりな設備がないクリニックや、一刻を争う救急・ICUの現場でも、小型のPOCT機器があれば重篤な疾患(ケトアシドーシスなど)を迅速に疑い、適切な対応をとることができます。

その場で迅速・定量的:患者さんの状態を反映する数値(3-ヒドロキシ酪酸など)がその場で定量的に分かり、時間単位での経過観察が可能になります。グルコース測定の検体量はわずか1.2μLで、測定時間は6秒、ケトン測定の検体量はわずか0.8μLで、測定時間は10秒とされています (https://www.siemens-healthineers.com/jp/diabetes/diabetes/statstrip-xpress900)。

医療用の高い精度:患者さん自身が使用する自己血糖測定器(SMBG)とは異なり、医療施設向けに作られているため、さまざまな薬剤の影響がある場合や、極端な高血糖などでも、より広範囲かつ高精度で信頼性の高いデータが得られます。

自施設で採用しているStatStrip Xpress。

② 複雑な酸塩基平衡異常の合併

慢性アルコール依存患者のアシドーシスはケトン体だけが原因ではありません。アルコールの代謝過程で乳酸産生が亢進するため、乳酸アシドーシスを頻繁に合併します。さらに、嘔吐による代謝性アルカローシスが加わることもあり、pHの数値だけでは病態を単純に判断できません。

③ 重篤な裏の疾患の存在

腹痛や嘔吐がある場合、AKAによる症状であることもあれば、急性膵炎や消化管出血、敗血症などが原因で二次的にAKAを発症しているケースもあります。腹膜刺激症状などがある場合は、これら外科的・重篤な腹部疾患を念頭に置く必要があります。

④ 治療中の低リン血症とインスリンの危険性

AKAの治療にはインスリンは不要です。むしろ、インスリン投与は低血糖のリスクを高めるだけでなく、細胞内へのリンの移動を促し、重篤な低リン血症を増悪させる危険性があります。

治療方法

AKAは適切な治療を開始すれば急速に(DKAの半分以下の時間で)改善することが多い可逆的な疾患です。

  • 糖入りの細胞外輸液: 5%ブドウ糖液や5%ブドウ糖加生理食塩液などを投与し、脱水状態の改善とケトン体産生の抑制を図ります。
  • ビタミンB1の投与: 大酒家に多いウェルニッケ脳症を予防するため、基本的にビタミンB1製剤を補充します。
  • 電解質の補正: 患者は潜在的にカリウム、マグネシウム、リンなどが欠乏しています。特にブドウ糖投与に伴って急激に血清リン濃度が低下するため、注意深くモニターし、必要に応じて補充することが重要です。

このように、AKAの治療は単なるアシドーシスの補正だけでなく、慢性的な栄養障害を総合的に治療する視点が不可欠です。

アルコール性ケトアシドーシスの病態と発症の仕組み

アルコール性ケトアシドーシスの発症には、主に①栄養障害(飢餓)②慢性的なアルコール摂取③脱水という3つの要素が複雑に絡み合って病態を形成しています。

medicina Vol.56 No.8 2019-7 より引用

それぞれの要素がどのように発症に関わるのか、具体的な仕組みは以下の通りです。

1. 栄養障害による「飢餓状態」と脂肪の分解

AKAの患者は、重篤な糖質不足を含む慢性の栄養障害に陥っていることが多くあります。

  • 食事摂取不良により、肝臓に蓄えられているグリコーゲン(糖の貯蔵庫)が枯渇し、細胞内が飢餓状態になります。
  • これにより、血糖を下げるホルモンである「インスリン」の働きが低下し、逆に血糖を上げようとする「グルカゴン」などが増加します。
  • その結果、エネルギー不足を補うために脂肪細胞から遊離脂肪酸が血中に大量に放出され、これが肝臓で代謝(β酸化)されることで、ケトン体の原料となる「アセチルCoA」が生成されます。

2. アルコール代謝による「NADH/NAD+比の上昇」

慢性的なアルコール(エタノール)摂取自体も、ケトン体産生を強力に推し進めます。

  • エタノールは体内でアセトアルデヒドを経て「酢酸」に分解されますが、この代謝過程において、細胞内のNADH/NAD+比(還元型/酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド比)が著しく増加します。
  • さらに、代謝産物である酢酸は、直接ケトン体の原料である「アセチルCoA」へと変換されます。
  • 上昇したNADH/NAD+比は、糖新生やTCA回路の働きをストップさせてしまうため、行き場を失った大量のアセチルCoAが、一気にケトン体の産生へと回されます。

【β-ヒドロキシ酪酸と乳酸が増加する理由】

ケトン体として最初に作られるのは「アセト酢酸」ですが、細胞内がNADH過剰(還元状態)になっているため、アセト酢酸の大部分が「β-ヒドロキシ酪酸」へと変換されてしまいます。これが、AKAにおいてβ-ヒドロキシ酪酸が著明に優位になる(尿ケトン体検査で検出されにくい)メカニズムです。 同時に、このNADH過剰状態は、ピルビン酸から「乳酸」への代謝も促進するため、AKAでは乳酸値が高くなりやすい(乳酸アシドーシスを合併しやすい)という特徴も生み出します。

3. 脱水による「ケトン体の蓄積」

AKAの発症直前には、大量飲酒後の嘔吐や腹痛などによってアルコールすら飲めなくなり、著しい脱水状態に陥っていることが一般的です。

  • 脱水によって循環血液量が減少すると、体は危機を感じてストレスホルモンを分泌し、これがさらに血中の遊離脂肪酸を増加させてケトン体の産生を加速させます。
  • また、血液量が減ることで腎臓の血流も悪化し、尿中へのケトン体排泄が抑制されます。

このように、AKAは単なるアルコールの飲み過ぎだけでなく、「絶食によるエネルギー枯渇(脂肪分解の亢進)」、「アルコール代謝による生化学的な異常(ケトン体への変換促進)」、「脱水による排泄低下」の3つの悪条件が重なることで、血液中に急激にケトン体が蓄積し、重篤なアシドーシスを発症するメカニズムとなっています。

血液ガス測定ができない場合はどうするか

血液ガス分析装置がない、あるいは結果が出るまでに時間がかかる診療所などの環境では、病歴、身体所見、そして実施可能な簡易検査を組み合わせて他疾患と鑑別することが鍵となります。具体的な対応手順は以下の通りです。

1. 病歴と身体所見から疾患を絞り込む

  • 病歴の確認: アルコール多飲歴や過去のAKA発症歴がないかを確認します。
  • 「頻呼吸」の確認: 頻度が多く軽症な急性胃炎と鑑別する際、頻呼吸はAKAを含めた重篤な疾患(代謝性アシドーシス)を見抜くための重要なサインとなります。
  • 外科的疾患の除外: AKAでも上腹部の圧痛はみられますが、反跳痛や筋性防御といった腹膜刺激徴候には乏しいのが特徴です。これらの所見がある場合は、外科的な腹部疾患を強く疑う必要があります。

2. 簡易血糖測定によるDKA(糖尿病ケトアシドーシス)の除外

AKAと最も鑑別が重要なDKAを除外するために、簡易血糖測定を実施します。血糖値が低値から正常範囲にとどまっていれば、DKAの可能性は低くなります。なお、尿中ケトン体検査は偽陰性になることが多いため、陰性であってもAKAを除外できない点には引き続き注意が必要です。

3. 疑わしければ初期治療を開始し、高次医療機関へ搬送する

バイタルの異常や重篤感があり、簡易血糖検査でDKAを除外できた場合は、他の外科的疾患の可能性も念頭に置きつつ、AKAに準じた治療(糖入りの細胞外輸液とビタミンB1製剤の投与)を速やかに開始することが肝要です。

AKAは追加の検査や入院加療が必要となるため、初期対応を行いながら地域の急性期病院へ搬送する準備を整えます。AKAは適切な治療を開始すれば数時間で回復に向かうという特徴があるため、診療所で点滴をしている間に状態の改善が見られた場合は、その経過も搬送先に伝えることが重要です。

参考文献

  • 「中高年者の腹痛 診療所外来でのアルコール性ケトアシドーシスを見抜く,血液ガス測定ができない場合はどうする?」下川 純希・齊藤 裕之,medicina Vol.56 No.8 2019-7
  • 「尿ケトン体がケトアシドーシスでも陰性となる時」上田 剛士,総合診療 28巻3号 (2018年3月発行)
  • 「【コラム】アルコール性ケトアシドーシス—いまだ謎多き疾患」武居 哲洋,INTENSIVIST 7巻3号 (2015年7月発行)

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