※管理人所属の院内勉強会のメモです。
抗菌薬を投与しても経過が芳しくない場合、安易な抗菌薬の変更や漫然とした投与期間の延長を行うべきではない。原点に立ち返り、感染症診療のトライアングルである患者背景、感染臓器、原因微生物を常に見直す姿勢が求められる。具体的には以下の4つの視点からアプローチを行う。

1. 診断の再評価
初期診断に慢心せず、診断が誤っている可能性を常に考慮する。経過にそぐわない場合は当初の診断を撤回する勇気が必要である。誤診に気づいて訂正することは確定診断への起点となる。また、感染症ではなく非感染性疾患である可能性も検討すべきである。
たとえば蜂窩織炎の経過が合致しない場合は、深部静脈血栓症やうっ滞性皮膚炎などを疑って診断を見直す。
2. 原因微生物と抗菌薬のミスマッチの検討
診断が正しくても想定している菌と抗菌薬が合致していない可能性がある。
■細菌検査室へ自ら足を運ぶ
電子カルテに培養検査結果が反映されるのを待ってはならない。検体提出の翌朝には電子カルテの記載前に多くの有用な情報が得られている。自ら細菌検査室に足を運び、グラム染色の塗抹所見について検査技師と直接議論を交わして原因菌への考察を深める。初期治療が原因菌を外している可能性があると判断した場合は、培養検査結果の確定を待たずに速やかにより適切な抗菌薬へ変更する。
■培養結果を単独の根拠としない 培養検査で検出や同定された菌が必ずしも真の原因菌であるとは限らない。提出された検体に存在していただけの定着菌である可能性もある。そのため、単一の培養結果のみを根拠として安易に広域抗菌薬を選択することは慎むべきである。
■耐性機構を想定した薬剤選択を行う 培養検査結果に感受性ありと表示された抗菌薬のなかから機械的に選んではならない。確定した原因菌に対して推奨されている抗菌薬をまず確認する。耐性が示されていれば、その菌が持つ耐性機構を想定したうえで感受性のある抗菌薬を選択する。たとえば大腸菌や肺炎桿菌であればESBL産生菌を想定する。エンテロバクターやセラチアなどであればAmpC型ベータラクタマーゼを想定し、第3世代セファロスポリンの使用下では数日で耐性化しうるリスクを考慮する。
■適正使用分類に基づく選択を行う 感受性ありと表示されていても当該患者の治療に最適とは限らない。複数の抗菌薬が選択可能な場合には、世界保健機関が提唱するAWaRe分類に基づき、優先して使用すべきAccess群を選択する。医師の不安から広域抗菌薬を安易に使用することは、患者の腸内細菌叢を乱し将来の安全な抗菌薬治療の基盤を損なう行為であるため厳に慎むべきである。これまでの慣習や惰性に任せて抗菌薬を選ぶことは、目隠しをしたまま刃物を振り回すのと同じである。
3. 合併症や他の原因の検索
適切な抗菌薬を選択しているにもかかわらず経過が芳しくない場合、原疾患に伴う合併症の出現や、そもそも診断が異なる、あるいは別の病態が併発している可能性を検索する必要がある。疾患ごとに特有の合併症や播種病変を具体的に想定することが重要である。
腎盂腎炎において適切な治療を行っても3日を超えて発熱が遷延し、全身状態の改善が乏しい場合は、腎膿瘍や腎周囲膿瘍の合併を疑う。超音波や造影CTで評価し、直径3センチメートルを超える病変では泌尿器科へのドレナージ依頼を検討する。
胆道系感染症のうち胆管炎の遷延例や難渋例では、肝膿瘍の合併を考慮する。腸球菌などによる持続菌血症を認める場合は、感染性心内膜炎の合併も鑑別に挙げる。胆嚢炎では胆嚢穿孔および胆汁性腹膜炎をきたすリスクに留意する。
血流感染症全般において、腸腰筋や脾臓の深部膿瘍、化膿性関節炎、化膿性椎体炎などの播種病変の顕在化を常に念頭に置く必要がある。特に感染性心内膜炎では心不全や弁周囲膿瘍による伝導障害、敗血症性塞栓に注意を払う。カテーテル関連血流感染症では化膿性血栓性静脈炎が比較的高い頻度で発生する。
髄膜脳炎の治療経過中に痙攣を繰り返したり意識障害が遷延や増悪をしたりする場合には、脳膿瘍の合併を疑い造影MRIを検討する。頭頸部感染症では縦隔炎に至るリスクを、CD関連腸炎では中毒性巨大結腸症への進展をそれぞれ警戒する。
また、感染症の経過に合致しない場合は非感染性疾患の鑑別が不可欠である。薬剤熱、悪性リンパ腫などの血液疾患、自己免疫疾患などを鑑別に挙げる。蜂窩織炎の症状が遷延する場合、結節性紅斑や関節炎などを鑑別に加える。入院中の肺炎治療中に想定外の発熱やCRP上昇を認めた場合などは、偽痛風、カテーテル関連血流感染症、CD関連腸炎といった医原性合併症を検索する。
4. 効果判定の指標の確認
発熱やCRPは一面的なパラメータに過ぎず、それのみで抗菌薬の奏効や不奏効を判断することは避けるべきである。疾患ごとに臓器特異的な指標を主軸に置く必要がある。
蜂窩織炎において最も特異的な指標は局所の見た目と自覚症状である。局所の発赤や腫脹や疼痛が改善傾向にあれば、発熱やCRPの遷延があっても抗菌薬は奏効していると判断する。この場合、抗菌薬の無闇な変更や長期化は避け、薬剤熱や深部静脈血栓症など他疾患の検索へ移行する。
血流に菌が乗るような重篤な感染症において、治療効果を評価する上で最も重要なのは血液培養の陰性化である。発熱やCRPの改善のみを追うと、弁周囲膿瘍の形成や敗血症性塞栓、他臓器への深部膿瘍の顕在化を見逃すリスクがある。また、一度陰性化しても再度陽性化するスキップ現象にも留意し、複数セットでの再検査が推奨される。
順調に回復していると考えていた経過の中で発熱が遷延したりCRPが高止まりしたりする場合、それは抗菌薬が効いていないのではなく、合併症や別の問題が起きているという精査を要する重要なサインとして捉えるべきである。



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