UpToDateの「Candida infections of the bladder and kidneys」や各症例報告からまとめました。
症状
- 側腹部痛および/または腹痛: 側腹部の痛みは数日から数週間にわたって存在することがあります。
- CVA叩打痛・圧痛
- 腹部の圧痛
- 排尿痛、頻尿、恥骨上部の不快感: まったく症状が出ない患者もいます。
【発熱について】 一般的な細菌性の腎盂腎炎とは異なり、カンジダによる腎感染では発熱などの全身性の感染の兆候は「発熱は通常はみられない(欠如している)」とされています。
UpToDateの資料(Candida infections of the bladder and kidneys)の 「CLINICAL CHARACTERISTICS」 のセクション内に記載されています。
“Fever or other signs of systemic infection are usually absent.”
発症機序
カンジダが尿路に感染する経路には、主に「上行性感染」と「血行性播種」の2つのメカニズムが存在します。
- 上行性感染
- 下部尿路(膀胱)から上部尿路(腎臓)へと逆流することで感染が成立します。留置膀胱カテーテルの存在はバイオフィルムの形成を促し、カンジダの持続的な定着(コロニー形成)を容易にします。上行性感染による腎感染は、亜急性から慢性の経過をたどることが多く、腎盂や髄質に病変を形成します。この経路による感染は、主に糖尿病患者や尿路に解剖学的異常(尿路閉塞、神経因性膀胱など)を持つ患者に多く見られます。
- 血行性播種
- カンジダ血症などに伴い、血流を介して腎臓に到達する経路です。
- 真菌が血流に入ると通常は速やかに排除されますが、腎臓は真菌が一般的に増殖しやすい特異な臓器です。血行性播種に関連する腎感染は通常両側性であり、皮質と髄質に多数の小膿瘍を形成する特徴があります。
治療法
尿中からカンジダが検出された場合(カンジダ尿症)、患者の多くは無症状であり、単なる定着(コロニー形成)を示しているに過ぎないことが多いため、症状の有無で対応が分かれます。
① 無症候性の場合 全身への播種リスクが極めて高い特定の状況(好中球減少症、1500g未満の極低出生体重児、泌尿器科的処置を受ける予定の患者など)を除き、抗真菌薬による治療は推奨されません。無症候性の場合、膀胱カテーテルの抜去や使用中の抗菌薬の中止など、リスク因子の低減に焦点を当てるべきとされています。
② 症候性(カンジダ腎盂腎炎)の治療 発熱や側腹部痛などの症状を伴う腎盂腎炎は、適切な抗真菌薬による治療が必要です。原因となるカンジダ菌の感受性に応じて薬剤を選択します。
- フルコナゾール感受性カンジダの場合
- 第一選択としてフルコナゾール(200〜400 mg [3〜6 mg/kg] 経口投与、1日1回)が推奨されます。フルコナゾールは活性型のまま尿中に排泄されるため、大部分のカンジダ分離株を阻害するのに十分な尿中濃度を達成できるためです。腎盂腎炎の場合、治療期間は14日間とされています。
- フルコナゾール耐性カンジダの場合
- アムホテリシンBデオキシコレート(0.3〜0.6 mg/kg/日、静脈内投与)を1〜7日間投与することが推奨されます。腎盂腎炎では、これにフルシトシンを併用することもあります。また、外来患者や腎機能障害のある患者にはフルシトシン単剤療法が試みられることもありますが、Candida krusei には無効である点に注意が必要です。難治例や上記の薬剤が使用できない場合には、ミカファンギンを用いたサルベージ療法も選択肢となります。
- ミカファンギン(エキノキャンディン系薬)は尿中への移行性(排泄率)が極めて低いです。投与された薬剤の大部分が肝臓で代謝・分解されるため、尿路(膀胱や尿管、腎盂など)の空間で増殖するカンジダを殺菌するのに十分な尿中濃度に達しません。
- ではなぜ「サルベージ療法(最終手段)」としては選択肢に挙がるのかというと、尿中への移行は悪いものの、腎臓の組織(実質)そのものへの移行性は保たれているためです。したがって、フルコナゾール耐性菌であり、かつ腎毒性などの副作用でアムホテリシンBが使えないような非常に限定的な状況においてのみ、腎臓の組織内に及んだ感染を抑える苦肉の策としてミカファンギンが使用されることがあります。
⚠️ 治療における重要な注意点(使用すべきでない薬剤) アムホテリシンBの脂質製剤(リポソーム化アムホテリシンBなど)は、腎臓に十分に移行せず、有効な尿中濃度に達しないため、尿路感染症の治療には使用してはならないとされています。同様の理由から、ボリコナゾール、ポサコナゾール、イサブコナゾールなども尿中濃度が不十分となるため、代替療法がない場合を除き治療には推奨されません。
カンジダ腎盂腎炎は上行性か血行性かで治療方針がかわる?
変わります。上行性などの「局所的な尿路感染」と判断された場合は、尿中に高い濃度で移行するフルコナゾールなどの薬剤を中心とした治療が行われます。
一方で、血行性(カンジダ血症から腎臓へ波及した状態)が疑われる場合は、尿路感染症としての治療にとどまらず、「全身性のカンジダ感染症(カンジダ血症や侵襲性カンジダ症)」のガイドラインに従って全身治療を行う必要があります。
症例報告① −真菌球による膀胱閉塞:非典型的なCT所見−
腎盂腎炎まできたしたか、本文中には記載がありませんでしたが、fungus ballがみられた症例報告を紹介します。
【症例報告の概要】
- 論文名は「Urinary bladder obstruction caused by fungal balls: Unusual computed tomography findings – a case report」です。
- 中国の浙江大学医学部附属第4病院からの報告です。
- コントロール不良の糖尿病を持つ66歳男性の膀胱内に、多数の真菌球(fungus ball)が形成されたという稀な症例です。
- CT検査において、気腫性膀胱炎を伴うガスを含んだ多発結節像という特徴的な所見が確認されました。
- フルコナゾール投与を行いましたが真菌球は増大して膀胱を閉塞し、患者が外科的除去を拒否したため退院となりました。
以下に、背景、検査所見、治療のそれぞれについて詳しく解説します。
症例の背景
患者は66歳の男性で、1年以上にわたり尿中に微粒子(passing particulate matter in urine)が混じる症状があり、直近2ヶ月間で頻尿、尿意切迫感、血尿が悪化して受診しました。 最大の要因として、10年以上にわたるコントロール不良の2型糖尿病(メトホルミンとインスリンを使用)がありました。糖尿病による免疫機能の低下と、組織・尿中の高いブドウ糖濃度が、真菌が増殖しやすい絶好の環境を作ってしまったと考えられています。
(発熱の有無を含め、バイタルの記載はありませんでした。また血液培養(血培)が行われたか、あるいはそこからカンジダが検出されたかについての記載はありませんでした。)
検査・画像所見
- 血液・尿検査: 受診時の血糖値は23.31 mmol/L(約420 mg/dL)と極めて高く、白血球増多、CRP高値(4.69 mg/dL)を認めました。尿検査では多数の赤血球・白血球に加えて、尿糖(4+)が確認されました。
- 病理・培養検査: 尿道から自然に排出されたもろい腫瘤を病理検査したところ、カンジダ特有の数珠状の菌糸が多数確認され、尿培養検査により Candida tropicalis が同定されました。

- 腹部非造影CT所見:
- 膀胱内腔を満たすように、最大径約2.5cmの多発性の混合吸収値結節(平均CT値 -170 HU)が認められました。
- これらの結節は表面が不規則で、内部や表面に小さなガスを含んでいました。
- 膀胱内には液面形成を伴う著明なガス像があり、気腫性膀胱炎に一致する所見でした。
- 腸管と膀胱をつなぐ瘻孔などの形成は認められませんでした。

矢尻(arrowhead):気腫性膀胱炎のガス。膀胱内の上部に、著明なガス像が黒く抜けて映っています。また、ガスと尿の境界線である液面形成も確認でき、これは気腫性膀胱炎に一致する所見です。
その他、膀胱壁全体が分厚くなっている(びまん性肥厚)様子も観察されますが、腸管とつながるような瘻孔は確認されません。
治療と経過
患者に対しては、厳格なインスリン療法による血糖コントロールと、抗真菌薬であるフルコナゾール(1日400mg)の静脈内投与が開始されました。
しかし、治療開始から10日後のフォローアップCTでは、膀胱壁のガス像は消失したものの、真菌球の結節はサイズと数が著明に増大し、膀胱出口をほぼ完全に閉塞してしまいました・・・・・・。

矢印(arrow):増大・融合した真菌球。 入院時(Figure 1)と比較して、膀胱内の結節(真菌球)のサイズと数が著明に増加し、互いに融合しています。この巨大化した真菌球の塊が膀胱内腔をほぼ完全に埋め尽くしており、膀胱の出口をふさいでしまう「膀胱流出路閉塞」を引き起こしている状態がはっきりと捉えられています。
ガスの消失 入院時のCTで確認された、気腫性膀胱炎の特徴であった膀胱壁や膀胱内の著明なガス像は、この10日後の画像では完全に消失しています。
巨大化した真菌球に対しては抗真菌薬の全身投与だけでは不十分であり、膀胱鏡を用いた物理的な破砕・除去や洗浄といった外科的介入が必要です。しかし、医師からの必要性の説明にもかかわらず、患者が個人的な理由で侵襲的な処置を拒否したため、そのまま退院となり追跡不能となりました・・・・。
症例報告② −Candida albicansによる両側性気腫性腎盂腎炎の1例−
【症例報告の概要】
- 論文名:A case of bilateral emphysematous pyelonephritis caused by Candida albicans
- 報告国:日本(長崎大学、西神戸医療センターなどからの報告です)
- 概要:コントロール不良の糖尿病とステロイド内服歴を持つ91歳男性に発症した、Candida albicans による両側性気腫性腎盂腎炎(EPN)の致死的剖検例です。
- 経皮的カテーテルドレナージ(PCD)とフルコナゾール投与を行いましたが、真菌の完全なクリアランスは得られず、入院30日目に誤嚥性肺炎で死亡しました。
- 真菌性EPNは稀ですが糖尿病患者でリスクが高く、グラム染色による早期診断と、長期の抗真菌薬治療および確実なドレナージの重要性を示唆する報告です。
症例の背景
- 患者:91歳、男性。
- 既往歴:前立腺癌に対して酢酸クロルマジノンとデキサメタゾン(1 mg/day)を13年間内服。また、16年来の糖尿病があり内服治療中でしたが、HbA1c 9.9%とコントロール不良でした。入院前6ヶ月は寝たきり状態で、尿道カテーテル留置歴や尿閉の既往はありませんでした。
- 主訴・現病歴:10日間続く発熱、倦怠感、食欲不振で入院しました。
- 身体所見:意識清明、バイタルサインは比較的安定していましたが、左CVA叩打痛を認めました。
検査・画像所見
- 血液・尿検査:WBC 16,300/μL、CRP 18.3 mg/dLと強い炎症反応を認めました。血糖値 557 mg/dLと著明な高血糖状態であり、尿検査では血尿、蛋白尿、著明な膿尿(WBC >100/HPF)を認めました(Table 1)。

- 初期CT画像所見:単純CTで、両側腎嚢胞、左水腎症、および左腎・左尿路内にガス像を認めました。腎実質の壊死と実質内ガス像から、気腫性腎盂腎炎(EPN)と診断されました(初期は左側のみ)。

C(造影):左腎嚢胞の造影画像。
D(造影):腎嚢胞と腎盂間の交通(矢印)、および左尿路の閉塞(矢尻)を示しています。
- 微生物学的検査:左腎からのドレナージ排液のグラム染色にて、多数の好中球とともに仮性菌糸を伴う酵母様真菌を確認しました。その後の培養で C. albicans(10^5 CFU/mL)が単独で同定されました(血液培養は陰性)。

B(グラム染色):破砕した真菌球のグラム染色(×1000)。多数の好中球とともに、グラム陽性に染まる仮性菌糸を伴った酵母細胞が確認でき、早期に抗真菌薬を開始する決め手となった重要な所見です。
C:経過中に新たに発症した右水腎症のCT画像。
D(造影):右側尿路の造影画像。膀胱移行部付近での閉塞(矢印)を示しています。
治療と経過
- 初期治療:左腎嚢胞と左腎盂にPCDを留置し、当初は細菌性を疑いメロペネムを経験的治療として開始、同時にインスリンによる血糖コントロールを開始しました。
- 真菌の同定と治療変更:造影・カテーテル操作で左尿路の閉塞を解除したところ、大量の白色塊状の膿(真菌球)が膀胱へ流入しました。排液のグラム染色結果を受け、フルコナゾール(400 mg/日、静注)へ変更し、左腎盂・嚢胞・膀胱の生食による連日洗浄を開始しました。

- 両側性への進行(Class 4):診断から3日後に右水腎症を発症しました。右尿路も膀胱移行部で閉塞しており、右側にもPCDを追加したところ、排液から同一感受性の C. albicans が検出され、両側性EPNへの進行が確認されました。
- 転帰:3週間のフルコナゾール投与と持続ドレナージにより、炎症所見(WBC 5,800/μL, CRP 2.3 mg/dL)や臨床症状は改善傾向にありましたが、尿培養は陰性化せず(難治性)、入院30日目に誤嚥性肺炎で死亡しました。
- 剖検所見:両側腎の腫大、嚢胞、髄質炎を認め、左腎盂の膿から C. albicans を検出しました。病理学的に両側腎髄質の好中球浸潤と、左腎に酵母細胞が確認されました。多発嚢胞によりドレナージが不完全であったことが、真菌が排除しきれなかった原因の一つと考察されています。
過去のカンジダによる気腫性腎盂腎炎の文献的考察
Table 3:カンジダ属による気腫性腎盂腎炎(EPN)の文献的考察(過去の12症例まとめ)

1982年の最初の報告から本症例(2018年)までに報告された、カンジダ属を原因とするEPN全12例の患者背景、原因菌種、重症度(Huang分類)、治療法、転帰が一覧表としてまとめられています。ここから、カンジダ性EPNの重要な臨床的特徴が読み取れます。
- 糖尿病が絶対的なリスク因子:12例全例において基礎疾患として糖尿病(DM)が存在しており、コントロール不良な糖尿病が本疾患の最も重要なリスク因子であることが強く示唆されています。
- 男性に多い傾向:12例中8例(67%)が男性でした。これは、前立腺肥大症や前立腺癌など、男性特有の泌尿器科的疾患(尿路閉塞の原因)が関与している可能性が考察されています。
- 発見時に進行していることが多い:CT所見に基づくEPNの重症度分類(Huang classification)において、腎周囲や両側性にガスが進展している「広範なEPN(Class 3 または 4)」が12例中9例(75%)を占めていました。一般的な細菌性EPNでは広範な症例は半数程度ですが、真菌性の場合は診断が遅れやすく、発見時にはすでに病変が大きく広がっている傾向があります。
- 原因菌種と予後:原因菌としては本症例と同様に C. albicans が最多でした。治療法として腎摘出術やPCD、抗真菌薬の投与が行われていますが、12例中4例が死亡しており、致死率の高い重篤な疾患であることが分かります。なお、これまでの報告においてフルコナゾールを投与された患者は全員生存していましたが、本症例(91歳・両側性のClass 4)は唯一の死亡例となっています。
参考文献
- UpToDate Candida infections of the bladder and kidneys(2026/07/19参照)
- Zhang L, Hong C. Urinary bladder obstruction caused by fungal balls: Unusual computed tomography findings – a case report. Medicine (Baltimore). 2026 Apr 10;105(15):e48244. doi: 10.1097/MD.0000000000048244. PMID: 41961699.
- Ideguchi S et al., A case of bilateral emphysematous pyelonephritis caused by Candida albicans, J Infect Chemother, https://doi.org/10.1016/j.jiac.2018.10.011


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