抗菌薬関連脳症(antibiotic-associated encephalopathy: AAE)はメトロニダゾールやセフェピムだけではない

感染症

抗菌薬関連脳症(AAE: Antibiotic-Associated Encephalopathy)は、抗菌薬投与により引き起こされる神経毒性による脳症で、入院患者の譫妄の過小評価されている原因です。

今回、以下の論文を元にAAEについてまとめました。

今回参考にしたAAEに関する論文
  • Bhattacharyya S, Darby RR, Raibagkar P, Gonzalez Castro LN, Berkowitz AL. Antibiotic-associated encephalopathy. Neurology. 2016 Mar 8;86(10):963-71. doi: 10.1212/WNL.0000000000002455. Epub 2016 Feb 17. Erratum in: Neurology. 2016 May 31;86(22):2116. doi: 10.1212/WNL.0000000000002754. PMID: 26888997.

報告数の多い代表的な抗菌薬クラス

論文内で391の症例を分析した結果、以下の抗菌薬で脳症の報告が多く見られました(カッコ内は論文での報告件数です)。

  • ペニシリン系(72例): 特にペニシリンGプロカイン(34例)やペニシリン(24例)
  • セファロスポリン系(69例): セフェピム(33例)、セフタジジム(12例)など
  • 抗結核薬(65例): 特にイソニアジド(49例)
  • キノロン系(63例): シプロフロキサシン(26例)、オフロキサシン(11例)など
  • マクロライド系(54例): 特にクラリスロマイシン(44例)
  • その他: メトロニダゾール(29例)や、ST合剤に代表されるサルファ剤(19例)など

論文内で行われた過去の症例報告の包括的なレビューにより、実に12の異なるクラス(系統)に属する、合計54種類もの抗菌薬で脳症が報告されていることが確認されました。

代表的な抗菌薬だけでなく、論文のデータには、日常診療で頻繁に使用される抗菌薬によって脳症が引き起こされたケースも含まれています。

論文の著者は、入院患者のせん妄(意識障害や錯乱など)の原因として薬剤の影響はよく疑われるものの、「抗菌薬」はせん妄の原因として過小評価されていると強く指摘しています。

つまり、「どんな抗菌薬でも頻繁に起こる」わけではないものの(重篤な中枢神経系の副作用の頻度は一般的に1%未満とされています)、私たちが日常的に使用する極めて幅広い種類の抗菌薬が脳症の原因になり得るということです。そのため著者は、抗菌薬の投与開始後にせん妄を発症したすべての患者において、抗菌薬関連脳症(AAE)の可能性を考慮すべきであると結論づけています。


(追記:なお2026年の報告では以下の順にAAEが多かったようです)

Wang H, Jiang H, Yang H, Tang J, Zhang J. Antibiotic-associated encephalopathy: A retrospective pharmacovigilance study based on 21 years of data from the US FDA Adverse Event Reporting System. Medicine (Baltimore). 2026 Apr 24;105(17):e48395. doi: 10.1097/MD.0000000000048395. PMID: 42071809; PMCID: PMC13124359.

FDA有害事象報告システム(FAERS)の21年間のデータによると合計13,698例の抗菌薬関連脳症が報告されました

上位5剤の報告数: 

  • メトロニダゾール:1,464例
  • レボフロキサシン:1,447例
  • シプロフロキサシン:1,290例
  • エルタペネム:825例
  • イミペネム/シラスタチン:788例

3つの臨床表現型による分類

AAEは病態生理学的メカニズムと臨床症状に基づいて、3つの異なる表現型に分類されます

  1. タイプ1(痙攣/ミオクローヌス型):セファロスポリン系およびペニシリン系抗菌薬により引き起こされ、投与後数日以内に脳症とともに痙攣やミオクローヌスが出現します。
  2. タイプ2(精神病型):キノロン系、マクロライド系、プロカインペニシリンにより引き起こされ、投与後数日以内に精神病症状(妄想や幻覚)を伴う脳症が出現します。
  3. タイプ3(小脳型):メトロニダゾールにより引き起こされ、投与開始後数週間で小脳症状とMRI異常を伴う脳症が出現します。
Bhattacharyya et al. Neurology. 2016より引用
痙攣が多く精神病症状が少ないペニシリンとセファロスポリン系が「タイプ1」、精神病症状が多く痙攣が少ないサルファ剤やキノロン系、マクロライド系などが「タイプ2」、そのどちらの発生率も低く小脳症状が特徴的なメトロニダゾールが「タイプ3」として、グループ分けされます。また、イソニアジドはこれら3つのグループのいずれにも当てはまらない孤立した位置にプロットされています。

臨床的特徴

  • 精神病症状:全体の47%に認められ、特にサルファ剤(68%)、キノロン系(67%)、マクロライド系(63%)で高頻度です。
  • 痙攣:全体の14%に認められ、ペニシリン(38%)とセファロスポリン系(35%)で最も多かったようです。
  • ミオクローヌス:全体の15%に認められ、ペニシリン(71%)とセファロスポリン系(41%)で高頻度です。
  • 小脳症状:全体の5%に認められ、メトロニダゾール関連脳症では48%と高頻度です。
Bhattacharyya et al. Neurology. 2016より引用

Table 2は、AAEの臨床的な症状の特徴と、発症から回復までの時間的経過をまとめたものです。精神病症状、痙攣、非痙攣性発作、ミオクローヌス、小脳症状の発生割合が薬剤ごとにパーセンテージで示されています。具体的な傾向として、サルファ剤、キノロン系、マクロライド系、プロカインペニシリンでは精神病症状が60%以上の確率で高発現していることがわかります。また、セファロスポリン系に関連する発作の54%が非痙攣性である点や、大半の薬剤で発症および薬剤中止後の回復が数日以内であるのに対し、メトロニダゾールとイソニアジドは発症までに約3週間を要するといった時間的な特徴もこの表から確認できます。

リスク因子

以下のTable 1は、抗菌薬関連脳症(AAE)を発症した患者のベースライン特性とリスク因子を、抗菌薬のクラス別にまとめたものです。各薬剤の報告数や発症年齢の中央値、性別の割合に加えて、腎機能障害、肝機能障害、精神疾患の既往といった基礎疾患の有無が示されています。

この表から読み取れる特筆すべきデータとして、セファロスポリン系抗菌薬による脳症患者の72%(特にセフタジジムでは92%)という非常に高い割合で腎機能障害が見られたことが挙げられます。一方で、発症前の肝機能障害は全体としてまれですが、メトロニダゾール関連のケースに限定すると14%と他の薬剤クラスよりも高くなっていることが示されています。

Bhattacharyya et al. Neurology. 2016より引用

発症時期と回復期間

  • イソニアジドとメトロニダゾールを除く大部分の抗菌薬では、投与開始後中央値5日以内に発症します。
  • イソニアジドとメトロニダゾールでは、発症までの中央値は約3週間です。
  • 抗菌薬中止後、大部分は中央値5日以内に回復しますが、メトロニダゾールでは中央値13日を要します。

検査所見

  • 脳MRI:メトロニダゾール関連脳症では全例で異常を認め、典型的には小脳歯状核のT2高信号を呈します。その他の抗菌薬では通常正常です。
https://radiopaedia.org/cases/metronidazole-induced-encephalopathy-3?lang=us より引用させていただきました
Bhattacharyya et al. Neurology. 2016より引用 メトロニダゾール脳症のMRI所見

  • 脳波:AAEの70%で異常を認めます。セファロスポリン関連では95%、ペニシリン83%、シプロフロキサシン83%で異常を認めました。
  • 脳波でてんかん性放電または痙攣が認められたのは、セファロスポリン関連55%、キノロン関連44%、ペニシリン関連40%でした。
Bhattacharyya et al. Neurology. 2016より引用

Table 3は、AAE患者に行われた脳MRIおよび脳波における異常所見の割合を記載しています。MRI検査については、メトロニダゾール関連脳症の全例(100%)で異常が見られたのに対し、他の抗菌薬ではほぼ全例が正常であったという顕著な違いがデータとして示されています。脳波検査については、検査が行われた患者の70%で異常が認められ、特にセファロスポリン関連脳症では95%という高頻度で異常が確認されており、その多くがてんかん性放電や徐波、三相波などを呈していたことが示されています。

内服か静注かで頻度は変わるか

本論文では記載がありません。

  • 投与経路よりも「血中濃度」が重要: 脳症の発症には、体内(血液や髄液中)での薬の濃度が強く関わっています。例えばセフェピムの場合、血中トラフ濃度が22 mg/Lに達すると神経毒性が発現する確率が50%になるという研究結果が引用されています。つまり、静注か内服かという手段にかかわらず、腎機能障害などによって薬の排泄が遅れ、血中濃度が過剰に上昇してしまうことが大きな発症要因となります。
  • 内服薬(胃腸からの吸収)における特定のリスク: 内服に関連する記載として、腎機能障害のある患者が鉄、カルシウム、アルミニウムなどのサプリメント(制酸薬など)を使用している場合、キノロン系などの一部の抗菌薬の胃腸からの吸収が増加し、結果として神経毒性のリスクが高まる可能性があることが指摘されています。

AAEで、なぜメトロニダゾール脳症やセフェピム脳症ばかり注目されるのか

実に54種類もの抗菌薬が脳症(AAE)を引き起こす可能性がある中で、メトロニダゾールとセフェピムが特に注目される理由は、「特異的で決定的な検査所見があること」と、「特定の患者群において無視できないほど高い頻度で発生すること」という、極めて際立った特徴を持っているためです。

他の多くの抗菌薬による脳症が、原因不明の一般的なせん妄や錯乱として見逃されやすいのに対し、この2つの薬剤は気づくための明確な特徴を有します。

メトロニダゾール

メトロニダゾールは、論文内で「タイプ3」のAAEに分類される唯一の抗菌薬です。この薬剤が注目される最大の理由は、脳症を発症した患者の100%において、MRI検査で一目でわかる明確な異常(小脳歯状核などのT2高信号)が認められる点です。他の抗菌薬による脳症ではMRI検査を行っても通常は正常であるため、この特異な画像所見は決定的な診断の証拠となります。

さらに、他の抗菌薬が精神病症状や痙攣を引き起こすのに対し、メトロニダゾールは運動失調などの「小脳症状」を48%という高頻度で引き起こすことや、発症までに数週間という長い時間を要することなど、他のどの抗菌薬とも異なる独自のプロファイルを持っているため、医学的に特筆すべき存在となっています。

セフェピム:重症患者における15%という異常に高い発症率と見えない発作」

セフェピムが警戒され注目される最大の理由は、特定の状況下での発生頻度の高さと重篤性にあります。ある重症患者100名を対象とした研究では、セフェピムの使用に関連して15%という極めて高い確率で脳症が発生したことが報告されており、集中治療の現場などでは非常に大きな問題となります。

加えて、セフェピム脳症の患者は脳波検査を行うと100%の確率で異常が見つかるという特徴を持ちます。特に厄介なのが、痙攣が起きたケースのうち60%が、外見からは脳症と気づきにくい「非痙攣性発作」である点です。また、全体の27%の患者に失語症(言語障害)が見られることや、血中トラフ濃度が22 mg/Lに達すると神経毒性が発現する確率が50%になるという明確な数値基準が存在することから、臨床的に厳重なモニタリングが必要な代表格として扱われています。

他の抗菌薬が相対的に注目されにくい理由

対照的に、他の多くの抗菌薬(マクロライド系やキノロン系など)による脳症は、投与から数日で発症し、MRIを撮っても異常がなく、一般的な錯乱やせん妄といった特徴のない症状を示します。

セフェピム脳症

■セフェピム脳症は腎機能の低下した高齢者において血中濃度が過剰に上昇することで発症しやすく、脳波異常や非痙攣性発作、さらには失語症を伴いやすいという非常に特異なプロファイルを持っています。

  • 高齢者および腎機能障害患者での発症: 発症者の年齢中央値は70歳と高齢です。また、発症者の70%に腎機能障害が認められており、腎機能の低下が極めて大きなリスク因子となります。
  • 失語症(言語障害)の高頻度な合併: セフェピム脳症の最も際立った特徴の一つが失語症です。AAE全体では言語障害を伴うケースは3%に過ぎませんが、セフェピム脳症では27%の患者に失語症が認められました。
  • 非痙攣性発作とミオクローヌス: 精神病症状(幻覚や妄想など)は3%と稀ですが、ミオクローヌス(33%)や痙攣(30%)といった症状が特徴的です。また、痙攣が起きたケースのうち60%が外見からは分かりにくい非痙攣性発作でした。
  • 脳波(EEG)の100%異常: 脳MRI検査では異常が全く見られない(異常率0%)一方で、脳波検査を実施した全症例(100%)で異常が確認されています。具体的には、徐波や三相波(64%)、てんかん性放電(55%)が高頻度で認められます。
  • 血中濃度(トラフ値)との強い関連: セフェピムの健常者における血中トラフ濃度は通常0.2〜1.1 mg/Lですが、脳症発症時の血清中濃度の中央値は38 mg/L(範囲: 15〜284 mg/L)と異常な高値を示していました。血中トラフ濃度が22 mg/Lに達すると神経毒性が発現する確率が50%になると報告されています。
  • 発症時期と回復までの期間: 投与開始から脳症が発症するまでの中央値は4日です。セフェピムの投与を中止してからベースラインの認知機能に回復するまでには、中央値で2日を要します。

メトロニダゾール脳症

■臨床症状の特徴:小脳症状が主体

  • 高頻度な小脳症状: 運動失調や測定異常といった小脳症状が全体の48%の患者に見られるのが最大の臨床的特徴です。
  • 痙攣や精神症状は少ない: 精神病症状の合併は24%にとどまり、痙攣(10%)は稀で、ミオクローヌスに至っては0%となっています。

■時間的経過:遅発性の発症と回復の遅さ

  • 大部分の抗菌薬が投与開始後数日(中央値5日以内)で脳症を引き起こすのに対し、メトロニダゾールは発症までに数週間(中央値19日、範囲1〜180日)を要します。
  • 投与中止後の回復も遅く、ベースラインの認知機能に戻るまで中央値で13日(最長で365日!)かかります。

■検査所見:100%のMRI異常と特徴的な画像

  • 上述したように、MRIが全例で異常: MRI検査を実施された患者の100%で異常所見が認められます。小脳歯状核のT2高信号(FLAIR画像で白く描出される病変)が典型的であり、脳幹や脳梁膨大部に異常が及ぶこともあります。MRIの所見から、血管性浮腫と細胞毒性浮腫の両方が存在していることが示唆されています。
  • 脳波の異常は稀: 脳波異常は他の抗菌薬に比べて少なく、異常があった場合でも非特異的な徐波などに限られ、てんかん性の放電は見られません。
メトロニダゾール脳症のMRI所見

■患者のベースライン特性:肝機能障害との関連

  • 上のTable 1の解説でも触れたように、他の抗菌薬クラスでは発症前に肝機能障害を持つ患者の割合が5%未満であるのに対し、メトロニダゾール脳症の患者では14%に肝機能障害が見られました。

■病態生理:チアミン(ビタミンB1)代謝の阻害など

  • メトロニダゾールの神経毒性は、フリーラジカル(窒素アニオンラジカルや過酸化水素など)の産生と、チアミン代謝の異常に関連していると考えられています。
  • 体内でメトロニダゾールがチアミンの類似物質に変換されてその働きを阻害することで、栄養失調による「非アルコール性ウェルニッケ脳症」とよく似た小脳や脳幹の病変を引き起こすことが示唆されています。
  • ただし、すべての点でウェルニッケ脳症と同じというわけではなく、ウェルニッケ脳症で典型的に見られる内側視床の病変などは、メトロニダゾール毒性では通常見られないという違いがあります。

参考文献

  • Bhattacharyya S, Darby RR, Raibagkar P, Gonzalez Castro LN, Berkowitz AL. Antibiotic-associated encephalopathy. Neurology. 2016 Mar 8;86(10):963-71. doi: 10.1212/WNL.0000000000002455. Epub 2016 Feb 17. Erratum in: Neurology. 2016 May 31;86(22):2116. doi: 10.1212/WNL.0000000000002754. PMID: 26888997.
  • Wang H, Jiang H, Yang H, Tang J, Zhang J. Antibiotic-associated encephalopathy: A retrospective pharmacovigilance study based on 21 years of data from the US FDA Adverse Event Reporting System. Medicine (Baltimore). 2026 Apr 24;105(17):e48395. doi: 10.1097/MD.0000000000048395. PMID: 42071809; PMCID: PMC13124359.

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