心肺停止患者の採血データはどう読む?

内科

救急外来において、心肺停止(CPA)で搬入された患者さんの採血データを前に、頭を悩ませた経験はないでしょうか。

目の前に並ぶ著しい異常値の数々。これらが心停止に至った「原因」を示しているのか、それとも全身の虚血や細胞崩壊がもたらした「結果」に過ぎないのか、その判断に迷う場面は多々あります。

しかし、蘇生後の治療戦略を立てる上でも、ご家族へ状況を説明する上でも、採血データはなんとか有効に活用したい重要な情報源です。

そこで鍵となるのが、心肺停止において「大きく変化してしまう項目」と「変化しない項目」を分けて考えるというアプローチです。特に、心肺停止の前後で影響を受けにくい(変化しない)項目は、CPAに至る前の患者さんの背景や、心停止の根本的な原因を推測するための強力な手がかりとなります。

本記事では、CPA患者の血液検査データをどのように解釈し、臨床現場でどう活かせばよいのか、具体的な項目を挙げながら整理して解説します。

心肺停止によって大きく変化する項目

心停止によって臓器の細胞が破壊されたり、細胞内の代謝が変化したりすることで、異常値を示します。

  • 逸脱酵素(AST、ALT、LDH、CK、CK-MBなど)
    • 全身の血流が途絶することでほぼすべての臓器が障害を受け、組織が崩壊します。
    • その結果、本来細胞の中にあるべきこれらの酵素が血液中に大量に漏れ出すため、著しく上昇します。
  • 細胞内成分(K、IP、NH3)
    • 逸脱酵素と同様に、細胞内に多く含まれるカリウムや無機リンは速やかに血液中に漏出するため、大きく上昇します。
    • また、時間の経過に伴いアンモニアも著しく上昇します。
  • 細胞が消費・産生する成分(O2、CO2、血糖、乳酸)
    • 心停止直後、生体は亡くなっても細胞自体はまだ短時間生きているため、血液中の酸素や血糖を消費し続けます。そのためこれらは減少しますが、逆に細胞が産生する二酸化炭素や乳酸は上昇します。
    • ※ただし、例外として「急性死」の場合、死戦期のストレス反応でアドレナリンが多量に分泌され、血糖値(Glu)が異常高値を示すことがあります。
  • 凝固・線溶系マーカー(PT、aPTT、INR、Dダイマー、FDPなど):
    • 心肺停止中の虚血や急激な血栓形成により、数値が著しく上昇・延長などの変化をきたします。

心肺停止によって変化しない項目

これらは心肺停止前の患者の状態(死因や背景疾患など)を推定するのに非常に役立ちます。

  • 血球系成分(WBC、Hb、HbA1c、COHb)
    • 溶血や腐敗などが進むまでは影響を受けにくく、生前と同様の数値を示します。
    • ただし、血小板については凝集してしまうことが多く、参考にならないとされています。
  • 複雑な生成・代謝経路をとる成分(Alb、Bil、Cr、BUN、UA、CRP、PCT)
    • アルブミン、ビリルビン、クレアチニン、尿素窒素、尿酸、CRP、PCT(プロカルシトニン)などは死後に大きく変化しません。
    • そのため、心肺停止患者の肝機能は逸脱酵素ではなくAlbやBilで評価し、感染症や炎症の有無はCRPやPCTで評価することが有用です。
    • また、CrやBUNは生前の腎機能や脱水状態をそのまま反映します。

このように、心肺停止後の採血では「変化してしまって参考にならない項目(カリウムやASTなど)」がある一方で、「変化しないため生前の病態(脱水や感染症など)をそのまま映し出す項目(CRPやBUN、血球など)」があり、これらを分けて解釈することが重要になります。

参考文献

  • 「ジェネラリストに必要なご遺体の診断学」,森田沙斗武,総合診療 Vol.34 No.4 2024-April

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