STEMIプライマリPCIにおけるLVEDP測定の意義(HORIZONS-AMI解析)

循環器

論文情報

Prognostic Utility of Left Ventricular End-Diastolic Pressure in Patients with ST-Segment Elevation Myocardial Infarction Undergoing Primary Percutaneous Coronary Intervention

The American Journal of Cardiology / 2011

本論文のポイント

・ST上昇型心筋梗塞(STEMI)のプライマリPCI中に測定された左室拡張末期圧(LVEDP)の上昇(18 mmHg超)は、死亡や再梗塞の独立した予測因子です。

・LVEDPと左室駆出率(LVEF)の相関は非常に弱く、LVEDPはLVEFとは独立して予後を予測します。 ・再灌流の遅延や造影剤腎症などのリスクから左室造影を敬遠する場合でも、LVEDPの測定はそのようなリスクを回避しつつ重要な予後情報を提供します。

背景

・なぜこの研究が行われたのか(Clinical Question):

STEMI患者に対するプライマリPCIにおいて、手技中に測定されるLVEDPは予後予測に有用かどうかを明らかにするためです。

・既存のガイドラインや過去の研究との関連、アンメットニーズ:

STEMIにおけるLVEF(収縮能)の予後予測能はよく確立されています。しかし、急性虚血において拡張機能障害は収縮機能障害よりも先行して生じるにもかかわらず、PCIを受けるSTEMI患者において、全体の心室コンプライアンスを反映するLVEDPの予後における意義を評価した研究はこれまでありませんでした。

研究デザイン・方法

本研究は、大規模な多施設オープンラベル無作為化比較試験(HORIZONS-AMI試験)のデータを用いた事後解析(観察研究)です。

・P (Patient): HORIZONS-AMI試験に登録され、初回手技中にLVEDPが測定されたプライマリPCI施行STEMI患者2797例。

・I (Intervention/Exposure): LVEDPの上昇(18 mmHg超)。

・C (Comparison): LVEDPが18 mmHg以下。

・O (Outcome): 主要評価項目は30日後および2年後の全死因死亡、ならびに死亡または再梗塞(reinfarction)の複合です。

結果

■Table 1(LVEDPの18 mmHg以下と超える群の2群間におけるベースライン患者背景および治療戦略を比較した表)に示される通り、患者のLVEDPの中央値は18 mmHg(四分位範囲12から24)でした。


■Table 2(LVEDPの2群間における30日後および2年後の臨床転帰を比較した表)に示される通り、LVEDPが18 mmHg以下の群と比較して、LVEDPが18 mmHgを超える群では主要評価項目が有意に悪化しました。

・30日死亡: ハザード比(HR) 2.00(95% 信頼区間[CI] 1.20から3.33、p=0.007)

・30日死亡または再梗塞: HR 1.84(95% CI 1.24から2.73、p=0.002)

・2年死亡: HR 1.57(95% CI 1.12から2.21、p=0.009)

・2年死亡または再梗塞: HR 1.45(95% CI 1.14から1.85、p=0.002)


■Figure 1(LVEDPの四分位ごとの全死因死亡および死亡または再梗塞の累積発生率を示すKaplan-Meier曲線)に示される通り、LVEDPを四分位に分けた解析では、LVEDPが24 mmHgを超える患者群が最も早期および長期の死亡リスクが高いことが示されました。下位3つの四分位間では生存率に有意差はありませんでした。


■Figure 2(プライマリPCI手技中に測定されたLVEDPとLVEFの相関を示す散布図)に示される通り、LVEDPとLVEFの相関は非常に弱いものでした(R2=0.03、p<0.01)。


■Table 3(30日後および2年後の死亡または再梗塞に対する多変量予測因子を示す表)に示される通り、多変量解析において、ベースラインのLVEFで調整した後でも、LVEDP上昇は2年後の死亡または再梗塞の独立した予測因子でした(HR 1.20、95% CI 1.02から1.42、p=0.03)。

考察

著者は、LVEDP上昇が予後不良と関連するメカニズムについて以下のように考察しています。 心筋の血流は大動脈圧と左室圧の較差(拡張期)によって決まります。LVEDPが上昇すると心筋灌流圧が低下し、微小血管血流と心内膜下への酸素供給が阻害されます。本研究でも、LVEDPが高い患者ではTIMI 3(良好な血流)の達成率が低く、これが予後不良に寄与した可能性があります。 また、心不全やLVEDPの上昇はPCI後の造影剤腎症と関連していることが知られており、本研究でも高LVEDP群ではPCI後のクレアチニン上昇の頻度が高く、大出血の頻度も高い結果でした。 一部の術者は、再灌流の遅延、造影剤腎症、低血圧、心室性不整脈の懸念からPCI中の左室造影を行いません。しかし、LVEDPの測定はこれらのリスクを回避しつつ、LVEFとは独立した早期および長期の予後情報を提供すると結論づけています。

Limitation

・非ランダム化かつ事後解析であるため、未知の交絡因子が存在する可能性があります(内的妥当性の懸念)。

・HORIZONS-AMI試験の患者の21.4%ではLVEDPが測定されていませんでした(ただし測定の有無で患者背景に大きな差はありませんでした)。

・LVEDPの測定値はコアラボでの客観的な検証を行わずに各施設から報告された値であるため、測定誤差が含まれている可能性があります。

・心エコーが施行されていないため、LVEDPと心エコーによる拡張能指標(transmitral flowなど)や左室肥大との相関が評価できていません。

・本研究は特定の臨床試験に登録された患者を対象としており、除外基準に該当した患者への適応には留意が必要です(外的妥当性の懸念)。

・LVEDPと転帰の関連について因果関係を証明するものではなく、仮説生成として解釈すべきです。

実臨床で適応するにあたっての注意

論文の記述に基づくと、STEMI患者の初期評価においてLVEFが保たれていても、LVEDP(拡張能・内圧)が著明に上昇しているケースがあり、それらは独立したリスクをもたらす点に注意が必要です。 LVEDPの測定はPCI中に得られる簡便な指標です。造影剤の追加や血圧低下、不整脈の誘発といった左室造影のリスクを懸念して造影検査を控える判断をした場合でも、ピッグテールカテーテル等によるLVEDPの実測を行うことで、リスクを回避しながら有用な予後予測(特に18 mmHg超での死亡や心不全リスクの上昇、24 mmHg超での最大リスクの認知)が可能となります。

管理人の感想

LVEFとLVEDPの間にほとんど相関がない(R2=0.03)というデータが非常に印象的でした。「エコーや造影で心臓がしっかり動いているように見えても、実際の左室内圧は非常に高く、心筋は虚血に喘いでいる」という状態が起こり得ることをデータで示してくれています。 先日、たこつぼ型心筋症の患者さんにおいて、左室造影後に血行動態が破綻した症例を経験しました。本論文の考察にも「高いLVEDPは心内膜下への酸素供給を阻害する」「一部の医師は低血圧や不整脈のリスクから造影を避ける」とあり、造影剤による急激な負荷をかける前に、圧を測定することの重要性を改めて痛感しました。造影という「見た目」の評価だけでなく、圧力という「見えない血行動態」の評価を疎かにしてはいけないという、強い教訓を得られる論文です。

自問自答

Q1: この研究ではLVEDPをPCIの前、後のどちらで測定しているか。

A1: 論文の記載によれば、PCI前が52%、PCI後が39.5%、不明が8.5%でした。測定タイミングが統一されていないことは、結果の解釈において交絡因子となり得るため、本研究の重大な限界点と言えます。


Q2: LVEDPが18 mmHgを超える患者ではTIMI 3血流が得られにくかったとのことだが、LVEDPが高いから血流が悪くなったのか。

A2: 本研究は観察研究であるため、因果関係は証明されていません。著者は、LVEDP上昇が灌流圧を低下させて微小血管血流を阻害した可能性を指摘していますが、同時に「本研究は仮説生成として解釈すべきである」とも述べており、どちらが先かは断言できません。


Q3: コアラボによるLVEDP測定の検証が行われていないとのことだが、これは結果の信頼性にどう影響するか。

A3: 各施設の担当医が現場で測定した値をそのまま用いているため、波形の読み取り(Z-pointの同定など)に測定誤差やばらつきが含まれている可能性があります。しかし著者は、逆に言えば「日常診療で現場の医師が測定しているそのままの数値が、予後予測に直結していることを示している」という意味で、実臨床に即した有意義な結果であるとも考察しています。

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