黄色ブドウ球菌菌血症(SAB: Staphylococcus aureus bacteremia)は非複雑性と複雑性で治療期間が異なる

感染症

疫学

発生頻度

  • 現在でも年間10万人当たり10~30例の菌血症を引き起こす代表的な細菌です。

■死亡率・予後

  • SABは現在も治療に難渋する重症感染症であり、90日(3ヶ月)死亡率は約29%(あるいは25%以上)と非常に高いことが報告されています。

死亡リスクを上昇させる要因

SABの死亡率をさらに高めてしまう危険因子として、以下の要素が挙げられています。

  • MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の関与: MSSA(感受性菌)と比較して死亡リスクがさらに上昇し、あるシステマチックレビューでは死亡のオッズ比が9.3に上ると報告されています。
  • 基礎疾患(併存疾患)の存在
  • 血液培養が陽性になるまでの時間が短い(12時間以下)こと: 血中の菌量が多いことなどを反映し、死亡のオッズ比が6.9と高くなります。
  • 菌血症の持続時間の長さ: 適切な治療を開始しても菌血症が持続する期間が長引くほど、死亡を含む合併症のリスクが高まるとされています。

原因

黄色ブドウ球菌菌血症(SAB: Staphylococcus aureus bacteremia)は様々な部位の感染から菌が血流に乗ることで発症します。資料では以下の原因が報告されています。

  • カテーテルおよびデバイス関連感染: 近年、SABの多くの原因を占めています。具体的には中心静脈(CV)ポートの感染や、カテーテル関連血流感染症(ある大規模研究では全体の17%を占める)などが挙げられます。別の研究では、デバイス関連感染がSABの33〜37%を占めていたと報告されています。
  • 深部組織感染・膿瘍: 硬膜外膿瘍や腸腰筋膿瘍といった深部組織感染(全体の約23%)も主要な侵入経路です。
  • 皮膚軟部組織感染: 創傷や皮膚の重度な感染であり、全体の約18%を占めると報告されています。
  • 感染性心内膜炎(IE)および人工物感染: 心臓の自然弁(約4%)や人工弁、人工関節の感染(約2%)も原因となります。
  • その他の感染巣: 肺炎、肺膿瘍、膿胸、骨髄炎、化膿性関節炎、化膿性髄膜炎などが原因(あるいは合併症)となることもあります。

患者背景・リスクファクター

SABを発症しやすい、あるいは重症化や合併症を引き起こしやすい患者背景として、以下が挙げられています。

  • 静脈内(静注)薬物使用者: 不衛生な注射器の使用などにより、菌が直接血管内に入るため、特に右心系の感染性心内膜炎を合併するSABの患者背景として非常に多く挙げられています。
  • 透析患者: 頻繁な血管への穿刺やカテーテル留置が必要なためリスクが高く、大規模なコホート研究においてSAB患者の9〜21%を占めていることが確認されています。また、透析患者における遷延性(長引く)菌血症の事例も報告されています。
  • 担癌患者: 免疫力の低下やカテーテル使用の頻度から、カテーテル関連SABの危険因子として評価されています。
  • 特定の基礎疾患(弁膜疾患、肝硬変など): SABを発症した後に、心臓弁に菌が定着して感染性心内膜炎を合併するリスクが高い背景として、もともと弁膜疾患や肝硬変がある患者が挙げられています。
  • 人工物留置患者: 人工弁や人工関節などのデバイスが体内にある患者は、菌が人工物に定着しやすく、複雑性菌血症や遷延性菌血症の原因となります。

分類

SABは、主にメチシリンに対する薬剤感受性と、臨床経過および合併症の有無(非複雑性か複雑性か)の2つの軸で分類され、これらが治療薬および治療期間の決定において極めて重要になります。

薬剤感受性による分類

SABの経験的治療(Empiric therapy)および確定治療(Definitive therapy)の薬剤選択を決定する分類です。

  • MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)菌血症
    • 現在の日本における第一選択薬はセファゾリン(CEZ)です。
  • MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)菌血症
    • 第一選択薬はバンコマイシン(VCM)です。

臨床経過・合併症の有無による分類

血液培養陰性化後の抗菌薬の投与期間を決定するための極めて重要な分類です。SABは以下の基準に基づき、「非複雑性」「複雑性」に分類されます。

非複雑性

以下の基準をすべて満たす場合に定義されます。

  • 5日以内の感染カテーテル抜去(カテーテル関連血流感染症の場合)
  • 初回血液培養陽性から24〜72時間後のフォローアップ血液培養が陰性
  • 初回血液培養陽性から72時間以内の解熱
  • 経経胸壁または経食道心エコーにて感染性心内膜炎の所見なし
  • 播種性病変(転移性感染巣)の症状・所見なし
  • 血管内人工物(人工弁やペースメーカーなど)がない

治療期間: 血液培養陰性化から14日(±2日)が標準とされています。近年では、感染カテーテルが抜去された非複雑性SABにおいては、状態が安定していれば10〜14日や7日間への治療期間の短縮化も検討・研究されています。

複雑性菌血症

非複雑性の基準を1つでも満たさない場合、すなわち以下のいずれか1つ以上に当てはまる場合は複雑性SABと定義されます。

  • フォローアップ血液培養が陽性(持続する菌血症)
  • 持続する発熱
  • 心エコーにて感染性心内膜炎の所見あり
  • 播種性病変の症状・所見あり(深部膿瘍など)

治療期間: 複雑性SABは治療失敗や再発、死亡の危険性が高いため、血液培養陰性化から最低4〜6週間(28〜42日±2日)の治療期間が推奨され、菌血症の消失に時間がかかった場合はさらなる期間延長も考慮されます。

※非複雑性・複雑性の話はMRSA菌血症に限った話ではありません。MSSA菌血症と診断された場合でも、まずは薬剤としてセファゾリンなどが選択され、その後の「治療をいつまで続けるか(治療期間)」の判断において、非複雑性か複雑性かの分類が適用されることになります

フォローアップ血液培養の間隔

血液培養の記事もご参照いただけたら幸いです)

SABにおけるフォローアップ血液培養を行う間隔は、初回の血液培養が陽性となってから「24〜72時間後(約2〜4日後)」が推奨されるタイミングです。

この「24〜72時間後」に実施したフォローアップ血液培養の結果が陰性であることが、治療期間が短く済む(標準14日間)「非複雑性SAB」と分類するための必須条件の1つとなります。

逆に、この期間に実施したフォローアップ血液培養が陽性(菌血症が持続している)であった場合は「複雑性SAB」に分類され、最低でも4〜6週間の長期間の抗菌薬治療が必要と判断されることになります。

複雑性SABと診断してからのフォローアップ血培の間隔は?

複雑性SABと診断された後であっても、菌血症の消失(陰性化)が完全に確認されるまで、24〜48時間ごとにフォローアップ血液培養を採取し続けることが推奨されています。

「初回陽性から24〜72時間後(約2〜4日後)」というのは、あくまで「最初のフォローアップ血液培養」を行う目安です。もしその結果が陽性で複雑性SABと診断された場合や、その他の理由で複雑性と診断された場合でも、血中から菌が消えたことが証明されるまでは24〜48時間の間隔で血液培養を繰り返す必要があります。

このように、陰性化するまで短い間隔でフォローアップを続けるのには、以下の重要な理由があります。

  • 治療期間のカウント開始日を決めるため: 複雑性SABでは最低4〜6週間(骨髄炎合併例では6〜8週間)の長期間の抗菌薬治療が必要ですが、この治療期間は「血液培養が初めて陰性化した日」を1日目として計算します。そのため、いつ陰性化したかを正確に把握しなければなりません。
  • 治療方針の再評価の指標とするため: 適切な抗菌薬治療を開始してから48時間経過しても菌血症が持続している場合は、抗菌薬の選択や投与量が適切かどうかの再検討や、薬だけでは治らず手術(ドレナージなど)が必要な隠れた感染巣がないかの再評価(心エコーやCT、MRIなどの追加検査)を速やかに行うべきとされています。持続する菌血症は死亡率を上昇させる要因にもなるため、早期の治療方針の修正が求められます。

各抗MRSA薬の立ち位置

項目塩酸バンコマイシン (VCM)テイコプラニン (TEIC)硫酸アルベカシン (ABK)リネゾリド (LZD)ダプトマイシン (DAP)
商品名塩酸バンコマイシン・バンコマイシン「MEEK」
塩酸バンコマイシン「メルク」
塩酸バンコマイシン「TX」
ソルレイン
バンマイシン
タゴシッドハベカシン・デコンタシン・ブルバトシンザイボックスキュビシン
TDMの必要性必要必要必要不要不要
投与量 (成人)2 g/日 分2~4
(65歳以上: 1000 mg/日  分1~2)。
初日400-800 mg 分2、以後 200-400 mg 分1 ※初日800mg分2、以降400mg分1が必要との報告がある。150~200 mg/日 分1 ※必要に応じ分2も可能。注射、経ロとも 1200 mg/日 分2。菌血症や感染性心内膜炎:6 mg/kg を1日1回 24時間ごと、皮膚軟部組織感染:4 mg/kg を1日1回 24時間ごと ※腎機能障害等で投与間隔の延長が必要。
抗菌力グラム陽性菌:   ○         
グラム陰性菌: ×    
                         
グラム陽性菌: ○
グラム陰性菌: ×
グラム陽性菌: ○
グラム陰性菌: ○
グラム陽性菌: ○
グラム陰性菌: ×
グラム陽性菌全般(リステリア、クロストリジウムを除く)に有効
承認された適応症敗血症、感染性心内膜炎
骨髄炎、関節炎、肺炎、
肺膿瘍、膿胸、化膿性髄膜炎
敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷および手術創の二次感染、肺炎、肺膿瘍、膿胸敗血症、肺炎、肺膿瘍、膿胸敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷および手術創の二次感染、肺炎、肺膿瘍、膿胸菌血症、感染性心内膜炎、皮膚軟部組織感染(※肺表面活性物質で失活するため、肺炎には使用できない
主な副作用腎障害、第8脳神経障害、
Red neck(red man)症候群
肝障害、腎障害(VCMより少ないとの報告もある)、第8脳神経障害、Red neck(red man)症候群腎障害、第8脳神経障害骨髄抑制CPK上昇、横紋筋融解症に注意(DAP関連ミオパシーのリスクあり。スタチンとの併用は避ける)。

ダプトマイシン(DAP)への変更と推奨の根拠

  • VCMのMICが2μg/mLの場合: VCMに対するMICが2μg/mLのMRSA株では臨床的な治療失敗率が高く予後が悪化するため、DAPへの変更が臨床的失敗を減少させる可能性が示唆されています(Mooreら 2012、Murrayら 2013、Moiseら 2016)。
  • 菌血症の遷延: 適切な感染巣のコントロールとVCM治療を行っていても菌血症が遷延する場合、DAPへの変更が臨床的失敗を減少させる可能性が示唆されています。さらに、VCMによる治療に失敗した場合、ガイドラインでは高用量のDAP(10mg/kg/日)への変更が推奨されています(Liuら 2011 / 米国感染症学会ガイドライン)。

リネゾリド(LZD)の位置づけと懸念点の根拠

  • 代替薬としての位置づけ: ガイドラインにおいて、LZDはVCMとDAPへの感受性が悪かった場合の代替薬の1つとして位置づけられています(Liuら 2011、日本化学療法学会 2017)。
  • 長期投与の懸念点: LZDがVCMに対して非劣性であると証明した研究は報告されていません。また、感染性心内膜炎については複数の研究で除外されており有効性のエビデンスに乏しく、さらに骨髄抑制(血小板減少など)や薬物相互作用の問題があるため、MRSA菌血症に対する長期投与は難しい場面が多いとされています(日本化学療法学会 2017、Takahashiら 2011、Hanaiら 2016)。

その他の抗MRSA薬が推奨されない理由の根拠

  • テイコプラニン(TEIC): VCMと効果を比較したシステマチックレビューでは臨床的治癒は同等とされていますが、重症患者での比較研究が存在せずサブグループ解析も行われていないため、重症患者での効果が同等とは結論づけられていません(Cavalcantiら 2010)。また、PK/PDパラメータが確立しておらず、タンパク結合率が90〜95%と高いため、重症患者に多い低アルブミン血症では分布容積の拡大など動態変化が起きやすいとされています(日本化学療法学会 2017、Ulldemolinsら 2011)。
  • アルベカシン(ABK): 日本や韓国のケースシリーズ等でMRSA肺炎や敗血症に対する有効性の報告はありますが、これらの研究では菌血症の有無については報告されておらず、MRSA菌血症に対するABK治療は根拠が乏しいため選択される場面はほぼありません(Matsumotoら 2013、Hwangら 2012)。

バンコマイシン(VCM)のTDM(治療薬物モニタリング)に関する具体的な採血タイミングと目標濃度

採血のタイミング

バンコマイシンのTDMでは、血中濃度が安定し、かつ最もブレが少ないタイミングを狙って採血することが極めて重要です。トラフ値とは、体内の薬の濃度が一番低くなる「最小血中濃度」のことです。

  • 実施する日数(初回TDM):投与開始から3日目(投与4〜5回目の直前)
    • 理由: 薬の効果を正確に測るには、体内の薬物濃度が「定常状態(投与量と排泄量が同じになる状態)」に達してから採血する必要があります。バンコマイシンの半減期は6〜12時間であり、1日2回投与した場合、約48時間が経過した投与3日目に定常状態に達すると考えられているためです。
  • 採血の時間帯:トラフ値(次の投与の直前、約30分前)
    • 理由: 薬を投与した直後は血中濃度が急激に変化しますが、次の投与の直前(トラフのタイミング)は血中濃度の変化が最も緩やかで、測定結果のブレが少ないためです。この時間帯以外に採血してしまうと、結果に誤差が生じ、適切な投与量の調整ができなくなる恐れがあります。

2. 目標とする血中濃度(トラフ値)

  • 初回目標トラフ値:10〜15 μg/mL
    • この範囲(有効域)に収めることで、十分な治療効果を得つつ、副作用のリスクを抑えることができます。

【注意点:腎機能障害のリスク】 バンコマイシンの重要な副作用である「腎機能障害」を回避するためにも、トラフ値の管理が欠かせません。

  • トラフ値が10〜15 μg/mLの場合、腎機能障害の発現率は約21%と報告されています。
  • トラフ値が20 μg/mL以上になると、腎機能障害の発現リスクが有意に高くなる(33%で発現するという海外の報告もあります)ため、濃度が高くなりすぎないように注意が必要です。

まとめると、「投与開始から3日目の、次の点滴が始まる約30分前(投与4〜5回目の直前)に採血を行い、トラフ値が10〜15 μg/mLの範囲に収まっているかを確認する」というのが、バンコマイシンにおける具体的なTDMの基本方針となります。

レッドマン症候群(バンコマイシンフラッシング症候群)の予防・対応

バンコマイシン500mgあたり30分以上の時間をかけて点滴投与することで、予防できるといわれています。なってしまった場合には、ポララミン®注5mg静注またはレスタミン®50mgを静脈内または経口投与を行います。

大事なことは「レッドマン症候群はアレルギーではない」ということです。

レッドマン症候群は、急速な静注や点滴によって顔や首、上半身を中心に紅斑や痒み、蕁麻疹が現れ、重症化すると血圧低下を引き起こす症状です。これは一般的なアレルギー(I型アレルギーや免疫反応)とは異なり、投与速度に起因するヒスタミンの遊離反応によって起こります。

そのため、この症状が出たからといって「バンコマイシンに対するアレルギーがあるため、今後この薬は使用できない」と誤った判断をしないことが重要であり、症状が見られた場合はアレルギーを疑う前に、まず投与速度の確認と調整を行うことが求められます。

Front Public Health. 2014 Oct 31;2:217. doi: 10.3389/fpubh.2014.00217

参考文献

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  • 重症ブドウ球菌菌血症に対する治療—日本における最善の治療薬を見極める,小林 宏維,INTENSIVIST 11巻1号 (2019年1月発行)
  • Rubinstein E, Keynan Y. Vancomycin revisited – 60 years later. Front Public Health. 2014 Oct 31;2:217. doi: 10.3389/fpubh.2014.00217. PMID: 25401098; PMCID: PMC4215627.
  • ダプトマイシン(DAP)への変更と推奨の根拠に関する文献
    • Mooreら 2012:Moore CL, Osaki‒Kiyan P, Haque NZ, et al. Daptomycin versus vancomycin for bloodstream infections due to methicillin‒resistant Staphylococcus aureus with a high vancomycin minimum inhibitory concentration:a case‒control study. Clin Infect Dis 2012;54:51‒8.
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    • Moiseら 2016:Moise PA, Culshaw DL, Wong‒Beringer A, et al. Comparative effectiveness of vancomycin versus daptomycin for MRSA bacteremia with vancomycin MIC >1mg/L:a multicenter evaluation. Clin Ther 2016;38:16‒30.
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  • リネゾリド(LZD)の位置づけと懸念点の根拠に関する文献
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  • その他の抗MRSA薬(テイコプラニン・アルベカシン)に関する文献
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    • Matsumotoら 2013:Matsumoto T, Hanaki H, Kimura T, et al. Clinical efficacy and safety of arbekacin sulfate in patients with MRSA sepsis or pneumonia:a multi‒institutional study. J Infect Chemother 2013;19:128‒37.
    • Hwangら 2012:Hwang JH, Lee JH, Moon MK, et al. The usefulness of arbekacin compared to vancomycin. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2012;31:1663‒6.

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