【本紹介】『ペインを探せ!』——コンサルトも外来も、相手が本当に困っていることは別にある

おすすめ本

内定者への手紙 ペインを探せ! なぜあなたの提案は通らないのか?北野唯我 (著)

コンサルトの返事が、思っていたものと違って返ってくることがあります。

こちらは抗菌薬の選択を相談したつもりなのに、返ってきたのは「まずドレナージを」だったり。あるいは外来で、不眠を訴えて来た患者さんに睡眠薬の話をしていたら、本当に相談したかったのは介護している親のことだった、と最後になって分かったり。

北野唯我さんの『内定者への手紙 ペインを探せ!』は、新社会人向けに書かれた本です。相手が本当に困っていること「ペイン」をどう見つけるか、という話が軸になっています。

内定者への手紙 ペインを探せ!

なぜあなたの提案は通らないのか?

北野唯我/Kindle版

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読んでみて、そのまま使える部分と、医療にはまったく当てはまらない部分が、はっきり分かれました。


「とはいえ」を先回りする

この本の中心にあるのが「とはいえの法則」です。

なぜを3回繰り返すより、「とはいえ」を3回繰り返したほうが本質に近づく、という考え方。相手が断る理由や、引っかかっている点を、こちらから先に言葉にしてしまう手法です。

これ、コンサルトでかなり効きます。

「この患者さん、外科的介入をお願いしたいです」とだけ伝えると、相手は頭の中で「とはいえ、全身状態はどうなんだ」「とはいえ、抗凝固薬は止まっているのか」と一つずつ確認していくことになります。そこを先回りして、「全身状態は保たれていて、抗凝固薬は3日前から中止しています」まで含めて伝えると、話が一往復で済む。

前に『1分で話せ』を紹介したときにも書きましたが、上級医や他科の先生は結論を待っています。それに加えて、相手が引っかかりそうな点も待っているということなんだと思います。

外来では、主訴とペインが一致しないことがある

もうひとつ、この本の言う「ペインを探す」は、問診そのものです。

患者さんが最初に口にする主訴と、本当に困っていることは、しばしばずれます。「眠れない」の背後に介護疲れがあったり、「なんとなくだるい」の中身が職場の話だったり。訴えをそのまま受け取って処方だけして帰すと、次の受診でまた同じ話になります。

この本には、直接聞く方法と、間接的に環境や状況から推測する方法の2つが書かれています。相手自身が自分の課題を正確に認識していないときは後者を使う、と。

外来はまさにそれです。患者さん自身が、何に困っているかを言語化できていないことは珍しくありません。そこを一緒に探すのが、たぶん問診の本体なのだと思います。

ここは、医療には当てはまらないと思いました

一方で、読んでいてはっきり引っかかった箇所があります。

この本は、問いを含まない実行は「作業」であり、問いを含む実行が「仕事」だ、と定義しています。そのうえで、全タスクの2割以上を問いのある仕事にすべきだ、と。

ビジネスの文脈では、そうなのだと思います。でも医療では、作業であることに積極的な意味がある領域があります。

中心静脈カテーテルを入れるとき、毎回「もっといい方法はないか」と問いを立てる研修医の先生がいたら、それは危ない。マキシマルバリアプリコーションも、挿入部位の選択も、エコーガイドも、問わずに手順どおりやることに価値があります。医療安全という分野は、そもそも個人の裁量を減らして標準化する方向に発展してきました。指示簿も、感染対策も、同じです。

だからこの本の枠組みをそのまま持ち込むと、危険な方向に働きます。

ただし、診断は別です。

発熱とCRP高値を見て反射的に抗菌薬を開始するのは、たしかに作業のほうです。「この発熱は本当に感染か」と一度立ち止まるのが、この本の言う仕事にあたる。ここは問いの数がそのまま診療の質になります。

つまり医療では、手技と管理は作業でいい。診断と方針決定には問いが要る。 この線引きが必要で、ビジネス書にはその区別がありません。全部を仕事にせよ、と書かれています。

自分がどちらの領域にいるのかを意識せずにこの本を読むと、たぶん間違った方向に頑張ってしまいます。


この本について

北野唯我さんによる「内定者への手紙」シリーズの一冊です。新社会人や若手ビジネスパーソンに向けて、提案を通すための考え方が短くまとめられています。分量は少なく、通読は1時間もかかりません。

営業や企画の現場を前提に書かれているため、医療者が読む場合は置き換えが必要です。ただ、相手のペインを探すという発想そのものは、コンサルトにも問診にも通じます。

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向く方・向かない方

向く方:コンサルトで話が一往復で終わらないことが多い方。外来で、患者さんの訴えと実際の困りごとがずれる経験をしている方。短時間で読める本を探している方。

向かない方:体系的なコミュニケーション論を求めている方には、分量的にも内容的にも物足りないと思います。また、この本の「作業と仕事」の定義を医療にそのまま当てはめようとすると危険なので、その線引きができない状態では勧めません。

内定者への手紙 ペインを探せ!

なぜあなたの提案は通らないのか?

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