日々の病棟業務や当直で、バイタルサインを確認しない日はないでしょう。電子カルテで血圧の数値を見たとき、皆さんはまずどこに注目しますか?
「上の血圧が140を超えているから少し高めだな」「90を割っていないから、とりあえずショックではないな」 そんな風に、収縮期血圧や拡張期血圧の”絶対値”だけを確認して、アセスメントを終えてしまってはいないでしょうか。
実は、その二つの数字の「差」である「脈圧(Pulse Pressure)」にこそ、患者の血行動態や隠れた疾患を読み解く重要なヒントが隠されています。
今回は、当たり前すぎて見落とされがちな「忘れられたバイタル」=脈圧 についてまとめました。
大脈圧と小脈圧の定義

脈圧とは 脈圧とは、収縮期血圧と拡張期血圧の差のことです。
- 大脈圧:脈圧が収縮期血圧の半分以上(脈圧 ≧ 収縮期血圧 ÷ 2)の状態を指します。
- 小脈圧:脈圧が収縮期血圧の4分の1以下(脈圧 ≦ 収縮期血圧 ÷ 4)の状態を指します。拡張期血圧が収縮期血圧の75%以上である場合も、これに該当します。
大脈圧を見た時に考えること
大脈圧は、基本的に心機能の高拍出を意味します。病態の経過(急性か慢性か)によって以下の可能性を考えます。
- 急性病態
- 血圧上昇を伴う場合
- カテコラミンリリースの代表的な病態を疑います。
- 具体的には、呼吸不全(低酸素血症・高二酸化炭素血症)、心不全・循環不全(ショック・有効循環血液量低下)、低血糖、発熱(敗血症含む)、疼痛や不安・運動後などが挙げられます。
- 血圧低下・ショックを伴う場合
- 末梢温感を伴うような血液再分配状態(血液分布異常性のショック)の徴候であり、敗血症やアナフィラキシーショック、高二酸化炭素血症などが考えられます。
- 血圧上昇を伴う場合
- 慢性期の高血圧に伴う場合
- 大動脈弁閉鎖不全、慢性貧血、巨大動静脈シャント(肝硬変・先天性)、脚気、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などの可能性があります。
カテコラミンリリースとは
カテコラミンリリースとは、生体に強い負荷やストレスが加わった際に生じる反応で、バイタルサインに著しい変化をもたらす状態のことです。
■カテコラミンリリースが起きているサインとして、主に以下の特徴が現れます。
- 大脈圧を伴う急性の血圧上昇:大脈圧になるような急性の血圧上昇は、カテコラミンリリースを鑑別するための最初のヒントになります。
- 洞性頻脈:心拍数が上がる洞性頻脈も、カテコラミンリリースの重要な徴候として捉えられます。(なお、新規発症の心房細動を見た際にも、カテコラミンリリースと同様に原因の鑑別を進める必要があります。)
■カテコラミンリリースの代表的な5病態
大脈圧を伴って血圧が上昇している場合、以下の5つの代表的な原因(病態)を疑って評価を行います。
- 呼吸不全(低酸素血症・高二酸化炭素血症)
- 心不全・循環不全(ショック・有効循環血液量低下)
- 低血糖
- 発熱(敗血症を含む)
- その他(疼痛や不安・運動後など)
急性期のバイタルサインで血圧の異常を評価する際は、これがカテコラミンリリースによる血圧上昇なのか、あるいは乏尿や意識障害などの臓器障害を伴う血圧低下(ショック)なのかを見分けることが非常に重要とされています。
小脈圧を見た時に考えること
小脈圧は、心拍出量の低下を意味します。
- 急性病態(ショックなど)
- 循環血液量減少性ショック(出血や脱水など。頸静脈虚脱を伴う)、閉塞性ショック、および心原性ショックが考えられます。
- 慢性の小脈圧
- 大動脈弁狭窄や、大動脈起始部狭窄を伴う胸部大動脈解離、肥大型心筋症(出口部の狭窄)などが考えられます。小脈圧を見た際は、「心拍出量が低下しているかもしれない」と考えて対応することが重要です。
参考文献
- バイタルサインからの臨床診断 改訂版 宮城 征四郎(監) 羊土社
- 救急外来 ただいま診断中! 第2版 坂本 壮(著) 中外医学社



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