Bacterial translocationは感染源不明の発熱をきたす

感染症
bacterial translocationは原因不明の敗血症を起こす

BTとは、腸管内に定着している病原菌や共生細菌、あるいはその産生・代謝物(エンドトキシン/LPSやペプチドグリカンなど)が、破綻した腸管粘膜バリアを通過して粘膜固有層に侵入し、リンパ節や血流を介して全身循環および遠隔臓器へと移行する病理学的プロセスです。BTは、致死的な菌血症や敗血症を引き起こすだけでなく、炎症性腸疾患(IBD)、肝硬変、重症急性膵炎などの自己免疫・炎症性疾患、さらには発癌や精神疾患に至るまで、多岐にわたる全身疾患の増悪因子として機能します。

BTの主要メカニズム

細菌は主に以下の4つのメカニズムを駆使して腸管バリアを突破します。

1. 傍細胞経路(Paracellular route)の破綻とタイトジャンクションの破壊

正常な腸管上皮細胞間は、オクルーディン、クローディン、ZO(Zonula occludens)などのタイトジャンクション(TJ)タンパクと、E-カドヘリンなどのアドヘレンスジャンクション(AJ)によって強固に結合されています。しかし、病原菌が分泌するプロテアーゼや毒素はこれを直接分解します(例:Campylobacter jejuni のhtrAプロテアーゼによるclaudin-8の分解や、A群溶連菌の毒素によるE-カドヘリンの切断など)。 また、グラム陰性菌由来のLPSは、マスト細胞の脱顆粒を誘導したり、マクロファージ等からのTNF-α放出を促進することで、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)経路を活性化させ、間接的にTJタンパクの再分布やエンドサイトーシスを引き起こし、細胞間の透過性を著しく亢進させます。

2. 経細胞経路:M細胞を介したトランスサイトーシス

パイエル板などに存在するM細胞は、本来、腸管内の抗原を取り込み免疫系へ提示する役割を担いますが、多くの病原菌(SalmonellaListeria monocytogenesYersinia など)はこの経路をハイジャックして宿主内に侵入します。細菌はM細胞のエンドサイトーシスを利用することで、宿主の適応免疫機構による排除を巧みに回避しながら粘膜固有層へと到達します。

3. 上皮細胞のアポトーシス・ネクロトーシスの誘導

病原菌やその毒素は、ミトコンドリア機能障害などを引き起こし、腸管上皮細胞を直接死に至らしめることでバリアに物理的な欠損を生じさせます。例えば、Clostridium difficile のTcdA/TcdB毒素は、Rhoファミリータンパク質を不活性化してアクチン細胞骨格を崩壊させるほか、アポトーシスを誘導します。また、Klebsiella oxytoca のエンテロトキシンは、DNA損傷や微小管の安定化を介して有糸分裂を停止させ、細胞死を引き起こします。

4. 腸管幹細胞(ISC)の障害による自己更新サイクルの破綻

腸管上皮は通常4〜5日周期でターンオーバーしますが、これは陰窩に存在するLgr5陽性の腸管幹細胞(ISC)によって維持されています。一部の病原菌は、ISCを直接損傷してその数を減少させるか、あるいは幹細胞の増殖・分化に必須なWnt/β-カテニン経路やNotchシグナル伝達経路をダウンレギュレート(または異常活性化)させます。この修復・更新プロセスの障害により、慢性的なバリア透過性の亢進が引き起こされます。

■全身ネットワークへの波及(腸管-免疫-内分泌-神経軸)

近年、BTは単なる「腸からの細菌漏出」にとどまらず、「Microbiota-Immune-Endocrine-Nervous-axis(微生物-免疫-内分泌-神経軸)」を介した全身性のクロストーク異常を引き起こすことが強調されています。

  • 腫瘍微小環境と発癌促進: BTによって移行した細菌やLPSは、骨髄由来抑制細胞(MDSC)を動員します。例えば、大腸炎モデルなどにおいて肝臓へLPSが移行すると、免疫抑制的な微小環境(CXCR2+ PMN-MDSCsの集積など)が形成され、肝細胞癌の発生が促進されます。また、移行した細菌やMDSCが乳腺などの遠隔臓器に到達し、乳癌の腫瘍形成や転移の生存を促進することも報告されています。
  • 神経・精神疾患とのリンク: 腸管神経系(ENS)や迷走神経は、腸管内の炎症シグナルを中枢神経系(CNS)へ伝達します。BTによって血中に移行したLPSはTLR4を活性化し、全身性の免疫・炎症反応を引き起こすことで、うつ病、不安障害、認知機能低下などの精神・神経症状に関与します。さらに、心理的ストレス自体が視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸やマスト細胞を活性化し、腸管透過性を高める(BTを助長する)という負のフィードバックループが存在します。

BTの合併症

  • 原因不明の発熱:腸閉塞、潰瘍性大腸炎、抗癌剤治療中の患者などにおいて、一般的な血液培養検査では原因菌が特定できないにもかかわらず、発熱をきたす原因としてBTが関与していることが確認されています。
  • 感染源不明の敗血症:手術部位などの明らかな感染源がないにもかかわらず引き起こされる致死的な敗血症は、BTの代表的な臨床像です。例えば、一時的な人工肛門の閉鎖術後などに、数%の頻度で感染源不明の敗血症を発症することが報告されています。
  • 術野外感染(腸炎など):腹部手術などにおいて、直接手術を行った部位以外で発生する腸炎などの感染症として現れることがあります。
  • 高度の炎症反応および多臓器不全(MOF):移行した生菌や死菌、毒素(エンドトキシンなど)に対する生体反応として全身に過剰な炎症反応が引き起こされ、重篤な場合には複数の臓器が同時に機能不全に陥る多臓器不全(MOF)へと至る原因になると考えられています。

BTを起こしやすい代表的な菌

主に以下の4種類の細菌が挙げられています。

  • Pseudomonas aeruginosa
  • Klebsiella pneumoniae
  • Escherichia coli
  • Proteus mirabilis

これらは主にグラム陰性好気性桿菌に分類される細菌です。健康な腸内細菌叢では、バクテロイデス属やビフィズス菌などの「嫌気性菌」が好気性菌の100〜1000倍を占めていますが、抗菌薬や下剤などの使用によってこのバランスが崩れ、上記のような菌が異常増殖するとBTが増悪するとされています。

また、これら以外にも、以下のような菌や真菌もBTに関与するものとして以下があります。

  • Candida(カンジダ属などの真菌)
  • Enterobacter
  • Bacteroides fragilis
  • 近年問題となっているMRSA多剤耐性大腸菌などの耐性菌

BTが生じやすい患者

1. 消化器系・腹部の疾患を持つ患者

  • 腸閉塞(イレウス): 腫瘍、癒着、術後の吻合部狭窄などで腸管内圧が上昇し、バリア機能が低下するため非常に生じやすいとされています。
  • 炎症性腸疾患(IBD): 潰瘍性大腸炎など、腸管粘膜がすでに損傷している患者。
  • 大腸癌などの腫瘍
  • 肝硬変や急性膵炎
  • 短腸症候群など、腸の蠕動運動が低下している

2. 経口摂取ができない、または特定の治療を受けている患者

  • TPN管理などで長期間絶食状態: 経腸的な栄養投与がないと、数日〜数ヶ月で腸管粘膜の「廃用性萎縮」や免疫細胞の減少が起こり、物理的・免疫的バリアが破綻します。
  • 外科手術後(特に人工肛門の閉鎖術後など): 長期間使用していなかった腸管(肛門側)の萎縮によりBTが生じ、感染源不明の敗血症を起こすことがあります。
  • 抗癌剤治療や放射線治療を受けている患者: 薬物や化学物質、放射線によって腸管粘膜が直接損傷を受けます。
  • 麻薬を投与されている患者: 腸の蠕動運動が低下するため、腸内細菌叢の異常を助長します。

3. 高度な侵襲(重症状態)にある患者

  • 重症の外傷や熱傷
  • 出血やショック状態: 動脈血栓症などによる腸管虚血が起こり、バリアが破綻します。
  • 心不全の患者や、人工心肺を使用

4. 生活習慣病・代謝異常を持つ患者

  • 高血糖(糖尿病)、高血圧症、高脂肪食を摂取している患者: これらの状態自体が、腸管バリアの機能不全を進行させ、腸管感染のリスクを高めます。

5. 精神的な問題を抱えている患者

  • うつ病や不安障害の患者: 強い心理的ストレスが交感神経や内分泌系(HPA軸)を介して腸管バリアの透過性を高め、生菌や毒素の移行を容易にします。

6. その他の患者

  • 早期出生(未熟児)
  • 関節リウマチ

これらの患者は、腸管バリアの破綻、腸内細菌叢の異常(ディスバイオシス)、免疫力の低下といったBT発生の条件を満たしやすいため、臨床上特に注意が必要とされています。

具体的な割合


特集 栄養療法【コラム】バクテリアルトランスロケーション―概念の変遷と最新の考え方
岡本 耕一 , 長谷 和生, 小野 聡,INTENSIVIST 3巻3号 (2011年7月発行)より

1. 腸閉塞(イレウス)患者における割合

  • BTの発生率(リンパ節の細菌培養陽性率): 腸閉塞患者では39.9%に上り、腸閉塞ではない患者(7.3%)と比べて有意に高率であることが報告されています。
  • 術後敗血症の発生率: 腸閉塞患者では36.1%であり、非閉塞患者の11.1%よりも有意に高くなっています。

2. 開腹手術患者におけるBTと敗血症の関連

  • 開腹術を行った927人を対象とした研究では、BTが確認された患者の42.3%が術後敗血症を発症したと報告されています(BTが認められなかった患者での発症率は19.9%でした)。

※腸閉塞や開腹手術におけるBTの発生率は、開腹手術の際に腸間膜リンパ節を採取して直接培養し、通常は無菌であるはずの組織内に細菌が存在するか(生菌が移行しているか)を証明する方法で調べられました。

3. 侵襲の大きな消化器癌手術患者における割合(術後1日目) PCR法を用いて血中から腸内細菌などの微生物DNAが検出された(BTが強く疑われる)割合は、手術による身体的負担の大きさに比例して高くなります。

  • 肝葉切除術の患者:60%(5人中3人)
  • 開胸開腹食道切除術の患者:43%(7人中3人) なお、比較的侵襲の軽い胃切除術や結腸切除術では、血中からDNAは1例も検出されなかったとされています。

※これらの手術を受けた患者の「術後第1病日の末梢血」を採取し、大腸菌などの腸内細菌のDNAや、カンジダ(Candida albicans)などの真菌DNAが血中に存在していないかをPCR法で解析することで検出しています。

4. 人工肛門(ストーマ)閉鎖術後の患者

  • 直腸癌手術などで一時的に人工肛門を造設し、数ヶ月後に閉鎖する手術を行った場合、長期間使っていなかった腸管の萎縮によるBTが原因と疑われる「感染源不明の敗血症」をきたす症例が数%程度の頻度で発生すると報告されています。

これらのデータから、腸管の閉塞がある場合や、肝臓・食道などの身体的ダメージが極めて大きい手術において、BTやそれに伴う敗血症のリスクが数割(約40〜60%)という高い割合で生じることがわかります。

BTを予防・抑制するための具体的な対策は?

1. プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス療法

  • プロバイオティクス: 悪玉菌の増殖を抑えて腸内細菌叢を整え、病原菌(腸管組織侵入性大腸菌など)の腸上皮への接着や侵入、バリア機能の低下を防ぎます。
  • プレバイオティクス: プロバイオティクスのエネルギー源となるオリゴ糖や食物繊維、小腸のエネルギー基質であるグルタミンなどを投与します。グルタミンは全身の免疫能を増強し、食物繊維が代謝されてできる短鎖脂肪酸は、大腸粘膜の血流増加やタイトジャンクションの透過性低下に働きます。
  • シンバイオティクス: 上記2つを併用する治療法で、肝切除や膵切除、多発外傷などの高リスク患者において、感染性合併症の予防効果が報告されています。

2. 選択的消化管除菌(SDD: Selective Digestive Decontamination)

正常な腸内細菌叢(主に嫌気性菌)には影響を与えず、非吸収性の抗菌薬を用いてグラム陰性好気性桿菌や真菌などの病原菌を選択的に排除する治療法です。

  • 熱傷やICUの重症患者において、肺炎や尿路感染症、死亡率を減少させることが示されています。
  • 従来はポリミキシンE、トブラマイシン、アムホテリシンBを組み合わせたレジメンが使用されていましたが、近年ではMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や多剤耐性菌に対応するため、バンコマイシンを加えたレジメンも使用され、耐性菌を増やさずに効果を上げています。
  • 全身への影響や耐性菌出現を防ぐため、腸管内で高濃度を維持できる非吸収性抗菌薬を経口や胃管などから投与します。

3. 腸管内圧の減圧処置

癒着性イレウス(腸閉塞)などが遷延して腸管内圧が上昇している場合は、イレウス管などを挿入して速やかに減圧を図ることが重要です。これにより、内圧上昇による腸管バリアの物理的破綻を防ぎます。

4. 今後期待される薬物療法

海外の動物実験では、経腸的にポリエチレングリコールを投与することで、腸管内で粘液のように働き、緑膿菌の腸管粘膜への接着を抑える効果が報告されており、今後の臨床応用が期待されています。

5. 病態に合わせた複合的なアプローチの重要性

実際の臨床現場で直面するBTは、腸管内圧の上昇、長期間の絶食による廃用性萎縮、虚血、腸内細菌叢の変化などが複雑に混在して発生します。そのため、単一の治療ではなく、「イレウス管で内圧を下げる」「SDDでうっ滞した細菌叢を改善する」「シンバイオティクスで長期間の栄養欠如によるバリア機能を回復させる」といった複数の対策を併用し、患者の病態に合わせて管理することが重要です。誤った使い方は効果不足や多剤耐性菌の出現を招くため注意が必要です。

参考文献

  • 特集 栄養療法【コラム】バクテリアルトランスロケーション―概念の変遷と最新の考え方
    岡本 耕一 , 長谷 和生, 小野 聡,INTENSIVIST 3巻3号 (2011年7月発行)
  • Shu LZ, Ding YD, Xue QM, Cai W, Deng H. Direct and indirect effects of pathogenic bacteria on the integrity of intestinal barrier. Ther Adv Gastroenterol. 2023 May 30;16:17562848231176427. doi: 10.1177/17562848231176427. PMID: 37274298; PMCID: PMC10233627.

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