【本紹介】『1分で話せ』——コンサルトには効いて、ICには効かない

おすすめ本
1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術

1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術 伊藤 羊一 (著)

上級医に電話で報告していて、途中で「で、何が言いたいの」と遮られたことは、たぶん誰にでもあると思います。私もありました。

そういうとき、たいてい自分では「うまく話せなかった」と反省します。順序が悪かった、余計なことを言った、と。話し方の問題として片づけてしまうわけです。

伊藤羊一さんの『1分で話せ』は、そこに手を入れるための本です。結論から入る、根拠は3つ、余計なものは削る。ビジネス書としては定番の型で、目新しいことが書いてあるわけではありません。

ただ、実際に臨床で使ってみると、効く場面と、まったく効かない場面がはっきり分かれました。しかも効いた理由が、本が想定しているものとは少し違っていた。そのあたりを書いておきます。


本文

効いたのは、伝わり方ではなく、自分の頭のほうだった

上級医へのコンサルトで、意識して「結論から言うと」を頭に置くようにしてみました。

相手の反応が変わったかというと、正直そこまで劇的な変化はありません。もともと聞いてくれる先生は聞いてくれますし、忙しいときは何を言っても短く切られます。

変わったのは、自分のほうでした。話を組み立てやすくなったんです。

理由はシンプルで、「結論から言うと」と口に出すためには、その時点で結論を持っていなければならないからです。持っていなければ、その一言が言えない。だから電話をかける前に、いったん立ち止まることになります。

これは、話し方の改善というより、診療の型に近いと思います。

研修医の先生方の報告が時系列で長くなるのは、話し方が下手だからではありません。まだ自分の中でアセスメントが立っていないからです。立っていないから、拾った所見を順番に並べるしかない。SOAPで言えば、SとOは書けているのにAが空欄のまま報告している状態です。

本のなかに、考えるとは結論を導き出すことだ、という趣旨のくだりがあります。事実やデータを並べただけでは結論ではない、と。読んだときはあたりまえのことに見えたのですが、コンサルト前の自分に当てはめると、けっこう刺さります。データは揃っているのに、加工していない。だから話が長い。

そう考えると、この本は伝達技術の本というより、話す直前に思考を強制的に締め切らせる装置として機能しているのかもしれません。少なくとも私にとってはそうでした。

「根拠は3つ」は、そのまま持ち込むと危ない

一方で、そのまま真似すると危ないところもあります。

この本は根拠を3つ挙げることを勧めていて、聞き手が指を3本見た瞬間にメモを取り始める、という話まで出てきます。プレゼンとしてはそのとおりだと思います。

ただ、臨床で「肺炎です。理由は3つ、発熱・咳嗽・浸潤影」とやると、3つに揃えることが目的化しかねません。数を合わせるために弱い根拠を足したり、逆に4つめの重要な所見を落としたりする。鑑別を狭める方向に働きます。

根拠の数は、揃えるものではなく、あるだけ言うものです。ここは本の型をそのまま持ち込まないほうがいいと感じました。

ICでは、この本の前提が崩れる

もっとはっきり効かなかったのが、患者さんやご家族への説明の場面です(当たり前かもしれませんが。。。)。

この本の出発点は、聞き手はあなたの話をほとんど聞いていない、というところにあります。だから凝縮して1分で渡す。忙しい上司や役員を相手にした設計です。実際、忙しい人ほど1分のほうが聞いてくれる、という指摘もあります。

でもICの場では、この前提がまるごと反転します。

目の前のご家族は、忙しくありません。むしろ受け止める準備ができていない。急に呼び出されて、まだ状況が飲み込めていない。取り乱していることもあります。

そこへ凝縮した結論をいきなり置くと、伝わるどころか、何も残りません。情報の密度が高すぎて処理が追いつかないからです。1分で話したのに、翌日にはまったく別の理解になっていた、ということが普通に起こります。

だから実際には、その場の雰囲気を見ながら話しています。落ち着いて聞ける状態なのかどうか。今日はどこまで話すべきなのか。結論を先に置くこともあれば、置かないこともあります。

分かれ目は「相手が結論を待っているか」

効いた場面と効かなかった場面を並べてみると、線はかなりはっきりしています。

上級医は、結論を待っています。 だから結論から入るのが正解です。むしろ待たせるほうが失礼になる。

取り乱しているご家族は、結論を待っていません。 待っていない人に結論を渡しても、受け取る手が用意されていない。

同じ「伝える」でも、相手を動かしたいのか、相手が受け止める時間をつくりたいのかで、設計が真逆になります。この本が扱っているのは前者だけです。そこを踏まえずに全場面へ持ち込むと、事故ります。

逆に言えば、前者の場面——コンサルト、カンファでの発言、症例報告、上級医との議論——には、そのまま効きます。医療者にとっては、そこだけ取り出して使えば十分な本だと思います。


この本について

伊藤羊一さんが書いた、プレゼンテーションと伝え方の本です。結論と根拠のピラミッドを組み立てて、1分で伝わる形に凝縮する、という考え方が軸になっています。想定読者はビジネスパーソンで、会議やプレゼンで自分の提案を通したい人に向けて書かれています。

医療の話は当然出てきませんが、上下関係のある組織でどう発言するか、という部分は、そのまま研修医と指導医の関係に読み替えられます。個人的には、プレゼン技術より、上司との議論の章のほうが面白く読めました。 <!– ここにAmazonリンク –>


向く読者・向かない読者

向く方:コンサルトや症例報告で、話が長いと言われがちな人。特に1〜2年目。話し方の本として読むより、報告前の思考を整理する型として読むと元が取れます。

向かない方:すでに結論から話す癖がついている方には、新しい発見は少ないと思います。また、この本の型を患者説明にも適用しようと考えている方には、勧めません。前提が違います。


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