腹部単純X線写真は、救急外来でも病棟でもすぐに撮れる検査です。ところが「撮ったはいいけど、どこを見ればいいのかよくわからない……」という声をよく聞きます。胸部X線に比べて、とにかくコントラストが乏しくて見づらいんですよね。結局CTでいいじゃんってなる。けれど、せっかく撮ったのなら読めるようになりたいものです。
この記事では、腹部単純X線写真がなぜ見づらいのかという原理から始めて、小腸と大腸のガスの見分け方、拡張の基準、ニボーとフリーエアの読み方、そして立位・仰位・デキュビタスの使い分けまでを、実際の画像と一緒に整理していきます。
腹部単純X線写真の画像的・解剖学的特徴
胸部X線と比べて見づらい理由
胸部X線写真は、主に空気(肺)と水(心臓・血管・軟部組織)の2つの成分でできています。空気は黒く、水は白く写るので、はっきりしたコントラストが得られます。
一方の腹部には、管腔臓器と実質臓器が1枚の画像の中に密集しています。
- 管腔臓器:小腸(空腸・回腸)、大腸(盲腸・結腸・直腸・肛門管)、尿路(尿管・膀胱)があります。
- 実質臓器:肝臓、脾臓、膵臓、腎臓があります。
そして腹部の臓器の大部分は、X線の吸収率がほぼ同じ(軟部組織の濃度)です。そのため臓器どうしの間にコントラストがつかず、境界がとても見えにくくなります。腹部単純X線写真が「ぼんやりして見える」のはこのためです。
それでも読めるのは「ガス」と「脂肪」のおかげ
見づらい腹部単純X線写真でも情報が得られるのは、2つの手がかりがあるからです。
1つめは腸管ガスです。腸管の中の空気は低吸収なので黒く写ります。このガスの分布や形を観察することで、腸管の状態を間接的に推測します。ただし腸管ガスは決まった場所にとどまっているわけではありません。解剖学的な個人差があるうえに、撮影の時間帯や撮影時の体位によって簡単に移動します。1枚の写真だけで決めつけず、前回の写真や体位の違う写真と比べることが大切です。
2つめは周囲の脂肪です。脂肪は水より密度が低く、X線を通しやすいので、軟部組織より少し黒く写ります。肝臓や腎臓、腸腰筋のような実質臓器・筋肉は、それ自体が見えているのではありません。周囲の脂肪との濃度差によって輪郭が縁取られ、間接的に描出されています。やせている人で臓器の輪郭が見えにくいのはこのためです。

画像:Nevit Dilmen「Medical X-Ray imaging AAG02 nevit.jpg」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
消化管ガス像の見分け方と拡張の基準
胃のガス
胃のガスは、左上腹部にドーム状、あるいは滑らかな輪郭のガス影として見えます。立位では液面を伴うことが多く、これは正常な所見です。
小腸と大腸のガスはヒダで見分ける
拡張した腸管が小腸なのか大腸なのかは、ヒダの形を見ると区別できます。ここは腹部単純X線写真でいちばん大事なポイントの1つです。
- 小腸:輪状ヒダ(ケルクリングヒダ)が見えます。細かいヒダが全周性に並んでいて、腸管の端から端まで完全に横断するのが特徴です。拡張した小腸は、コイルばねを伸ばしたような見た目になります。
- 大腸:結腸膨起(ハウストラ)が見えます。小腸のヒダより太く、間隔も広めです。大腸の壁には縦に走る結腸ヒモがあるため、ハウストラの線は腸管の途中で途切れて、完全には横断しません。ここが小腸との鑑別のポイントです。また、内部に便塊の影があれば大腸と判断する手がかりになります。
分布も参考になります。小腸は腹部の中央寄りに、大腸は腹部の外周を取り囲むように分布することが多いです。

画像:Nevit Dilmen「Radiology 1300250.JPG」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0

画像:James Heilman, MD「LargeBowelObsFlat2008.jpg」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
腸管拡張の基準は「3-6-9ルール」で覚える
3-6-9ルール
- 小腸:径3 cm以上なら異常な拡張
- 大腸:径6 cm以上なら異常な拡張。
- 盲腸:径9 cm以上なら異常な拡張。
この中で特に注意してほしいのが盲腸です。盲腸は大腸の中でも壁が薄く径が大きいため、内圧がかかると最も破れやすい部位です。盲腸径が9 cmを超えていたら、盲腸破裂の危険があるサインです!!
ガスが「ない」ことも所見
本来あるはずの腸管ガスがまったく見えない場合(gasless abdomen)、小腸閉塞を疑う手がかりになります。閉塞した小腸の中が液体で満たされると、ガスが写らなくなるためです。「ガスが少ないから大丈夫」と思ってしまいがちですが、実は逆のこともあるので気をつけてください。なお、嘔吐が続いている場合や腹水が多い場合などでもガスは少なくなるので、臨床所見と合わせて判断します。
腸閉塞(イレウス)の疫学と病態
- 腸閉塞全体のおよそ80%が小腸閉塞で、残りの約20%が大腸閉塞です。
- 大腸閉塞の約半数は、大腸がんによるものです。がんで大腸が狭くなると、病変より口側の大腸が大きく拡張します。
図3のように大腸がはっきり拡張している場合は、大腸がんによる閉塞を必ず念頭に置いてください。高齢の方で、便秘が続いていた、便が細くなっていた、といった経過があればなおさらです。
異常ガス像の評価:ニボーとフリーエア
液面形成(ニボー)
ニボーは、立位などで撮影したときに、重力によって下に液体、上に空気が分かれてできる水平な境界線のことです。腸閉塞やイレウスがあることを示唆します。
ただし、どこにあっても異常というわけではありません。部位ごとに判断の基準が違います。
- 胃:立位で胃にニボーがあるのは正常な所見です。
- 小腸:3個以上のニボーがあれば異常と判断し、腸閉塞やイレウスを疑います。
- 大腸:1個でもニボーがあれば異常と判断します。
小腸閉塞では、高さの違うニボーが階段状に並ぶことがよくあります。

画像:James Heilman, MD「Upright X-ray demonstrating small bowel obstruction.jpg」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
腹腔内遊離ガス(フリーエア)
フリーエアは、消化管の外、つまり腹腔内に漏れ出た気体のことです。基本的には消化管穿孔を意味するので、見つけたら緊急事態です。
立位ではガスがいちばん高いところに移動するので、右横隔膜の下(肝臓の上縁と横隔膜の間)に三日月状の黒い透亮像がないかを探します。右側を見るのは、ここに血管も臓器もない空間があるからです。左横隔膜の下には胃泡や結腸のガスが重なりやすく、フリーエアとの区別が難しくなります。
実は、フリーエアは腹部より胸部の立位写真のほうが見つけやすいです。胸部写真は横隔膜の高さに合わせて撮影されるので、横隔膜下のわずかなガスも写りやすくなります。また、撮影前に数分間(できれば10分程度)座位や立位を保ってもらうと、ガスが上がってきて検出しやすくなります。

画像:Hellerhoff「Pneumoperitoneum.jpg」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
術後のフリーエアに注意
開腹手術や腹腔鏡手術(炭酸ガスによる気腹)の後にも、同じようなフリーエアが見えます。これは穿孔ではなく、手術による医原性のものです。開腹術後のフリーエアは数日から1週間程度残ることがあります。「フリーエアがある=穿孔」と即断せず、手術歴や術後何日目か、腹部所見がどうかを必ず確認してください。逆に、術後なのにフリーエアが日を追って増えている場合は、縫合不全などを疑います。

画像:Hellerhoff「Postoperatives Pneumoperitoneum 32M – CR – 001.jpg」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0
撮影体位の特徴と使い分け
立位正面像
得意なこと:ニボーとフリーエアを見つける感度が高いです。
苦手なこと:いくつかあります。
- 重力で臓器や腸管が下に垂れ下がるので、仰臥位で行う触診の所見と、写真上の病変の位置がずれてしまいます。
- 閉塞部位が小腸か大腸か、閉塞が1か所か複数か、といった評価は難しくなります。
- 少量の腹水は写りにくいです。
- 仰臥位に比べてコントラストが落ちます。
- 自分で立てない患者さんには撮影できません。

画像:James Heilman, MD「LargeBowelObsUp2008.jpg」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
仰臥位正面像(臥位正面像)
腹部単純X線撮影の基本はこちらです。腸管の拡張そのものは、仰臥位でも十分に見つけて評価できます。患者さんの状態によって1枚しか撮れないときは、仰臥位を選ぶのが標準的です。図3と図7を見比べると、腸管の走行やヒダの形は仰臥位のほうが追いやすいことがわかると思います。
補足:仰臥位でもフリーエアに気づけるサイン
仰臥位ではフリーエアは横隔膜下に集まらず、お腹の前面に広がります。量が多いと、腸管の内側の空気と外側のフリーエアに挟まれて、腸管の壁が内外両側からくっきり見えるようになります。これをRigler徴候(double wall sign)といいます。普段は内側しか見えない腸管壁が「線」として浮き上がって見えたら、フリーエアを疑ってください。

画像:Mikael Häggström(原画像:Scott1751)「Double wall sign annotated.jpg」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0

立てない患者さんのための撮影法
左側臥位デキュビタス像:患者さんを左を下、右を上にした横向きに寝かせて、正面から水平にX線を当てます。立てない患者さんでも、上に移動したフリーエアやニボーを安全に確認できます。右を上にするのは、フリーエアが肝臓の外側(右側腹部)に集まり、胃泡と重ならずに見分けやすいからです。

画像:Hellerhoff「Freie Luft Linkseitenlage.jpg」/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
仰臥位側面クロステーブル像:患者さんを仰臥位にしたまま、横から水平にX線を当てて側面像を撮ります。体の向きを変えることも難しい重症の患者さんで、お腹の前面に集まったフリーエアを確認するときに使います。
まとめ
- 腹部は臓器どうしのX線吸収率がほぼ同じなので、コントラストがつきにくいです。読影の手がかりは、腸管ガスと周囲の脂肪です。
- 小腸は腸管を完全に横断するケルクリングヒダ、大腸は途中で途切れるハウストラと便塊で見分けます。
- 拡張の基準は3-6-9ルールです。盲腸9 cm以上は破裂の危険があるサインです。
- ガスがまったく見えないことも、小腸閉塞のサインになり得ます。
- ニボーは、胃なら正常、小腸は3個以上で異常、大腸は1個でも異常です。
- フリーエアは立位で右横隔膜下を探します。胸部の立位写真のほうが見つけやすく、術後の医原性フリーエアにも注意します。
- 1枚だけ撮るなら仰臥位が基本です。立てない患者さんでは左側臥位デキュビタス像を使います。
参考画像
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