HINTSは「眼振がある患者」にだけ使う検査

内科

急性のめまいで救急外来に来た患者さんを前にして、「脳卒中だったらどうしよう」と不安になったことがある方は多いと思います。その不安に応えるベッドサイドの検査として広く知られているのが、HINTS(Head Impulse, Nystagmus, Test of Skew)です。

ただしHINTSは、対象を間違えると役に立たないどころか、誤診の原因になる検査です。救急外来のカルテを調べた研究では、HINTSの7〜9割以上が、本来は対象外の患者さんに行われていました。

2026年9月にJAMA Neurologyに掲載されたレビュー「When to Use the HINTS Examination in Patients With Dizziness」は、この「HINTSを誰に使うべきか」という問題を正面から扱っています。この記事では、その内容を臨床で使える形に整理して解説します。

論文情報

Sars C, Lelli D, Tse D, Johns P. When to Use the HINTS Examination in Patients With Dizziness: A Review. JAMA Neurol. Published online September 21, 2026. doi:10.1001/jamaneurol.2026.2942

(『前庭神経炎でCRPは上昇するのか』という記事もありますので、ご参照いただければ幸いです。)

この論文のポイント

  • HINTSの前に、まず中枢徴候を確認する
    • 複視・構音障害・測定障害・嗄声・嚥下障害(危険なD)、局所の脱力やしびれ、垂直性眼振、新たな頭痛・頸部痛、独歩不能。
    • 1つでもあれば、HINTSの結果に関係なく脳卒中の精査に進みます。
  • HINTSは「安静時眼振がある急性持続性めまい」にだけ使う
    • 安静時眼振とは、正面視または左右30°の注視で見える眼振です。
    • 頭位変換で誘発される眼振は含めません。
  • 眼振がないのにHINTSをすると、「中枢」という誤った判定が増える
    • BPPVや前庭性片頭痛ではHITが正常なので、「HIT正常=中枢」と判定されてしまいます。
  • HINTSで「末梢」と言えるのは、HIT異常+一方向性眼振+skewなしの3つがそろったときだけ
    • 1項目でも中枢パターンがあれば精査します。
  • 聴力も確認(HINTS+)
    • 一側の難聴があれば、HITが異常でもAICA梗塞を考えます。
  • 眼振がなければ、歩行を見る
    • 新たな客観的歩行障害があれば脳卒中を精査し、歩行が正常ならBPPV・前庭性片頭痛・内科的原因を考えます。
  • 眼振は固視を外して探す
    • Frenzel眼鏡を使いましょう(大事!!)。しばしば、Frenzel眼鏡装着なしに「眼振なし」と書いてあるカルテをみますが、だめです。必ずFrenzel眼鏡装着しましょう。
    • Frenzel眼鏡がなくても、片眼を覆って反対の眼にペンライトを当てる、白紙を顔の横にかざしてそれを見てもらう、といった方法で固視を外せます。

HINTS検査のおさらい

HINTSは2009年にKattahらが報告したベッドサイドの眼球運動検査で、次の3つの要素からなります。

  • HI(Head Impulse test:HIT):患者さんに検者の鼻などを見てもらい、頭を素早く水平に回します。前庭神経炎では、眼振の急速相と反対側(患側)へ頭を回したときに、視線が一度ずれてから戻るcatch-up saccadeが見えます(HIT異常)。脳卒中ではHITはほぼ正常です。
  • N(Nystagmus):前庭神経炎の眼振は一方向性の水平性眼振で、注視方向を変えても向きは変わりません。注視方向で向きが変わる眼振や、純粋な垂直性眼振は中枢性を示唆します。
  • TS(Test of Skew):交代遮閉試験(cross-cover test)で、遮閉を外したときに眼が上下に動いて戻るかを見ます。垂直方向のずれ(skew偏位)は中枢性を示唆します。

ここに指こすりによる簡易的な聴力検査を加えたものがHINTS+です。

方向交代性眼振とskew偏位は、見られれば中枢性を強く示唆しますが、脳卒中でも出ないことが多い所見です。一方、HIT異常は前庭神経炎ではほぼ必ず見られ、脳卒中ではほとんど見られません。HINTSは「脳卒中を探す検査」というより、「前庭神経炎と確定することで脳卒中を否定する検査」です。この位置づけが、以下の議論の前提になります。

HINTSが誤用される背景:「急性前庭症候群」の定義の変化

HINTSの対象は急性前庭症候群(acute vestibular syndrome:AVS)で、鑑別は「前庭神経炎か脳卒中か」です。ここまでは専門家の間でも一致しています。問題は、AVSの定義そのものが時代とともに変わってきたことです。

  • 原典(Hotson & Baloh, 1998):強い回転性めまい、悪心・嘔吐、自発眼振、姿勢の不安定。眼振は定義の一部でした。
  • ICD-11:数日〜数週続く持続性のめまい・ふらつきで、嘔吐、眼振、強い姿勢不安定のいずれかを伴うことが多い。眼振は必須ではありません。
  • GRACE-3(2023年、米国救急医学会系の診療ガイドライン):ICD-11の定義を採用しています。推奨6では「眼振の有無にかかわらず、HINTSに習熟した医師がいればMRIを第一選択にしない」としています。

著者らは、この書き方が「眼振がなくてもHINTSには意味がある」という誤解を生んでいると指摘しています。実際、救急外来のカルテを調べた2つの研究では、HINTSの71〜97%が安静時眼振のない患者さんに行われていました

定義が広げられた背景には、眼振のない脳卒中を取りこぼしたくないという意図があると考えられます。後方循環梗塞の最大44%は、はっきりした眼振がないまま受診するという報告もあります。

眼振がない患者さんにHINTSをしてはいけない理由

HIT異常が出るのは前庭神経炎(と迷路炎)だけ

急性のめまいでHITが異常になる末梢性疾患は、前庭神経炎と、まれな迷路炎だけです。AVSを対象にした系統的レビューでも、末梢性の最終診断は前庭神経炎377例と迷路炎1例のみでした。

そして前庭神経炎では、発症から3〜4日はほぼ全例ではっきりした眼振が見えます。つまり、眼振がない患者さんはそもそも前庭神経炎である可能性が低く、HITは正常になり、HINTSは「中枢」と判定されます。HINTSには、前庭神経炎以外の末梢性めまいを「末梢」と判定する仕組みがありません。

BPPVや前庭性片頭痛が「中枢」と判定されてしまう

救急外来で多いBPPVや前庭性片頭痛は、HITが正常です。そのため、眼振のない状態でHINTSを行うと、脳卒中の偽陽性になります。

  • BPPVでも、最大16%は数時間から持続性のめまいを訴えます。「持続性だからBPPVではない」とは言えません。
  • Gerlierらの研究(300例)では、最も多い診断はBPPV(30%)で、HINTSの偽の中枢判定は主にBPPVの患者さんで起きていました。本来なら浮遊耳石置換法(Epley法など)で治療して帰宅できる患者さんが、CTやMRIに回されることになります。
  • 眼振を必須としない広いAVS定義を使ったNhamらの研究では、11%が前庭性片頭痛でした。そのほぼ全員が、眼振がなくHITで中枢判定(脳卒中の偽陽性)でした。

GRACE-3の著者の一部(Omron & Edlow)は、「数日続くめまいで眼振がなければ脳卒中を考えるべきで、その意味は方向交代性眼振や垂直性眼振を見たのと同じ」という立場をとっています。本レビューは、これでは偽の中枢判定が増えて特異度が下がりすぎると反論しています。

眼振の探し方

本レビューでは、安静時眼振=正面視で見える自発眼振、または左右30°の注視で見える注視眼振と定義しています。頭位変換で誘発される眼振は含めません。

発症から時間がたった前庭神経炎や、一部の脳卒中では、眼振が見えにくいことがあります。固視を外すと見えるようになることがあるので、次の方法を試します。

  • Frenzel眼鏡(ビデオ式を含む)を使う
  • 片眼を覆い、反対の眼にペンライトを当てる
  • 白紙を顔の横にかざして、それを見てもらう

なお、正面視で見える垂直性(上眼瞼向き・下眼瞼向き)眼振は中枢性を強く疑う所見です。後半規管型BPPVでDix-Hallpike法により誘発される「上向き+回旋性の混合性眼振」とは区別します。

HINTSの前に中枢徴候を確認する

著者らが最も強調しているのが、HINTSより先に中枢徴候をスクリーニングすることです。確認するのは次の項目です。

  • 局所の脱力、しびれ
  • 危険なD:複視(diplopia)、構音障害(dysarthria)、測定障害(dysmetria)、嗄声(dysphonia)、嚥下障害(dysphagia)
  • 垂直性眼振
  • 新たな独歩不能
  • 新たな強い頭痛・頸部痛(小脳出血や椎骨動脈解離を示唆)

神経診察の数字をどう読むか

指標数値
一般神経診察で中枢性の原因を検出する感度/特異度46.8% / 92.8%
持続性めまい+眼振の患者さんで、神経診察異常の陽性尤度比26.8
(参考)MRI異常の陽性尤度比75.2

神経診察は感度が低いので、正常でも脳卒中は否定できません。一方で特異度が高いので、異常があれば脳卒中を強く疑います

HINTSの診断精度研究の多くは、検者を神経診察や画像の結果から盲検化して行われています。しかし実臨床で盲検化する理由はありません。先に中枢徴候を確認し、陰性で、かつ安静時眼振がある患者さんが、HINTSの最もよい対象です。

ガイドラインや教科書の問題点

  • GRACE-3:15の推奨のどれにも「まず中枢徴候を確認する」という推奨はありません。冒頭で、片麻痺・視野障害・意識障害のような明らかな脳卒中はHINTSの対象外とされていますが、見逃されやすいのはむしろ危険なDのような目立たない所見の患者さんです。
  • Rosen’s Emergency Medicine(第10版):持続性めまいでは、まずHINTSを行い、その後に神経所見を確認するアルゴリズムになっています。
  • どちらも、安静時眼振がHINTSの前提条件であることを明記していません

著者らは、中枢徴候の確認は、HINTSの手技や解釈を誤ったときの安全網になると述べています。また、脳卒中を見逃したときに、患者さんや家族が覚えているのはHINTSの結果ではなく「複視」「呂律不良」といった症状であり、それを聞かなかった理由を問われることになる、とも指摘しています。

HINTS+:聴力検査を加える意味と画像検査の適応

AVSの患者さんでは、指こすりによる簡易的な聴力検査で一側の難聴がないかを確認します。目的は、迷路を梗塞させるAICA(前下小脳動脈)梗塞を拾うことです。AICA梗塞では、難聴と急性めまいに加えてHITが異常になるため、HINTSの3項目だけでは前庭神経炎と区別できないことがあります。

中枢徴候がなく、HINTS+の4項目がすべて末梢パターンで、前庭神経炎が疑われる場合は、神経画像は必須ではありません。画像検査は次のような場合に行います。

  • 診察で中枢徴候がある
  • HINTS+で1項目でも中枢パターンがある
  • 局所神経症状、脳卒中のリスク因子、新たな頭痛など、ほかに気になる所見がある

眼振がない急性持続性めまいでは歩行を見る

眼振がない患者さんにHINTSを使わないのであれば、どう評価するか。著者らは、客観的な歩行障害の有無を手がかりにすることを提案しています。

  • Machnerらの研究:神経内科に入院した診断不明のめまい患者さんのうち、持続性めまい・眼振なし・急性発症の歩行不安定を示した例(acute imbalance syndrome)では、遅れて撮ったMRIで33%に異常がありました。ABCD2スコアが高リスクの例では50%でした。
  • Smithらの研究(症例対照研究):後方循環梗塞が疑われた患者さんで、客観的な歩行異常がなければ、後方循環梗塞に対する陰性的中率は99%でした。

眼振が消えるまで回復した前庭神経炎の患者さんは、普通に歩けるはずです。そのため、眼振がなく新たな客観的歩行障害がある場合は、脳卒中の精査を行います。

中枢徴候なし・眼振なし・歩行正常の患者さんを直接調べた研究はまだありません。ただし後方循環梗塞のリスクは非常に低いと考えられ、BPPV、前庭性片頭痛、内科的な原因を検討します。

提案アルゴリズム

論文のFigure 1をもとに、日本語でアルゴリズムを作りました。

急性発症の持続性めまいの臨床判断アルゴリズム。中枢徴候のスクリーニング、安静時眼振の確認、HINTS検査、歩行評価の流れ
図1 急性発症の持続性めまいの臨床判断アルゴリズム。Sars C, et al. JAMA Neurol. 2026 の Figure 1 をもとに作成(和訳・一部補足)。

流れをまとめると、次のようになります。

  1. 中枢徴候をスクリーニングし、陽性なら脳卒中の精査に進む。
  2. 陰性なら、水平性の安静時眼振を確認する。
  3. 眼振があればHINTS(HINTS+)を行う。すべて末梢パターンなら前庭神経炎と診断し、ほかに適応がなければ画像検査なしで帰宅も可能。1項目でも中枢パターンなら脳卒中の精査に進む。
  4. 眼振がなければ歩行を評価する。新たな客観的歩行障害があれば脳卒中の精査に進む。歩行が正常なら、BPPV・前庭性片頭痛・内科的原因を検討する。

この論文を読むときの注意点

  • ナラティブレビューであり、著者の意見が中心
    • 系統的な文献検索は行われておらず、新しいデータもありません。
    • 提案アルゴリズムは前向きに検証されていません。
  • GRACE-3への反論というきらいがある
    • GRACE-3側は「眼振のないAVSにこそ脳卒中が隠れている」と考え、本レビューはその集団をHINTSではなく歩行評価で拾うことを提案しています。
    • どちらも、眼振のないAVSを放置してよいとは言っていません。
  • 歩行評価の根拠はまだ限られている
    • Machnerらの研究は神経内科に入院した診断不明例、Smithらの研究は症例対照研究です。
    • 救急外来の未選別の患者さんにそのまま当てはまるかは分かっていません。
  • HINTSは手技の習熟が必要
    • 本レビューは「誰に使うか」に焦点を当てていますが、HITの手技や判定の誤りも、実臨床では誤診の大きな原因になります。
  • 対象は救急外来の急性発症例
    • 外来で診る非急性のめまいでは、HINTSの各要素は参考になりますが、中枢性と末梢性を同じ精度で見分けることはできません。
  • 日本の医療環境での使い方
    • 日本ではMRIを撮りやすい施設が多いため、HINTSの意義は「MRIを省く」ことよりも、発症早期でMRI(拡散強調画像)が偽陰性になり得る脳卒中を見逃さないための補助にあると考えられます。

まとめ

  • HINTSは「前庭神経炎と確定することで脳卒中を否定する検査」
  • HINTSを行う前に、危険なDなどの中枢徴候を確認します。1つでもあれば、HINTSの結果に関係なく脳卒中の精査に進む。
  • HINTSは安静時眼振(正面視または左右30°注視)がある患者さんにだけ行う。頭位変換で誘発される眼振は含めない。
  • 眼振がない患者さんにHINTSを行うと、BPPVや前庭性片頭痛が「中枢」と誤って判定される。
  • HIT異常・一方向性眼振・skewなしの3つがそろい、聴力に左右差がなければ前庭神経炎と診断できる。1項目でも中枢パターンなら精査する。
  • 眼振がない場合は歩行を評価します。新たな客観的歩行障害があれば脳卒中の精査を行う。
  • 中枢徴候の確認は、HINTSの手技や解釈を誤ったときの安全網になる。

参考文献

  • Sars C, Lelli D, Tse D, Johns P. When to Use the HINTS Examination in Patients With Dizziness: A Review. JAMA Neurol. Published online September 21, 2026. doi:10.1001/jamaneurol.2026.2942
  • Kattah JC, et al. HINTS to diagnose stroke in the acute vestibular syndrome: three-step bedside oculomotor examination more sensitive than early MRI diffusion-weighted imaging. Stroke. 2009;40(11):3504-3510.
  • Edlow JA, et al. Guidelines for reasonable and appropriate care in the emergency department 3 (GRACE-3): acute dizziness and vertigo in the emergency department. Acad Emerg Med. 2023;30(5):442-486.
  • Hotson JR, Baloh RW. Acute vestibular syndrome. N Engl J Med. 1998;339(10):680-685.
  • Tarnutzer AA, et al. Impact of clinician training background and stroke location on bedside diagnostic test accuracy in the acute vestibular syndrome—a meta-analysis. Ann Neurol. 2023;94(2):295-308.
  • Shah VP, et al. Diagnostic accuracy of the physical examination in emergency department patients with acute vertigo or dizziness: a systematic review and meta-analysis for GRACE-3. Acad Emerg Med. 2023;30(5):552-578.
  • Gerlier C, et al. Differentiating central from peripheral causes of acute vertigo in an emergency setting with the HINTS, STANDING, and ABCD2 tests: a diagnostic cohort study. Acad Emerg Med. 2021;28(12):1368-1378.
  • Machner B, et al. Risk of acute brain lesions in dizzy patients presenting to the emergency room: who needs imaging and who does not? J Neurol. 2020;267(suppl 1):126-135.
  • Smith I, et al. Gait assessment in the initial evaluation of posterior circulation stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2025;34(1):108138.

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