歯性感染症の患者さんにサワシリンを出そうとして、「これ、オグサワにした方がいいのかな・・・・?」と迷ったことはありませんか?
使い分けの理由がよく分からないままなんとなく処方しているという医科の先生も多いと思います。
今回は、サワシリンにクラブラン酸を足すと何が変わるのか、どんな場面で考えるのかを、厚生労働省の手引きと原著論文を確認しながら整理してみます。
(歯科の先生には常識的かもしれませんが、ご容赦を・・・)
「厚生労働省の『抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 歯科編』(以下、手引き)をメインに、その他論文を参考にしています。
最初に結論
- クラブラン酸を足す(つまりオグサワにする)のは、感染源の処置や排膿を見直してもアモキシシリンが効いていないときや、炎症が重くなって嫌気性菌の関与が強い顎炎の初期のように、βラクタマーゼを作るPrevotellaを意識したい場面です。
「オグサワ」って?
「オグサワ」は、オーグメンチン(クラブラン酸/アモキシシリン配合剤)とサワシリン(アモキシシリン)を一緒に処方することを指す俗称です。日本のオーグメンチン配合錠250RSは、1錠にクラブラン酸125 mgとアモキシシリン250 mgを含んでいます(手引き 要約版)
オグサワとは、配合剤にさらにサワシリンを足すことです。こちらは日本の製剤の事情によるものです。手引きの表10では、アモキシシリンが効かなかったときの用量として、クラブラン酸/アモキシシリン 1回125/500 mg・1日3回が挙げられています。そして、日本ではこれに対応する配合剤が流通していないことが注記されています。
同じ表の慢性顎骨骨髄炎・薬剤関連顎骨壊死の欄には、オーグメンチン250RS 1錠にアモキシシリン250 mg 1錠を合わせる処方例が載っています。250RSを2錠にするとクラブラン酸も250 mgに増えてしまいます。そこで、クラブラン酸は1錠分の125 mgのままにして、アモキシシリンだけを1回500 mgにそろえる組み合わせになっています。(手引き 本編 p.22 表10)
JAID/JSC感染症治療ガイド2019に基づく病院のマニュアルでも、歯性感染症の外来治療の選択肢として、アモキシシリン/クラブラン酸1錠を1日3回、アモキシシリン250 mgを1日3回併用する処方が挙げられています。(大阪国際がんセンター 抗菌薬適正使用マニュアル 歯性感染症)
なお、オーグメンチンの電子添文では、適応菌種にPrevotella属が含まれています。一方で、適応症は皮膚感染症、咽頭・喉頭炎、膀胱炎、中耳炎などで、歯科領域の病名は入っていません。(オーグメンチン配合錠 電子添文)
意識するべき菌は、βラクタマーゼを作る一部のPrevotellaである
手引きでは、歯性感染症の原因菌は口腔内に常在する口腔レンサ球菌と嫌気性菌などによる混合感染が主体で、Prevotella属にはβラクタマーゼ産生菌が多いと整理されています。アモキシシリンが推奨されている理由も、口腔レンサ球菌に活性を持つことです。サワシリン単独の処方は、まず口腔レンサ球菌を確実に押さえることを狙っています。(手引き 本編 p.20)
では、βラクタマーゼを作る菌はどのくらいいるのでしょうか。
金沢大学口腔外科のグループが1997〜1999年に歯性感染症93例の膿を調べた研究があります(Kuriyama T, et al. Oral Microbiol Immunol 2001;16:10-15)。
βラクタマーゼが検出されたのは、黒色色素を産生するPrevotellaの35.6%と、黒色色素を産生しないPrevotellaの31.9%でした。PorphyromonasやFusobacteriumなど、ほかの嫌気性グラム陰性杆菌では、βラクタマーゼを産生する株は見つかっていません。この研究で阻害薬配合剤として調べられたのはアンピシリン/スルバクタムで、βラクタマーゼ産生Prevotellaに対しても全株が感受性でした。アモキシシリン/クラブラン酸そのものは検討されていません。
同じグループの2001〜2005年の研究でも、βラクタマーゼを産生していたのはPrevotellaの31%でした。Prevotella以外の菌種からは、レンサ球菌27株を含めて、βラクタマーゼ産生株は1株も検出されていません。この論文では、Prevotellaのβラクタマーゼ(CfxA)の性質についても触れています。ほとんどのペニシリン系と広域セフェムを分解する一方で、クラブラン酸を配合したペニシリンとイミペネムには作用しないクラスAの酵素だと説明されています。クラブラン酸が狙っているのは、この酵素です。(Iwahara K, et al. J Clin Microbiol 2006;44:172-176)
Prevotella は口腔に常在する偏性嫌気性のグラム陰性桿菌である
- 偏性嫌気性のグラム陰性桿菌で、分類上はBacteroidota 門、Prevotellaceae 科に属します。
- 口腔、腟、腸の常在菌で、気道の嫌気性菌感染症からよく分離されます。
- 口腔内にはP. intermedia(P. nigrescens を含む)がいちばん多く、P. oralis、P. buccae、P. melaninogenica がそれに続きます。
- P. bivia、P. corporis、P. disiens の3菌種は、主に泌尿生殖器から分離され、口腔から見つかるのはまれです。
- 関わる感染症の幅は広く、誤嚥性肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性中耳炎、副鼻腔炎のほか、口の周りの膿瘍、咬傷、爪囲炎、尿路感染症、脳膿瘍、骨髄炎、上気道感染に伴う菌血症などから分離されています。
- 単独で感染症を起こすことは少なく、ほかの好気性菌や嫌気性菌との混合感染として見つかることが多いです。歯性感染症でも、口腔レンサ球菌や Fusobacterium、Peptostreptococcus と一緒に分離されます。
同じ48株で比べると、クラブラン酸の有無で耐性株の数が大きく変わる
Iwaharaらの研究では、歯性感染症の膿や根管からの滲出液から分離したPrevotella139株について、アモキシシリンとアモキシシリン/クラブラン酸のMICを測っています。そのうちβラクタマーゼを産生していた48株を、同じ48株のまま2つの薬で比べた結果がTable 2にまとめられています。
| 分離株の区分 | 試験株数 | cfxA・cfxA2陽性株数 | AMPC MIC50 (µg/mL) | AMPC MIC90 (µg/mL) | AMPC 耐性率 (%) | AMPC/CVA MIC50 (µg/mL) | AMPC/CVA MIC90 (µg/mL) | AMPC/CVA 耐性率 (%) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| βラクタマーゼ陽性 | 48 | 48 | >64 | >64 | 100 | 2 | 4 | 0 |
| βラクタマーゼ陰性 | 91 | 0 | 0.06 | 0.25 | 1 | 0.06 | 0.25 | 0 |
AMPC:アモキシシリン、AMPC/CVA:アモキシシリン/クラブラン酸です。耐性の判定基準は、AMPCが2 µg/mL、AMPC/CVAが16 µg/mLです(Iwahara K, et al. J Clin Microbiol 2006;44:172-176 の Table 2 を日本語にしたもの)。
アモキシシリン単独では、48株のMIC50とMIC90はどちらも64 µg/mLを超え、48株すべてが耐性と判定されました。アモキシシリン/クラブラン酸では、同じ48株のMIC50が2 µg/mL、MIC90が4 µg/mLで、耐性と判定された株は0株でした。研究で使われた耐性の判定基準は、アモキシシリンが2 µg/mL、アモキシシリン/クラブラン酸が16 µg/mLです。ちなみに、βラクタマーゼを産生しなつ91株では、どちらの薬でもMICは低く、アモキシシリンで低レベルの耐性を示したのは1株だけでした。
本文では、この結果を次のように述べています。
“The β-lactamase-positive strains were highly susceptible to amoxicillin-clavulanate”
(βラクタマーゼを産生する株は、アモキシシリン/クラブラン酸に高い感受性を示しました)
同じ文の後半には、これらの株すべてでアモキシシリン耐性が記録されたことが書かれています。
ただし、これは分離した菌を使った試験管内の成績です。クラブラン酸を加えたときのMIC(2〜4 µg/mL)は、βラクタマーゼを産生しない株(0.06 µg/mL程度)と比べるとまだ高めです。この数字から患者さんの治癒率を推定したり、どの患者さんにオグサワを選ぶべきかを導いたりすることはできません。「クラブラン酸が、Prevotellaのβラクタマーゼによる耐性を試験管内で打ち消していた」というところまでが、この表から言えることです。
手引きに沿うと歯性感染症への対応は3つに分かれる
① 局所処置で対応できる場面
手引きの要約版では、局所処置が可能で全身症状を伴わない根尖性歯周組織炎や、抜歯後のドライソケットには、経口抗菌薬の投与は不要とされています。本編でも、歯性感染症の治療は感染根管治療、膿瘍切開、抜歯などの局所処置が基本だと説明されています。ドライソケットでは、局所処置と適切なドレッシング材で抜歯創を保護します。(手引き 本編 p.20、要約版)
Iwaharaらの論文でも、歯性感染症の治療で最も重要なのは抜歯、切開、根管治療によるドレナージで、全身投与の抗菌薬は感染の広がりや重い合併症を防ぐためのもの、という位置づけで書かれています。(Iwahara K, et al. J Clin Microbiol 2006)
② 抗菌薬が必要で、アモキシシリン単独を選ぶ場面
裏返すと、局所処置だけでは対応しきれない場合や、発熱などの全身症状を伴う場合に、抗菌薬を考えることになります。歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎で抗菌薬を使うときの基本はアモキシシリンです。要約版では、成人で1回250 mgまたは500 mgを1日3〜4回とされています。効果判定は投与後3〜7日以内、治療的投与をやめる目安は炎症症状が消えてから24時間後です。(手引き 第四版 歯科編 要約版)
③ クラブラン酸の追加を検討する場面
炎症が重篤化し、偏性嫌気性菌の関与が高くなる顎炎の初期や、慢性顎骨骨髄炎・薬剤関連顎骨壊死では、β-ラクタマーゼ産生嫌気性菌に対してクラブラン酸/アモキシシリンが高い抗菌活性を持つため推奨されていると書かれています。表10には、アモキシシリンが無効だったときの選択肢としても挙げられています。(手引き 本編 p.20、p.22)
サワシリンで改善しないときはどうする?
たとえば、下顎の根尖性歯周炎でサワシリンを処方して3日たったのに、むしろ増悪してきた、という場面を考えてみます。手引きでは、3~7日以内に改善がない場合、増悪する場合、または有害事象を認める場合には、外科的消炎処置の追加や抗菌薬の変更・中止を行うとされています。外科的な処置が先に書かれていることがポイントだと思います。(手引き 本編 p.20)
- 感染源への処置は済んでいるか。
- 原因歯の根管処置や抜歯、智歯周囲の洗浄など、感染源がそのまま残っていないかを確認します。
- 原因が残っていると、抗菌薬を変えても良くなりにくいです。
- 膿瘍形成していないか。
- 膿瘍の一部が軟らかくなって波動を触れるようになっていれば、膿瘍ができている可能性があります。
- その場合は、薬を変えるより先に切開排膿ができるかを考えます。
- 感染がどこまで広がっているか。
- 腫れが顎の下や頸部まで広がっていないか、口底が挙上していないか、開口障害や飲み込みにくさが出ていないか、発熱が続いていないかを見ます。
- 前にβラクタム系を飲んでいなかったか。
- 前医でセフェムなどが出ていた場合は、βラクタマーゼ産生菌が出やすくなるという報告があります。
- Kuriyamaらは、過去にβラクタム系の投与を受けていて感染が治りきらない患者さんには、βラクタマーゼに安定な抗菌薬を処方すべきとしています。(Kuriyama T, et al. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 2000;89:186-192)
- 開口障害や嚥下困難があるか
- 外来で薬を調整して様子を見る段階ではありません。手引きでも、開口障害、嚥下困難を伴う顎炎の重症例と顎骨周囲の蜂巣炎は、専門医療機関で抗菌薬を静脈内投与することが推奨されています(手引き 本編 p.20)。
- SBT/ABPC 3 g を6時間ごと(腎機能に応じて調整)投与します。
参考文献
- 厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 感染症対策課.抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 歯科編 要約版.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630940.pdf(2026年11月6日閲覧)
(オーグメンチン250RSの成分、場面①②の記述) - 厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 感染症対策課.抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 歯科編(本編).https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630930.pdf(2026年11月6日閲覧)
(p.20 の原因菌・推奨理由・効果判定・重症例の記述、p.22 の表10) - 大阪国際がんセンター.抗菌薬適正使用マニュアル 歯性感染症(2022年11月22日作成).https://oici.jp/file/202308/shiseikansennsyo.pdf(2026年11月6日閲覧)
(JAID/JSC感染症治療ガイド2019 XV章 歯性感染症 p.272-274 に基づく外来処方。ガイド本体は未確認のため孫引きです) - グラクソ・スミスクライン.オーグメンチン配合錠125SS・250RS 電子添文.https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987246718223(2026年11月6日閲覧)
(適応菌種・適応症) - Kuriyama T, Karasawa T, Nakagawa K, Yamamoto E, Nakamura S. Incidence of β-lactamase production and antimicrobial susceptibility of anaerobic gram-negative rods isolated from pus specimens of orofacial odontogenic infections. Oral Microbiol Immunol. 2001;16(1):10-15. PMID: 11169133.
(Prevotella のβラクタマーゼ産生率、アンピシリン/スルバクタムの成績) - Iwahara K, Kuriyama T, Shimura S, Williams DW, Yanagisawa M, Nakagawa K, Karasawa T. Detection of cfxA and cfxA2, the β-lactamase genes of Prevotella spp., in clinical samples from dentoalveolar infection by real-time PCR. J Clin Microbiol. 2006;44(1):172-176. doi:10.1128/JCM.44.1.172-176.2006. PMCID: PMC1351953.
(CfxA の性質、Table 1 のβラクタマーゼ産生株、Table 2 の48株の比較、ドレナージの位置づけ) - Kuriyama T, Nakagawa K, Karasawa T, Saiki Y, Yamamoto E, Nakamura S. Past administration of β-lactam antibiotics and increase in the emergence of β-lactamase-producing bacteria in patients with orofacial odontogenic infections. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2000;89:186-192.
(βラクタム系の前投与歴とβラクタマーゼ産生菌)


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