急性膵炎自体、診断そのものは難しくないことが多いのですが、そのあとの重症度判定、造影CTのタイミング、輸液の量と速度、抗菌薬を入れるかどうか、いつから食べさせるか、と迷う場面はけっこう多いです。
この記事は、急性膵炎診療ガイドライン2021(第5版)を軸に、その後に出た全国調査(2021年データ)、輸液のランダム化比較試験(WATERFALL試験)、米国消化器病学会(ACG)2024年ガイドラインを加えて、救急外来でぱっと確認できる形にまとめたものです。
本文中の「GL2021」は急性膵炎診療ガイドライン2021を指します。推奨の強さとエビデンスの確実性はGL2021の表記どおりに書いています。「※私見」と書いた部分は筆者の臨床上の考えで、ガイドラインの記載ではありません。
救急外来で最初に確認すること
- 診断:上腹部痛+膵酵素上昇(リパーゼ優先)+画像所見(可能なら造影CT)のうち2項目以上
- 重症度判定:予後因子スコア(9項目)を診断時・24時間以内・24〜48時間に繰り返す
- 成因検索:診断から3時間以内に。最優先は胆石性かどうか(胆管炎・胆汁うっ滞があれば早期ERCP/ESTの検討)
- 画像:まずエコー。重症例を診る施設では、造影可能なら初療後3時間以内に造影CTでCT Gradeを判定
- 輸液:細胞外液、それも生理食塩液より緩衝液(乳酸・酢酸・重炭酸リンゲル)。「多すぎず少なすぎず」で頻回に再評価
- 鎮痛:アセトアミノフェン・NSAIDs・ペンタゾシンから始め、強ければオピオイド
- 抗菌薬:軽症では予防投与しない。胆管炎合併など感染があるときは治療として使う
- 栄養:軽症は腸蠕動が戻れば経口再開。重症は診断後48時間以内に経腸栄養を少量から(胃からでも可)
- 転送:重症で自施設に対応できなければ、診断後3時間以内に転送を検討
参考までにGL2021のBundleを載せておきます(筆者一部改変)

疫学
日本では約4〜5年ごとに全国調査が行われています。GL2021が依拠したのは2016年調査で、その後2021年調査の結果が2025年に報告されています。
| 項目 | 2016年調査 | 2021年調査 |
|---|---|---|
| 年間推計受療患者数 | 78,450人 | 61,080人 |
| 人口10万人あたり | 61.8人 | 49人 |
| 男女比 | 2.0 | 2.0 |
| 平均発症年齢 | 男性59.9歳、女性66.5歳 | 男性60.1歳、女性65.4歳 |
| 重症の割合 | 23.6% | 31.1% |
| 致命率(全体) | 1.8% | 2.1% |
| 致命率(重症) | 6.1% | 5.3% |
- 2021年は推計患者数が2016年から22%減り、論文では「約40年ぶりの減少」と書かれています。調査年がCOVID-19流行期に重なっている点は割り引いて読む必要があります。
- 重症例の致命率は改善傾向です。一方で、重症の割合は2021年のほうが高くなっています。
- 世界全体では、1961〜2016年の44研究をまとめたメタ解析で発症率が年3.07%ずつ増えていると報告されています。地域別ではヨーロッパと北米で増加、アジアでは横ばいでした。
成因
日本のデータ(全国調査)
- 男性はアルコール、女性は胆石が最多です。この傾向は2016年も2021年も変わっていません。
- 2021年調査で目を引くのは免疫チェックポイント阻害薬関連(1.8%)が独立した項目として出てきたことです。外来化学療法中の腹痛では頭の片隅に置いておきたい成因です。
- 特発性が2割強を占めます。GL2021は「成因がわからないときは適切な検査を行い、特発性の頻度を少なくする努力をすべき」としています。
2021年全国調査の成因(主なもの)
| 成因 | 男性 n(%) | 女性 n(%) | 合計 n(%) |
|---|---|---|---|
| アルコール | 1,174(40.9) | 178(12.2) | 1,352(31.2) |
| 胆石 | 502(17.5) | 473(32.4) | 975(22.5) |
| 特発性 | 534(18.6) | 422(28.9) | 956(22.1) |
| 膵腫瘍 | 139(4.8) | 75(5.1) | 214(4.9) |
| 治療的ERCP後 | 108(3.8) | 78(5.3) | 186(4.3) |
| 脂質異常症 | 88(3.1) | 41(2.8) | 129(3.0) |
| 免疫チェックポイント阻害薬関連 | 50(1.7) | 26(1.8) | 76(1.8) |
| 合計(成因記載あり) | 2,872 | 1,460 | 4,332 |
(Tanaka Y, et al. J Gastroenterol 2025 の Table 1 から主な項目を抜粋)
日本と世界の比較
- 世界46研究・36か国のメタ解析では、胆石42%、アルコール21%、特発性18%でした。世界的には胆石が最多で、日本はアルコールが最多という違いがあります。
- 「胆石とアルコールで約7割」という言い方をよく見かけますが、日本の全国調査では2016年が58.4%(32.6+25.8)、2021年が53.7%(31.2+22.5)で、7割には届いていません。世界のメタ解析でも63%(42+21)です。
成因検索のポイント(GL2021 第Ⅳ章 BQ5〜7より)
- 最優先は胆石性かどうか。胆管炎合併や胆道通過障害の遷延があれば、早期の内視鏡治療で予後が変わるからです。
- 病歴:飲酒歴、胆石症・脂質異常症の既往、ERCP・手術歴、薬剤歴
- 血液検査
- ALT 150 IU/L以上は胆石性を示唆(感度48〜93%、特異度34〜96%)
- ビリルビン・ALP・γGTP・ALT・ALT/AST比の5項目中3項目以上の異常でも胆石性の可能性が高い(感度85%、特異度69%)
- 中性脂肪 1,000 mg/dL超なら脂質異常症が成因の可能性が高い
- 高Ca血症があれば副甲状腺機能亢進症を考える
- 画像
- 腹部エコーと血液検査の組み合わせで、胆石性の診断は感度95〜98%と報告されています
- エコーでの総胆管結石の描出率は20〜90%と幅があります。初回で見えなくても繰り返すか、MRCPを行います
- 総胆管結石の検出感度はエコー20%、CT 40%、MRI/MRCP 80%
- 成因がはっきりしない場合は、膵癌や膵管内乳頭粘液性腫瘍が隠れていないか造影CTで確認します
診断基準
【急性膵炎の診断基準(厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班 2008年)】
■上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
■血中または尿中に膵酵素の上昇がある
■超音波、CT または MRI で膵に急性膵炎に伴う異常所見がある
- 上記3項目中2項目以上を満たし、ほかの膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断します。
- 慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含めます。
- 膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼなど)を測ることが望ましいとされています。
- 改訂アトランタ分類(2012年の国際分類)も同じく「3項目中2項目以上」で、国際的にも共通の考え方です。
膵酵素はどれを測るか(GL2021 CQ2)
- 血中リパーゼの測定を推奨(強い推奨、エビデンスの確実性:中)。測れない場合は血中アミラーゼ。
- 正常上限の3倍をカットオフにしたCochraneのメタ解析での診断能
| 項目 | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|
| アミラーゼ | 72% | 93% |
| リパーゼ | 79% | 89% |
- どちらも感度は8割前後で、膵酵素だけでは約2割を取りこぼす計算になります。日本のGLではカットオフ値は示されていません。
- 血液検査がすぐできない施設では、尿中トリプシノーゲン2試験紙(約5分で判定)も選択肢です(CQ3、弱い推奨)。
鑑別したい急性腹症
GL2021が挙げているのは、消化管穿孔、急性胆嚢炎、腸閉塞、腸間膜動脈閉塞、急性大動脈解離です。アミラーゼは膵以外(唾液腺、異所性妊娠破裂、腸管穿孔・虚血、腎不全、マクロアミラーゼ血症など)でも上がるので、「アミラーゼ高値=膵炎」としないことが大切です。
救急外来での採血項目
予後因子スコアがその場で計算できるように、最初の採血でまとめて出しておくのがコツです。
| 項目 | 目的 | GL上の根拠 |
|---|---|---|
| リパーゼ(なければアミラーゼ、できれば膵型) | 診断 | CQ2 |
| 血算(白血球、ヘマトクリット、血小板) | 予後因子(SIRS、血小板≦10万)、脱水評価 | 予後因子、CQ7解説 |
| BUN、Cr | 予後因子、輸液反応の評価 | 予後因子、CQ7解説 |
| LDH | 予後因子(基準値上限の2倍以上) | 予後因子 |
| 総Ca(+アルブミン) | 予後因子(総Ca≦7.5 mg/dL) | 予後因子 |
| CRP | 予後因子(≧15 mg/dL) | 予後因子 |
| AST、ALT、ALP、γGTP、総ビリルビン | 胆石性の鑑別 | BQ7 |
| 中性脂肪 | 脂質異常症性の鑑別 | BQ7、CQ21 |
| 血液ガス(BE、PaO2、PaCO2、乳酸) | 予後因子(BE≦−3、PaO2≦60)、SIRSの呼吸項目 | 予後因子、CQ25 |
| IL-6(院内で測れる施設) | 入院時の重症化予測(>50 pg/mLで感度87%、特異度88%) | CQ7(弱い推奨) |
- 予後因子の表記は「総Ca≦7.5 mg/dL」で、補正Caとは書かれていません。アルブミンは低Ca血症の実態を見るために一緒に出しておきます。
- 入院時のヘマトクリット44%以上は、持続する臓器不全や膵壊死との関連が報告されています(CQ7解説)。
- ※私見:電解質(Na、K、Cl)は輸液管理に必須なので必ず含めます。妊娠可能年齢の女性では妊娠反応も確認しておくと、鑑別と造影CTの判断が早くなります。胆管炎を疑うときは抗菌薬の前に血液培養を採ります。これらはGLの急性膵炎の章には記載がない一般的な補足です。
重症度判定
厚生労働省 急性膵炎重症度判定基準(2008年)
重症の判定:予後因子が3点以上、または造影CT Grade 2以上
A. 予後因子(各1点)
| 項目 |
|---|
| Base Excess ≦ −3 mEq/L、またはショック(収縮期血圧 ≦ 80 mmHg) |
| PaO2 ≦ 60 mmHg(室内気)、または呼吸不全(人工呼吸管理が必要) |
| BUN ≧ 40 mg/dL(または Cr ≧ 2 mg/dL)、または乏尿(輸液後も1日尿量が400 mL以下) |
| LDH ≧ 基準値上限の2倍 |
| 血小板数 ≦ 10万/mm³ |
| 総Ca ≦ 7.5 mg/dL |
| CRP ≧ 15 mg/dL |
| SIRS診断基準の陽性項目数 ≧ 3 |
| 年齢 ≧ 70歳 |
SIRS診断基準の項目:①体温>38℃または<36℃、②脈拍>90回/分、③呼吸数>20回/分またはPaCO2<32 Torr、④白血球数>12,000/mm³か<4,000/mm³、または10%幼若球出現
B. 造影CT Grade
| ① 炎症の膵外進展度 | 点数 |
|---|---|
| 前腎傍腔 | 0点 |
| 結腸間膜根部 | 1点 |
| 腎下極以遠 | 2点 |
| ② 膵の造影不良域(膵頭部・膵体部・膵尾部の3区域で判定) | 点数 |
|---|---|
| 各区域に限局、または膵の周辺のみ | 0点 |
| 2つの区域にかかる | 1点 |
| 2つの区域全体を占める、またはそれ以上 | 2点 |
| ①+② 合計 | CT Grade |
|---|---|
| 1点以下 | Grade 1 |
| 2点 | Grade 2 |
| 3点以上 | Grade 3 |
重症の判定:予後因子が3点以上、または造影CT Grade 2以上
- 炎症が腎下極以遠に及んでいれば、膵壊死がなくてもそれだけで2点、つまりGrade 2(重症)になります。見落としやすいポイントです。
いつ判定するか(GL2021 CQ6、強い推奨)
- 入院時(入院中の発症なら診断時)、24時間以内、24〜48時間の3回、予後因子スコアで判定します。
- 予後因子スコア(3点以上)の死亡予測は感度0.62、特異度0.90です。特異度は高いものの感度は低く、入院時に軽症でも後から重症化する例があるということです。
- 海外の2コホートの検討では、入院時より48時間後のほうが予後因子スコアの精度が上がり(validation cohortで感度0.42→0.65)、48時間後の精度はAPACHE Ⅱ、Ranson、BISAP、SIRSより高かったと報告されています。
重症と判定された根拠別の致命率
- 造影CT Gradeだけで重症になった群の致命率は2.1%にとどまる一方、予後因子のみ重症では9.0%、両方重症では19.1%でした(2016年全国調査)。
- 「重症」とひとくくりにせず、予後因子が3点以上かどうかに特に注意を払う必要があります。
画像検査:エコー・単純/造影CT
腹部エコー(GL2021 BQ3)
- ベッドサイドで可能。膵の描出率は62〜90%。
- 総胆管結石・総胆管拡張の有無は、内視鏡治療の要否に直結するので必ず見ます。
- 重症例では腸管ガスで膵が見えにくいことがあります。
単純CTと造影CTでわかること
| 単純CT | 造影CT(ダイナミック) | |
|---|---|---|
| 膵腫大・周囲の炎症・液体貯留 | 見える | 見える |
| 膵壊死(造影不良域) | 診断困難 | 評価できる(CT Gradeの判定に必要) |
| 門脈・上腸間膜静脈血栓 | 評価困難 | 評価できる |
| 仮性動脈瘤・出血 | 不十分 | 評価できる(出血の同定は感度94.7%、特異度90%の報告) |
| 原因としての膵腫瘍 | 見逃す危険がある | 見つけやすい |
| 総胆管結石 | 感度40〜53%(CT陰性結石あり) | 単純CTと同様に限界あり |
| 注意点 | — | 脱水・腎機能低下、ヨードアレルギー |
- 造影ダイナミックCTでは、膵実質相(造影剤急速静注後40秒前後)と静脈相(120秒以降)の両方でCT値30〜40 HU以下の部分は、血流不全または壊死を強く疑います(BQ10)。
- 発症初期は造影不良でも、その後血流が戻って壊死に陥らない部分もあります。必要に応じて発症4〜10日後に再評価します。
- 数日たった脂肪壊死は、単純CTで淡い高吸収域として見えることがあり、液体貯留との区別に役立ちます。
造影CTのタイミング
- GL2021(Pancreatitis Bundles 5):重症急性膵炎の治療を行う施設では、造影可能な重症例は初療後3時間以内に造影CTを行い、CT Gradeで重症度を判定します。CT Gradeは原則として発症後48時間以内に判定します。
- 2016年全国調査では、造影CTの実施が発症3時間以内か以降かで致命率に有意差はありませんでした(5.6% vs 5.3%)。早期造影CTそのものが予後を改善するかは、まだ検討の途中です。
- ACG 2024:入院時に重症度判定の目的でルーチンにCTを撮ることは勧めていません。入院後48〜72時間で改善しない場合にCTを考えるという立場です。日本のGLとは考え方が違うところなので、知っておくと議論のときに役立ちます。
- ※私見:脱水が強く腎機能が悪いときは、まず単純CTで診断と他疾患の除外を済ませ、輸液で腎機能の反応を見てから造影CTの時期を決めることが多いです。GL2021も「検査時期は全身状態を評価して慎重に判断」としています。
入院時の造影CTだけでは足りないもの
造影CTは仮性動脈瘤や門脈血栓の評価にも役立ちます(GL2021 CQ8、強い推奨)。ただ、これらは入院時にはまだ起きていないことも多く、入院時のCTだけでは不十分です。
- 内臓静脈血栓(門脈・上腸間膜静脈・脾静脈):14研究・1,951例のメタ解析では、症状が出てから12日以内の頻度は約13%でした。時期で分けると0〜3日は約6%、3〜11日は約23%で、3日目以降に増えます。重症度が上がるほど多く(軽症約15%、中等症約26%、重症約27%)、アルコール性や30%を超える膵壊死でも多くなっていました。
- 仮性動脈瘤・出血:GL2021は「経過中に腹痛や貧血の進行、肝障害などが生じ、血管系の合併症が疑われる際」に造影CTで評価する、という書き方です。入院時のスクリーニングというより、経過中に疑ったときに撮る位置づけです。
- 膵壊死:発症初期は造影不良でも、あとで血流が戻る部分があります。必要に応じて発症4〜10日後に再評価します(BQ10)。
※私見:造影剤が使えるなら初療で1回撮って重症度・成因・腫瘍を評価し、3日目以降に腹痛の再燃、貧血の進行、肝機能の悪化、改善の遅れなどがあれば、血栓・出血・壊死を見るためにもう一度造影する。この「入院時+経過中の再撮影」の組み合わせが、実際の運用としてはバランスがよいと考えています。
輸液:種類・量・速度
輸液の種類
- 晶質液を使う(膠質液ではなく):CQ11、弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低。膠質液は腎障害や腎代替療法の増加と関連し、ヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤でも急性腎障害と腎代替療法の増加が報告されています。海外のガイドラインにはHES製剤を非推奨と明記したものもあります。
- 細胞外液のなかでも緩衝液を使う(0.9%食塩液ではなく):CQ12、弱い推奨、エビデンスの確実性:低。乳酸リンゲル液(ラクテック®)、酢酸リンゲル液(ヴィーンF®)、重炭酸リンゲル液(ビカーボン®)などです。GL独自のメタ解析では、膵局所合併症が緩衝液群で有意に少なくなりました。
輸液の量と速度
ここはGL2021の発刊後にWATERFALL試験が出て、考え方が少しかわった部分です。
GL2021(CQ10)
- 積極的輸液療法を提案(弱い推奨、エビデンスの確実性:非常に低)。ただし過剰輸液とならないようにモニタリングを行い、高齢者・心不全・腎不全では特に綿密に管理する必要があります。
- RCTのメタ解析では、積極的輸液群(約4.7 L/日)と保存的輸液群(約3.5 L/日)で致命率・腎障害・膵局所合併症・臓器障害に有意差はありませんでした。
- 具体量の根拠は乏しいとしつつ、約4.8 L/日(200 mL/時)が一つの目安になる可能性があると書かれています。
- 1,000例超の観察研究で、来院後4時間以内に1 L以上入れると以降の集中治療介入が減り、24時間を超えて積極的輸液(4.3 L以上)を続けると局所合併症のリスクが高くなったという報告も紹介されています。
WATERFALL試験(N Engl J Med 2022、GL2021発刊後)
| 積極的輸液群 | 中等量輸液群 | |
|---|---|---|
| 初期ボーラス | 全例に乳酸リンゲル液 20 mL/kg を2時間で | 循環血液量減少があれば 10 mL/kg を2時間で。なければボーラスなし |
| 維持 | 3 mL/kg/時 | 1.5 mL/kg/時 |
| 中等症〜重症への進行 | 22.1% | 17.3%(有意差なし) |
| 体液過剰 | 20.5% | 6.3%(有意に少ない) |
- 対象は発症24時間以内で、登録時に臓器不全のない急性膵炎249例です(非代償性心不全や慢性腎不全は除外)。体液過剰の安全性の懸念から、最初の中間解析で早期中止になっています。
- 重症例や、すでに臓器不全のある例にそのまま当てはめられるかは、この試験だけではわかりません。
- 「入れるほど良い」わけではなく、中等量でも膵炎の進行は増えず、体液過剰は明らかに減りました。
ACG 2024ガイドライン
- 中等度に積極的な輸液(moderately aggressive)を提案。
- 生理食塩液より乳酸リンゲル液を提案。
- 来院6時間以内に頻回に輸液量を再評価し、BUNの低下を目標にします。
体重60 kg、脱水ありの場合の計算例
WATERFALL試験の中等量輸液群のプロトコルに当てはめると、次のようになります。
- 最初の2時間:10 mL/kg × 60 kg = 600 mL を2時間で(300 mL/時)
- その後:1.5 mL/kg/時 × 60 kg = 90 mL/時
- 24時間の合計の目安:600 mL + 90 mL/時 × 22時間 = 約2.6 L(経過中の追加ボーラスは別)
参考までに、GL2021の目安「200 mL/時」なら24時間で4.8 L、2021年全国調査での実際の最初の24時間の平均輸液量は軽症2,593 mL、重症3,239 mLでした。
※私見:GL2021の「積極的に」を「とにかく大量に」と読むと、高齢者や心機能の悪い人では危険です。現時点では、循環血液量減少があれば最初にしっかり入れ、そのあとは中等量で維持し、数時間ごとにバイタル・尿量・BUN・ヘマトクリットを見て調整する、という運用が妥当だと考えています。
過剰輸液を避けるためのモニタリング
- GL2021が挙げる指標:BUN、ヘマトクリット、中心静脈圧、心拍数、血圧、尿量。単独では信頼性が低いので組み合わせて判断します。
- 大量輸液を続けると腹腔内圧が上がり、腹部コンパートメント症候群(ACS:腹腔内圧上昇による臓器障害)につながります。大量輸液、高い重症度、腎・呼吸障害、CTで複数部位の液体貯留、高乳酸血症がある例では膀胱内圧で腹腔内圧を経時的に測ります(CQ25)。
- 十分な初期輸液でも循環が安定せず利尿が得られない重症例やACS合併例では、持続的血液浄化法を提案(CQ20、弱い推奨)。
鎮痛(GL2021 BQ15)
- 迅速に鎮痛薬を使います。
- アセトアミノフェン、NSAIDs、ペンタゾシンなどの非オピオイドから始め、疼痛の程度に応じてオピオイドの併用や変更を考えます。
- 鎮痛薬の選択について明確な優劣を示した研究はありません。
モルヒネは使ってはいけないのか
「モルヒネはOddi括約筋を収縮させるので膵炎を悪くする」とよく言われますが、根拠は括約筋の内圧が上がるという生理学のデータで、臨床経過を悪くするという証拠はありません。
- GL2021はオピオイドの例としてフェンタニルを挙げていますが、モルヒネを禁止する記載はありません。
- Cochraneレビュー(RCT 5本、227例。ブプレノルフィン、ペチジン、ペンタゾシン、フェンタニル、モルヒネを検討)では、オピオイドは他の鎮痛薬に比べて追加の鎮痛薬を減らし(RR 0.53)、膵炎の合併症に差はなく、重い有害事象もありませんでした。ただし研究数が少なく、確実性は低いとされています。
- 2001年のレビュー(Thompson)は「急性膵炎でモルヒネが禁忌であることを示す研究や証拠はない」と結論しています。
- マウスの実験でモルヒネにより膵炎が重症化したという報告はありますが、ヒトの臨床データでの裏付けはなく、仮説の段階です。
※私見:実際には、調節しやすく腎機能低下でも使いやすいフェンタニルを選ぶことが多いです。ただ、「モルヒネは禁忌」という思い込みで鎮痛が遅れるほうが問題だと思います。
抗菌薬
GL2021 CQ13
- 軽症の急性膵炎に予防的抗菌薬は投与しない(強い推奨、エビデンスの確実性:高)
- 重症急性膵炎・壊死性膵炎への予防的抗菌薬は、生命予後や感染性膵合併症を改善するという明らかな効果は証明されていません(推奨なし、エビデンスの確実性:中)
- 胆石性膵炎で胆管炎を併発している場合など、感染があるときは治療として抗菌薬を使います
根拠になったデータ
- 発症早期(来院後48時間または発症後72時間以内)に予防投与した7本のRCTのメタ解析で、致命率(OR 0.60、95%CI 0.33〜1.07)、感染性合併症(OR 0.61、95%CI 0.37〜1.01)ともに有意差はありませんでした。使われた抗菌薬はイミペネム(0.5 g×3回/日)が最多、期間は5〜14日でした。
- 実臨床では、軽症例への抗菌薬投与が2016年の94.5%から2021年は61.2%に減りましたが、まだ6割に投与されています。
- ACG 2024も重症急性膵炎への予防的抗菌薬を推奨していません。
推奨されていない治療
| 治療 | GL2021の推奨 |
|---|---|
| 蛋白分解酵素阻害薬(ガベキサートなど) | 生命予後や合併症への明らかな改善効果は証明されていない(推奨なし)CQ14 |
| 胃酸分泌抑制薬(H2ブロッカー、PPI) | 行わないことを提案(弱い推奨)。上部消化管出血の合併時は考慮 CQ15 |
| 経鼻胃管のルーチン挿入 | 軽症では不要。腸閉塞や激しい嘔吐の例にとどめる BQ14 |
| 腹腔洗浄 | 行わないことを提案(弱い推奨)CQ19 |
栄養療法
軽症:腸蠕動が戻れば経口再開(GL2021 CQ18、弱い推奨、エビデンスの確実性:高)
- 腹痛の消失や膵酵素の正常化を待つ必要はありません。
- 早期に経口摂取を始めたほうが在院日数が短くなるというメタ解析の結果があります。
- 日本人を対象としたRCT(Horibe 2020)では、発症後1日以内に脂肪15 g/日の固形食から始めた群で、回復までの期間と在院日数が短縮し、医療費も減りました。腹痛があっても鎮痛薬を使いながら食事を始めて、特に有害事象はありませんでした。
- 低カロリーの流動食から段階的に上げる必要もなく、腸蠕動が回復すればすぐ1,700 kcal/日の食事を始めても有害事象はありませんでした。
- ACG 2024も、軽症では耐えられる範囲で24〜48時間以内の早期経口摂取を提案しています。
重症:48時間以内に経腸栄養(GL2021 CQ16、強い推奨、エビデンスの確実性:高)
- 入院後48時間以内に、少量からでも経腸栄養を開始します。合併症を減らし、生存率の向上に寄与します。
- 経腸栄養は完全静脈栄養と比べて、致命率、膵感染関連合併症、多臓器不全を減らします(BQ16)。静脈栄養はあくまで補助です。
- 投与経路は空腸に限らず十二指腸や胃でもよい(CQ17、弱い推奨)。経胃では誤嚥のリスクがあるので、少量から慎重に始めます。
- 従来は20〜30 mL/時で開始し、数日かけて100 mL/時(25〜35 kcal/kg/日)を目標に増量することが多かったとGL2021に記載されています。
- 栄養剤の種類(消化態・半消化態・成分栄養剤)で大きな差はなく、下痢などの病態に応じて選びます。
- プロバイオティクスを含む免疫強化栄養は推奨されていません。
経腸栄養の禁忌(GL2021 CQ16)
- 高度の腸閉塞
- 消化管閉塞
- 消化管穿孔
- 重篤な下痢
- 難治性嘔吐
- 活動性消化管出血
- 汎発性腹膜炎
- 膵性胸腹水
次の所見があっても経腸栄養はできる
- 腹痛、嘔気、血清膵酵素上昇、腸管蠕動音消失、胃内容逆流(経鼻胃管からの排出)
- 重症例への経腸栄養の実施率は、2016年の31.8%から2021年は56.9%に増えました。それでも48時間以内の開始はまだ少なく、伸びしろの大きい項目です。
胆石性膵炎と早期ERCP
- 胆管炎の合併、または胆汁うっ滞所見(黄疸や胆管拡張)があり、画像で総胆管内に結石・胆泥がある例では、早期に内視鏡的逆行性胆管膵管造影・内視鏡的乳頭括約筋切開術(ERCP/EST)を行うことを推奨(CQ23、強い推奨、エビデンスの確実性:高)。メタ解析で致命率はOR 0.27と有意に低下しています。
- これに当てはまらない例への早期ERCP/ESTは有用性が否定的です。結石がすでに十二指腸に落ちていることもあり、超音波内視鏡(EUS)を先に行って結石を確認してからERCPに進むと偶発症が減るという報告があります。
- 胆嚢結石がある胆石性膵炎では、膵炎が落ち着いてから胆嚢摘出術を行います(同一入院中でも再入院でもよい)。軽症なら早期の手術が推奨されています(CQ24)。
転送の判断
- 重症と判定され、自施設で対応できないときは診断後3時間以内に転送を検討します(Pancreatitis Bundles 2)。
- GL2021が想定する「重症急性膵炎に対応可能な施設」は、ICU管理、出血に対する血管内治療、持続的血液濾過透析、胆石の内視鏡治療、外科治療が可能で、栄養サポートチームや感染対策チームがある施設です。
- 発症後3日間は重症化しうるので、入院時に軽症でも経過中に重症化したら速やかに転送を考えます。
Pancreatitis Bundles 2021
急性膵炎では、特殊な状況以外は以下のすべてを実施し、実施の有無を診療録に記載することが望ましいとされています。遵守項目が多いほど致命率が低いことが全国調査で示されています(CQ1、強い推奨)。
- 診断時・診断から24時間以内・24〜48時間の各時間帯で、予後因子スコアを用いて重症度を繰り返し評価する
- 重症急性膵炎では、診断後3時間以内に適切な施設への転送を検討する
- 診断後3時間以内に、病歴・血液検査・画像検査などで膵炎の成因を鑑別する
- 胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例、黄疸の出現または増悪など胆道通過障害の遷延を疑う例には、早期のERCP+ESTを検討する
- 重症急性膵炎の治療を行う施設では、造影可能な重症例に初療後3時間以内に造影CTを行い、CT Gradeで重症度を判定する
- 発症後48時間以内はモニタリングを行い、初期には積極的な輸液療法を実施する
- 疼痛のコントロールを行う
- 軽症急性膵炎では、予防的抗菌薬は使用しない
- 重症急性膵炎では、禁忌がない場合には診断後48時間以内に経腸栄養(経胃でも可)を少量から開始する
- 感染性膵壊死の介入を行う場合には、段階的に侵襲を上げていくステップアップアプローチを行う
- 胆石性膵炎で胆嚢結石を有する場合には、膵炎沈静化後に胆嚢摘出術を行う(同一入院か再入院かは問わない)

おわりに
急性膵炎は、診断よりもその後の管理で迷うことが多い疾患です。入院時の軽症判定を過信せず48時間は繰り返し評価すること、輸液は多すぎず少なすぎず、軽症に抗菌薬を入れないこと、重症なら早めに腸を使うこと。このあたりを押さえておく必要があります。
参考文献
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