アルコール離脱症候群の予防

内科

アルコール離脱症候群は、予測して早めに手を打てば重症化を防ぎやすい病態です。一方で、「飲酒歴があるから全員にベンゾジアゼピンを定期内服」にすると、過鎮静や転倒、せん妄の悪化を招きます。この記事では、入院時にリスクを見積もる方法、重症度の測り方、ベンゾジアゼピンの具体的な使い方を、原著論文と海外のガイドラインで確認しながらまとめました。

入院時にやること(チェックリスト)

  • 飲酒量、最終飲酒の日時、過去の離脱症状・けいれん・振戦せん妄の有無を聞く
  • 入院時のリスクをPAWSS(0〜10点)で、いまの症状の重さをCIWA-Ar(0〜67点)で評価する
  • PAWSS 4点以上、CIWA-Ar 8点以上、離脱けいれん・振戦せん妄の既往のどれかがあれば、ベンゾジアゼピンの定期投与を考える
  • どれもなければ、CIWA-Arで経過を見て、8点以上になったときだけ投与する
  • チアミンを投与する
  • 投与中は意識レベルと呼吸を確認し、過鎮静を避ける

    処方例はこの記事の「処方例」にまとめています。

    アルコール離脱症候群の病態

    • アルコールは抑制系であるGABA受容体の働きを強め、興奮系の神経を抑えて中枢神経を抑制します。
    • 長く飲み続けていると、脳はその状態に適応しています。そこで急に飲酒量を減らしたりやめたりすると、興奮系が相対的に過剰になり、離脱症状が出ます。
    • 治療しなければ、振戦や不安から、けいれん、幻覚、振戦せん妄へと進むことがあります。

    最終飲酒からの時間経過

    症状出現する時期の目安(最終飲酒から)
    不安、焦燥、振戦、不眠などの離脱症状6〜24時間
    幻覚(離脱性幻覚症)24時間以内が多い
    離脱けいれん48時間以内が多い(24〜72時間とする文献もあり)
    振戦せん妄72〜96時間
    • 離脱症状の出現は「6〜24時間後」と書かれることが多いです(Muncie 2013)。けいれんや振戦せん妄の時期は文献によって幅があります。上の表は米国コンサルテーション・リエゾン精神医学会(ACLP)の解説をもとにしています。
    • 入院時に症状がまったくなくても安心はできません。入院時点ではまだ最終飲酒から間がなく、症状が出るのは翌日から3日目ごろ、という経過が典型的です。

    誰に予防を行うか:入院時のリスク評価(PAWSS)

    飲酒歴があるだけで全員に予防投与するのではなく、まず重症化のリスクを見積もります。そのための代表的なスケールが PAWSS(Prediction of Alcohol Withdrawal Severity Scale) です。

    PAWSSの項目

    まず確認すること(点数なし)

    • 過去30日以内に少しでも飲酒したか、または入院時の血中アルコール濃度が陽性か
    • どちらかが「はい」なら、次の問診項目に進みます

    問診項目(各1点)

    質問
    1過去30日以内に、酔うほど飲んだことがあるか
    2アルコール依存症の治療やリハビリを受けたことがあるか
    3過去にアルコール離脱症状を起こしたことがあるか(重さは問わない)
    4飲酒時に記憶をなくしたこと(ブラックアウト)があるか
    5過去にアルコール離脱けいれんを起こしたことがあるか
    6過去に振戦せん妄を起こしたことがあるか
    7過去90日以内に、アルコールとベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系などの鎮静薬を併用したか
    8過去90日以内に、アルコールとほかの乱用薬物を併用したか

    診察・検査項目(各1点)

    項目
    9来院時の血中アルコール濃度が200 mg/dL以上
    10自律神経の過活動がある(心拍数120回/分超、振戦、発汗、焦燥、嘔気など)

    判定:合計0〜10点。4点以上で、中等症〜重症(合併症を伴う)の離脱症候群のハイリスクと判断し、予防投与を考えます。

    PAWSSの精度

    • 内科・外科の一般病棟に入院した403例の前向き検証研究では、4点をカットオフにすると、合併症を伴う離脱症候群の予測は感度93.1%、特異度99.5%、陽性的中率93.1%、陰性的中率99.5%でした(Maldonado 2015)。
    • 数字をかみくだくと、次のような意味になります。
      • 感度93.1%:実際に重い離脱症状を起こした人のうち、約93%は入院時に4点以上になっていた。4点未満で見逃されたのは100人に7人ほどです。
      • 特異度99.5%:重い離脱症状を起こさなかった人のうち、99.5%は4点未満だった。不要な予防投与をしてしまう人はごくわずかです。
      • 陽性的中率93.1%:4点以上だった人のうち、約93%が実際に重い離脱症状を起こした。4点以上なら「ほぼ起こる」と考えて予防投与を始めてよい、ということです。
      • 陰性的中率99.5%:4点未満だった人のうち、99.5%は重い離脱症状を起こさなかった。4点未満なら、予防投与をせずにCIWA-Arで経過を見る方針で大きく外れることはない、ということです。
    • ただし、陽性的中率と陰性的中率は、その集団にどれくらい重い離脱を起こす人がいるかで変わります。大量飲酒者が多い病棟と少ない病棟では、同じ4点でも意味合いが少し変わります。また、陰性的中率が高くても0にはならないので、4点未満の人でも入院後の症状の変化は見ていく必要があります。
    • 単施設の研究で、対象は米国の一般病棟入院患者です。日本の病棟でも同じ精度が出るかは検証されていません。
    • 米国嗜癖医学会(ASAM)の2020年ガイドラインも、重症・合併症を伴う離脱のリスク評価にPAWSSを使うことを挙げています。

    ※私見:日本の病院では入院時に血中アルコール濃度を測らないことが多いので、項目9は空欄になりがちです。その場合は問診の8項目と診察所見だけで4点以上かどうかを見ています。

    入院後に出てきた離脱症状の重症度評価(CIWA-Ar)

    予防投与が不要と判断しても、入院後に症状が出ることはあります。早めに気づくための ツールが CIWA-Ar(Clinical Institute Withdrawal Assessment for Alcohol, revised) です(Sullivan 1989)。

    計算ツールはHOKUTO様のものが使用しやすいです。

    CIWA-Arの10項目

    項目点数の範囲
    嘔気・嘔吐0〜7
    振戦0〜7
    発汗0〜7
    不安0〜7
    興奮(焦燥)0〜7
    触覚の異常(虫が這う感じなど)0〜7
    聴覚の異常(幻聴など)0〜7
    視覚の異常(光がまぶしい、幻視など)0〜7
    頭痛・頭重感0〜7
    見当識・意識の曇り0〜4
    • 合計0〜67点で、点数が高いほど離脱症状が重いと判断します。
    • 各項目の点数の付け方は原著(Sullivan 1989)や施設の評価表で確認してください。

    点数の目安

    CIWA-Ar対応の目安
    8点未満軽症。予防投与なしで経過を見て、症状が出たときだけ投与する方法でよい
    8〜15点中等症。ベンゾジアゼピンの内服を検討
    16点以上重症。注射での投与や、より厳重な管理を検討
    • 予防投与を始める目安はCIWA-Ar 8〜10点です。区切りは文献によって8点、9点、10点と少しずつ違います。上の表と、後半の処方例は、いちばん低い8点で区切っているACLPの解説(8〜15点で内服、16点以上で注射)にそろえています。
    • 評価の頻度は、中等症では1時間ごと、安定していれば4〜6時間ごとが目安とされています(ACLP)。
    • ASAMの2020年ガイドラインは「CIWA-Arは治療反応のモニタリング用に作られたもので、診断のためのものではない」としています。せん妄の原因がほかにある患者や、意思疎通が取れない患者では点数が当てになりません。

    ※私見:入院の前日まで飲んでいて、手指が細かく震え、そわそわしていて、手掌が湿り、頻脈で血圧が高い。この組み合わせがそろったら、点数を付ける前から「予防投与が必要な人」だと考えています。

    予防投与の考え方:定期投与か、症状が出たときだけか

    ベンゾジアゼピンの使い方には2通りあります。

    方法やり方向いている場面
    症状が出来た時だけの投与CIWA-Arで定期的に評価し、一定以上の点数のときだけ投与する看護師がCIWA-Arで頻回に評価できる病棟
    定期投与症状にかかわらず決まった時間に投与し、数日かけて減らすリスクが高い(PAWSS 4点以上、離脱けいれんや振戦せん妄の既往)、頻回の評価が難しい、合併症で症状が読みにくい

    症状誘発型投与の根拠

    • 退役軍人病院の入院患者101例を対象にした二重盲検RCTでは、症状が出たときだけクロルジアゼポキシドを投与した群で、**治療期間の中央値が9時間(定期投与群は68時間)、総投与量は100 mg(定期投与群は425 mg)**でした。離脱症状の重さ、けいれん、振戦せん妄の発生に差はありませんでした(Saitz 1994)。
    • 同じ趣旨のRCTはほかにもあります(Daeppen 2002)。
    • ASAMの2020年ガイドラインも、CIWA-Arを使った症状誘発型投与を定期投与より推奨しています。在院日数の短縮と総投与量の減少がその理由です。
    • 一方で、症状誘発型投与は、看護師がCIWA-Arを正しく、頻回に付けられることが前提です。評価体制が整っていない病棟では、定期投与のほうが安全なこともあります。

    使う薬剤

    第一選択はベンゾジアゼピン(特にワイパックス®)

    • ベンゾジアゼピンは、離脱けいれんと振戦せん妄を減らすことが示されており、ASAMの2020年ガイドラインでも第一選択です。
    • 薬の種類による効果の差ははっきりしていません。使い分けは作用時間と肝機能で考えます。
    一般名(主な商品名)作用時間特徴
    クロルジアゼポキシド(コントール®、バランス®)長時間型海外の臨床試験で最もよく使われてきた薬
    ジアゼパム(セルシン®、ホリゾン®)長時間型作用発現が早い。注射剤もある
    ロラゼパム(ワイパックス®)短時間型肝臓での酸化(第Ⅰ相反応)を受けず、活性代謝物がない。高齢者や肝障害のある患者で選びやすい(ACLP)
    • 長時間型は血中濃度がなだらかに下がるので、自然な漸減になるのが利点です。一方、肝障害や高齢者では蓄積して過鎮静になりやすくなります。
    • 大量飲酒者は肝障害を伴っていることが多く、入院後に肝機能が悪くなることもあります。そのため、ロラゼパムを選ぶ医師も多いです。私自身、ロラゼパムしか使った経験がないです。

    処方例

    指示簿の記載例

    米国嗜癖医学会の1997年ガイドライン(Mayo-Smith 1997)の推奨量を半量程度にした例です。体格、年齢、肝機能、呼吸状態で調整してください。

    ① 症状が出たときだけ投与する場合(入院時のPAWSS 3点以下、CIWA-Ar 8点未満)

    • ロラゼパム(ワイパックス®)0.5 mg錠:1回2〜4錠(1〜2 mg)内服
      • そわそわ、いらいら、頻脈、振戦など(CIWA-Ar 8点以上)があれば投与
      • 改善しなければ1時間ごとに反復可
      • 3回反復しても改善しなければ医師に連絡
    • または、ジアゼパム(セルシン®)5 mg錠:1回1錠内服
      • 投与の条件と反復の方法は上と同じ

    ② 症状にかかわらず定期投与する場合(PAWSS 4点以上、またはCIWA-Ar 8点以上)

    • ロラゼパム(ワイパックス®)0.5 mg錠
      • 最初の4回:1回2錠(1 mg)を6時間ごとに内服
      • その後の8回:1回1錠(0.5 mg)を6時間ごとに内服
      • 合計12回、3日間で終了
    • 上の定期投与に、①の頓用指示を重ねておくと、症状が強いときに対応しやすくなります。

    参考:一つの施設の運用例(ガイドラインの推奨ではありません)

    最低3日は上記内服し、その後半量(0.5 mg/回を1日4回内服)とし4日間内服させ、合計1週間は治療する。

    • 投与期間を日数で決めた運用です。1997年の米国ガイドラインの定期投与例は3日間(12回)で終わる設計で、症状が出たときだけ投与したRCTでは治療期間の中央値が9時間でした(Saitz 1994)。
    • 1週間続けるかどうかは、日数ではなく症状を見て決めるほうが、過鎮静や転倒を避けやすくなります。特に高齢者では注意が必要です。

    ■注意点

    • 投与前に毎回、意識レベルと呼吸を確認します。眠っていて起こしにくい、呼吸数が少ないときは投与しない、という条件を指示に書いておくと安全です。
    • 定期投与の3日間が終わっても症状が残っているときは、量を減らしながら数日延ばすこともあります。

    ベンゾジアゼピン以外で押さえておくこと

    チアミン(ビタミンB1;ビタメジン®)

    • ASAMの2020年ガイドラインは、ウェルニッケ脳症を防ぐためにチアミンを投与するよう勧めています。
    • 投与量の合意はなく、よく使われるのは100 mgを1日1回、3〜5日間、静注または筋注です。
    • 糖を含む輸液の前にチアミンを入れます(ACLP)。

    ほかの薬剤

    ※私自身つかったことがないので参考までに・・・・

    • フェノバルビタール:重症の離脱症候群では、ベンゾジアゼピンの代わりとして認められています。ただし使い慣れた医師が使うべきとされています(ASAM 2020)。
    • ガバペンチン、カルバマゼピン:ベンゾジアゼピンが使えない場合に、軽症〜中等症で使ってよいとされています。第一選択ではありません(ASAM 2020)。日本ではいずれもアルコール離脱症候群の効能・効果はありません。

    引用文献

    • Maldonado JR, Sher Y, Das S, et al. Prospective validation study of the Prediction of Alcohol Withdrawal Severity Scale (PAWSS) in medically ill inpatients: a new scale for the prediction of complicated alcohol withdrawal syndrome. Alcohol Alcohol. 2015;50:509-518.
    • Sullivan JT, Sykora K, Schneiderman J, et al. Assessment of alcohol withdrawal: the revised Clinical Institute Withdrawal Assessment for Alcohol Scale (CIWA-Ar). Br J Addict. 1989;84:1353-1357.
    • Saitz R, Mayo-Smith MF, Roberts MS, et al. Individualized treatment for alcohol withdrawal: a randomized double-blind controlled trial. JAMA. 1994;272:519-523.
    • Daeppen JB, Gache P, Landry U, et al. Symptom-triggered vs fixed-schedule doses of benzodiazepine for alcohol withdrawal: a randomized treatment trial. Arch Intern Med. 2002;162:1117-1121.
    • Mayo-Smith MF; American Society of Addiction Medicine Working Group on Pharmacological Management of Alcohol Withdrawal. Pharmacological management of alcohol withdrawal: a meta-analysis and evidence-based practice guideline. JAMA. 1997;278:144-151.
    • American Society of Addiction Medicine. The ASAM Clinical Practice Guideline on Alcohol Withdrawal Management. J Addict Med. 2020;14(3S Suppl 1):1-72.
    • Muncie HL Jr, Yasinian Y, Oge’ L. Outpatient management of alcohol withdrawal syndrome. Am Fam Physician. 2013;88:589-595.
    • Issac TM. How To Guide: Alcohol Withdrawal. Academy of Consultation-Liaison Psychiatry; 2022.

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